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静岡県・南伊豆町の広域体験型ふるさと納税。遊びのプロが考案した「納税トリップ」とは?

年々盛り上がりを見せている「ふるさと納税」。節税対策として年末に利用した人もいるかもしれません。地域から“届く”ふるさと納税は多くありますが、静岡県の南伊豆町で始まったのは、地域に“行く”ふるさと納税。それも、町外を含む南伊豆エリア全域にいざなう内容です。

自治体の枠を超えた仕組みの背景には、地域をこよなく愛し、地域の衰退をポジティブなアイデアで変えていこうと活動している民間の人たちがいました。そんな彼らを自治体が受け入れ、ともに歩むことを決めたのです。今回は、この両者の強いタッグで実現した全国初の「納税トリップ」をレポートします。

地域に“行く”ふるさと納税、「納税トリップ」って?

「週末アドベンチャートリップ」ホームページのふるさと納税特集サイト

まずは、「納税トリップ」の仕組みを紹介しましょう。「ふるさと納税」で伊豆半島の突端にある南伊豆町に寄附すると、返礼品として、南伊豆エリアを遊び倒す「旅」に使える「ふるさと寄附感謝券」(以下、感謝券)を選択できます。注目すべきは、その使える施設の場所と体験できる内容。

もらえる感謝券は、寄附金の半額相当。南伊豆エリアの約130もの施設で使えるのですが、南伊豆町への寄附にも関わらず、使える施設は町外にも点在します。ふるさと納税の体験型返礼品は通常、まちの観光誘致が目的です。別のまちで遊んで帰ってもOKという、こんな太っ腹な仕組みは聞いたことがありません! 実際、日本初の試みとのこと。

そして、感謝券の利用先には、パラグライダーやダイビングやサーフィンスクール、ツリークライミング、マウンテンバイクツアーなど、ダイナミックに空、海、山を楽しめる野外アクティビティが多数含まれています。

なぜ南伊豆町は、エリア全域で遊べる斬新なふるさと納税の仕組みを実現できたのでしょうか? 一見は百聞にしかずということで、早速、「南伊豆町に10万円寄附して5万円分の感謝券をもらって家族3人で1泊2日」という設定の「納税トリップ」モニターツアーに参加してきました。

ふるさと納税とは
故郷に限らず全国の応援したい自治体に寄附すると税控除や特典が得られる仕組み。2008年の制度化以降、少しずつ使い勝手が良くなり、近年、爆発的に利用者が増えています(南伊豆町への寄附件数は2008~12年は50件以下、13年619件、14年2054件。15年には1万3098件と急増し、寄附総額も約3億7000万円に達しました)。

収入や扶養状況によって控除額に上限がありますが、例えば共働きで中学生の子どもが1人いる年収400万円の給与所得者なら合計約4万円まで、同じ家族構成で年収700万円なら約10万円までは、いくつの自治体に寄附しても、自己負担は2000円ポッキリ。全国各地の返礼品を楽しみつつ、日本を元気にする一助となれます。

鳥になって、伊豆半島の空を舞う

私が参加したのは、初日のパラグライダー体験を中心とした1泊2日の家族向けのコース。翌日には大きな予定を入れず、道路が混雑する前に東京に戻る、週末にぴったりのプランでした。

東京から南伊豆町に向かう途中、温泉の白い湯煙があちこちから立ちのぼる熱川(あたがわ)で休憩しました。「錦(にしき)」という店でランチです。新鮮なアジを豪快にいただきました。

「鯵のたたき丼」(取材時、税込1575円)

その後、くねくねと細い山道を車で登って、カルデラのような地形にある「今井浜フライングスクール」へ。広い傾斜地では、自力で走って飛ぶ練習(パラグライダー半日体験)、小高い丘の上からは、インストラクターと一緒に飛ぶ「タンデム飛行」。みんな次々と鳥になります。

家族3人で半日体験コース(6,500円)に参加するところ、私は感謝券に現金を追加した設定で、半日タンデムコース(11,000円)を体験させてもらいました。

ぐーっと力強く上昇気流に押し上げられる感じや、ふいに風がピタリとやむ瞬間の静けさなど、パラグライダーで飛ぶまで味わったことのない感覚です。

上空から撮影。鳥の目には、森はこんなふうに映るのですね

足元には伊豆半島の緑の山々。視野の向こうには真っ青な海原。背後のインストラクターの見事なコントロールで旋回すると、やがてタカのように滑空して着地しました。ほんの数分とは思えないアドベンチャーです。

パラグライダーも風車も風が動力

この日は無風状態で、単独飛行を練習する「半日体験コース」のチームは、ひたすら「風待ち」でした。山ごとスクールの敷地なので、あたり一面とにかく静か。野鳥のさえずりだけが空にこだまします。

やがて風が少し吹き、インストラクターの合図で参加者がダッシュ。すぐに後ろでパラグライダーが風をはらみ、その重さに耐えて前傾姿勢を保ちながら、大股で走る!走る ! 6歳の女の子がふわりと宙に浮き、みんなが笑顔になりました。

このスクールには、子ども専用のパラシュートもあります

貸別荘で、満天の星に癒やされる

汗をかいた後は、この日の宿泊施設、下田市白浜の海を臨む山の上にある「貸別荘 ヴィラ白浜」へ。夜空には満天の星がまたたいていることを、久しぶりに思い出しました。

夕食は広場でバーベキュー。小さなバーや、卓球を楽しめるホールもあります

翌朝、部屋のカーテンを開けた時の光景。刻々と色彩が変わり、海面が輝き始めます

オーナーの相馬さん。ウインドサーフィンで知り合ったという素敵なご夫婦です

今回は、たくさんのアクティビティのうちパラグライダーを体験しましたが、これは、感謝券5万円分で多数の選択肢から組み立てた、家族3人1泊2日の「納税トリップ」の一例です。ランチの「錦」は静岡県賀茂郡東伊豆町。今井浜フライングスクールは賀茂郡河津町。ヴィラ白浜は下田市。いずれも町外ですが、会計時に南伊豆町の感謝券が使えます。

2016年12月10日現在、南伊豆町の感謝券が使える店は、宿泊51施設、アクティビティ22施設、飲食35施設、温泉3施設、その他、体験農家や水族館、ドライブ後の給油スポットなど19施設の計130施設。このうちの約4割(55施設)が、伊豆半島で活動する民間団体「週末アドベンチャートリップ実行委員会」の目利きたちが選んだ施設です。

伊豆半島は、もともとリゾート地で別荘や移住者も多い土地柄。そこに近年、ますますオシャレなレジャースポットが増えています。委員会を立ち上げたのは、そういった拠点を運営する遊びのプロばかり。その選択眼に狂いはありません。

遊びのプロたちが、まちを変えた

ふるさと納税」という行政ツールを使って、南伊豆エリア全域のレジャーをお得に楽しませてくれる南伊豆町。ふつうに考えると、町境・市境をまたぐ仕組みをつくることは難しそうです。そうした壁を超えるカギは、どこにあったのでしょうか。

商工観光課ふるさと納税事業担当の一山良博(いちやま・よしひろ)さん

一山さん 伊豆半島内の自治体は細かく分かれていますが、観光で来られる方は「伊豆」と、ひとくくりで考えていると思います。だから今回はまず、伊豆の南部全体を楽しんでいただけるように企画しました。

発端は、週末アドベンチャートリップ実行委員会からのご提案です。もともと、同委員会は地域内の横の連携を強めるノウハウを持っていたので、それを行政としても最大限生かして一緒にやっていこう、となったわけです。

南伊豆町は、週末アドベンチャートリップ実行委員会と、南伊豆町への移住、定住を促進する組織「ミナミイズ人と経済活性化推進協議会」と、観光に関する3者協定を締結。民間のグループと手を組むことで、南伊豆町は感謝券の広域利用を実現しました。

一山さん この3者協定の着地点は、移住、定住人口の増加です。南伊豆町でも少子高齢化は課題ですが、農業移住者は比較的多いのです。問題は、観光事業です。

私自身もUターン者で、実家は民宿。もう、どこも後継者がいなくて。観光流入人口が増えれば、徐々に観光事業者に活力が戻り、担い手不足も解消されるかもしれません。

実際は田舎ならではのしきたりや近所付き合い、地区活動もありますから、この土地を知って、好きになって、住みたいと思ってもらえてからの移住が現実的。だからこそ、まずは来てもらうきっかけをつくりたい。

南伊豆町から広域体験型観光の魅力をピーアールすることで、伊豆南部地域全体、ひいては伊豆半島全体の活性化につなげていく必要があります。

このエリア全域を盛り上げる試みの一つが、「ふるさと納税」の感謝券を活用した「納税トリップ」というわけです。

ところで、南伊豆町の感謝券が使える周辺5つの自治体にも、ふるさと納税の仕組みがあります。将来、双方向に融通し合う可能性もあるのでしょうか?

一山さん 南伊豆町が取り組んだ成果を元に、周辺自治体と連携していくことを目指したいです。

ふるさと納税は、納税者の皆さんに税金の使い道を選んでいただける機会です。寄附金は、南伊豆町では大枠として、「魅力あるまちづくり」のために使わせていただきます。寄附時に、より細かい使途希望を選ぶこともできます。

観光事業、自然環境事業、保健・福祉事業、教育事業などにご指定いただいた寄附金は、目的別に集計しています。今後は、活用方法をもっと具体的に示せるようにしていくつもりです。

温泉の熱を活用することで、四季を問わず栽培できる南伊豆町の「さとう温泉メロン」直売店(感謝券利用可)とご主人。ここに来ないと買えないメロンです

地域の魅力をつくるために、移住者だからできること

自治体の枠を超える「納税トリップ」の仕組みを発案し、南伊豆町役場に協働を決意させた「週末アドベンチャートリップ実行委員会」。この“伊豆遊びのプロ集団”の代表を務めているのが、下田市在住の橋村和徳(はしむら・かずのり)さんです。

橋村和徳さん(株式会社ヴィレッジインク代表)

自身もビーチや山など南伊豆エリアの3カ所で1日1組限定のキャンプ場を経営。出身は佐賀県で、以前はテレビ局やIT企業で営業チームを率いていました。東京や中国・上海で暮らした後、伊豆の海辺の環境に故郷の唐津にも似た魅力を感じて、移住してきたそうです。

橋村さん 過酷な営業職で、部下たちが心身をやられていくのを見かねてコーチングを学びました。そして、自分が全国を巡って見つけた最高の場所、伊豆の小さな入り江(現在の「アクアヴィレッジ」の場所)に、男性社員20人ぐらいを連れ出して2泊の野宿を共にしたんです。その後、途端に職場の風通しが良くなりました。

コーチングと野外体験の組み合わせによる大きな効果を知ったことと、急発展する中国で自然環境の貴重さを痛感したことが、伊豆への移住と起業につながったと思います。

移住者だからこそ伊豆の魅力を客観視できる橋村さんは、下田駅近くの南豆(なんず)製氷所の跡地にパチンコやコンビニができると知った時、猛烈に惜しいと感じて、代案を企画立案。仲間と資金を集め、飲食店が並ぶ観光スポット「NanZ VILLAGE(ナンズヴィレッジ)」を創出しました。

週末アドベンチャートリップ実行委員会のスタッフが常駐する事務局や、伊豆レジャーの案内パンフが並ぶスタンドも、ここにあります。伊豆観光の前には是非とも立ち寄りたいスポットです。

週末アドベンチャートリップ実行委員会の事務局

橋村さん 伊豆半島は、東京から週末に遊びに来られる近さながら、大自然に恵まれ、冒険のような体験がいろいろできる環境。それなのに、なかなか半島内の細かい縦割り行政を抜けられない。面白いことをやっている事業者も一匹狼が多く、横につながる意識が乏しかったんです。

でも「自分さえ良ければ」では結果的にダメで。まとまったほうがパワーを発揮しますから、移住者が生粋の伊豆人たちと手を組んで、伊豆活性化のための「週末アドベンチャートリップ実行委員会」を2015年に立ち上げたわけです。

南伊豆町は、この民間事業者の取り組みを評価してくれた。「エリアとして盛り上がらないと流入人口も増えない」という感覚を共有して、この取り組みを広く波及させる役割を自治体が担ってくれたところに、大きな意義があると思います。

南伊豆町の「納税トリップ」で選べるメニューは、週末アドベンチャートリップのラインアップの一部。ということは、半島全体で見たら、さらにたくさんの体験が可能です。

ナンズヴィレッジに常設されているスタンド(週末アドベンチャートリップのインフォメーションセンター)にも、「シュノーケリング」「ネイチャーツアー」「シーフード」「ゲストハウス」などカテゴリ別で、多彩なスポットが紹介されていました。

橋村さん 店名ではなくアクティビティ名を軸にPRしているのは、広告とは目的が違うからです。広告費を払った施設ではなく、僕らが「目利き」として選んだ施設を案内しています。

いずれも、「みんなで良くなろう」という意識を共有できているメンバーだから、お互いに紹介し合えます。仲の良さが垣間見えると、心地いいから、お客さんもリピートしてくれる。そういう空気感って重要です。地域の文化的な面も含めた魅力を上げていかないと。

南伊豆には朝からスケボーしちゃうような遊び心ある大人がいっぱい(南伊豆町の感謝券が使える下田市「貸別荘ヴィラ白浜」のオーナー相馬さん)

冒険的な「遊び」が多彩に花開いた伊豆半島は、実は、生い立ちからして特殊。大昔は海底火山群だったものが、「フィリピン海プレート」にのって数百キロも南から運ばれてきて、約60万年前に本州と結合したそうです。今も毎年4センチずつ本州方向へ移動中だというから驚きです。

本州の他所とはプレートが異なるので、岩石も植生も独特。南伊豆町は、観光を盛り上げると同時に、この貴重な自然環境の保全を目指しています。伊豆の地理的な背景については、「南伊豆町ジオパークビジターセンター」(感謝券利用可)でも学ぶことができます。

特に、半島の先端にある南伊豆周辺は、交通網が発達していない分、まだ秘境的な自然が残っているエリア。「ヒリゾ浜」の色彩(週末アドベンチャートリップ制作の動画)など、一見の価値ありです。みなさんも、地域に“行く”ふるさと納税を、ぜひ南伊豆で体験してみませんか?

東京方面への帰途、天城越えの途中にある「天城温泉 モダン宿坊 禅の湯(ぜんのゆ)」。賀茂郡河津町にありますが、自治体の枠を超えた連携のおかげで、南伊豆町の感謝券が使えます。

– INFORMATION –

 
南伊豆町に寄附しよう!
ポータルサイト「ふるさとチョイス」では、1月5日から2017年分の納税を受付中。
※感謝券は有効期限13カ月。入金から約2~3週間で届きます
※要予約の施設は早めに手配を。例年2、3月の伊豆は河津桜がキレイです
※感謝券はお釣りが出ないので現金を足しながら利用を
※1月末まで伊豆急行下田駅からのレンタカーがお得です

– INFORMATION –

こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。