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屋根が密集する都会ならではの電力づくりって?「NPO法人世田谷みんなのエネルギー」が目指すのは、持続可能エネルギーをおすそ分けする市民発電所

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わたしたちエネルギー」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクト。経済産業省資源エネルギー庁GREEN POWER プロジェクトの一環で進めています。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

東京都は世田谷区に位置する、小田急線下北沢駅。駅を降りると、おしゃれなカフェや古着屋さん、趣のある劇場が数々目に飛び込んできます。”シモキタ”、いわずと知れた東京のおしゃれスポット。

そんな街並みを抜け、歩くことわずか5分。突如、住宅街の開けた敷地に建つ「カトリック世田谷教会」にたどり着きます。下北沢という場所で、閑静な教会の佇まいに驚くと共に目を引くのは、その屋根を覆う大きな太陽光パネル。その規模は、10.01kWの発電量を担うものです。

ここ数年、屋根に太陽光パネルがある光景は珍しくありませんが、ここは、世田谷区民を中心とした「NPO法人世田谷みんなのエネルギー」が運営する市民協同発電所。世田谷に住む人が、どんなエネルギーでどんな暮らし、そして未来を残していきたいかを考え活動する市民団体の拠点のひとつ。

今回は、世田谷という都会に住みながら、都会ならではの創エネ・省エネを実践し、さらには、じわじわと地域に広めている「世田谷みんなのエネルギー」をご紹介します。代表、浅輪剛博さんのインタビューから、都会だからできる持続可能な暮らしのつくり方、その可能性をぜひ感じてみてください。
 
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浅輪剛博(あさわ・たかひろ)
NPO法人世田谷みんなのエネルギー理事長、せたがや市民エネルギー合同会社代表、合同会社東京市民ソーラー代表、一般社団法人NECO(自然エネルギー共同設置推進機構)創立メンバー。
少年時代に出会ったボブ・ディランやジョン・レノン、忌野清志郎などの歌に衝撃を受け、環境・地域政治経済学を専門とする中村剛治郎教授の元で学ぶ。サラリーマン生活ののちに、2010年からトランジション世田谷茶沢会のメンバー。身の回りの自然エネルギーを活かす“エクセルギーデザイナー”を志す。認定太陽光発電アドバイザー、第二種電気工事士の免許も取得。

都会から持続可能な暮らしを目指す「世田谷みんなのエネルギー」

まずは、世田谷みんなのエネルギーについて、ご紹介しましょう。

2010年、自分たちの住んでいる街から自分たちの手で持続可能な社会へ「移行(transition)」していくことを目標とした「トランジション世田谷」が誕生。その後、2011年の東日本大震災を受け、世田谷区から石油エネルギーや原子力発電に頼らない暮らしをよりしっかりと実践するために、トランジション世田谷の活動や生協活動のメンバーのもと、「世田谷みんなのエネルギー」は立ち上がりました。
 
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「トランジション世田谷茶沢会¥のワークショップ風景。セルからつくる太陽光パネルのワークショップやオフグリッド型の小さなソーラーシステムの講座など開催

世田谷での持続可能な街づくりを目指す「世田谷みんなのエネルギー」は、現在、100名ほどの会員とともにこの地域ならではの暮らしのヒントを広めています。

その活動内容は、気軽にできる省エネや創エネの実践をお手伝いするというシンプルなもの。ちょっと暮らしに役立つ省エネDIYのワークショップや、独立型オフグリッド太陽光発電システムの制作、またエネルギー関係の講師による勉強会などを2ヶ月に1度ほどのペースで開催しています。

特筆すべきは、会員でなくとも参加できる機会を多く設け、「誰でも、どこでも、無理なく心地よい省エネ、創エネ」を広げていること。エネルギーに興味がなくとも、おもしろそうだから参加してみるのもあり。市民活動の一環として、積極的に地域へ飛び出しています。
 
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理科の実験のような感覚で身近なエネルギーを感じるワークショップは子どもたちに人気だとか。

また、カトリック世田谷教会では、小さな畑を耕したり、小さな養蜂所をつくり、そこで採れる蜂蜜を分け合ったりするなど、都会でできることをみつけては実践。都会のエネルギー課題について構えすぎず、「できることからやってみる」スタイルも、世田谷みんなのエネルギーの魅力です。
 
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下北沢の真ん中に構える小さな小さな養蜂場。採取したはちみつはマルシェでジュースになったり仲間で分けたり

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快適な温熱環境を実際エコ改修でDIYするヒント集も制作

さらにもうひとつ。市民協同発電所の運営にも力を入れて取り組んでいます。2013年、カトリック世田谷教会と世田谷区の協力のもと、第1号となる「カリタス下北沢ソーラー市民協同発電所」を開所。
 
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10.01kwのソーラーシステム。災害時の電源としても確保されています

その仕組みは至ってシンプル。屋根を貸してくれる場所が見つかると、市民からの出資を募り、ソーラーシステムを設置。太陽光で発電した電気エネルギーは売電し、収益は出資者に戻すというものです。

2014年には、東京は小平市や、西東京市・中野区・練馬区・新宿区の市民エネルギー団体と協働し、「合同会社東京市民ソーラー」を設立。現在、下北沢を始め、宮坂・弦巻・上祖師谷にある世田谷区の建物、また都外にも2カ所の市民発電所を開所するまでに成長しています。

カーシェアリングするように、自然エネルギーもシェアする

立ち上げから今年で4年。世田谷から様々なエネルギーの自給を実践すべく活動する「世田谷みんなのエネルギー」ですが、震災を機に、都会でできる実践にこだわる活動に至った理由はどんなものなのでしょうか。

実は都会から持続可能な暮らしを実践したいとトランジション世田谷を始めたものの、当初、他地域で取り組まれている持続可能な暮らしの事例を前に、「世田谷ではなにもできない」と仲間と共に頭を抱えていたんです。

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立ち上げから理事を務める浅輪さん

持続可能な暮らし、それは畑を耕し食べ物を自給したり、自立型のソーラー発電システムでエネルギーをつくったりするオフグリッド。方や、超過密人口の世田谷で、畑はもとより、増え続ける世田谷区の人口に対して、持続可能な暮らしを推進するためにどうしたら良いのか。悩ましい日々だったといいます。

ただ、都会ゆえにエネルギー消費は多いわけです。たくさんエネルギーを使っているのだから、工夫すれば減らす余地もたくさんありますよね。さらに人が多い分、シェアできるものも多い。

住宅密集地だからこそできることは何かを考えた時、屋根の多さに気づいたんです。極端ですが、カーシェアリングするように、屋根をシェアして自然エネルギーをこのエリアにシェアできればと思いました。

さらに土地柄にも着目。東京、過密地域の世田谷。しかし、もともと世田谷という地区は東京の中では農業が盛んな地区。また、生活クラブの発祥の地であったりと、市民活動も多方面に及ぶのだとか。農業や地域をよくしたいと活動する団体が多いほど、手を取り合って実現できることも多いのではと浅輪さんは続けます。
 
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世田谷で生産される有機野菜をマルシェで販売。食べ物をご近所の循環の中で回すことも省エネにつながります

いろんな市民活動が盛んな点も、都会の人の多さの利点だと思うんです。この過密地区でみんなが目指している社会づくりと一緒にエネルギーのことも考えていけばいいと思いました。

それに例えば、持続可能を目的とした人たちが集まってエコビレッジをつくったとしても、そのまわりの街では、石油や現存のエネルギーに頼った暮らしが広がっている。それは残念なことだと思うんです。

世田谷区という小さな場所から少しずつ、みんながより良いと思う暮らしをつくっていけば、結果として持続可能な暮らしの実践につながる。自分たちだけでやる創エネ・省エネから、アイデアや実践をシェアする活動を大切にしています。

あえて都会から持続可能をめざす世田谷みんなのエネルギーは「都会でこそ、シェアを」をキーワードに様々な自治体と共に活動の幅を広げていったのです。

超過密地域だからこそ、エネルギーをつくる、減らす、その当事者を増やす。

世田谷の様々な団体や行政と連帯をとりながら、今や「世田谷の自然エネルギー電気部」の異名を持つほど、周知されるようになった「世田谷みんなのエネルギー」。世田谷で開催するお祭りで舞台の電力を自前のオフグリッド電力で賄ったりとその活動の幅は今も拡大中です。

そんな「周知される」から、次の一歩に踏み出した活動、それが市民協同発電所の開所・運営でした。

市民出資の電力を公共の場や声のかかる場所に市民の出資や寄付でソーラーパネルを設置し、そこから得た売電の収益で、出資者に還元していく。

また、田畑を耕し、そこにあるものを生かし実践する持続可能な暮らしや、大きな電力会社から離れ、エネルギーを自分たちで生み出し消費するオフグリッドというキーワードではあまり類をみない、「オングリッド」という方式を取りながら、持続可能社会を都会から目指しています。

そこには、どんな意味があるのでしょうか。
 
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オフグリッドのソーラーシステムはイベント時の電源として積極的に地域に貸し出すのだとか

持続可能社会となると、まずは環境問題の解決、自然のエネルギーや自分でつくったエネルギー、作物で暮らしていく、ここにあるもので暮らしていく。そんなイメージかと思うんです。

でも、都会には畑どころか、ビルばかり。さらに、経済的な持続可能と環境的な持続可能がうまくかみ合わないのも事実。そこを、まず噛み合わせることが大事だと思いました。

超過密地域、人口過多な世田谷という地区では、”自給”という行為自体が難しい。そんなエリアから持続可能な暮らしを実践するために、“今”できること、それは、当事者を増やすことだと浅輪さんはいいます。
 
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30名ほどから始まった活動は今では100人を超えるほどに

都会で自給自足って難しいじゃないですか。

都会の暮らしにはそれなりのお金は必要です。出資して、市民発電所の設立に参加してもお金が戻ってくる。なんだか解りやすくて参加しやすい。まずは、入口にたってもらうことが大切だと思っています。

それに、出資した人は一気に当事者になるわけです。これまで人任せにしていたエネルギーのことを人任せにしない、エネルギーつくりの当事者になる。当事者意識があるのとないのとでは、全く暮らしも変わってくると思うんです。

さらに都会ならではのおもしろい発想もあるのだとか。

こんなに過密に暮らしがある東京で、一番あるのは「屋根」なんです。そして、そこに電気を送る送電線。そこを使わない手はないと思うんです。

せっかくつくった自然エネルギーをご近所にシェアできる、それを可能にするのが電線の存在だとか。

電気の性質として、その建物から近いところで発電したエネルギーが実は家庭やビルに最初に流れているんです。自然エネルギー市民発電所が増えれば、たとえ出資していなくても、知らず知らず、ご近所さんの家庭に私たちのつくった実際の電気をおすそ分けできる。

都会で電線も家も密集しているからこそ、電線をつかってシェアできるのはおもしろいですよね。電力会社がつくってくれた電線を使って自然エネルギーがどんどん湧いてくるようなイメージです。

”自分たちでやる、だけではなく、シェアする、広める。”

そんな想いからはじまった都会で持続可能な暮らしへの挑戦は、これからもじわじわと広まっていくことでしょう。

オングリッドかオフグリッドではなく、その場所でシェアできるものを探る未来。

東京、下北沢という土地、世田谷という超人口過密地で都会ならではの持続可能な暮らしをシェアする。まだまだ、課題は多いといいますが、世田谷みんなのエネルギーは一歩一歩、前へ進んでいます。

人間が動く瞬間って、わくわくすることなんですよね。

都会で暮らしてると頼るしかないことが多いんです。なにかしたくても頼らざるえないシステムの中で暮らしてる。だから、できるだけ、頼りすぎない暮らしのヒントを広めたい。

お金があればすぐ買える、それは、当事者意識がとても薄い暮らしです。でも、当事者になったら、一気にわくわくするんです。そんなわくわくをこれからもつくっていきたいと思っています。

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身の回りのエネルギーを楽しく知るから始まる省エネ・ 創エネを目指して

自分たちの暮らしをつくる、どうしたら良いか考える。そこには現状に“反対する”から工夫して想像して、“自分たちでつくる”というメッセージもあるような気がします。

世田谷という超過密地区で持続可能な暮らしが実践できれば、他の地域でもなにかできる。そんな想いから始まった「世田谷みんなのエネルギー」。

都会か田舎か、オングリッドなのかオフグリッドなのか。そうではなく、それぞれ、住んでいる地域にあったやり方で、持続可能な暮らしを実践していく。そこにはわくわくする未来があるように思います。

ちょっと気になった方は、まず世田谷みんなのエネルギーのワークショップに参加してみませんか?