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徳島地域エネルギー・豊岡和美さんがやりたいのは環境問題やエネルギー問題の解決ではなく、あくまでも「持続可能な地域づくり」

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みなさんがこの記事を読むために使っているスマホやパソコンの電気、どこでつくられたものですか?

「オフグリッドで自家発電!」という人もいるかもしれないけれど、たぶんほとんどが「どこか遠くの発電所」。京都に住む私の場合は、大阪府や兵庫県の火力発電所のほか、長野県や岐阜県の水力発電所で発電した電力も使っています。いわば、都市の電力を地方の発電所が支えるという構図にハマって暮らしているわけです。

とはいえ、この構図ができ上がったのは、大規模な発電所と送電線がつくられた100年ほど前のこと。それまでの日本の村や町は、それぞれに小規模な発電を行い、地域内でエネルギーを循環させていました。

その頃と同じように、というわけではないけれど、エネルギーをめぐる地域と大都市の関係をゆっくりと解きほぐそうとしている人たちがいます。それが、今回ご紹介する「一般社団法人徳島地域エネルギー」の人たちです。住民主体で再生可能エネルギー事業をつくり、電力購入のために出ていくお金を地域のなかに留めて、地域経済を建て直すしくみを全国に広げていこうとしています。

それはいったいどんなしくみなのでしょう? 徳島県・佐那河内村にある「一般社団法人徳島地域エネルギー」の事務所を訪ねて、事務局長の豊岡和美さんにお話を伺ってきました。

 
徳島地域エネルギー事務局長 豊岡和美さん

豊岡和美(とよおか・かずみ)
地元短大卒業後、企業に就職。退職後、家業である一級建築士事務所のインテリアコーディネーターをする傍ら、市民運動に参画する。2003年~2007年徳島県議会議員に就任(1期)。地域の抱える多くの問題に直面し、再生可能エネルギーでの地域活性化に取り組むため、徳島県小水力利用推進協議会を結成、県内で小水力発電事業を進める。2011年徳島再生可能エネルギー協議会、2012年一般社団法人徳島地域エネルギーを立ち上げて事務局長に就任。再生可能エネルギー全般の普及に向けたコーディネートなども行う。

再生可能エネルギー事業と地域活性化は相性がいい

徳島地域エネルギーは、2012年に設立された再生可能エネルギーの事業化と普及のためのコーディネートを行う一般社団法人。環境省の地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務の受託も行っています。とりわけ、注目されているのは、太陽光発電によって地域を活性化する「コミュニティ・ハッピーソーラー」というモデルです。
 
佐那河内みつばちソーラー発電所
徳島県・佐那河内村につくられた「佐那河内みつばちソーラー発電所」(120Kwh出力)。集まった寄付は324口。5年間、佐那河内村の特産品が送られます

佐那河内みつばちソーラー発電所
新府能トンネルの残土処分用地を借り受けて太陽光パネルを設置。環境に配慮して木柵で囲まれている

佐那河内みつばちソーラー発電所
整地(草刈り)もソーラーパネルの管理作業のひとつ。「みつばちソーラー発電所」では3匹の羊たちが整地をお手伝い

「コミュニティ・ハッピーソーラー」では、地域住民を主体とした事業者が、自治体から遊休地を借り受けます。そして、地方銀行など地元金融機関の融資と自治体資金を建設費とし、地元業者に太陽光パネルの設置工事を依頼します。

建設費の約1割は、地域内外からの寄付金(1口1万円)を募集して運転資金に。寄付者に対しては、発電開始後に寄付金相当額の特産品を還元するので、“電力版のふるさと納税”とも言われています。

自治体には地代をお支払いし、地元からは特産品を約300万円買い上げます。売電で生んだ収益も、経費を差し引いて事業者から地域に支援金として寄付。つまり、地域には、税金(法人税)、土地使用料、支援金、特産品の代金が支払われるので、地域活性化の一助になるというわけです。

再生可能エネルギーに取り組む地域は多数ありますが、「大企業に土地を貸すだけ」というケースも少なくありません。それでは、収益はほとんど都市部に持ち出され、地域には土地使用料とわずかな税金が入るだけ。「再生可能エネルギーは地域の資源だと気づかず利益を持っていかれている自治体も多い」と、豊岡さんは悔しさをにじませます。

関わっている人みんながWin-Winにならないと、しくみは続かないと思うんです。しかも、誰でも参加できるようにハードルを低くしないと広がらない。「コミュニティ・ハッピーソーラー」なら、「リスクもないしやらないと損だな」「どうせやるならこのやり方で」と思ってもらえます。

コミュニティ・ハッピーソーラー鳴門
「コミュニティ・ハッピーソーラー」は、2015年度新エネ大賞 新エネルギー財団会長賞を受賞しました

2015年末の段階で、徳島県内には5事業10発電所が完成。合計18mWhの年間発電量と約1250tのCO2排出削減が見込まれています。固定価格買取期間(20年間)に期待される、地域への経済効果は、13億5千万円。さらに、新たなプロジェクトの種は県内外に撒かれているので、これらの数字は右肩上がりに伸びていく見込みです。

地域内で、お金とエネルギーと食糧が回るようになれば、そこに「自分たちのことは自分たちで決められる」持続可能な地域社会が生まれていくはず。豊岡さんは、そんな未来を信じて行動し続けているのです。

原点は、2000年「吉野川可動堰問題」の住民投票

豊岡さんが、こうした地域づくりの活動に踏み込んだ原点は、公共事業に伴う環境破壊の典型例として、全国からも注目された「吉野川可動堰化問題」でした。

吉野川の河口から14kmの地点には、江戸時代に吉野川を分流するために建設された吉野川第十堰があります。1990年代、水害の多い吉野川を「より安全に治水するため」と、この第十堰を改築して可動堰化する公共事業案が持ち上がりました。
 
吉野川第十堰
南から見た第十堰、左が上流側(Photographed by Tamago915 (Own work) GFDL or CC via Wikimedia Commons)

しかし、可動堰が建設されると、吉野川下流域の干潟などの環境が破壊されてしまいます。また、県も市も財政難のなか、1000億円を越える巨額の公共事業への懸念もありました。

この問題を知ったとき、豊岡さんが思い浮かべたのは生まれ故郷の海辺のまち。子どもの頃、泳いだり潜ったりして遊んだ美しい海岸は、護岸工事によって「コンクリートの固まり」と化していました。

「漁師さんは便利になり、村は安全になって栄える」という話だったんですけど、全く違っていて。魚も人もいなくなり、過疎の村になってしまったんです。景観が残っていたら観光資源になっただろうし、魚ももっと採れていたかもしれないのに。

可動堰化に反対する市民グループは「大事なことはみんなで決めよう」と徳島市での住民投票を提案。「投票率50%以上でなければ開票は行わない」という付帯条件付きながら、住民投票条例の成立に持ち込みました。

さらには「住民投票で可動堰を0にする会」を結成。徳島県庁前のかちどき橋で「住民投票123」や「吉野川に一票を」のプラカードを持って立つ運動を展開しました。雪のなかでも立ち続ける市民の姿は感動を呼び、参加者は日増しに増えていきました。
 
吉野川に一票を
住民投票を呼びかけるチラシのひとつ。さまざまなチラシやプラカードが制作され、たくさんの市民がそれを手に街頭に立ちました

ところが、小さな子どもを抱える主婦だった豊岡さんは、みんなと一緒に橋に立つことができません。そこで、「何かやらないと一生後悔する」と“自分にできる行動”をはじめました。

毎日プラカードを持って、家の近くで1時間だけ立つことにしたんです。背中にも「123」のチラシを貼って投票日まで外しませんでした。そしたら、ちょっと目立ってしまって(笑)。行動力があると思われてしまったんです。

住民投票の結果は、有効投票率55%、反対票は91.6%。圧倒的な反対多数で可動堰は白紙決定されました。その後も運動の勢いは収まらず、市民の声を反映する県議会づくりへと発展。「行動力のある女性」と一目置かれた豊岡さんは県議会議員に出馬し、当選して県政に関わることになったのでした。

地方はもうカンフル剤では元気にならない

豊岡さんは、議員を一期4年間務めました。「議員を経験してよかった」と思うのは、政治の現場で国と地方の関係の現実をまざまざと見られたこと。そして「本当の自治を実現するには、理想論より現実的な結果を積み重ねるべき」というマインドに変わったことです。
 
徳島地域エネルギー事務局長 豊岡和美さん

公共事業は、地域が生きるためのカンフル剤だったと思うんです。でも、今の地域は死に至る病を抱えていて、ビタミン剤やカンフル剤はもう効かない。むしろ、絶食してでも自ら生きる力をつけないと治らないのに、押し付けられた政策を受け入れてしまう体質から抜け出せないんですよね。でも、いいことを言うだけでは、過去の方法にしがみついている人の心を変えられません。

惜しくも二期目で落選した後は、民間から自治のかたちを示す方法を模索。地域内経済がうまく回っている町や村を視察し、志を同じくする人たちとの勉強会を重ねました。そして、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)を活用した、地域主導の再生可能エネルギー事業を進めるために、徳島地域エネルギーを設立しました。

地域が自立すれば国の仕送り(交付金)はいらない。地域が自分たちの資源を活かしてやっていけるという成功事例を示せば、いずれは国の政策も変わっていくはずだと考えました。

「やりたいことは、可動堰問題に取り組んでいた頃からずっと変わっていません」と豊岡さん。やり方は変わっても、それぞれの地域が「自分たちで自分たちのことを決められる」世の中を目指して行動し続けているのです。

本当にこの国のしくみを変えるためにできること

2014年、コミュニティ・ハッピーソーラーの最初の事例となった、徳島県・佐那河内村「みつばちソーラー発電所」が発電と売電を開始しました。

続いて、「海のソーラー牟岐」、「コミュニティ・ハッピーソーラー鳴門」「ゆずの里発電所(那賀町)」なども次々にオープン。今年11月からは、鳴門市で新たに洋上風力発電の調査もはじまります。数年のうちに各地でインパクトあるモデルがたくさん生まれそう。

地域にとってリスクはゼロで、収益もあがるとなると、役場の人も「やらないと損だな」と思いますよね。そうなれば、ぐっと理解してくれる人の数も増えるし、一緒に戦略を考えていける仲間にもなれます。

徳島地域エネルギーは、太陽光以外にも小水力発電や木質バイオマス利用にも取り組んでいます。長年、バイオマス熱利用を研究してきたメンバーが選んだ、オーストリア製のバイオマスボイラーはすでに高齢者施設の暖房などに活躍中。ホテルやゴルフ場などの大規模施設への導入も予定されています。
 
バイオマス・ラボ
2016年4月、佐那河内村にてオープンした「バイオマスラボ」。燃焼実験や、併設の床暖房や風呂設備で暖房や給湯も体験可能。導入を検討する人たちの不安や疑問に応えます

バイオマス・ボイラー
オーストリアETA社のバイオマスボイラー

木質チップ
木質チップ。このボイラーでは竹も燃焼可能だそうです

「再生可能エネルギー事業による収益でこの地域をどうしたいか?」という大きな絵を描かずに、手に届くことから始めようとするとどうしても構図が歪んでしまいます。ですから、地域のポテンシャルを客観的に見て、事業として取り組むマインドを持ってくれる方と組みたいですね。

手に届く小さな取り組みから始めるより、一番大きなところから取り組んで、絵を仕上げていくほうがずっとうまくいきます。

徳島地域エネルギーの事務局には、毎日のように他県や市町村の視察や研修依頼が舞い込みます。他県での取り組みのサポートも行っており、明石市環境審議会の委員や熊本県県民発電所認証委員をはじめ、「再エネコンシェルジュ」として具体的な相談に乗っています。

豊岡さんがやろうとしているのは、環境問題やエネルギー問題の解決ではなく、あくまでも「持続可能な地域づくり」。そして、地域から日本の未来を描くことなのです。「まるで地域からはじまる一揆のようですね」と言うと、豊岡さんは「静かな革命だと思っています」と答えました。
 
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忙しい業務の合間に羊のお世話もする豊岡さん。夏には羊の毛刈りもするそうです

誰のことも責めないし、敵にはしない革命ですね。本当に快適で居心地が良くなるしくみをつくれば、必ず真似をしてもらえるという信念があるんです。私たちは原発反対運動はやりませんが、いつしか原発がなくなっている状態にはしたいです。

地域にとって、あるいはその地域を応援したい人にとって「参加しやすい」ということも、徳島地域エネルギーがつくるしくみの大きな特徴です。

豊岡さんにお話をうかがって、私は「もしかしたら、このしくみはいつか静かに原発を止めるのかも」と思いました。誰がどう見ても「つくる必要はない」という状況になれば、新しい原発をつくることはできなくなるだろうからです。

大都市で暮らしながら、寄付金を通じて地域を応援することもできますし、特産物を受け取ることからその地域とのつながりを感じることもあるでしょう。実際に「コミュニティ・ハッピーソーラー」のある町を訪ねてみて、自分の地元にもつくりたいと考える人もいるかもしれません。

最初は、地域の特産物がお目当てでもいいと思います。もし、この記事に共感することがあるなら、「コミュニティ・ハッピーソーラー」への寄付をしてみませんか? 自分なりの実感をもとに、段階を踏んで地域を応援する気持ちを育てられたら、新しい未来につながる物語がきっと生まれるはずだと思います。

(撮影: 浜田智則