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ちょっとした質問が、眠っていた経験を掘り起こす! Q&Aアプリ「Tailor」を開発した金亨哲さんに聞く、”本当に必要な情報”を共有する方法

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あなたは海外で体調を崩したことはありませんか? 体調を崩すと、心も弱るもの。それが慣れない異国の地だと、余計に不安も大きくなります。

もしかすると、海外で薬を買って服用するまでに、何回もためらったという経験のある人もいるかもしれません。その薬が自分の症状に合っていることを頭ではわかっていても、なんだか不安な気持ちが拭えなくて。

そんなときの不安を解消する助けとなるのが「Tailor」というQ&Aアプリです。このアプリは、あなたの質問を同じような経験やバックグラウンドを持つ人のもとへ届けてくれます。そのため、実際の経験に基づいた回答を得ることができるのです。

「Tailor」を生み出したのは、日本で初めてのAshoka Youth Ventureの一人として選ばれた経験もある金亨哲さん。代表を務めるシェイカー株式会社は、日本を代表するシードアクセラレーター「Open Network Lab」第7期として採択されています。

今回はそんな金さんに、開発に至った背景やアプリに込めた思いをうかがいました。
 
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金亨哲(きん・ひょんちょる)
1989年6月8日生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。福澤諭吉記念文明塾3期修了。社会起業の分野で大学時代に活動を行い、2010年に日本で初めてのAshoka Youth Ventureの一人として選ばれる。2013年 TEDxKeio 2013にてDirectorを務めた。在日コリアン3世として日本で育った経験からTailorの企画を行う。2013年7月にシェイカー株式会社が、日本を代表するシードアクセラレーター「Open Network Lab」第7期として採択。

必要なのは経験に寄り添ったアドバイス

5年前のある日の夕方。大学生だった金さんは帰宅の途中、ドラックストアで困っているインド人の男性に遭遇しました。咳き込んでいて苦しそう。どうやら薬を探しているようでした。

そのとき、在日コリアン3世である金さんの脳裏に、幼い頃の記憶がよみがえりました。それはお祖母さんと一緒に買い物に行ったときのこと。“祖母が文字を読めずに不便な思いをしていた”という記憶でした。同じように目の前で困っている人を見て、声をかけずにはいられなかったといいます。

最初は文字が読めないのかな、と思って声をかけました。それで、店員さんを呼んで自分が間に入り、英語を交えて話をしました。「風邪ですか? 喉が痛いんですか?」などと症状を訊き、その症状に合った薬を薬剤師さんに教えてもらいました。

これで解決したと思ったのに、結局彼は「この薬を飲むべきだということはわかったけれど、買うのが怖い」と言って苦い顔をしました。そして、「ありがとう」という言葉だけを残して去っていったんです。

この出来事が、金さんにとって、あるひとつの気づきをもたらすきっかけになりました。

人間には、安全だと頭では理解していても安心できない、ということがある。正しいアドバイスであっても、その人の経験に寄り添ったものでないと役に立たないことがあるんだ、と思いました。

同じ留学生寮の中だけで完結する情報共有はもったいない

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ヒアリングの様子

これがきっかけとなり、金さんは同じ大学に通う留学生や帰国子女にヒアリングを始めました。合計で100名を超える学生に話を聞いたそうです。

彼らが共通して言っていたのは「食べ物や薬などの口に入れるものはもちろん、化粧品などの肌に触れるものについても、不安なときは同じ国出身の先輩や友人に訊く」ということでした。

当たり前といえば当たり前なんですけどね。薬局で出会ったインド人の男性も、同じ薬を同郷の仲間から薦められたなら、買っていたのかもしれない。

このように、“同郷の経験”は説得力が増し、わが身のこととして受けとめられる、と確信した金さん。

さらにヒアリングを重ねるうちに気になったのは、多くの場合、必要な情報が先輩から後輩といった“1対1”の関係の間でしか伝達されていないという事実でした。同じバックグラウンドを持つ人同士で、必要な情報は似通っているのにもかかわらず。

たとえば、慶応大学に通うイスラム教徒の留学生が、都内のハラールフード(イスラム法で食べることが許されている食材や料理)のお店に詳しかったとします。

その情報は、都内の他の大学に通うイスラム教徒の留学生たちにとっても同じように有益なのに、“同じ留学生寮の先輩後輩”という閉じた関係の中で完結してしまうことが多いんです。これはもったいない、と思いました。

マイノリティが日常生活の中で必要としている情報で、かつ信頼性の高い情報に、誰でも即座にアクセスできるようにするにはどうすればよいのか。やがて、金さんはスマートフォンアプリの開発を考えるようになります。

2011年、折しもスマートフォンが広く使われるようになってきたころでした。

楽しみながら使えるアプリとは?

金さんは、自分の想いに共感してくれたエンジニアと手さぐりでアプリの開発を始めました。最初につくったのは、商品やサービスについて口コミを集めるアプリです。

情報が網羅されていればいるほど、多くのユーザーにとって便利だと思ったからです。
 
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商品のバーコードをスマートフォンのカメラで撮り、商品情報を読み取るといった機能も。「あとになって思えば過剰な機能も多かった」と金さん

ひとまず自分の想いをアプリという形にできたのですが、これがなかなか口コミが集まらず(笑) ユーザーは口コミを検索しようとするばかりで、口コミを投稿しようとする人が少なかったんです。

自分自身のことを振り返ってみても、アプリには“必要だから使う”ということに加えて、“楽しいから使いたい”と感じてもらえるしくみが必要なのだと思いました。

サービスとしてユーザーを楽しませるということができないと使ってはもらえない。だからといって、自分の信念を曲げたくはありませんでした。

この口コミアプリでの経験から生まれたのが、Q&Aアプリです。基本となるのは、困っていることがあるから質問をし、困っている人がいるから回答するという、シンプルなしくみです。

このアプリには「仕立て屋」という意味の「Tailor」という名前をつけました。

「Tailor」を使うと、シンプルながらも自分に“ぴったり”な答えがみつかるかもしれないという期待や、解決した時の喜びがあります。それはまるで、自分のリクエストに沿って、仕立て屋さんにオーダーメイドで服をつくってもらったときのよう。

検索エンジンを使って調べられる情報は、Webページとしてアウトプットされているものだけです。自分が知りたいニッチな情報がWeb上になかったとしたら、どうしようもありません。しかしこの仕組みであれば、必要な情報を引き出せる可能性が生まれるんです。

マイノリティが必要としている情報を効率的に共有できるようにしたいという目的はそのままに、コミュニケーションの仕方を変えたのです。これによって、アプリ上でのやりとりが活性化しました。

埋もれていた知識や経験を掘り起こす

このアプリでは、困っている人の問題が解決するだけではありません。回答した人の側にも“嬉しい変化”をもたらしています。

「Tailor」に質問を投稿すると、質問者と同じバックグラウンドを持つ人や、似たような経験を持っているであろう人のもとに、質問が飛ぶ仕組みになっています。

また、Facebookとの連動のほか、質問に答えてほしい人をフォローすることで、アプリがその人のもとへ質問を届けてくれます。回答者のバックグラウンドがある程度わかるので、信頼できる回答が集まりやすいといえます。
 
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実際にアプリを開くと、自分のタイムラインに、思わず「それ、知ってる!」と答えたくなるような質問が並びます。その中から、自分の経験や知識から答えられるものについて回答することで、説得力のあるコミュニケーションが生まれます。

年を重ねるにしたがって、残念ながら忘れるスピードも増すのが人間というもの。しかし、この「Tailor」を使っていると、アプリを開いたときに目にした質問がきっかけとなって、かつての自分の経験がよみがえり、ずっと忘れていた知識や気持ちが引き出されることがあります。

今まで自分にとっては当たり前で、とくに発信してこなかった“自分だけの無形の資産”が誰かの役に立つ。そんな体験は自身のよろこびにもつながります。

「Tailor」では、経験を共有することで、ユーザーをエンパワーメントしていきたいんです。

質問が投稿されることで質問した側は抱えていた問題が解決し、回答した側は自分の経験に価値を見出だして元気になる、そんなアプリになることを目指している「Tailor」。

実際にはどのように活用されているのでしょうか。

検索エンジンで見つけられない情報を得るためのツールとして

「国内に住む外国人を手助けしたい」という当初の気持ちから英語対応はしているものの、現在、ユーザーの多くは日本人なのだそう。

「Tailor」にはコミュニティの機能もあり、質問の機能と並行して、検索エンジンではなかなか見つけられないような情報を得るために活用されています。この機能は日本に来ている留学生などにも利用され、日常のちょっとした困りごとの解決に一役買っています。

SNSのコミュニティは、うまく活用できないと、連絡事項やイベント告知が並ぶだけになってしまうことも多いですよね。

でも、「Tailor」では悩みごとからコミュニケーションがスタートするので、自然と助け合う姿勢が生まれやすいようです。

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エンジニアの橘大雅さん(写真左)と百々健人さん。文化の異なる人たちにとって、使いやすいデザインになっているか、より使い勝手をよくするためにはどうしたらいいか、といったことを考えながら、今後も改良を重ねていく予定

そして、最近では海外に住む日本人にも広がっているようです。

ボストン滞在中に熱を出した日本人の女子学生が、「Tailor」にどんな薬を飲めばよいかという質問を投稿しました。

すると、1時間も経たないうちに、以前ボストンに住んでいて、同じように熱を出した経験を持つ日本人女性から回答があったんです。どの薬を飲んだら効いたのか、自分の経験にもとづいたアドバイスが書いてありました。

病気になるとただでさえ心細くなるのに、不慣れな異国の地で感じる不安は大きなものです。そんなときに、同じような経験をした人からあたたかいコメントが届いたらどうでしょう。しかも、それが経験に基づいた役に立つアドバイスだとしたら。

金さんとインド人男性との偶然の出会いから生まれたアプリは、このように海外に滞在する日本人の不安を解消するツールとしても役に立っているのです。

これからユーザーが増えていくと、また新しい活用の仕方が生まれる可能性もあるでしょう。

「いい大学へ行って、いい会社に就職できれば一生安泰」という価値観が崩れた今、道は無数にある。同じ経験を共有している人同士の母数は小さくなるはずです。

そんな時代に、検索エンジンで見つけられなかった情報を得るための新たなツールとして「Tailor」は役に立つと信じています。

「面白そう!」と感じたら、ぜひ「Tailor」を使ってみませんか? だれかの「困っていること」が、あなたの中に眠っていた経験を輝かせてくれるかもしれません。