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郊外が輝けるかどうかは、まちの磨き方次第! Open A・馬場正尊さんと国交省・村上真祥さんの「あしたの郊外」談義

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特集「あしたの郊外」は、茨城県取手市で行われている「取手アートプロジェクト」との共同企画です。アーティストによる自由な「暮らし方の提案」を元に、郊外の可能性を探っていきます。

最近、シャッターが降りたままのビルを見て、寂しさを感じたことはありますか? 人口の減少に伴い、借り手が見つからない古い物件は増え続けています。郊外の空き家もその一つです。

取手アートプロジェクト(以下、TAP)」では、「取手アート不動産」と「あしたの郊外」というプロジェクトを通じて、アートの力で郊外に増え続ける空き家対策に取り組んできました。

このプロジェクトは、国土交通省による「住宅団地型既存住宅流通促進モデル事業」の採択を受けて始まったものです。3年間の助成期間を終えた今、はたして郊外に希望を見出すことはできたのでしょうか。TAPのアドバイザーであるOpen Aの馬場正尊さんと国交省の村上真祥さんに、TAPの挑戦と成果について語っていただきました。

何よりも大切なのは、あとに続く成果

まずはTAPが国交省の住宅団地型既存住宅流通促進モデル事業に申請したきっかけと、お二人の出会いを振り返ります。
 
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Open A馬場さん(写真右)と国交省 村上さん

馬場さん 最初に国交省とプロジェクトを始めるに至った経緯からお話ししますね。

ぼく自身は、Open Aという設計事務所で、都心の古いビルに新しいデザインや工夫、使い方をつくって再生する活動をしてきました。その中で「東京R不動産」というメディアも生まれて、都心部でのリノベーションカルチャーを育てていくことができてきました。

そんなときにTAPから誘いを受けて、一緒に取手市のアートプロジェクトに取り組むことになりました。とはいえ、ぼくは空き家のリノベーションをしてきたので、自ずと関心が取手市の空き家、郊外の空き家をどうするかということに結びついていきました。

何か始めたいねとTAPで話している、ちょうどそのときに国土交通省の新しい助成の枠組みを知ることになったんです。

郊外の空き家問題は年金問題に匹敵するくらい巨大な社会問題。だから対処療法的な取り組みだけでなく、めちゃくちゃ格好良く郊外が変わる少しぶっ飛んだソリューションがあってもいいんじゃないか。

そういう気持ちで申し込んだことをきっかけに、採択してもらえて、TAPで「取手アート不動産」や「あしたの郊外」をスタートさせることになりました。
 
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取手市の物件とアーティストのアイデアを提供・販売するウェブサイト「取手アート不動産」

村上さん この団地のモデル事業自体は3年間の実施だったんですけど、わたしは2年目から引き継ぎました。採択されていた主体の多くは、電鉄系の不動産部門や行政の公社といった堅い団体だったんです。

そんな中、TAPさんのようにアート活動をしている団体の名前を見て「これはなんだろう」と思ったことを今でも覚えています。

ふつうはもうちょっと小難しい要件がつくんですけど、このモデル事業自体は、そんなアート活動も受け入れることができるほど大きい包容力を持った取り組みでした。

空き家が増えているから、住宅をきちんとインスペクション(検査)した上で、売ったり買ったりして空き家になるのを防ぎましょう、と。ただそれだけが目的。「あとは自由にやってくださいよ」という感じだったので、TAPさんにも自由にやっていただていたんです。

ちなみに馬場さんと初めてお会いしたのは、採択中に1度ご相談に見えた際でしたよね?
 
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カルチャーやアカデミックな視点から郊外を考える「あしたの郊外」

馬場さん そうですね。あのときは何で評価されているのか不安で伺ったんですよ。ぼくらには何戸インスペクションして、何戸リフォームして、何軒借り手がついてという数字はなかったから。

ぼくらの最大の強みは、郊外の空き物件を再発掘して、それを流動化させるメディアを持っていることでした。

「取手アート不動産」で発掘してきた空き家とアーティストの発想を掛け合わせる。「あしたの郊外」でアカデミックなところから郊外を再考する。楽しい「取手アート不動産」と真面目な「あしたの郊外」を並走させていく。そんなメディアを持つことが評価につながるのか、村上さんに聞きたかったんです。

村上さん そのときに、「結果はあとからついてくればいい」という話をしましたよね。仮に3年間ゼロだったとしても、そのあと結果が出てくるんだったら仕事としては成功だと思うんですよ。

「減量住宅」が見せた「引き算のリノベーション」

モデル事業が実施された3年間だけでなく、助成後の可能性が評価されたTAP。話は、その「可能性」に移っていきます。
 
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村上さん 確か、馬場さんが相談にきたときでしたよね、「減量住宅」の話を聞いたのは。あれはすごく面白い。ちょうどわたしも近藤麻理恵さんの本『人生がときめく片づけの魔法』を読んでいたんですよ。

「減量住宅」は、片付けているんです。しかも1年間住んで、住んでいる人がすっきりさせていく「引き算のリノベーション」ですよね。

馬場さん 「減量住宅」は、アーティストが建物に住みながら建物を消滅させていく。恐ろしい提案でした。これを飲むオーナーがいるわけないと思ったんです。でも「取手アート不動産」に出したら、あるオーナーさんが「いいわね!」と喜んでくれました。

空き家のままにしていると勝手に使われたり、いけない人が住み始めたり、火事の危険もある。オーナーさんはそういうことで周りの人に迷惑をかけちゃいけないと思っていらっしゃることが浮き彫りになりました。
 
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郊外の風景になりつつある空家に住み、その住人が解体をしながら生活をしていく。空き家の見え方や価値を再編するプロジェクト「減量住宅」

村上さん 綺麗にするにしても、特に家財道具の整理は大変で、そこまでやってくれて、しかも「減量住宅」のように引き算までしてくれて次の持ち主に引き継げるサービスがあれば、なおいいですよね。

馬場さん 家族で片付けはじめると、「こりゃ捨てられん」「片付けようよ!」みたいに親子喧嘩にもなるらしいです。かといって、どこかの業者に片付けられるのも切ない。

だったら、アーティストが思い出を聞きながら、その行為自体を作品に見立てて片付けてあげるサービスが出てきてもいい。そういう可能性が浮かび上がったのも、意外な発見でした。

村上さん 例えば写真を撮れる方が1年住みますよと。出てきた思い出の写真は複写をします。おじいちゃんの服は綺麗に写真を撮ってあげて、おばあちゃんの思い出に。

記録していって「もういいね」ということで次の持ち主さんに引き継ぐ。引き算しきって、すっきりしたところで家族と家の写真を1枚撮って「この家とはお別れだよね」とバイバイする。まさに供養ですよね。

馬場さん すっきりする感じって重要ですね。すっきりさせる方法や整理のつけ方は、どうしても感情的なものすぎて、ビジネスや方法論にしにくい。だからこそ、アートやアーティストが少し面白く振る。

マイナスのリノベーション、引いていくリノベーションというのは、本当に示唆的ですよね。

五十にして天命を知る「郊外くん」

リノベーションには、新たな価値を再定義する足し算だけでなく、まちの人にとってちょうどいい価値になるよう整理する引き算もあることがわかりました。続いて、二人が見てきた郊外の変遷を振り返ります。浮かび上がってきたのは、これからの人生を模索する「郊外くん」の姿でした。
 
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馬場さん ところで、村上さんはどこ育ちですか?

村上さん わたしはですね。親が転勤族だったので、社宅が多かったんですよ。社宅は世田谷区や目黒区にありました。今でいうと高級住宅地ですけど、当時は畑もある田舎だったんです。

小学校の遠足にはたまプラーザにも行ったんですよ。まだ造成地で雑木林が残っていました。わたしは昭和43年生まれですから、ちょうど田園都市線が伸びていって、多摩ニュータウンができていくのを見て育ちました。

社宅は、いわゆる団地みたいにコンクリート。鉄の扉をガチャンと閉めて、階段をくるくる降りていく。だからコンクリートの団地にも、まったく違和感なく育ってきました。

馬場さん 気持ち悪いぐらいに似ていますね。まずね、年齢が一緒でした。そして親父が転勤族で、ぼくも社宅に住んでいました。違うのは東京じゃなくて西九州だったんですよ。

いわゆる団地や団地の横の一軒家を転々として、住んでいるエリアのそばが造成地になっていて、土地が切り開かれていって、郊外が広がる風景を見ながら育ちました。

ぼくらは同じように郊外が生まれる瞬間を見ていたんですね。
 
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村上さん 自分自身と郊外も似ているように感じますよね。若い頃にモリモリ食べて、どんどん仕事して、遊びに行って、でもそういうこともだんだんいらなくなって、断捨離の本を読みたくなる。それは郊外が広がって縮んできたのと近い気がします。

馬場さん いろんなものを整理して、諦めることは諦めてっていうモードになっていかなきゃいけないなって、人間としては思っている。それは郊外にも投影できるのか。

本当はまだいけると思っていても、成長は終わり。50代っていうと、年を取って体力もなくなり、人生の先もちょっとずつ見えてくる。諦めることは諦めるけど、それはそれで別に心地悪いわけじゃない。

自分のやれることが絞られてきて、落ち着いてそれをやろうという気分になっていく。たぶん今の日本の郊外もきっとそうなんでしょうね。

村上さん どう老いていくのかをわかっていない「郊外くん」がいるような気がしますね。だから、いろいろ模索をしているところなのかもなぁ、彼も。

馬場さん 彼も(笑)そう考えると、郊外って昔からあった概念ではありませんよね。日本においては最近の、ぼくらの年齢と同じぐらいの歴史しかないんだよな。

村上さん 例えば阪急電鉄の小林一三さんが都市開発をして、それをモデルに東急電鉄や各私鉄、JRや民間の開発会社も始めて、URや公共団体にも広がっていった。それで戦後の人口増を乗り切りましたよと。

みんな一緒に高度成長したわけですよね。それで、そのあとどうするっていうことに今はなっているのかなと。
 
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馬場さん もう、個性やキャラクターをはっきり受け入れていかなきゃいけない感じになっている。

村上さん 気が付いたら急に体力落ちたよねとか、人口減っているよねとか、スーパーなくなっちゃったよねとか。

馬場さん 「どうする?」って戸惑い始めている感じですね。一気に老け込む「郊外くん」と、それなりに新しい生き方を発見して受け入れながら次を見ている「郊外くん」がいて、差が出るような気がする。

もう郊外は均質じゃなくなるんだ。

村上さん わたしたちの年代って、ずっとマスであり続けてきたんですよ。一学年は8クラスで1クラス50人いますっていうのが当たり前。だから最初は均質だった。でもこの年齢になって均質じゃなくなってきた。

馬場さんがおっしゃるように別の輝き方をすることもできる。磨き方次第ということになりますよね。

馬場さん 都市の周期は100年ぐらい。人間も80何歳までが平均寿命。まだ折り返しをちょっと過ぎたくらいだから、老け込んで終わりを見ているばっかりではダメですよね。

住むことから解放される郊外の未来

同級生の二人は郊外の50年を自身の人生と重ねて、現在の郊外は個性を生かすタイミングにあると捉えました。最後に、未来の郊外、あしたの郊外を見据えます。
 
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馬場さん 以前、『「新しい郊外」の家』という本を書いたんですね。房総半島の海辺に家を建てて、二拠点生活を始めた話なんですが、ベッドタウンとしての郊外ではなくて積極的に目的をもって住む郊外を書いたんです。

TAPの場合も、郊外の硬直した状態をアートでゆさぶって、そこからいろんな住まい方を発見しています。例えば、産婦人科が入っていた空き家のモデルがあるよね。

中嶋希実さん(TAP「取手アート不動産」「あしたの郊外」担当) そこは結果として、カフェのオーナーになった女性が大の音楽好きで、音楽イベントをやってみたかったという夢を昇華する場所になりました。

毎月イベントが開かれていて、元SUPERCARのメンバーが演奏するような場所になっています。それを見るために、わざわざ北海道からくる人もいるんですよ。
 

「Ateler ju-tou」オープニングパーティの様子

村上さん 取手に北海道から人がくるようなイベントなんて、すごいですね。

中嶋さん もう一つ紹介しますと、取手に農地エリアがあるのですが、巨大な家が建っているんですね。そこは、農家カフェになって、裏に夫婦が住み、背の高い納屋にボルダリングの施設までつくることになりました。

TAPはアドバイス程度で関わっただけですが、田んぼのど真ん中にそれができるんです。

村上さん いいですね。以前、取手で拝借景という、アーティストが住みながら展示をしているような家を見学しました。その時に隣家の奥さんから「一緒に見ていいかしら?」って聞かれたんですよ。ぼくらも見学していたので、どうぞってオススメしたら「はじめて見るのよねー」って面白そうに見ていてですね。

目をキラキラさせていて、そのときに郊外ってこうじゃなきゃと思いました。「実はやってもいいんですよ」と伝えることが若返りの秘訣なのかもしれませんね。

馬場さん なるほど、「郊外くん」の!

村上さん これもできる、あれもできる、どういう感じの家にしてもいいし、更地にして野菜畑にしてもいい。アーティストさんに好きなようにやってもらってもいいし、それが伝染していくんです。

納屋でボルダリングだって、ふつうは思いつきませんよね。でも、タッパが高いっていうだけでそれを思いつく人がいるんですよ。ボルダリングもありですよと伝えたら、次の人はぜんぜん違うものを思いつくかもしれない。
 
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TAPイベント「Doshiyoミュージックパレード」のワンシーン

馬場さん 納屋のボルダリングや空き家で音楽イベントとかさ、郊外の歴史だ、文脈だと考えていたぼくらを全部ぶっ飛ばして、突拍子もない組み合わせで楽しく使い倒してくれているよね。それが可能性なんだろうな。

郊外って昔は住むシステムに特化したエリアとしてつくられたけど、次の郊外は住むっていう機能に特化せずに、いろんな生活のサイクルとして成り立っていくほうがいい。

住むための郊外とは違う、もっと開かれた郊外が確かに生まれてきていて、これからはその可能性を検証して、見せていきたいですね。
 

(対談ここまで)

 
生活が多様化する中、住むことだけでなくライフスタイルを開拓するエリアになっていける可能性が見えてきた郊外。日本の経済成長をベッドタウンとして支えてきた郊外は、今、また新たなステージで日本に暮らす人々を支えようとしているのかもしれません。

あなたは未来にどんな暮らし方を選びたいですか? 自分のほしいライフスタイルをつくる場所の一つとして、郊外は明日もわたしたちの生活を照らしていくはずです。

(撮影: 関口佳代)