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「市境を越えて地域で面白いことをやろうよ」福島屋会長・福島徹さん×小澤酒造社長・小澤順一郎さん対談

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福島徹さん(左)と小澤順一郎さん(右)

特集「マイプロSHOWCASE 東京・西多摩編」は「西多摩の未来を考える!」をテーマに、西多摩を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介し、西多摩での新たなイノベーションのヒントを探る羽村市・青梅市との共同企画です。

東京西部の西多摩地域にある、落ち着いた住宅街が広がる羽村市と、すがすがしい森と清流に包まれた青梅市。この2市は隣接していながら異なる魅力を放っています。

このそれぞれの魅力形成に大きく貢献しているのが、羽村市に本店を置くスーパーマーケット「福島屋」と青梅市の酒蔵「小澤酒造」です。

JR青梅線羽村駅の東口から直進すると、やがて花屋やスーパーマーケットやレストランが並ぶ一帯に入ります。このスーパーが羽村市に根を下ろして45年になる福島屋本店で、花屋やレストランは福島屋の直営店です。


会長の福島徹さんは、greenz.jpでも以前ご紹介した通り、独自の理念に基づく品ぞろえやサービスで地域の人々を魅了し、ファンを増やしてきました。平成26年(2014年)、都心の六本木に出店した新店舗も、品質にこだわった美味しいもの満載の福島屋らしい空間で、多くの人を吸い寄せています。

羽村市の西に隣接する青梅市は、東京の西部に広がる緑深い奥多摩エリアの入り口です。多摩川沿いには豆腐懐石の「まゝごと屋」や日本画家・川合玉堂の「玉堂美術館」といった観光名所が並んでいます。これらを展開しているのが、銘酒「澤乃井」で知られる小澤酒造です。

社長の小澤順一郎さんは、江戸時代から続く造り酒屋の当主として、青梅の日本酒の味と、自社の系列施設を守り育ててきました。小澤家の伝統を引き継ぎながら地域の魅力を増幅させて、国内外から西多摩へ多くの観光客を呼び込んでいます。

地域に根差したビジネスを通して、街の空気を醸成する役割を果たしている両社。その姿はまるで、ずっと昔からこの地を見守ってきた大木のようです。土地とつながる太い根っこから栄養をもらって、応援する人々から水をかけてもらって、そのお礼に美しい花や良い香りやおいしい果実で地域に喜びを与え続けています。

羽村市と青梅市は現在、西多摩地域のさらなる活性化を目指して、ソーシャルイノベーター育成事業を共同で進めています。そこで、greenz.jpでは今回、西多摩地域の大御所たちに課題や展望、そして若手への期待を語っていただくため、福島徹会長と小澤順一郎社長の対談を企画しました。

会場は、福島屋の系列店舗が立ち並ぶ一角にある同社のイタリアンレストラン「ゾナヴォーチェ」。薪釜で焼くパンの香りが漂う中で、「祖父母世代から知り合い」というお二人の濃厚な西多摩語りが始まりました。
 
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福島徹(ふくしま・とおる)
1951年、東京都青梅市沢井に生まれる。株式会社福島屋代表取締役会長。政府主導の協議会「オーガニック・エコ農と食のネットワーク」で副代表幹事を務める。大学卒業後、家業のよろず屋を継ぎ、コンビニ、青果店を経て、34歳のとき羽村市で食品スーパーマーケット「福島屋」を創業。チラシを出さず安売りもせず、生産者も消費者もお店も喜ぶ独自の「三位一体」商法で成功を築く。羽村市では「福島屋」の周辺で業務用食品店、花屋、レストラン、ケーキ屋なども展開している。
小澤順一郎(おざわ・じゅんいちろう)
1954年、東京都青梅市沢井に生まれる。小澤酒造株式会社取締役社長。大学卒業後、材木問屋での修行を経て小澤家が営む製材会社に入社。元禄15年から続く小澤酒造の長男として、26歳で同社に移り、1992年に父の跡を継ぎ社長に就任。酒蔵見学をはじめ、同社が展開する澤乃井園(売店、軽食)、 飲食店「まゝごと屋」「いもうとや」「豆らく」「きき酒処」、文化施設「櫛かんざし美術館」「玉堂美術館」、バーベキュー場「煉瓦堂朱とんぼ」は青梅の人気観光スポット。

地域に根差した商いと街の深いつながり

小澤さん 羽村はね、福島屋っていう店の存在が街の発展をサポートしている、あるいは店が街の核となっている、そういう稀有な例だと思うのです。普通は、「ここにこういう店をつくると儲かるだろう」という発想なんだけど、福島さんはおそらく、この街の特性を見抜いて一連の施設やお店を出したでしょ。

福島さん 自覚はないですよ(笑) 僕は新参者で、それこそ酒屋の御用聞きから始まって、地べたをはいつくばってきました。先々代や先代も含め、小澤酒造さんには大変お世話になっているし、地域の長として何百年にもわたって役割を果たしてきた小澤家を尊敬もしています。こういう小澤家があるからこそ、地域が治まってきた。
 
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小澤さん

小澤さん でも青梅市は広い。面積が羽村市の10倍もあって、東部、西部、中心市街地、北部とエリアごとにカラーが異なります。

造り酒屋が核となっているのは西部です。そこにいくと羽村市は統一感があって、ひとつのワードで語れるから、いろいろやりようがある。そのやりようのひとつとして「羽村」という街のカラー付けを、まさしく福島さんがおやりになっている。

羽村市の東隣の福生市には福生にしかない特徴があるし、西隣の青梅市は例えば、宿場町として発展してきた歴史があるまちで、ともすると羽村って地域的には忘れ去られてしまう可能性もあったんですよ。

福島さん そうですね。僕の家が越してきた昭和17年(1942年)当時の羽村は豚も牛もいる農村地帯で、道路も狭かった。平成3年(1991年)までは、羽村町だったもんな。(※平成3年11月市制施行)

小澤さん だけど羽村市は高級住宅地になり得る雰囲気を、すでに持っていた。

福島さん 豊かになりたいとか幸せに生きたいという思いは誰にもあるからね。移住してきた方々と在来の皆さんとがうまく融合して、今の羽村市を形成したんだと思います。

それにしても、バタバタと自己流でやってきた僕から見ると、小澤家は、ものすごくひと筋通っています。スキャンダルもないし(笑) きっと歴代、そういう教育を受けているんでしょう。

小澤さん 親父や爺さんに「人に笑われるようなことをするな。家が笑われるだけじゃなくて地域が笑われる」と言われてはいましたね。

福島さん 順一郎さんは今、当主として管理運営を任されているわけですが、その組織は地域の皆さんに培ってもらったところがあるから、言ってみれば「小澤酒造はみんなのもの」という状況でもある。

小澤さん ええ。そう考えていただければ。

福島さん 小澤酒造の歴史を伝承する青梅も、都市部からの影響を受けて変化しつつ、多様なコミュニティができてきていますね。一方で変化していない部分もあるし、しなくていいのかもしれない。

例えば、小澤酒造と付随するもろもろの施設がない青梅を想像してみたらいいんです。きっとつまらなくなってしまう。江戸時代から続いてきた文化がなくなるような殺伐とした地域には、住みたくないもんね。

小澤酒造の組織があることで青梅の社会は成り立ってきたし、みんなもその豊かさを享受しているわけです。

だから、僕はある部分では開き直っていて、例えば自分の店にしても、潰れるか潰れないかは、お客さん次第でもあると思っています。お客さんに「叱ってください、育ててください」ってお願いするんです。

それが言えるのは、大変ありがたいことですよ。クレーム対応を重ねるうちに売り上げが急増する経験は他店でもしました。地域ってそういうもので、本当に大事なんです。でも、その大事さが分かっていないんですよ、みんな。

小澤さん 普通に生活している時は意識しないよね。それでも確かに、福島屋さんの店舗群は羽村市の雰囲気を醸し出しているし、住んでいる人も、無意識にその空気に合わせているところがあるんだろうな。

福島さん 僕はライフワークの総決算として、これから改めて地域との関係性を構築し直すつもりです。小澤酒造さんは、次々代まで見据えた地域貢献など、即お金や形にならないことにも継続的に取り組める特殊な組織だから、今後ますます西多摩地域における重要性を増していくでしょうね。

地域ブランド力をアップするには

福島さん 日本は戦後復興で経済合理的なものを追って、すごく急ぎ過ぎてきたところがあるじゃない。

小澤さん うん。それは感じますね。

福島さん それがストレス社会や、文明の均質化を招き、最近は、これではいけないという動き、具体的には「場づくり」や「ビジネスづくり」がかなり出てきている。それらを西多摩で牽引していく大きな要素として小澤酒造があると僕は思っているんです。

僕は「人を美しく」というコンセプトに沿って、羽村市で店づくりや商品開発をやってきました。その西隣の青梅市には、小澤酒造さんの歴史と文化があり、それを取り巻く方々がいる。前に会った時に、これからのプランを聞いたら、小澤さんは「守っていく」って答えたよね。

小澤さん そうね。主事業を継続していくために、いくつかの事業の見直しを進めているんです。

福島さん これだけの長期間、いぶし銀の輝きを見せている小澤家の、実際の歴史や、伝統を維持する苦労が、意外と世間に伝わっていないのは課題でしょ。

それから、今後は行政も含め、より広域な西多摩地域としてどうなっていくのかが問題だと思います。青梅線沿線全般の課題だと、単純な話、食事処を見つけるのが大変なんです。おいしい店はあるけど、もっとあってもいいと思う。

小澤さん そうだよね。

福島さん おいしければ食べ残さず無駄なく大事にする。そういう文化が出てくれば、人が美しくなっていく。だから、おいしいことをきちんとつくりあげていくことって大切なんです。青梅にも地産地消や直売といった話が、もっとあってもいいのにね。

小澤さん 最近出てきていますけどね。青梅という地域のカラーがもっとはっきりあればいいんですが、その辺が課題だと思います。

福島さん いわゆる“ブランド力”で言えば、小澤酒造さんの銘酒「澤乃井」が断トツだけど、うちにあるのは、“地域ブランド力”ですね。

福島屋では農家が100個つくったものを3個だけ売る従来の体制ではなくて、90個は僕らが売ると約束している。棚づくりも、全国のつくり手と対話しながら問屋に頼らずにやってきました。今後は地元の農家とも、もっとそういう形で密にコミュニケーションしていきたい。

ただ、農業にやりがいや客観性を見出したいという願いは絶対みんな潜在的に持っているんだけど、我々が商人として声をかけても、最初はなかなか信用してもらえないんだよね。でも産官民学が協力すれば、そういう「場づくり」ができると思う。

行政も若手も一緒に広域連携で面白いことをやろう

福島さん 例えば、みんなの寄付で小澤酒造から羽田までの多摩川沿いに桜を植える活動もできるでしょ。青梅から羽田までのウオーキングイベントだってすでにある。

小澤さん 玉川上水の羽村取水堰から羽田までは多摩川に沿ってサイクリングロードがあって、ほとんど車道に出ず歩けるんだよね。

福島さん 市境を越えて、何か東京都民のステイタスになるようなことをやろうよ。正直言うと、こういう話はいろいろしゃべっても実現しないことが多くてね。民間企業にとってはカッタルイのよ。でも、そこをもう一歩進めて何かを実現していかないと、面白くなっていかないよね。
 
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福島さん

小澤さん 花を増やすプランなんて、多摩川沿線の自治体で反対するところはないと思うよ。

福島さん 具体的な方法としては、まず協議会など話し合いの場を設けるんです。その時に大事なのが、組織の一番上を白い状態にすること。つまり、あまり利害関係がないパブリックコミュニティにして、みんなが集まれるようにする。そして、その下に具体的な行動がとれるような組織がぶら下がる。

小澤さん 共通の理念を持たないまま組織化すると大変だからね。みんなが自分にとって都合のいいことを言って、まとまらない。だから、一つの組織をつくるなら、まず理念を全員が共有できる状態をつくると、物事はスムーズに進んでいくよね。

福島さん その共通ビジョンをつくるためにも、まずパブリックコミュニティが必要なんだよね。十人十色の意見が出て、紆余曲折の末、「じゃあ、こんなプロジェクトやろう」という状況が生まれる。その状況を繰り返し生み出すベースづくりは、行政と連携して進めていけたらと思うね。

小澤さん 少し視点が違う人が入ることも大切だね。よく「若者、よそ者、ばか者」と言うけど、それはつまり、発想が柔軟ということ。既成概念にとらわれない、前例を踏襲しない、という意味ね。

特に田舎は行き詰まってきているし、新しい発想ができるよそ者もなかなか来ない。だから西多摩の若い人たちには、ただの田舎の若者で終わらず、よそ者的発想、ばか者的発想をしてほしいな。

福島さん 僕はね、若者は旅に出ればいいと思う。一人の時間と一人で動くシチュエーションをつくるのは、自分の選択だから。

なんとなく毎日が楽しければいいとか、他力本願の子が多いけど、そこから一歩二歩進めてさ。旅に出れば窮地に立つし、一人で判断しなくちゃいけない場面も増えてくる。客観的な視点で状況を把握して、自分のハートの中からものを考えて分析していく経験をしながら、納得できる自分の人生を大事にしてほしい。

小澤さん 都会には自分が吸い込まれていくスポットがいくらでもあって生きやすいから、都心に出てしまう若者がいるのは分からんでもない。

では、選択肢が少ない田舎の若者に大事なのは何か。それは自分で考えて、自分でつくっていくことですよ。まずは「親父の言うことは聞くな」とアドバイスしたいね(笑)

親父に言われるままやってうまくいった時代は、もうとっくに終わっているから。自分の発想、自分のソフトをどうやって形にするかということを、一人ひとりが考えなきゃいけない。

福島さん 多摩川流域についても、それぞれが主体的に考えれば、もっといろいろな企画が出てくるでしょ。

小澤さん 行政レベルの連携のほかに、最近は民間の法人会が主体の「西多摩を考える会」というのもできた。やっぱり、市境を越えて何かしたいという時代に入ってきてはいるんだよ。

「西多摩を考える会」では、今は西多摩全域から面白そうな人がピックアップされて酒飲みをしている。このまま酒の消費が伸びるだけでも俺はいいんだけどさ(笑) それだけでは終わらないと思うのね。そこからきっと卵が産まれる。

あとは、青梅信用金庫の「美しい多摩川フォーラム」。これも共同体意識の活動で、奥多摩町、青梅市、羽村市はもちろん、大田区の人も来る。発想の原点に多摩川があり、流域として良いことをしようという取り組みなの。多摩川は都民の共有財産だし、東京の一つの象徴なんだよね。

福島さん 僕は小澤酒造さんのある沢井で生まれたから、今でも空白の時間ができると一人で日がな一日、川辺で過ごしたりする。ニューヨークやパリに行くこともあるけど、やっぱり安心するのは多摩川だね。鮭みたいなもんだから、戻ってくると何となくホッとするんだよ(笑)
 
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小澤さん(左)と福島さん(右)

福島さん とにもかくにも、具体的な事業や商品、プロジェクトを構築するためには、やっぱりまず、利害関係のないパブリックコミュニティをつくること。ぜひグリーンズも一緒にね。僕も協力するからさ。

小澤さん そうだね。刺激を与え続けないと、卵は産まれないからね。
 

(対談ここまで)

 
西多摩に根を下ろしつつ、外に開けた視野を持つ福島さんと小澤さんの地域を見る目は冷静です。でも、やはり生粋の西多摩人。生まれ育った土地への深い愛情も、言葉の端々から感じられました。

地元でビジネスを育てて「まちづくり」にまでつなげているお二人の言葉には、地域の魅力づくりのヒントが満載です。

そして、対談が終わって心の奥深くに残ったのは、「動ける人から、どんどん動こうよ!」という大先輩からの熱いメッセージ。「協力するから」とあたたかい言葉まで添えてもらいました。

多摩川の流れと、先達たちの歩みが続いてきた西多摩なら、いろいろなチャレンジができそうです。湧き出るイメージを言葉にして、仲間を増やし、まずは一歩。臆せず動いてみませんか?