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節電して、余った電気を発電したことにするという発想! 「ふくい市民共同節電所」の仕組み

福井県福井市を中心に広がっている「ふくい市民共同節電所」という、節電の取り組みがあるのをご存知ですか? 発電や節電という言葉は聞き慣れているけれど、「節電所」という言葉は初めて聞いた!という人が多いのではないでしょうか?

NPO法人エコプランふくい」が運営する「ふくい市民共同節電所」は、端的に説明をすると、市民出資によって照明や空調を“省エネ設備に切り替えた施設”のこと。市民から出資を募る→省エネ型の設備に切り替える→消費電力が減る→電気代が浮く→浮いた電気代で市民へ出資金を返す、というとてもシンプルな仕組みなんです。

たとえば、蛍光灯をLEDに替えたり、古くなったエアコンを新調すれば、効率がよくなって電気の使用量が少なくなりますよね。つまり、「節電によって余った電力は発電したものと同じとみなす」という概念なのです。

“節電所化”とは、上記の図のように、既存のお店を省エネ設備に整え、節電(①)。余った60kwを“発電した”とみなす(③)取り組み

「あれ? これなら自宅でもできそう」と思わせる、シンプルな「節電所」の仕組みについて、「NPO法人エコプランふくい」事務局長の吉川千守秋さんにお話を聞きました。

市民出資×再生可能エネルギー

1998年に設立したエコプランふくいは、再生可能エネルギーを活用した事業をはじめ、地球温暖化防止活動など、環境問題に幅広く取り組む団体です。吉川さんは、前職の生活協同組合での経験から、環境問題に興味を持ちはじめました。

生活協同組合で職員をしていた頃、組合員の活動の一環で環境問題について研究していたんです。私が一番よく関わっていた1970年頃は、琵琶湖の富栄養化や公害など、様々な問題が浮き彫りになっていた頃で。そういう時代背景もあって、人ごとではないなという思いがふくらみ、環境に対する意識が高まっていったんです。

そして、2000年には「ふくい市民共同“発”電所」事業をスタート。節電所と同じく、市民から募った出資金で初期費用を負担し、個人宅に太陽光発電を設置→家主さんが電力を購入→余った電力を電力会社に売る→出資者に元本を返す、というかたちをとっています。

ふくい市民共同発電所は2000年に1号機が完成し、現在は若狭の7号機まで広がりを見せています

吉川さんは、なぜ市民から出資を募る“市民共同”にこだわったのでしょうか?

当時はまだ、太陽光発電が普及していなかったんです。特に日本海側では、冬は天気が悪いから「太陽光発電をしても十分発電しないのでは?」という意識の人が多くて。けれど、太陽光発電を設置した人の実績を見ると十分発電していて、計算上では、東京の日射量の96%はありました。そういう事実を、ちゃんと理解してもらいたいと思って。出資型なら、多くの人に参加してもらえると考えたのです。

エコプランふくい事務局長の吉川守秋さん

次に吉川さんは、1990年にアメリカで提唱された“節電所”という概念を知り、新しいものをつくらずにエネルギー消費をおさえる仕組みと、広く参加してもらうための“市民出資型”とを組み合わせた事業ができないかと考えます。そこで、福井駅前でイベントを協働するなど、以前から交流があった地元のまちづくり会社や商店街に声をかけ、2013年に「ふくい節電所コンソーシアム(共同事業体)」を設立。事業プランを練って、いよいよ「ふくい市民共同節電所」事業がスタートしたのです。

当時は、ちょうどLEDが注目を浴びるようになっていた時期で、商店街の方たちもLED照明に切り替えたいという意思がありました。そこで、第一弾として、福井駅前の「ガレリア元町アーケード」の水銀灯をLEDに切り替えることになったんです。それが、私たちが「1号機」と呼んでいるものです。

「1号機」と呼ばれる、ガレリア元町アーケードのビフォーアフター。右が、LEDに切り替えたあと

現在、福井市内には1号機から3号機までの3つの「節電所」があります。ちなみにこの「◯号機」という名前、何か新しい建物をつくっているわけではないんです。省エネ設備に切り替えたお店や施設を、順に1号機、2号機…と呼んでいます。2号機は、福井市内の事務所や店舗の計6か所を総称して。3号機は商店街の中にある、エアコンを新しく変えたお店のことを指しています。あくまで元々あった場所で“節電”をしているだけなんです。

出資者にも事業者にもメリットしかない仕組みだけれど…

「市民共同節電所」に関わるのは、施設やお店を持つ事業者と出資者の二者。2つの視点から節電所の取り組みを眺めてみましょう。

まず、省エネ設備に切り替えたい事業者は、設備投資にかかる費用負担ゼロで、LEDに切り替えることができます。その上、負担金を払い切ったあとは、電気代が安くなるというメリットがあります。一方、出資者については、年利が1.5%と高く、15万円を出資すれば5年間で16万6379円になるという計算に。環境問題に貢献しながら、銀行に預けるよりも早くお金が貯まります!

節電するだけで、双方にとって金銭的なメリットもあるこの取り組み、もっと大きな広がりがあってもよさそうです。

LED照明に切り替えた節電所「2号機」こと、福井駅前の「福洋」さん

とはいえ、やるとなると、対象はどうしても限られます。それなりの効果をあげるためには、それなりの消費量が必要なんです。その分、削減量が増えますから、浮くお金も大きくなる。一般家庭でも試みたことはありますが、事業モデルとして成立させるには消費電力量が足りませんでした。逆に、経済的に余裕のある企業なら、わざわざこうした仕組みを使わなくてもLEDに切り替えることが可能なので、内部で完結してしまいます。

エネルギーを大幅に効率化させるには、照明、空調、ボイラーの3つの役割が大きいので、そう考えると、地方の行政機関や大学、病院、工場、もっと身近な例なら、スポットライトの多い店舗などが対象になります。コンビニなどの24時間営業の店舗もありますね。

ちなみに、スポットライトがたくさんついている店舗がLEDに切り替えると80%もの消費電力を削減できるというからおどろきです。

また、出資者の中には他府県の方もいます。また、県内外から視察に来たり、東京では節電所のフォーラムを開催するなど、取り組みを知ってもらうための活動も展開していますが、まだ実績は増えていないと言います。

おもしろい取り組みだとは言ってもらえても、仕組みをつくったり、出資金を募ったり、運営も考えると、まだまだハードルが高いのかもしれません。

たとえば、出資者が増えても、節電所となる施設がないと運営は成り立ちません。前述のように対象が限られている中で、新たな節電所となり得る施設を開拓していくことも、節電所事業が広がっていくためには、大きな課題となっているのです。

「おじいさんは山へ芝刈りに」行く時代が、またやってくる!?

生協時代の環境問題への取り組みにはじまり、再エネや省エネ、地球温暖化と、これまで一貫して身近な環境問題について考え、実践してきた吉川さん。試行錯誤しながらも、行動し続ける姿からは、「やってみないとわからない!」という静かな気合いを感じます。そんな吉川さんに、これからの「エネルギーの在り方」を考えるためのヒントをお聞きしました。

「おじいさんは山へ芝刈りに…」というお話があるように、昔は、自分が暮らす近くにあるもの(資源)を活用して、エネルギーに変えていたわけです。それが、産業や経済が成長する中で、大きな会社がつくった電力やガソリンを遠くから持ってきて使う、という時代になりました。地球温暖化防止対策や資源問題が、20世紀から21世紀にかけて行き詰まってきた、といえるでしょう。

持続可能な社会をつくっていくためには、エネルギーを“どう確保”して“どのように使う”のかの2つがポイントです。太陽光や風力、水力、バイオマスといった再生可能エネルギーは全部地域のものですよね。そういう地域の資源を、地域の人たちが地域で使う、そして経済も回すということが必要です。

そして、その限られたエネルギーをいかに効率的に使うかということも考えなければなりません。節電所の取り組みはまさにそうですね。節電というと、昔の江戸時代の生活に戻ればいいとか、我慢の省エネとか言われるんですけれども、そういう生活には限界があります。だから、可能な範囲でやれることをやればいいんです。

福井駅にほど近い、住宅街の中にあるオフィスにおじゃましました

ちなみに、吉川さんの暮らしのテーマは“小さくシンプルに住む”ということ。ご自宅では、太陽光発電のシステムも使っています。

住宅は、年数が経てばリフォームが必要になってきます。私の場合、ずいぶん昔に建てた家だったので、子どもたちが巣立ってからリフォームをしたんです。そのときに、断熱材を入れて、使うエネルギーの量が少なくてすむように工夫しました。リフォーム自体は省エネ目的ではなかったんですが、“ついで”くらいの気持ちで気軽にやれることはあるんですよね。

「やれることを、やればいい」。「節電所」の考えと通じるものを感じます。

一人ではできなくても、みんながやればできること

省エネ設備の導入を考えている人や節電に対する意識が高い人は、多いと思います。太陽光発電だって、自宅に設置すればいいわけですから、やれる人は自分でやれるわけです。けれど、それだと自分だけで終わってしまう。でも、30人から出資してもらえば、少なくとも30人には広がって、話題性も生まれる。市民共同の節電所や発電所は、そうやって、広がりをつくっていける取り組みなんです。

地元紙でよく取り上げてもらえるのだそう。伝え方も、色んな視点があるようです

せっかく商店街と一緒にやっている事業だから、出資者をはじめ、多くの消費者とつながれるような企画を、これからは展開していきたいと吉川さん。また、京都府との境目の町、福井県大飯郡おおい町では「水力共同“発”電所」を計画中なのだそう。

この付近の川は、鮎が有名なんです。けれども、昨今では下流に泥が溜まって、鮎が上流まで遡上しなくなってきている。そういった現象を改善できないかと、地元の方と話しています。発電所の水をサイフォン式で取水して、泥を下流に流さないようにと計画しています。

こういう地道な取り組みによって、再生可能エネルギーを利用した市民出資型の運営スタイルがますます広がっていきそうです。

市民運動というのは、熱があるときはパッと広がるけれども、熱が冷めたり、スタッフが高齢化すると、計画そのものが尻つぼみになる可能性があります。市民共同出資の場合は、発電所なら20年間はお守りしないといけないですよね。そういう責任感があるから、長く続けられるという側面もあると思うんですよね。

「ふくい市民共同節電所」の取り組みは、個人の協力なくしては成り立ちません。エネルギー問題という大きな流れに誰でも気軽に参加できる、いわば、門戸の開いたプロジェクトなのではないでしょうか。

そして大切なのは、再生可能エネルギーの発電や本格的な省エネ設備の導入はハードルが高くても、省エネを心がければ、今日からあなたの家もミニ節電所になる、ということ。それは、発電と同等の価値があります。

節電所という概念、これからじわじわと広がっていきそうな予感がします。