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子どもたちの未来に畑を残していきたい。東京都・町田市の耕作放棄地を使って農業体験の機会を増やす「NPO法人たがやす」

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このコラムはグリーンズで発信したい思いのある起業家、ライター、研究者などの方々より、無償でご寄稿いただきました、感謝!寄稿にご興味のある方は、こちらをどうぞ。

こんにちは、早川侑と申します。

私は東京の町田市で農業を学びながら、買い物に不便さを感じている方が多くお住まいの住宅街などを回る移動八百屋の活動をしております。

今回のコラムでご紹介するのは、私が農業の基礎を学んだ「NPO法人たがやす」です。都市農業が抱える多くの問題の一つを解決出来るヒントを、みなさんにも共有できればと思います。
 
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移動八百屋・町田観光案内人の早川侑さん

畑がどんどんなくなってしまっている

近所にあった畑がいつの間にか駐車場になっていたり、住宅を建てるための工事を始めることを知らせる看板が立っていたりして、寂しい気持ちになったりしたことはありませんか。

私が暮らす町田市でも多くの農家さんが後継者不足で悩んでおり、畑を耕すことが出来ず、雑草が生い茂ってしまっている畑が年々増えています。

また周りを住宅街で囲まれているため、畑にとっては必要でもどうしても臭いが立ってしまう堆肥を使えずに、仕方なく柿や栗の木を植えて農地を管理している農家さんもいます。

今は農業に関心をもつ世代が大人だけではなく、若い世代にも広がっています。それであればやる気のある若者や、家庭菜園などで腕を鳴らす大人たちと一緒に畑を管理すればいいのではないでしょうか。

しかし、そう簡単にはいかないのが現状です。いざ農家さんのお手伝いに行こうと思っても素人が扱うと危険な機械を使わないと草を刈り取ることができなかったり、野菜の知識がないまま収穫作業をして商品を傷つけてしまい、結果的に農家さんの収入を下げてしまったり…

そして何より野菜づくりとは、常に手をかけてあげるだけでなく、天候や野菜の表情を見極めながら作業していくものです。だからこそ「イベントとして一時的にお手伝いします」とも軽々しく言えないのが農業の世界なのです。

どうすれば都市農業を守れるのかを考え、声に出してみる

ここで話は15年ほど前の話に遡ります。多摩南生活クラブ生協の中の「都市農業研究会」を舞台に、「どうすれば都市農業を支えて東京に農地を残すことが出来るか」について議論されていました。

東京には農地が多く残っている市区町村は多く、生活クラブに野菜を卸す農家さんもたくさんいます。その中でも町田市が担当となる多摩南生活クラブ生協では、契約している農家さんの数が他の生協と比べて多かったそうです。

そのように日頃から農家さんとの付き合いがあり、お互いに意見を言い合える間柄だからこそ「こういうことをやってみたい」と多摩南生活クラブ生協は声を集めることが出来ました。こうして1999年、ナス収穫の援農(農作業を手伝うこと)がスタートします。

その活動を原点として2002年に町田市で誕生したのが、援農を求める農家と援農を希望する市民とをつなぐNPO法人たがやすです。
 
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手づくりの看板でお出迎え

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耕運機の使い方も丁寧に教わります

新たな挑戦

本格的に動き出したNPO法人たがやすでしたが、活動を継続的に行い、気軽なお手伝いではなく農作業の経験者を増やすことは大きな課題でした。

そこで2005年、もともとは耕作放棄地として荒れ果てていた農地を町田市から借り受け、開墾して研修生を集い、一年間を通して週に一度農作業を伝授する実習を始めました。こうして農業の基礎を学んだ人を、援農依頼があった農家さんのもとへ紹介していきます。

ポイントは農家さんが作業に対して一時間あたり540円を支払い、そこから事務局が手数料として40円、援農者からも手数料として40円を差し引いた460円が援農スタッフに支払われること。

ボランティアにしてしまうと、手伝う側に「綺麗に収穫できなかったけどまぁいいか」という気持ちが芽生えたり、農家さんも「無償でやってもらっているのだから、厳しくは注意できないな」と気を遣い、お互いに悪循環が生まれてしまう可能性があるためです。

フェアにお金を稼げるようにしたことで、お互いに腹を割った付き合いができるようになり、最近では事務局を通して仕事の依頼を受けるのではなく、農家さんに直接弟子入りする卒業生まで出てきました。

人とのつながりを求める現代とマッチした

様々な問題とも直面しながら、今まで続けてくることができた背景には、時代の変化も考えられます。

従来、過酷な労働と考えられていた農作業でしたが、「自然から隔離された都市住民にとって、自然の中で生命の営みを感じられる労働として農作業に参加したい」という欲求が高まってきたことです。

初めは仕方なく参加していた人もいるかもしれません。しかし、近いようで遠い存在だった農家さんと話すことができたり、農作業を学ぶ場を通じて会社やご近所さん以外の新たな仲間も見つけられることに、時代の流れが合っていたのかもしれません。
 
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収穫された野菜の数々

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どの野菜もピカピカに光っています

もちろん収穫の時期には、自分たちで栽培した野菜をお土産で持ち帰ることができます。自分で栽培し、収穫した野菜の味は格別で家族にも自慢したくなります。その自慢を話半分に聞いていた子どもたちも「お父さんのことを見直したよ」などと言ってくれて鼻が高くなるそうです。

都会では、農業のことを身近に考える子どもはほとんどいないと思います。それどころか最近では、土遊びをしたことがないという子どもたちが増えてきているようです。

「お父さんやお母さんが夢中になる農業ってどんなのだろう」
「自分でもこんな美味しい野菜を作ることが出来るのかな」

まずは、大人が純粋に楽しむことで、子どもたちにそんな興味や疑問をもってもらうことからスタートするのがいいのではないでしょうか?

汗をかきながら仲間とともに野菜作りに励み、出来上がった野菜を「美味いだろう」と子どもたちに食べさせてあげましょう。野菜作りが上手なお父さん、最近少し痩せたかっこいいお父さんと呼ばれる日がきっときます。

こうして農業に興味をもつ子どもたちが少しでも増えれば、20年後〜30年後にも畑を残すための知恵と、工夫の種を蒔いたことになるのではないでしょうか。
 
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苗の植え方や、どう育つのかを子どもたちに説明

未来へのステップ

「たがやす」の活動はさらに広がっています。

2013年に町田市が耕作放棄地を農家さんから借り受けて、一定の技術をもった希望者にその農地を貸し出す「農地バンク」を制度化させたのですが、この農地バンクを利用して「小野路農園クラブ」を開園し、サツマイモ掘りなどを通じて食の大切さを伝える学童体験農園を始めました。

そこでは町田市内の幼稚園や学校と連携し、未就学児や小学生および中学生を対象に会員募集をしております。

もうひとつユニークなのは、町田市民が誇る「FC町田ゼルビア」というサッカークラブチームと関連するゼルビアスポーツクラブ主催の「いもづるの会」とも、タッグを組んで活動の幅を広げていることです。

プロのスポーツ選手を目指すには技術だけでなく、食習慣への意識も大切です。たくさん食べるだけでなく、いかに体のことを考えてバランス良く食べることが大切か、口に入れる食べ物がどのようにして作られているのか。そんなことを子どもたちの興味を通じて伝えていきます。

学童農園や芋掘り体験などで、子どもたちと触れ合う機会を積極的に作っているNPO法人たがやすの活動は、農業だけに限らずまちづくりやスポーツなど様々な分野で大きな花を咲かせる日も遠くはありません。
 
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自分で採ったトマトをがぶり!

農業体験は大人でも楽しい

私は野菜の販売をしておりますが、以前は野菜がどのようにして育つかを一から見る機会はありませんでした。また、畑が町にあることは良いことだと思いつつも、何故良いことなのかを深く考えたこともそこまでありませんでした。

しかし、たがやすで農業を実際に学ばせていただいた際に、小さくて蒔くのも大変だった種が大きな作物に育ったり、大雨や強風にも負けじと立派な実を付けてくれた時などたくさんの感動と出会えることに気付きました。

そんな感動と出会うたびに農には日本人であれば誰もがもっている大切な何かを気づかせてくれるものなのかもしれないと考えさせられます。
 
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収穫祭の一コマ。新鮮な野菜料理はビールとの相性も抜群です

現在は第10期生が学んでおり、来年度には第11期生を募集する予定です。

ここで学んだ卒業生はもっと深く農業を学びたいと第二のステップへ進む方も多く、子どもたちだけでなく大人たちにとっても人生に新たな輝きを作る場所としてこれからも多くの人が集う場所になることでしょう。

子どもたちの未来に畑を残していきたい。
子育てをするなら自然豊かな町で暮らしたい。

第二の人生では農業に挑戦してみたいと考える皆さん、まずは気軽に週に一度の農業体験で自ら学ぶことから始めてみませんか。

(Text: 早川侑)