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目的は自給自足ではありません。北海道下川町でエネルギー自給生活をする普久原涼太さんから学ぶ、ライフスタイルのつくりかた

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わたしたちエネルギー」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクト。経済産業省資源エネルギー庁GREEN POWER プロジェクトの一環で進めています。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

はしがき

エネルギー分野には、はっきりしたテーマがたくさんあります。

例えば経済。エネルギーは経済発展に貢献しました。電力や交通などのエネルギーは火力やガソリンから得られ、石炭や石油などを燃料にしました。それらは化石燃料と呼ばれ、生物が地中に溜まり、長い年月をかけてつくられます。

経済発展は化石燃料ができるスピードよりも早く、代わりの燃料が必要とされました。それがウラン、原子力です。

しかし、原子力の使用後の燃料は地球に返せない廃棄物になります。そこで風や太陽光などの自然エネルギーに注目が集まりました。

自然エネルギーは燃料がほぼ尽きません。ただし、火力や原子力よりも同じ面積あたりで生み出せるエネルギー量が減ります。仮にこれまでの経済を保つだけのエネルギー量を生む施設数を設けると、景観は変わります。

例えば巨大な風車は影をつくります。羽に巻き込まれた鳥が死ぬこともあります。ソーラーパネル一面の土地は個人の目にどう映るでしょうか。

このように経済というテーマにざっくり注目しただけでも、エネルギーの一長一短がわかります。何を好み、どれを嫌うかは個人の価値観に寄ります。

だから今は選択する時代です。どんな経済を選び、何をエネルギー源とするのか。それは個人個人が自身でライフスタイル(生活と仕事の様式)を決めることでもあります。

7月22日、ぼくは北海道下川町に行きました。一軒家でエネルギー自給生活を送る普久原涼太さんの取材です。普久原さんは24年かけて、自分が必要な電力・食料・交通というエネルギーの一部を自給する今の生活を手にしました。

この記事を通して、普久原さんが求めた暮らしを覗き、あなたのライフスタイルについて考えてみませんか?
 
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普久原涼太さんは今年で46歳。折れても生きている栗の木を前に

まずは普久原さんの1日の生活から

普久原さんは北海道下川町の4LDK庭付き賃貸一戸建て(家賃1万5,000円)に一人暮らし。

近隣には同じく一軒家が並び、老人ホームや小学校、中学校が建っています。郵便局や神社が近く、公園、町民スポーツセンター、スキー場といった施設も。5分自動車で走れば畑が一面に広がり、360度パノラマの青空と山々を一望できます。

そんな生活圏に暮らす普久原さんの日常は、だいたい5〜7時に起床後、薪ストーブに火をつけ、ごはんを炊くことから始まります。食後は、夏なら畑をいじり、冬なら薪運び。ブログの更新も済ませます。

9時からは町内の美桑が丘という森に自転車で向かい、またも畑仕事。その後、温泉に入浴する日もあります。12〜15時は、読書や主催する勉強会をし、その後、自宅から自転車で約5分の職場へ。

2012年4月に開業した自身が代表を務める「下川社会教育センター」という塾で働いています。

1日1食は近隣の食堂でごはんを食べ、残り2食は庭の畑でとれた作物か知人友人からもらう食材で自炊。アルコールは嗜みません。21時には退社し、ヘッドライトをつけて自転車に乗ります。
 
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ヘッドライトと手動発電可能なランタン

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ヘッドライトと普久原さん

もしも天候不良や温泉に行くのが面倒な気分の日は、早朝に、沸かしたお湯をタライに入れて浴室に。

ちなみにぼくの母方の実家は東京都新宿区の百人町にありましたが、銭湯が生活に根付いていた昭和では新宿でも2日に1回の入浴が一般的だったと祖母は言っていました。普久原さんは、それに近い暮らしぶり。

帰宅後は歯を磨いたら消灯。気がつけば明朝です。衣類は主に手洗いで、よく晴れた日に贅沢する時は洗濯機を回し、たまに掃除機もかけます。調べ物があるときはパソコンを起動したり、自宅に知人友人が訪問したらコーヒーメーカーで美味しいコーヒーをふるまったりもします。

知人友人とはお互いが得意なことを活かし合う関係です。周囲にはミニロケットストーブづくり、味噌やカボチャ団子などの保存食づくりを頑張っている人や北海道の馬「ドサンコ」を飼っている人がいます。

一方、不器用でものづくりは苦手だけれど読書好きな普久原さんは、「下川わわわ大学」「22世紀コミュニティ研究会」といった学び舎を知人友人向けに主催。

参加者が興味のあることを自主ゼミ形式で学び、自身はヘンリー・D・ソローの『ウォールデン 森の生活』を現代向けに意訳するブログの更新や憲法を学ぶゼミなどを続けています。
 
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読書には図書館を愛用。読んだ本はノートに書き留めています

生活を支えるエネルギー源は?

そんな普久原さんが生活で使う電力は4枚のソーラーパネル(大きいほうから265W2枚、260W1枚、100W1枚)で用意。

パネルは南向きの家屋の屋根に備えつけたり、外壁や二重窓の間に立てかけたりして設置し、太陽の軌道が変わる季節の節目に角度を変えます。天候によっては室内にしまうことも。
 
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バッテリーは4台。ディープサイクルバッテリーとカーバッテリーを使っています。バッテリーは傷むことがあるため、もっぱら発電しながら満タンの状態で使うのが理想だとか。蓄電し、必要な時にインバーターにつなげて使っています。
 
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バッテリーとインバーター

バッテリーが満タンになると、コントローラー機能により発電はストップ。その間、自動でバッテリーのバランス調整が行われているのだとか。

また朝昼晩とソーラーパネルの角度を調整したほうが発電効率は高まりますが、今の生活にはこのスタイルで十分な電力量を得られているため、そこまで肩肘張らずに取り組んでいるそう。

北海道生活で欠かせない暖房には薪ストーブを。湯たんぽや飲料などに使う湯沸かしや自炊時も同じく薪ストーブ、もしくはウッドストーブを使っています。2014年までカセットコンロでしたが、故障気味になったことを機に化石燃料から木質燃料への切り替えになるウッドストーブを取り入れました。
 
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薪ストーブ(上)とウッドストーブ

薪ストーブの燃料は主に風倒木や端材から。木工所でトラック一杯分を5,000円で譲ってもらっています。

ウッドストーブは、路肩に転がる松かさ(まつぼっくり)が燃料になり、調子のいい日は約10分で薬缶1杯分のお湯ができます。ただし、火おこしは悪戦苦闘すればするほど楽しいのだとか。燃焼後の灰は肥料に変わります。
 
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まつぼっくりにマッチで着火

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火力十分

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湯沸かし完了、立ち昇る湯気。この後お茶をいただきました。ごちそうさまです

軒先の庭では野菜や果物を栽培。取材当日はイチゴやグリーンピースなどがなっていました。路面脇にはウッドストーブの燃料が実る松が生え、庭の奥には栗の木も。

栗は雪で折れていましたがそれでも実がなっていました。
 
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イチゴ(上)とグリーンピース

庭の植物は、たとえぼくたちが食べられないものだとしても、ちゃんと光合成をしている。枯れたら土に戻るから、無駄なものはないんですよ。本当に植物は偉いなあ。

縁側の脇にはこれから植えるであろうさまざまな植物の苗が並びます。作付けは品種ごとに区分けせず、例えばネギとトマトのように近接すると育ちがよくなる植物同士(コンパニオンプランツ/共生作物という)を頭でっかちにならない程度に意識して植えています。

時期により、食べきれないほどの収穫を得て、その量は知人友人にわけても余るほど。いつか稲も育ててみたいのだとか。
 
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そのほか、美桑が丘の森づくりをする「NPO法人森の生活」にもかかわり、大きな畑では2015年の冬にたくさんカボチャがとれ、主食として食べる時期もありました。今年はそばづくりに挑戦予定。

また、移動手段はもっぱら自転車。昨年この自宅に引っ越した際は愛用のLOUIS GARNEAU(ルイガノ)のロードバイクの後輪にサイクルトレーラーを装着して、家財道具を自転車で運搬したそう。
 
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エネルギーって、電気と熱と移動に使いますよね。だから、いちばん基本は自分でできることを自分ですることだと思うんです。

みんな、エネルギーって消費するものだと思っているけど、本当は生産するもの。例えばお湯を沸かすのに悪戦苦闘することをぼくが楽しめているのは、エネルギーを生み出しているからです。

今の生活に近づいてきた24年の歩み

普久原さんは劇的な経験をして今の生活に向かったわけではありません。これまでの人生の中で一つ一つ選んできました。

当時、大学生だった普久原さんは、徒歩や自転車で移動することが好きでした。

旅が好きで、北海道にもきていました。

夜行急行を使えば、宿泊代もかかりません。起床したら40〜50キロ歩く旅です。移動手段としては疲れるし時間もかかるけれど、やってみて楽しかったんですよ。

自分が実感していたから間違いなしでした。

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その後、みんなが幸せに生きられる社会にしたいと、福祉の道に進みます。専門学校で学び、縁あって熊本県の児童養護施設に就職。障害者通所施設でも働きました。時代はバブルがはじけた後です。

福祉の仕事を選んだ時点で、高所得は捨てました。高齢者や障害者の支援をしていましたが、経済的な豊かさを求めることだけが福祉ではないと思っていました。

豊かさは消費だけではない。みんなが求めてばかりでは歪みが出ますから。

熊本に住むと同時に、ボランティア活動もはじめました。当時、熊本では生活協同組合連合会グリーンコープ連合「グリーンコープ」に関わる40代の主婦たちが活発にボランティア活動に取り組んでいました。

ここでの出会いで、環境や食の安全に関心が広がっていきました。

その後、25歳でフリーのボランティア活動家に転身。最低限の収入を得ながらごはんを食べていくために家庭教師をはじめました。

自分のやりたいことを得るためには何かを捨てる必要があると思いました。そこでお金がなくても大丈夫かもしれないと感じ、切ってみたんです。まだ若かったので「しまった」と思ったらお金を稼ぐ暮らしに戻ればいいと思っていました。

同時期に福祉専門学校の教師を兼ねたことも。専門学校での収入は、熊本のボランティア団体やNPOに寄付しました。
 
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計10年、熊本で活動後、他地域を知りたくなり、熊本と逆側の北海道釧路市に移ります。釧路では約2年、福祉のNPOや市民活動の中間支援センターで働き、旭川市に移りました。

旭川では障害者福祉NPOや若者支援団体で働きます。その間、エネルギーを自給する女性に出会いました。その女性は自分で部品を選び、独立型のソーラー発電システムをつくっていました。

「電気わからないよお」といいながらやっていたんです。

それまで電力の自給を考えてはいたけれど、踏ん切りはつけられていませんでした。でも、わからないながらやっている人を見て「うわあ、できるんだあ」と思ったんですよ。

その後、旭川で若者支援の活動を続ける一方、雇用期間2年半の塾講師に採用され、下川町に移ります。釧路、旭川、下川とどんどん自然の多いまちに引っ越していきました。

北海道の風土は、自家栽培や農業をやりたい気持ちにさせるんですよ。どうせ下川で暮らすなら、薪ストーブもやりたいとも思いました。

1回分ぐらいの薪でも700円ぐらいする都会じゃできないですから。

教職の契約満了後は下川での活動に絞り、保護者の要望を受けて「下川社会教育センター」をはじめます。そして昨年、今の自宅に引っ越しました。

数年かけて「本格的に何十年も土づくりをやるぞお」と思える場所を探していたんです。やっと見つけました。

どうして今の生活を求めたの?

ここまで見てきたように、普久原さんが自給する生活を求めてきたのはなぜでしょうか?

実は、自給自足が目的ではありません。職場では商用電源を使っていますし、バスや鉄道も利用します。食料に至っては、自給率50%にも遠く及びません。

むしろ、ぼくが目指しているのは個を尊重しつつも相互依存的なコミュニティです。自給よりは、自立・自律・自治を目指している気がします。

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最近の普久原さんはソーラーパネルを増やしているそう。自身のライフスタイルなら100W1枚で足りるけれど、それでは人が真似しにくいからだとか。

今は近隣に住む仲間も同じようなライフスタイルに取り組んでいますが、より多くの人に広めたいという気持ちもあるのでしょうか?

ないなあ。

そこに力を入れる必要はないと思っています。早く行動する人は絶対的に少数派ですから。少数派ではないみんなは、大きく変化しなきゃいけない局面になったら変化するとも思うし。でも、その少数派がこの20年でいろんな地域に増えてきているように感じます。

だから、その間をつなぐ層の人が大事ですよね。進んでいる人たちを孤立させるようだったら大きな変化にはならないだろうから。これを読んでいる人も、そういうつなぐ層の人が多いだろうなあと思います。

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あとがき

進学や就職、転職に引っ越し。普久原さんの人生を見ていると、誰にでも訪れるそんな機会を自分で選ぶことが、今のライフスタイルにつながっているのだとわかります。

だから些細なことでも、こだわってみたくなりました。

今日は何を食べようか。
明日は何を勉強しようか。
仕事でどんな付き合いをしようか。

あなたはどんな日々をすごしたいですか? それが自分にとっても、地球にとっても、気持ちいいものに近づくといいですよね。

(写真: 菊地勇希)