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ことばは、使い方次第で呪いにも祝福にもなるものだから。私がgreenz.jpライターとして大事にしていること。

“虹を見つけて指さすように、この世界に溢れる素敵なものを言祝ぎたい”。

私がライターを目指しはじめたときから、ずっと大事にしていることばです。

「あまりにもポエムすぎない?」と若干の気恥ずかしさを抱えつつ、「でも本心だし、書いておかないとつい忘れちゃうもんね」と思いプロフィールに記載しています。

ことばは、人や物事を祝福し応援することができる一方で、使い方をひとつ間違えると自分や他人に呪いをかけてしまう、取り扱いに注意が必要な道具だと捉えています。私自身、20代前半の頃ひとつの呪いに囚われていました。きっかけとなったのは、人間関係に悩んでいたときに会社の先輩から言われた、「そういう関係しか築けなかったお前が悪い」ということばです。

そのことばは気づかぬ内に私の思考を縛り、取引先から「(写真を撮るため前屈みになった際に)そういう体位が好きなのか? 後ろから挿れてくださ〜いってか」といった下品なセクハラを受けたときも、それについて相談した上司から体を触られたときも、別の先輩から「客と上司に媚売るのが上手いだけなのに評価されて仕事できる気になってる」と言われたときも、それに反論したら「そんなに生意気だと婚期逃すぞ、愛されOL目指せよ」とからかわれたときも、

「自分の言動に隙があったのだろう」「こんなことを言われるなんて本当に自分はだめだな」と、表向きは強がりつつも内心ではひたすら“自分を責める”コマンドを選択していました。

————いやいやいやいや、それっておかしくない?

と、いま振り返ると思います。それぞれの出来事にしかるべき対応を取れるでしょう。でも、当時はそれ以上に誰かから「お前が悪い」と追い打ちをかけられることが怖くて、先回りして「自分が悪いことはわかってる」と考えるようにしていたのだと思います。

根性論が好まれる職場だったので、「誰よりも朝早く来て夜遅く帰る姿を見せれば、真っ当に契約を取ってることをわかってもらえるかな」とあさっての方向に努力して毎日3時間睡眠で働きつづけ、居眠り運転で自損事故を起こしました。

それを期に離人症状に悩まされるようになりしばらく通院することになったのですが、そうなってようやく「自分の人生に責任を取れるのは自分だけ」「なのに周囲の評価を気にして振り回されていたのは、自分に自信がなかったから」「誰よりも私自身が、私を大事にしていなかったんだ」と気づいたのです。治ったからいいようなものの、体を壊してからじゃ遅いですね。

そんなこんなで会社を辞め、「これからどうしよう、私が本当にしたいことって何かな?」と模索していたあるとき、香川県の直島へ旅行に行きました。風景に溶け込むようにさまざまなアート作品が設置されている、芸術の島です。そこで、ジェームズ・タレルの『オープン・スカイ』という作品に出合いました。

何もない真っ白な部屋。
天井にはぽっかりと正方形の穴が空いていて、そこから空が覗いています。

ただそれだけの作品なのですが、椅子に座りぼんやりと空を仰いでいたら、「おひさまの光ってあたたかいな」「風が肌に当たると心地良い」「青空って綺麗だな」としみじみ感じ、苦笑しました。こんな当たり前のことを忘れていたなんて、と。

ふと、向かい側の席が気になって移動すると、その位置から見上げた空には虹が架かっていました。澄んだ水色のキャンバスを筆で優しくなぞったような、七色の曲線。わぁ、と感じ入っていると、友人から「どうしたの?」と声をかけられたので、「虹が」と指さしました。その瞬間、目の前にかかっていた靄が晴れるように、「私がしたいのって、こういうことかもしれない」と思ったのです。

空はいつも変わらず私たちの頭上に存在するけど、見上げなければその美しさには気づけない。そして、どの位置から見るかによって、世界は大きく表情を変える。タレルがアート作品という形で可視化したことを、私はことばを通して表現したい、と。

現代社会には「こうあるべき」ということばが溢れていて、私たちはそれらを本当に自分に必要なものか充分に吟味することなく内面化し、自らを縛る呪いにしてしまいます。ひとつの価値観や狭い社会しか知らなければ、そこでうまくいかなかったときに行き詰まってしまうでしょう。

だから、「こうあるべき」の道から外れているけど楽しく生きている人や、ユニークな考えを持っている人をたくさん紹介することで、「世の中にはいろんな考え方・生き方・働き方・暮らし方があって、自分が好きなものを信じて選び取っていけばいい」ということを示したいと思いました。

呪いを解いて祝福するように。ニーチェの説を借りるなら、「汝〜すべし」と書かれた鱗に覆われた龍に対峙する獅子を励ますように。

そして、「じゃあそんな記事が書けるメディアってどこだろう?」と考えたとき、「これだ」と感じた媒体のひとつがgreenz.jpだったのです。わ〜やっと本題にたどり着いた! ここまで読んでくれたみなさん、おつかれさまです。

2013年にグリーンズライターとなってから現在までに書いた記事の数は71本にのぼります。私自身が悩んでいた時期に身近な「虹」として道を示してくれた友人の遠藤和海くん藤原かんいちさん杉拓也さん、世界を眺める新しい視点を与えてくれた佐治晴夫先生、似た問題意識を持っている(と勝手に思っている)田中翼さん、「心地良い場をつくること」について多くの示唆を与えてくれた渡邉めぐみさん

憧れの佐治先生とお話した時間は私の宝物です。

以前から知っていた相手でも、じっくり話をすることで、いままで気づいていなかった新たな虹が浮かび上がることがあります。
まるでその人と出会い直しているみたいに。

それだけで充分嬉しいことなのに、記事を読んだ方から「気持ちが軽くなった」「こんな素敵な人がいるなんて」といった感想をいただくことも。そんなときは、その人と一緒にあの部屋に座り、空を眺めているようなあたたかな気分になります。ライターって幸せな職業ですね。

なので私はライターを目指している若者に出会うと、「えっなりなよなりなよミラクルハッピーな未来が君を待っているよ」と大変軽率に勧めてしまいます。そうするとよく「どうしたらなれますか」と聞かれるのですが、これが一言では説明しづらくて……。「ライターですって名乗った瞬間から君はライターだよおめでとう」と適当な返事をしてしまうのですが、面倒がらずに自分の経験を記してみようと思います。

「ライターになろう」と思ったとき、私は「どうやったらなれるだろう?」と自分に問いかけてみました。ぱっと思いついたのは、「手当たり次第、ライターを募集しているメディアに応募する」「業界の人脈をつくる」「テーマを決めてその分野の第一人者となる」「SNSやブログで有名になる」などなど。

どれもピンと来ず保留にしていると、ふと頭の中に「上へ上へと芽を伸ばし葉を茂らせたいのなら、下へ下へと根を張りなさい」ということばが浮かんできました。

ことばと一緒に浮かんだイメージ。夫に絵にしてもらいました。

考えてみると、植物の多くは、自身の重みや雨風に負けないよう、しっかりと地中に根を張り巡らして充分に栄養を蓄え、生長する準備ができてから発芽します。先に挙げたような行為はその逆で、だから違和感があったんだな、と気づきました。

文章力がないままライターになっても媒体や取材先に迷惑をかけ自分も辛くなるし、文章力があっても自分自身が呪いに囚われたままなら、祝福のつもりで無自覚に呪いを振りまいてしまう。だから、まずやるべきことは自分自身をよく知ること。

かつての自分を鼓舞してくれたけどいまでは足枷となっていることばに気づいて手放したり、本当に大事にしたい価値観や考え方を追求したり、物事を見る目や感性を養ったり。そうして目に見えない部分が整うと、自然とやるべき仕事に出合えるようになる。

何の根拠もないのですがそう確信し、「自分自身で実験してみよう」と思って取り組み8年になりますが、特に営業せずとも不思議とそのときそのときの自分に見合った仕事の依頼が舞い込んでくるので、「あながち間違ってないのでは」という感触を抱いています。インタビュイーの口から、同じことが違う表現で語られることもしばしば。面白いものですね。きっと、私の根が豊かになるのと比例して、相手から引き出せることばも増えていくのでしょう。

一方で世の中を見渡すと、インスタントに結果を出すこと、目に見えない根を伸ばすことよりもわかりやすく花や実をつけることが重視されているような気がします。稲のように根よりも先に芽を出す植物もあるし、生長の仕方はそれぞれ。でも、いまはそういうあり方が目立ちすぎていて、本来はゆっくりと地に根を張るのが向いている人まで引っ張られて焦り右往左往しているような……。なので、「ほかの道もあるんだな」と参考にしていただけたら幸いです。

蛇足ですが、ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』に登場するアイゥオーラおばさまは、承認欲求をこじらせた挙げ句、友人を殺して帝王になりかけるところだったバスチアンに対し、「生命の水の湧き出る泉につながる道なら、どれも、結局は正しい道だったのよ」ということばをかけています(こじらせまくって各所に迷惑をかけた過去を持つ私には救いになることばです。アイゥオーラおばさまは尊いの極み……)。本当に、どんな道を選んでもいいんだと思います。

「作文の学校」では、ライターになりたい人、ことばを通して表現したいことがある人に、私が答えられる範囲のことは何でもお伝えしようと思います。

今回は内面的な話をしましたが、「いやいや現実的に執筆先の増やし方教えてくれや」とか(これだけ語っておいて何なんですが、私単純においしいもの食べたり楽しい体験したりする仕事も大好きで節操無く色んな媒体で書いております)、原稿料や収入の話とか(みんな興味あるよね?)、インタビューやライティングの技法とか(私もいまだに学んでいる最中です)、「“俺たち”という主語を失った物語として『おそ松さん』を見ることについて」とか(すみません私が語りたいだけでした)、遠慮なく質問してくださいね。

私のほうの希望をお伝えすると、みなさんにとっての「虹」の話を教えてほしいなぁ、と思っています。できれば、文章で。

みなさんと、みなさんの文章に、お会いできるのを楽しみにしています。

(こちらは2018.2.11に公開された記事です)

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