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「この小さなレストランが、私をDVから守ってくれた」 自らの手で自分自身と子どもの未来を切り拓く、ひとりのインドネシア女性の物語

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道端の小さなお店は、ランチタイムには常連客たちでいっぱいに! 彼女のつくるおいしい家庭の味と、気さくな人柄が人気の理由です

インドネシアのジョグジャカルタ市に、地元の人で賑わう小さなレストランがあります。

店主のSugiyanti(以下、ヤンティさん)は、インドネシアではまだ珍しい女性起業家。小さい頃から願っていた「自分のお店を持ちたい」という夢を叶えた彼女ですが、その背景には、過去20年以上にわたり、夫からの家庭内暴力(DV)に苦しみながら、ふたりの子どもを育ててきた経験がありました。

数か月前に離婚し、今ではDVから自由になったヤンティさん。実はそのきっかけをつくったのが、このレストランの経営なのです。彼女はいったいどのようにして辛い生活から抜け出し、自分の店を持つようになったのでしょうか?

自分と同じ経験をさせたくないという強い思い

21年にわたる結婚生活の間、ヤンティさんは日常的な暴言と暴力に苦しめられ、夫の浮気が発覚すると、それらはさらにエスカレートしていきました。

彼女がそんな状況から逃げ出さず、困難な日々を我慢してきたのは、自分の愛する子どもたちのため。

家庭を支えるために、12歳で学校を辞めて働きはじめたヤンティさんは、教育を受けていないことで就職機会が少なく、社会的に弱い立場を経験していたのです。だからこそ子どもたちに、自分と同じ経験をさせたくない。そんな強い思いがありました。

勉強を続けられないことは本当に悲しかったけれど、うちの家族にはそれ以上金銭的な余裕がなかった。自分の子どもたちには、そんな思いは絶対してほしくないんです。

このレストランは、もともと夫婦で5年前に始めたお店でしたが、離婚後にヤンティさんがひとりで切り盛りするように。その経営が軌道に乗ったことで、彼女は経済的な自立を果たし、今では元夫の力に頼らず生活することができるようになりました。

経済的な自立が、女性を暴力から救う

そんな彼女に対して、経営へのアドバイスや金銭的サポートを行うことで応援しているのが、DV被害を減らし女性を守る活動を行うNPO団体「Rifka Annisa」。女性たちに起業の知識やビジネスのノウハウを教え、ローンなど金銭的な問題を抱える女性を支えています。

この団体でカウンセラーをつとめる、Aditya Putra Kurniawanさんは、こう話します。

世界中の女性が虐待的な関係から抜け出すために最も有効な方法は、男性から経済的に自立することです。

経済的な力を持つことは彼女たちに自分で決断する自信を与え、やがて自らの道を切り拓いていけるようになります。

Rifka Annisa people
「Rifka Annisa」では、電話などによる相談窓口やシェルターの運営、ラジオ・テレビ・ソーシャルメディアなどを通した啓蒙活動を行っています。

インドネシアではこの数年でDVの報告件数が劇的に増えており、2010年〜2014年の間にその数は倍増しました。その理由のひとつが、女性たちが暴力に対して声を上げるようになったこと。

2004年にこの国で初めてDVが罪と認められてから、肉体・精神・性的暴力に対して投獄など法的な処罰が行われるようになり、被害を訴える女性が急増したといいます。この流れを受け、今年の9月、政府が女性への暴力に対する初の全国調査を行うことも決定しました。

未だ特に田舎の地方などでは、DVのような虐待を「犯罪」ではなく「家族の問題」と捉える傾向が強いようですが、ヤンティさんのように理不尽な暴力と戦う女性が現れることにより、都市部を中心に少しずつ変化が起きているそうです。

まだまだ「男性中心」ともいえるインドネシアの社会の中で、小さな下宿に住みながら、他に人を雇うこともなく、今日もたったひとりでひたむきに働くヤンティさん。そのモチベーションは、どこにあるのでしょうか?

日々の暮らしに疲れ果ててしまう時はいつも、子どもたちのことを思います。そして、あの子たちの人生が私のような辛いものにならないように祈ります。

彼らがより良い未来を手に入れるために、今の私にできることをしたいんです。

with customers
自分の仕事に誇りを持ち、お客さんとのつながりを大切にするヤンティさん。店に通う常連客はみな、自立して生きる彼女の姿勢を尊敬していると話します。

子どもたちの存在や周囲の人に支えられながら、困難な状況に負けず、自分の力で前を向いて生きているヤンティさんの姿に、同じ二児の母である私は深い感銘を受けました。

貧困・教育・男女差別・社会的慣習など、複雑に絡まった様々な要因が背景にあるDVは、もしかすると、身近なところにも潜んでいるかもしれない問題。

まずは今、世界の女性にどんなことが起きているか知ることからはじめてみませんか?

[via YES! Magazine, Rifka Annisa]
(Text: 佐々木はる菜)