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おいしい料理とおいしい時間を味わえる場を。 地域とつながる食卓「都電テーブル」が、クラウドファンディングを通して気づいたこと

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東京・東池袋。ここには、忙しい街中をゆっくり走り抜ける都電荒川線の向原駅があります。その向原駅から歩いて5分ほどのところにあるのが、「まちのもう一つの食卓」を目指す「都電テーブル」です。

「あえて飲食店だと分かりづらい店名にしました」と話すのは、都電テーブルの企画・運営を担う「都電家守舎」の代表の青木純さん。青木さんはこちらの記事でも紹介したカスタマイズ賃貸を提案する「メゾン青樹」の代表でもあり、「都電テーブル」は「メゾン青樹」が運営する賃貸共同住宅「ロイヤルアネックス」の2階にあるのです。

もともと事務所が入っていたスペースが空くことになり、試行錯誤の結果、2015年4月に飲食店としてプレオープン。完成したものを差し出すのではなく、お客さんといっしょにお店をつくっていこうと、6月にはクラウドファンディングに挑戦しました。

飲食店は、一番身近なパブリックスペースだと思っています。誰でも来られるし、おいしいものを食べたいとかお腹が空いたとか、理由もシンプル。そんな風に地域の人が集まれる場所にしたいと思って、「都電テーブル」を始めました。

そう話す青木さんに、クラウドファンディングを通して見えてきたお店づくりについて伺いました。
 
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お話を伺った青木純さん

飲食店は、誰もが過ごせるパプリックスペース

お昼時には、近くで働く人たちで賑わう「都電テーブル」。ランチタイムは11時から17時まで営業しているため、昼食を食べそびれた人が夕方に来ることも多いのだとか。

お味噌汁を一杯飲んだ後にフーっと一息ついたり、野菜をシャキッと食べたときにフッと笑顔になったり、そういう瞬間を目にすると、「この地域に必要とされているんだなぁ」と感じます。

一番のポイントは、早稲田にあるお店「こだわり商店」を通して、全国の生産者から食材を直接仕入れ、添加物を使わず、体にやさしい料理を提供していること。お昼はアジフライや竜田揚げの定食を、夜もお酒とていねいにつくられたおつまみを楽しめます。
 
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ランチの定食はボリュームも満点。

プレオープン中には、スタッフたちが生産者の農園を訪問。そこで見聞きした情報は、ブックにまとめて店内で読めるようになっています。
 
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生産者の農園を訪問した様子。

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「都電テーブル」で使用している食材の生産者さんを紹介するブック。

今年6月には広島県のレモン農家さんに塩レモンづくりを学ぶワークショップを開催したり、7月にも千葉県で野菜を自然栽培する農家さんを呼んでトークイベントをしたりと、生産者とお客さんが互いに顔の見える場をつくっています。

こうしたイベントは地域の人たちにも広げ、9月に開かれた「お母さんのためのお野菜講座」では、野菜嫌いの子どもにおいしく野菜を食べてもらうヒントを紹介。講師には、野菜ソムリエで2人のお母さんでもある岩本香さんを迎えました。

特に、子ども連れのお母さんに来てもらいたいと思っていました。お母さんって一番食事に気を使うでしょ。栄養があって、安心して食べられるものをつくりたい。でも、それを毎日続けるのは大変。今は共働きのお母さんも増えているし、外食でも家のような “ちゃんとごはん”が食べられるようにしたいと。

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岩本香さん(中央)による「お母さんのためのお野菜講座」。

実際に、「都電テーブル」には親子のお客さんも多いそう。店内の奥には小上がりの席もあり、小さなお子さん連れの方に人気です。

小上がりは広いから、相席して使っていただくこともあります。そうすると、例えば子どもが2人いて、一人をお手洗いに連れていくときにもう一人の子を「見ておきましょうか?」って隣のお客さんが声を掛けることもあって。そうやってお客さん同士が仲良くなれるのはうれしいですね。

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店内奥にある小上がりの席には絵本やおもちゃもある。

「目指すのは、地域のお母さんたちが働ける場所」と青木さん。

お母さんたちが働きやすい環境をつくることは、暮らしやすい街をつくることにつながる。このマンションにも子どもを持つ住人さんが増えてきたので、彼らが暮らしやすい環境をつくっていきたいと思っています。

それには働ける場が必要。育児に合わせて、例えば幼稚園のお迎えの前後とか、ちょっと空いた時間だけでもこのお店で活躍してもらえたらと思っています。

飲食店のオープンの、新しいかたち

2015年4月にプレオープンし、すでに地域の忙しい働く人たちやお母さんたちを支える場になっている都電テーブルですが、どうしてグランドオープンまでの4ヶ月もの間、“プレ”と表現していたのでしょうか?

飲食業界のオープンの仕方を、ちがう形で捉えたいと都電家守舎のパートナーたちと考えたんです。メニューやオペレーション、内外工事も全部終えてからオープン! というのは、それも素晴らしいけど、ちょっと苦しいかな、と。

お客さんが食べたいものと、お店が用意したメニューが必ずしもイコールではないし、看板の位置も、お客さんがどこを見て来るか、どこに設置したらいいか分からないし、始めてみないと分からないことも多い。

だからお客さんの反応を見て、「この店が求められていることはこれだろう」と決めていきたいと思いました。

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店内の黒板にはその日のメニューが。

メニューも、例えば唐揚げを出していたのが、ヘルシー志向のお客さんが多いと分かれば蒸し鶏にしてみるなど、素材は変えずに調理を工夫し、どの素材をメインにしていくか決めていったそう。今も、スタッフの皆さんがお客さんを見て常に改善していると言います。

視覚や匂い、物語も含めて、よりおいしく味わうという体験を届けたい。それは、オープンしてからでないと分からないこともたくさんあります。

クラウドファンディングに挑戦!

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試行錯誤を重ねたプレオープンから3か月弱、常連のお客さんも徐々に増える一方で、建物の2階にあるため場所がわかりにくかったり、もっと地域の人にお店を知ってほしい、という課題もありました。

そこで看板の設置などの店内の改良やWEBサイトのリニューアルのため、2015年6月に「MotionGallery」でのクラウドファンディングに挑戦。最終的に目標金額の200万円を超える255万円が203人から集めることができました。
 
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クラウドファンディングによって設置された看板(一部)。

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クラウドファンディングによって店内に棚も設置された。

一般的に、クラウドファンディングでは開店資金を募るケースが多いため、資金が集まりにくいかもしれない、という不安があったそうですが、青木さんは「今思えば、プレオープンしてから始めてよかった」と振り返ります。

出資してくれる人というよりも、僕たちのお店に賛同してくれる人がほしいと思っていたんです。共感してもらえれば出資してくれるだろうし、それにはお店に来てくれたという体験が大切ですから。

調達に成功することはもちろん、長くファンになってもらいたいという思いから、リターンもこだわりました。それは、仕入先の生産者さんのミニトマト、きゅうり、さつまいも、小松菜、水菜、オクラ、ナス、さつまいも、じゃがいも、甘長とうがらしなどの色鮮やかな旬の「こだわり野菜つめあわせ便」。

コレクターには遠方に住んでいる人も多く、なかなかお店に来られない人のためにイラスト付きのレシピとともに送り、家で「都電テーブル」の味を楽しめるようにしています。金額によっては年に4回届けているとか。
 
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コレクターにお礼として送った「こだわり野菜つめあわせ便」。

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野菜にはお手紙も添えて。

コレクターのなかには、青木さんが知らない名前もたくさんあったそうです。それは、青木さんが期待していた通り、お店に来たことのある人でした。

お子さん連れで来てくださったことのある方なんですが、「料理もおいしかったけど、それ以上に接客がよくて時間がおいしかった。それで応援したい」と。ここでの体験を味わって、その幸せな気持ちを次につなげてくれたのは、本当にうれしいことです。

飲食店の一番の価値は、まずおいしい料理を提供すること。それと同じくらい、あるいは結果としてそれ以上に大きいのは、ここに来た時間がおいしいことだと思っています。

料理だけではなくて、スタッフとの会話とかちょっとしたことで、まずくもなるしおいしくもなる。接客はスパイスになるんです。そこを大切にしてほしいとスタッフに伝えているのですが、クラウドファンディングではそうしたスタッフの動きをコメントしてくれた人もいました。

また、コレクターのコメント欄には、こんな言葉も。

息子を連れて行ったとき、奥の座敷を見るや「ここ座る!」とまっしぐら。前歯が抜けているにもかかわらず、鳥の唐揚げに笑顔でかぶりつき。こどもの笑顔を引き出す、まちの食卓「都電テーブル」を応援しています。

この方は、前歯が抜けて落ち込んでいた息子さんを「都電テーブル」に連れて行ったお父さん。家では泣いてごはんも食べなかった息子さんが、小上がりの席を気に入り、ごはんも全て平らげて、都電に乗って笑顔で帰るとお母さんがとても驚いたそうです。

クラウドファンディングがきっかけで知ることができた、さまざまなストーリー。そういう普段は見えない本当の価値を、クラウドファンディングは可視化してくれるのかもしれません。そしてその思いは、スタッフにも伝わっています。

ここのスタッフは、単に飲食店に働きに来ているという人はいません。街とのつながりと持ちたい人や、食卓から暮らしの質を変えていきたい人が集まっています。

クラウドファンディングで受けたスタッフへの好感コメントはミーティングで共有していて、期待されていないお店で働くよりは、この地域で必要だと思われているお店で働くほうが気持ちがいいし、この店をもっとよくしたいというつくり手の気持ちにもなれます。

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2015年7月に、生産者さんらをゲストに招いて開催したイベント。

お店での居心地のよさを体験した人が共感し、その輪を広げていく。そんな風に「都電テーブル」のクラウドファンディングは、共感者がどんどん増えていきました。それは、青木さん自身がこの地で育ち、暮らしてきたからこそ、地域への思いが人一倍あったからかもしれません。

その中心にあるように見える「都電テーブル」は本当に居心地がよく、またお客さんもいっしょにつくるというほどよい余白があるので、それぞれ関わりたいように関わることができるのも魅力だと思います。

山手線の大塚駅も最寄りですが、できれば都電でゆっくりと、訪れてみてはいかがでしょう。