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老朽化したビルが“食×デザイン”の拠点として再生! 「KYOCA」プロデューサー岡村充泰さんに聞く「これからの京都の使い方」

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KYOCA Food Laboratory(KYOCA提供)

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

「多様性」という言葉から、あなたはどんな場所をイメージしますか?

2014年春にオープンした「KYOCA Food Laboratory(以下、KYOCA)」は、JR京都駅から徒歩15分、蒸気機関車で有名な梅小路公園に隣接するレトロなビル。「食とデザイン」をテーマに、多様性を生み出すしかけが組み込まれています。

たとえば、テナント。ピッツェリアなどの飲食店のほか、耕作放棄地で育った無農薬野菜の販売所やイスラム法に適ったハラールパンの研究所なども入っています。

3階にある六角形のステージを持つ元・講堂で開かれるイベントは、学会からコンサートまでとさまざま。国や宗教、主義主張を超えて、まさしく多様な人々が行き交う場所になりつつあるのです。

仕掛人は、以前greenz.jpでも紹介した「京都流議定書」を開催するウエダ本社社長・岡村充泰さん。今はKYOCAで何を企んで(!)いるのかじっくりお話いただきました!
 
岡村充泰さん

岡村充泰(おかむら・みつやす)
働く環境の総合商社を標榜するウエダ本社の代表取締役社長。倒産寸前だったウエダ本社を7年で無借金経営に転換。その後、価値観の変換を唱えて主催し続けている「京都流議定書」は全国のソーシャルイノベーター達の間では有名である。人の繋がりを考えた展開は、オフィスに留まらず、ビルのリノベーション、町づくりへと領域を拡げている。

老朽化したビルの第二の人生がはじまった!

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リノベーション前の講堂(現在の「hacoba」、KYOCA リノベーションプロジェクト提供)

今、日本全国で“老朽化”を理由にビルや住宅が取り壊されています。その主な理由は耐震構造への不安。京都青果合同株式会社(以下、京果)子会社の社屋だった「京果会館」は1970年生まれ。2012年、新しい社屋への引っ越しをきっかけにして取り壊しが決まりつつありました。そこに「待った!」をかけたのが岡村さんです。

「このビルを壊すなんてもったいない。耐震構造はクリアできます!」

岡村さんは、1968年生まれの自社ビルのリノベーションを経験済み。「きっとこのビルを活かす方法がある」と確信してしまったのです。

京果は、京都の台所「京都市中央卸売市場」における、野菜・果物の総元締といってもいい老舗企業。

僕は、京果の社長と親しかったので「京果の存在感を活かしながら食とデザインをテーマにしたビルとして展開しませんか」と提案したんです。そしたら「お前がずっと責任もってやるならいい」と社長が言ってくれてね。

京果は本業一筋の企業。「活用する方法がないなら更地にしよう」という考えで、ビル取り壊しを検討していました。「提案してくれるのはいいけれどやる人がいないと困る」と言われ、岡村さんはこのビルのプロデュースを引き受けることにしたのです。

有機的なつながりを生み出すビルのつくりかた

その後、さっそくリノベーション工事がはじまり、2014年春にはビル全体の工事は完了。テナント工事も順調に進み、同年7月には「京都流議定書」をKYOCAで開催し、実質上の“お披露目”を行いました。

ここで改めて、KYOCAの内部をご案内しましょう。

エントランスのある1階には4軒のテナントが入居。京都のパン屋さん「志津屋」や「Pizza Mercato(ピッツァ メルカート)」などの飲食店、そして自産自消を掲げ、耕作放棄地を再生する活動を展開するマイファームの八百屋さん「My farmer」と黒毛和牛のドライエイジングビーフを扱う「听/Pound」があります。
 
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「京果トレーディング」色とりどりのドライフルーツ!

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ハラールパン研究所「京都製パン処 松栄庵」の厨房内。ハラールのキッチンでは、イスラム法が禁じる食材を使わないそうです。

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2階には小さなコミュニティスペースがあり、コンサートなども開かれています。

2階には多種多様なテナントが同居しています。まず、ビルオーナー・京果の直営ドライフルーツ店「京果トレーディング」、3Dプリンターでものづくりをする「YOKOITO」、イスラム法に適ったハラールパンを研究する「京都製パン処 松栄庵」。

今後のテナントには、韓国家庭料理のお店のほか、英会話カフェや障がい者と健常者が共に働くスイーツ店なども視野に入っています。

岡村さんいわく、2階は「食を軸に多様性を体現するフロア」です。

当初、2階にもいろんな構想があったのですが、ハラールパンの研究所が入ることになったときに腹が決まりました。英会話カフェが入れば、外国人の先生方がここに集うでしょうし、子どもたちも出入りします。

子どもたちが、ハラールパンの研究所を通してイスラムの文化に触れる。あるいは障がいのある人たちと出会う。障がいのある人が外国人と交流する。いろんな組み合わせの体験を提供するというか、ラボ的な空間になっていくと思います。

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元・講堂「hacoba」。前出の写真とは見違えるように美しく生まれ変わりました(KYOCA提供)

そして、3階はかつて京果の社内イベントなどに使われていた元・講堂「hacoba」。六角形の舞台と見晴らしのいい窓を持つ空間です。そして「hacoba」の奥にはキッチンを併設したサロンもあり、小規模のトークイベントやワークショップ、食事しながらのイベントはこちらで行われています。
 
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レジデンスのモデルルームにおじゃましました。右奥のガラスの向こうはテラスです

4、5階は、なんとレジデンス。広さは、39.69平米(12.00坪)〜92.24平米(27.90坪)まで複数タイプあり、気になるお家賃は8万9000円〜21万1000円(事務所使用の場合は消費税別途)。

カラフルなキッチンや明るいテラスは、ちょっと昔のアジア映画のシーンに出てきそう。

5階には「ダイアログBar」などの活動でよく知られている、西村勇哉さんの「NPO法人ミラツク」がさっそく入居し、ソーシャルイノベーターの集う場所としても注目されています。また、アーティストや料理研究家、あるいは海外からやってきて長期滞在するファミリーなどが入居を検討しているそうです。
 
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見晴らしのいい窓のそばで眠ることもできます

不特定多数の人々が行き交う1階。テナントごとに多様な人が通ってくる2階。同じ目的を持つ多くの人が集う3階。そして、住む・働くという過ごし方をする人たちがいる4、5階。

こうしてビル全体を俯瞰してみると、1階から5階へと階段を上るにつれて、人々の滞在時間が長くなり動きもゆるやかになるイメージが浮かび上がってきます。

平安京のおもてなしの原点とKYOCAのふしぎな関係

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リノベーション前の京果会館(KYOCA リノベーションプロジェクト提供)

KYOCAにはもうひとつ面白い背景があります。実はKYOCAは、平安時代につくられた「東鴻臚館」跡のすぐそばにあるのです。鴻臚館といえば福岡に残る遺構が有名ですが、いわば国の迎賓館。平安京にあった東西の鴻臚館は主に渤海からの使節をおもてなししていたと伝わっています。

岡村さんは、この土地が持っている歴史性にも注目しています。

「食×デザイン」というテーマで考えていくと、おもてなしやサービスマネジメントというつながりが出てきますよね。

京都はコンテンツが多すぎて「鴻臚館跡ですよ」と言っても知らない人が多いのですが、2020年の東京オリンピックで「おもてなし」を掲げるなら、ここはまさにおもてなしの起源ですよ。

和食も世界遺産に認定されましたし、ビルオーナーの京果は京都の和食を支えてきた会社でしょう? KYOCAはいくらでも文脈をつくることができる、めちゃくちゃ売れる場所なんです。

青果卸会社である京果は、もちろん農業とのつながりも深い企業です。私たちの暮らしの根幹である食、そして農業と、新しい動きをつくるソーシャルイノベーターを結びつけることができれば、日本の食のあり方が変わるかもしれないと岡村さんは考えます。

さらには、海外からの旅行客の多い京都からであれば、世界に向けて発信するという大きなインパクトをつくることもできそうです。

そういった意味で、僕の思いを一番表現しているのは「My farmer」を入れたこと。マイファームは耕作放棄地を失くすために就農者を募って、そこで育てた野菜を市場を通さずに販売しているわけです。

その八百屋が青果卸会社である京果のビルにあるというのは、実はスゴいことですよ。もちろん「なぜ京果のビルにあの八百屋なのか?」とクレームもあるそうです。その一方で農林水産省は好意的に見ているとも聞いています。本当の改革を起こすというのはそういうことです。

「“旧来の勝ち組”が新しい価値観と結びつけば一番いい形で改革を実現できる」と岡村さんは言います。この確信は、岡村さんが本業であるウエダ本社、そしてウエダ本社が主催するイベント「京都流議定書」で得た“体感”から生まれてきたものなのです。

多様性を認め合うことが課題解決を導く

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10月2日にはふたりの“料理僧”出版記念イベントも!(左:青江覚峰さん、右:吉村昇洋さん)

岡村さんの“体感”とは「異質なものが出会えばそこに新しい価値が生まれる」ということ。

岡村さんは、2008年から毎年夏に「京都流議定書」というイベントを開催しています。「京都流議定書」には、京都市長や老舗企業の社長などの“重鎮”も参加すれば、我らがgreenz.jp編集長のYOSHさんをはじめとした若きソーシャルイノベーターや学生も集まってきます。

KYOCAにおいても、岡村さんはやはり「異質なものの出会い」をつくり続けています。たとえば、KYOCAのオープン前には、「京果会館リノベーションプロジェクト」で「あたらしいフード会議」を開催。

中央卸市場で30年間競りをやってきた京果の近郷野菜統括部長・松本雄治さんと、「Food Designers Network」代表でありフードデザイナーの中山晴奈さんをゲストに迎えました。
 
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「jimukino-ueda bldg.」で開かれた第一回「あたらしいフード会議」のようす(KYOCA リノベーションプロジェクト提供)

集まってきた参加者は、主に中山さんのお話がお目当て。「野菜は絶対に無農薬がいい!」という意見の人も少なくないなかで、無農薬野菜を扱っていない京果の松本さんがお話をすることになります。ところが、松本さんの思いをじっくり聴くなかで、参加者の空気が変わっていったそうです。

シンプルに思うのは、人間の長所短所って裏返してみればまったく同じ。「どう見るか?」じゃないですか。

いろんな考え方があって、それぞれの人がちゃんと選択できればいい。違う意見を持つ人から話を聴かせてもらえば「あ、そうなんだ!」と思うことだってあります。そうして多様な意見が混じり合わなければ本当の解決は生まれない。それは、僕がずっと思っていることですよね。

岡村さんは、「フリーハンドでいろんなことをやると見えてくるものがありますよ」と言います。食べることは生きることの根幹に関わること。だからこそ、いろんな立場の人が集まってきて自由に話してみるべきなのかもしれません。

東京に対して「京都モデル」を提示する

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KYOCAレジデンスから見える風景は、ある意味レアな京都です!

岡村さんは、あるとき「自分がやっていることは街おこしをしている人と同じだな」と思ったそうです。

街おこしをしている人たちが、街でコミュニティデザインをするのととても似ていると思います。僕はビルで人が交差すると価値が生まれると思ってやっています。端的に言えば、価値がないと言われて壊されかけていたビルにも新しい価値が生まれるやん!ということなんです。

一地方都市でありながら、年間5000万人の観光客を呼び寄せる京都は「街おこしは必要がない」という風潮があるように思います。でも、古いビルに新しい価値を吹き込んでいく岡村さんの取り組みは、もしかしたら京都らしい街おこしのやり方なのかもしれません。

過疎地域は本当に困っているから改革を起こせるんですけど、京都はお客さんが来るからかえって難しいんです。それで本当にいいのか?というと、内臓疾患みたいなもんですよね。

気づかないうちにどんどん価値がなくなっている……そこに着手するのは京都のど真ん中の人ではできないだろうと思っています。

京都には、歴史と伝統文化があり、おいしいごはんがあり、社寺と美しい街並みがあります。老舗企業もあれば、京セラをはじめとした先端企業も、ITベンチャーやソーシャルビジネスも共に育っています。

京都はいい意味で「地方都市の代表」であり、岡村さんはこの京都の使い方について考えているのです。

京都の使い方は対東京軸。地方が東京と同じことをやろうとするからおかしなことになります。「ないものはない」で地方はやっていかなければいけない。

京都から「東京とは違うモデルでやっていける」ということを見せて、地方はそれぞれ独自でやればいいという方向に持って行きたいですね。京都ですらできなければ終わりですから。

なんだか最後は大きな話になってしまいました…! 

KYOCAは京都の玄関であるJR京都駅から徒歩15分。蒸気機関車が走る梅小路公園のすぐそばにあります。次に京都に来る時にはぜひKYOCAで何が起きているのかを忘れずにチェックしてください。

KYOCAには、いちばんフレッシュな京都がお待ちしています。