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近い将来、NPOの“業界再編”も!? 20周年を迎える「大阪NPOセンター」事務局長・堀野亘求さんに聞く、NPOの現在地

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地震や噴火、台風といった自然現象は、悲しい出来事をもたらすとともに、新たな社会の胎動を生み出すことがあります。

日本の市民活動においては、1995年の阪神・淡路大震災がひとつのターニングポイントでした。そこで初めてボランティアを経験した人たちが、自分たちに秘められた“市民の力”に気付き、次のステージへと歩んでいったのです。

今回ご紹介する「大阪NPOセンター」も、震災直後に誕生した市民団体のひとつ。過去20年にわたり、団体の設立や運営、ブランディングから人材育成まで、多様な悩みを抱える関西のソーシャルビジネスの担い手を支援してきました。

特に、1997年にスタートした活動実績を表彰する「CB・CSOアワード」や、2008年にスタートした「ソーシャルビジネスプランコンペ」からは、NPO法人スマイルスタイルの塩山諒さんなど、多くの社会起業家を輩出しています。

来年には設立20年目を迎える老舗NPOとして、この20年の社会の変化をどのように眺めてきたのか。そして、どんな将来像を描いているのか。今回は事務局長の堀野亘求さんにお話を伺いました。お相手はgreenz.jpシニアエディターのYOSHが務めます。
 
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堀野亘求(ほりの・のぶひで)
大阪市立大学大学院経営学前期博士課程修了 社員研修を行う企業で法人営業、研修コーディネーターとして勤務。その後、ひらかたNPOセンターを運営する(特活)ひらかた市民活動支援センターのコンサルタントとして2003年より勤務。2005年事務局長代理、2006年事務局長代行を経て、2008年より(特活)大阪NPOセンターの事務局として勤務。2010年事務局次長、2014年事務局長代行を経て、2015年に事務局長就任。同年、(特活)関西国際交流団体協議会の事務局長兼務。NPOの設立・運営の支援や近畿圏内におけるソーシャルビジネス支援のための「近畿ソーシャルビジネス・ネットワーキング」の事務局も務める。

関西ならではのソーシャルデザインとは

YOSH 今日はよろしくおねがいします。大阪NPOセンターは、来年で設立20年なんですね。

堀野さん 阪神・淡路大震災直後の1996年に、青年会議所を母体として設立され、NPO法が成立した1998年に、大阪府で最初にNPO法人化しました。当時はまだNPOというと、「戦場に行くのか?」とか「行政の職員ですよね」とか、随分と誤解がありましたね。

YOSH そう考えると、この20年で市民活動のあり方は大きく変わりましたよね。greenz.jp編集長の鈴木菜央もそうですが、1995年の阪神・淡路大震災で初めてボランティア活動をした方もたくさんいると思います。「ソーシャルデザイン」のひとつのルーツが、関西にあるというか。

堀野さん 特に大阪は社会課題のるつぼなんですよ。いろんな人や物が行き交う商人の街であり、雪も降らずインフラが整備されているので住み良い。人を受け入れる温かい土壌もある。

そうやって多様な人たちが集まり暮らしてきたので、課題が生まれてはそれを自分たちで解決してきたんですね。まちづくりにおいても、心斎橋や淀屋橋など、この辺りの歴史遺産は町人が建ててきた。

もっと遡ると、四天王寺が原点だと思っていて。そこは聖徳太子が「四箇院の制」という、貧しい人たちや病人を救うための社会福祉事業を行った場所なんです。社会的な活動の原点が、1300年以上前から関西にはあるんですよね。

YOSH なるほど。スケールが大きいですね。
 
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四天王寺の伽藍(Wikipediaより

堀野さん その流れから、例えば助け合いの金融機関である労金や全労済の仕組みが、関西から生まれてきました。そういう歴史があるので、「営利は東京で、非営利は関西で」みたいに、明確に役割分担をしても面白いかもしれませんね(笑)

証券取引所でも、短期の株は東京、長期の株は大阪にして、長期的な目線で株主と一緒に事業を育てていくとか。

YOSH 日本経済のバランスをとる関西、とても面白いですね。大阪NPOセンターにくる相談も、そういうテーマが多いですか?

堀野さん そうですね。やはり多いのは、お金の稼ぎ方やマネジメントに関することです。「無償でやることに意味がある」とか「気合でやる」とか、そういう気持ちもわかりますが、「ずっと続いていく」という視点では、なかなか難しい局面もありますから。

大切にしたい「想い」こそ、誰かが受け継いでいかなくてはいけないし、広げていかなければいけない。だからこそ、「組織」というツールが必要になってきます。

YOSH その辺り、グリーンズにも心当たりがありますが、始めたばかりの頃は気づきにくいことでもありますね…

堀野さん 最近でいうと、最初から「組織ありき」で考える人も増えてきていますね。特に若い世代から、「どういう組織を作れば、こういう社会課題を解決できますか?」と、具体的に質問してくる方もいます。

それは社会の成熟なので、よい傾向とも言えますし、一方で、それだけ社会課題を身近に感じる機会が増えてきたという証でもあるかなと。私たちの究極の目標は、必要とされなくなるくらい、知恵やノウハウが浸透していくこと。ただ、今のところは出番がますます増えているという感じですね。
 
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2006年に発行された「10年史」

NPOはもっと危機感を持ったほうがいい

堀野さん いまはNPOへの変な誤解はなくなって、プラスのイメージで受け入れられてきました。それと同時に、企業や大学などNPO以外のセクターも、社会的課題に取り組みはじめています。そうしたときにNPOの存在意義とはなんなのか、改めて問うべき時期にあるのかもしれません。

YOSH もっと危機感を持った方がいい、と。

堀野さん はい。例えば「マーケティングはいらない」という考えをお持ちの方もいます。でも、本当に根本的な解決を目指すのだとしたら、関心のない人をも巻き込み、社会全体で解決策を考えていったほうがいいでしょう。

そう考えると、NPOの方々は企業の持つしたたかさをもっと勉強した方がいいですね。反対に企業の方も、NPOの持つ「思い」を学ぶ機会にもなるでしょうし。

YOSH つまりは「何を目指すのか」を振り返る、ということかもしれませんね。場合によっては、そこまでゴリゴリする必要はない、という場合もあるでしょうし。

堀野さん そうですね。だからこそ私たちの仕事の基本は、じっくりと聴くことだと思っています。ここには常に、新聞やテレビなどではまだ取り上げられていない、最新の社会課題が持ち込まれてくる。だからこそ、妙な思い込みをせず、白紙でいることを心がけています。

YOSH 最近はどんな課題に注目していますか?
 
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堀野さん ほんの一例ですが、特定の色が見えない「色覚障害」について、啓発活動を行っているNPOから相談がありました。

かつては小学校で検査をしていたのですが、今はなくなっていて、大人になるまで障害に気づかない人も多いんですね。軽度から重度まで含めると、男性では20人にひとりとも言われています。そうすると、就職時の健康診断で初めて判明し、パイロットや運転手の内定が取り消されるといったケースが相次いだり。

こういった声を受けて文部科学省は、2016年度からの色覚障害検査の再開を決定したんです。ただし、現場では十数年ぶりの再開なので、やり方がわからないという先生もたくさんいる。あるいは、判定を受けた子どもが、変な誤解からいじめられるかもしれないという懸念もある。

YOSH ただ再開すればいいというわけではないんですね。いろんなことが付随的に起こりうる、と。

堀野さん 私自身「そんなこともあるのか」と、いつも勉強させていただいている感じです。

例えば、色覚障害の人にとっては信号のLEDは見えにくいそうなんです。環境に優しいLEDが普及すればするほど、ある人たちには住みにくい社会になっている。そういうトレードオフは、気付かないところでたくさんあって。

ただ、技術も進化してきているので、今までにない新たな解決方法もありえます。色覚障害でいうと、既に補正レンズが開発されました。そのメガネを掛けて「生まれて初めて、桜のピンク色が見えた」というお子さんを見て、あるお母さんは号泣して喜んでいました。

YOSH 素晴らしいエピソードですね。

堀野さん このように、NPOだけでなく、先端的な研究を行っている大学や企業からも、大阪NPOセンターにはたくさん相談がきます。そこで、さまざまな人たちをマッチングしていくのが、私たちの大切な役割なんです。

将来ビジネスになりそうなアイデアが行き交っているので、感度の高い経営者の方ほど、「ここに来ると楽しい」とおっしゃっていただいています。

お金を儲けるということ

YOSH ビジネスの話で言うと、グリーンズもNPO法人ですが、NPOとしてどうお金を稼いでいくのか、誰もが悩むテーマだと思うんです。そういう質問に、堀野さんはどのように答えていますか?
  
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堀野さん 禅問答みたいで恐縮ですが、最初から儲けようと思わないことですね(笑) そういう思惑って、困っている人や地域の人は敏感に感じ取るんです。

それよりも「社会をよくしよう」と活動していくと、いい出会いが広がっていくので、そのことに意味を見出した方がいい。そうするとビジネスモデルさえしっかりしていれば、企図せずとも仕事が舞い込んで、結果的に儲かるのではないでしょうか。

YOSH 確かに、greenz.jpのライターさんにも、そうやって仕事の幅を広げている方は多いですね。

堀野さん 仕事って、「この人のために役に立ちたい」という思いが原点にありますよね。お金儲けの世界は、切った張ったもありますが、NPOに関わるとピュアな自分に戻れるんだと思います。そうして純粋な思いを確認した同士で生み出されるビジネスは、とても健やかですよね。

ただ、本当にインパクトを出すことをゴールとするなら、最低でも10億円の売上を出さないと、社会的には認められないと思います。大阪NPOセンターの周りでも創業5〜10年で売上1億円という企業が数社ありますが、その次のステップを作っていきたいという思いはあります。

YOSH うーん。すべての人が、そこを目指すべきなのでしょうか?

堀野さん もちろん、そんなことはないですよ。高い山を登ってしか見えない景色を見たいかどうか、自分の気持ち一つですね。もっと高い山に登りたかったら、装備から何から変わらなければいけない。大阪の天保山(標高4m)を登るのと、チョモランマを登るのでは全くわけが違いますから(笑)

YOSH 希望として、あるいは社会が成熟してきたひとつの現実として、そういう成功者が出て来たほうが健全だというのは、よくわかります。今の段階で、この人はいけそうだなと感じる方っていらっしゃいますか?

堀野さん 何人かいらっしゃいますが、「八百鮮」の市原敬久さんはそのひとりですね。

もともと障害者支援をやりたかったけれど、お金がいる。そこで八百屋という既存のビジネスモデルを徹底的に作り込んで、収益を上げて障害者の人を雇用しているます。創業して6年ですが、大阪に3店舗、名古屋に1店舗と広がり、とても繁盛してますよ。

ちなみに、市原さんはスーパーで野菜売りの経験を積んでいたようですが、一緒に起業した友達には肉屋と魚屋に行ってもらって3人で修行していたそうです(笑)
 
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八百鮮

YOSH かつての部活みたいな感覚で、仲間で起業するっていいですね。ちなみに、市原さんが大阪NPOセンターに相談があったのは、どういうフェーズのときでしたか?

堀野さん 創業してすぐ、売上が上がらずに危機的な状況にあったときでした。そのときの結論はいい意味での”開き直り”でしたね。「もういいや。いま来てくれているお客さんに、とにかく喜んでもらう野菜を採算度外視で提供しよう」と。

野菜を小分けにしたり、レシピも同封したり、お年寄りの方に喜んでもらえるように、100%集中した結果、売り上げが上がっていったようです。

これからNPOや社会的企業のM&Aが増えていく

YOSH そうした志のある企業が、さらにスケールアップしていくにはどうしたらいいのでしょう。

堀野さん ひとつ極端な話をすると、NPOや社会的企業のM&Aがもっと増えてもいいと思うんです。各地で同じような活動をしている人が連携して、全体で価値を出していく。そういう意味での業界再編が起こるのも面白いと思っています。

もっとそれぞれの知見やノウハウをオープンソースにして共有したり、他にもたくさん可能性はあるはずですよ。

YOSH 確かに、ありえそうですね。

堀野さん 大阪NPOセンターのような中間支援団体こそ、ありえる可能性を示していくべきだと考えています。そこで大事にしているのが、「ノットワーキング」という言葉です。

YOSH ネットではなくノット。

堀野さん はい、”結び目”(knot)のノット。ネットワークとしてつながりながらも、ひとつひとつのノットはフレキシブルに解かれることを前提にする、ということです。

一度つくり込むと、どうそれを維持するかに執着しがちですよね。それよりも、ご縁を結ぶだけではなく、解くことも自然に受け入れる。登山においても、登山ルートよりも下山ルートを優先するという考え方もありますが、近いと思います。
 
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YOSH 確かに何が起こるかわからない時代だからこそ、その方がかえって心地よいかもしれませんね。そういう様々なマッチングを行う上で、どんなことを大切にしていますか?

堀野さん 勘ですね(笑) もう少しいうと、タイミングを大事にしています。このフェーズならこの人、もう少し成長したらこの人というのはもちろん、本人のキャパシティもあります。いい出会いだったとしても、精神的に余裕がなかったら、話もじっくり聞けないですからね。

あと、よく忠告するのは、チヤホヤされて勘違いしないように、「形ができるまでは一切取材を受けるな」ということです。広がるのはいいんですが、変な大人が寄って来て騙されてしまうこともありますから。

YOSH いろんな角度で、目配りされているんですね。

堀野さん 本人に話を聴くよりも、他の人から聴く方が多いですけどね。中間支援する側はつねに客観的でなければいけないと思うんです。ご縁のつながりに漂うヨットみたいな感じですね。風がないんだったら休もうかみたいに、常に風まかせ(笑)

YOSH いいですね(笑)

堀野さん ただ、こうした日本的な中間支援は、世界にも輸出すべきだと本気で考えているんです。

一概には言えませんが、欧米のNPOやNGOはキリスト教の影響を受けて、「弱者を救済する」という感覚が根底にあると思うんです。一方、日本の文化はどんな人にも価値を見出し、受け入れる余白がある。そのことが強みだと思っています。

日本は課題先進国ということで、海外からの視察が増えています。政治問題はいろいろありますが、グローバルな市民同士がもっとつながって、面白い取り組みを世界に広げていきたいですね。特に関西には空港もあるし、資源も揃っているので、海外と直結できる可能性は大きいと思います。

(対談ここまで)

 
というわけで、堀野さんとの対談いかがでしたでしたか? NPOの業界再編、売上10億円、世界への発信など、重要なキーワードが続出し、僕の頭の中にもさまざまな考えが巡った、とても濃い時間でした。

阪神・淡路大震災から20年経ち、日本における市民活動も成熟してきていますが、解像度が高まってきたからこそ、ひとりひとりが向き合わなくてはいけないこともより複雑になってきているようにも思います。

そんなときこそ大切なのは、いきなり大きな目標を掲げることよりも、「何を大事にしたいのか」もう一度“思い出す”ことかもしれません。堀野さん、貴重な示唆をありがとうございました!