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独特の世界観がやみつきに!?小豆島から“日常のおもしろさ”を伝えるオンラインマガジン「その船にのって」

みなさんは、小豆島へ行ったことはありますか?

瀬戸内海で淡路島に次いで2番目に大きく、観光はもちろん、最近は移住先としても人気の小豆島。広くて高い青空、オリーブ畑、漂う醤油の香り、町に点在するアート作品…といった多様な顔を持つこの島に、多くの人が魅せられているようです。

2016年7月、そんな小豆島で少し変わった切り口のオンラインマガジン「その船にのって」が、MotionGalleryのクラウドファンディングを経てスタートしました。島の情報発信サイトではなく、掲載されているのは、島内外のさまざまな人が等身大のスタイルで綴る「普段の生活の風景」。日々繰り返される“日常のおもしろさ”を発信しているのです。

「その船にのって」を運営するのは、東京や大阪から最近小豆島に拠点を移した4人。編集や執筆は未経験だったというみなさんが、どんなきっかけで集まり、小豆島という場所でなぜこのようなオンラインマガジンを立ち上げることになったのでしょうか。クラウドファンディングの“その後”は? 3人のメンバーにお話をうかがってきました。

小坂逸雄(こさか・いつお)(写真右)
「その船にのって」代表。東京都出身。前職はデザイン会社で企画・広報を担当。2013年の瀬戸内国際芸術祭に関わったことがきっかけで小豆島が気に入り、2015年に移住。現在は移住促進のNPO団体のスタッフ。
太田有紀(おおた・ゆき)(写真左)
「その船にのって」編集部員。小豆島出身。大学進学を機に島を離れ、卒業後は関西の広告代理店などで働く。2013年瀬戸内国際芸術祭の作品制作がきっかけとなり、小豆島に戻る。現在は岡山県に暮らしながら小豆島へフェリーで通勤する日々。
坊野美絵(ぼうの・みえ)(写真中央)
「その船にのって」編集部員。大阪府出身。大阪のライブハウスや広告代理店で働いた後、小豆島に移住した友達から勧められ、2013年に小豆島へ移住。小豆島観光協会で広報や情報発信を担当したり、宿の総務を経験したりと、島内で情報発信を軸としたさまざまな活動を行っている。

はじまりは、1冊の本。

「その船にのって」の発起人は、平野公子さんという70代の女性。もともとは東京・神楽坂で小劇場を運営していましたが、ご主人で装丁家の平野甲賀さんと共に、2014年に東京から小豆島に移住しました。

平野公子さんが、小豆島に住み始めて興味を持ったのが、島民のみなさんの“日常”のおもしろさです。平野さんは、「観光の目線からは見えてこない、“住んでいる人のそれぞれの日常”をテーマに1冊の本にしよう」という企画を立ち上げ、2016年2月に『おいでよ、小豆島。』という書籍を出版しました。

平野さんのはたらきかけにより発刊された『おいでよ、小豆島。』島民目線のそれぞれの日常風景が綴られています

本の内容は、平野さんご自身や、島民のみなさんの目線から見た“小豆島での日常”ばかり。名産品である醤油について詳しい人が醤油のことを書いたり、そうめん屋さんが好きなスポーツのことを書いたり、移住促進のプロジェクトメンバーが移住のことを書いたりと、視点も文体も自由な内容でした。

この本の出版が決まった段階で、平野さんの中にあったのがオンラインマガジンの構想でした。本の続編として「人々の“日常”に焦点を当てた読み物をつくろう」というプランの実現へ向け、「記事を書いてみない?」と声をかけたのが、今回取材を受けてくださった編集メンバーの小坂さん、太田さん、坊野さんの3人でした。

フランクに物を言い合える、とても和やかな関係のみなさん

小坂さん 最初は、「こんなことを考えているのだけど、記事を書いてみない?」とそれぞれに声がかかって集まったんですけど、やがて「チームとして動いた方がいいんじゃないか」という話になって。

公子さんの中では、「私のやりたいことに協力して」というよりも、「あなたたちがこれからこういうことをやらないでどうするの?」という気持ちが強かったんです。若い世代の活動として発展していくことが彼女の願いでした。

平野さんの構想をベースに、チームとして活動することになった4人。平野さんは執筆依頼の窓口、小坂さんはサイトのデザイン、太田さんはインタビュー記事の企画、坊野さんはクラウドファンディングのための情報収集、というように、それぞれの得意分野で役割が決まっていきました。

価値ある“日常のバリエーション”を発信するクローズドメディアに

こうして始まった「その船にのって」リリースへ向けての活動。決まったコンテンツには、彼らならではのおもしろさが詰まっていました。そのひとつは、バラエティー豊かな書き手の方々です。

小坂さん 公子さんの感覚で、つながりのある方から選んでお願いをしました。ご主人である装丁家の平野甲賀さんや、落語が大好きな塩屋さんとか。島外では、スイスで子育てをされている方や沖縄に移住した方にも。沖縄の方には、ステレオタイプの沖縄ではなく、「バーの片隅で見かけたしょうもない風景でいいから、“日常“を書いて欲しいです」と依頼して。

坊野さん スイスの方にお願いした背景には、「島に住むお母さんに、子育ての仕方の幅を広げてあげたい」という思いもあったようです。

このように、当初は、“書き手=島の人”という意識だったものの、それよりも“日常のバリエーション”に重きが置かれるように。最終的には、「純粋に、自分たちがおもしろいと思うものを発信していくメディア」を目指すようになりました。

小豆島で農業をしながらカフェを営む三村拓洋さんは、自らが育てる野菜のことをマニアックな観点で綴ります

小豆島出身・在住の山本貴道さんは、瀬戸内海でカヤックに乗る日々のことをおもしろおかしく綴ります

並行して、電子書籍の配信も行うことに。『二十四の瞳』で有名な小豆島出身の小説家・壷井栄さんの没後50年を記念し、著作権継承者の了解を得て、電子書籍化を進めることになったのです。「歴史のアーカイブとしての役割もあるし、僕らが電子書籍としてつくり替えたリメイクものとしての価値もある」と小坂さん。

また、年会費2000円のクローズドメディアという点も、「その船にのって」の大きな特徴です。挑戦ではありますが、会員であれば、通常のコンテンツはもちろん、オンライン書店で販売される電子書籍もサイト内で読み放題に。そう考えると、ずいぶんとお手頃に感じられます。

初期費用はクラウドファンディングに挑戦。1ヶ月間でみごと達成!

コンテンツや体制の準備が整い、リリース日を2016年7月1日に決定。立ち上げのための費用は、MotionGalleryのクラウドファンディングで支援を募りました。

目標金額は80万円。リリース後、2年間は運営ができるように試算した上での金額でした。ウェブサイトのデザイン費、電子書籍のシステム構築費、寄稿者への報酬、返礼品購入費、そこにランニングコストを少し加えています。

MotionGalleryのページ。「その船にのって」のロゴマークは装丁家の平野甲賀さんがデザインしました

クラウドファンディングの活用を提案したのは平野さん。「公子さんからの提案がなかったら思いつかなかった」と話すみなさんですが、身近に経験した人がいたため、すぐに賛同したそうです。

支援の募集が始まったのは、サイトリリースの1ヶ月前。ギリギリのタイミングになってしまいましたが、「達成しなくても自己資金で立ち上げます」と宣言し、進めることにしました。

坊野さん MotionGalleryさんには、ファンディングを成功させるコツを教えてくださるサービスがあり、それを参考に文章を書きました。ファンディングにつながりそうなタイミングで、「今、告知すると良いですよ」とアドバイスのメールも届きました。

開始当初は順調に進んでいたものの、達成したのは終了日の前日。最後の一週間はハラハラと過ごしていたそうですが、最終的には、目標を上回る87万円以上の支援が集まりました。

執筆者でもある「波花堂」の蒲敏樹さんの作った塩が返礼品に!

支援者=読者。“おもしろさをわかってくれる島外の友人”がターゲット

返礼品は、全員に2年間の購読と、金額に応じた小豆島の名産品。その内容からも、「その船にのって」のベクトルが島内だけではなく、主には島の外に向いていることがわかります。小坂さんは、“コンテンツのおもしろさをわかってくれるであろう、島外に住む友達に向けて訴えるイメージ”でアピール文の最終校正を進めたそうです。

小坂さん 「小豆島発です」「今まで文章を書いていた人ではないです」「完全に日常のことが書いてあるけど、僕たちはそれを、一般的に『おもしろい』と言われるアーティストやクリエイターと同様に『おもしろい』と感じているので、発信していきますよ」と。

“普通でおもしろいこと”の価値をあげていくというコンセプトを伝えました。

勘違いする人も多いですが、「地域を盛り上げるぜ」というのとは少し違って。あくまで発信地が小豆島というだけで、やっているのは他のウェブメディアと同じようなこと。これを小豆島でやっているからおもしろいんですよね。

ファンディングの結果、都市部に住む人たちを中心に支援が集まりましたが、うれしいことに、島内の知り合いからも多くの支援があったそう。立ち上げの費用を手にすると同時に、内容に共感してくれる、感度の高い層の読者を獲得した「その船にのって」は、予定どおり2016年7月にリリース。わくわくする旅へと出航したのです。

「その船にのって」TOPページ。サムネイルの作り方も独特です。「その船にのって」のタイトルには、「島を起点に、船でいろんな場所へ向かう」という意味が込められています

変化した「お金」に対する考え方と、これからやるべきこと。

クラウドファンディングで資金調達したことをきっかけに、みなさんの中ではお金に対する感覚が変わってきたそうです。

坊野さん 「お前らがんばれよ」という心意気でいただいたお金だと思うので、「ちゃんとやらないと」という気持ちになります。銀行で借りるお金とはまた違う重みを感じますね。(笑)

太田さん 返礼品を渡して終わりではなく、お金を「預かっている」という感覚があって。「楽しんでもらえるものをつくることがお返しになるんじゃないか」と、記事を書くときにも、いいプレッシャーになっています。

「重み」や「プレッシャー」と言いながらも、いきいきと語る太田さんと坊野さんの姿からは、いい意味の緊張感を感じます。クラウドファンディングの活用が、資金だけでなく、自分たちの背中を押してくれる仲間というかけがえのない存在を得ることにつながったようです。

しかし、ファンディングで調達した資金は、いつかは尽きてしまいます。そのため現在の課題は、事業としての収益性。今後、オンライン以外の事業で収益を生むことも考えています。

小坂さん オンラインマガジンは、購読者を増やしたり、電子書籍を充実させたり、営業努力でなんとかやっていけると思うんですけど、外に飛び出して、例えばお店や場所などを持って実際に収益を生むようなことをやってみたいですね。

そのときのターゲットは、クラウドファンディングの際に意識した層、すなわち、“日常”を発信するコンテンツを面白がってくれる、現在の読者層と同じイメージだそう。

小坂さん 今はまだ、島内にはそういう層は少ないかもしれないけど、場所を持って活動していけば、増えていく可能性はありますよね。そんな状況をつくるための、発信源みたいな感じですね。

太田さん もともとそういう層ではない人が、私たちがつくる場に関わったり、「その船にのって」を読んだりすることで、おもしろさを知ってくれたらいいですね。

スタートからまだ1年も経っていませんが、常に先を見据えているみなさん。無料で読めるコンテンツとして「漫画」を増やすなど、「その船にのって」はどんどん奥行きを増し、進化しています。

無料コンテンツとして連載が始まった「ねこマンガ」。独特の世界観が「その船にのって」に新たな色を加えます

編集スタッフのみなさんは現在、他に本職がありながら、「その船にのって」に関わっている状態。小坂さんは、「事業体として確立していきたいと思う反面、今の関わり方にも良さがある」と話します。

小坂さん 寄席を企画する塩屋さんや、カフェを営む農家さん、僕らもこれ以外の仕事をしながら関わっていて。それぞれが旗を立てているところがありながらも集まっている、共和国みたいな状況がおもしろい気がするんです。「その船にのって」が今後、どういう活動をしたら、いろんな人が集まっている状況のおもしろさを出せるのかを、最近は考えるようになりました。

オンライン以外の活動として、2017年3月から台湾で行われる、「平野甲賀の描き文字展」の制作に携わっています

高い感度を持つ人たちが感じている「その船にのって」のおもしろさは、“落語好きの塩屋さん”や“沖縄に移住した女性”が生活者目線で書いた自然体の記事と、歴史的小説家の電子書籍や猫のマンガなどが、同等に混在し、独特なセンスで立体感が築かれているところにあるのではないでしょうか。しかもそれが小豆島で作られているというのだから、より興味をそそられます。

その立体感に日々深みが増しているのは、編集部のみなさんが自分たちの考えにどんどん磨きをかけているから。背景には、クラウドファンディングを通じて出会った支援者の存在があることを、今回の取材で強く感じました。今後、みなさんがどういったやり方で、オンラインを飛び出してリアルな“場”をつくっていくのか、楽しみで仕方がありません。

みなさんもぜひ、「その船にのって」を読み、“日常のおもしろさ”と同時に、これが東京ではなく、小豆島から発信されているというおもしろさも感じてみてください。これからの時代の、移住者による新たな活動のヒントにもなるのではないでしょうか。

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