\仲間募集/甘柿の王様「富有柿」の産地・和歌山県九度山町で、未来の柿農家となる地域おこし協力隊

greenz people ロゴ

ブック&カフェが街の未来を明るくする。ブックスキューブリック店主・大井実さんに聞く「人と街をつなげるお店のつくり方」

keyaki_gaikan
ブックスキューブリックけやき通り店

特集「マイプロSHOWCASE福岡編」は、「“20年後の天神“を一緒につくろう!」をテーマに、福岡を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、西鉄天神委員会との共同企画です。

皆さんは、本をどこで購入しますか? インターネット? 大型書店? コンビニエンスストア?

でも、ちょっと思い出してみてください。かつて、自分が暮らす街には小さな本屋さんがあって、学校帰りに雑誌やマンガ、参考書などを買っていたことを。

そんな本屋さんが街から消えつづけていた2001年4月、福岡の街に「ブックスキューブリック」はオープンしました。

出版不況がささやかれ始めたこの時期に、個人が新刊書店を始めたのは、全国的にも珍しいこと。福岡、京都、東京、イタリア、大阪で暮らし、ここ福岡に書店を開業した、大井実さんにお話を聞きました。
 
ooiminotu

大井実(おおい・みのる)
ブックスキューブリック店主。ブックオカ実行委員長。1961年福岡市生まれ。1985年同志社大学文学部卒業。東京・大阪・イタリアなどでイベント制作などに携わった後、2001年福岡市のけやき通りにブックスキューブリックを開業。近年珍しい新規開業の独立系小書店として全国的な知名度を得る。2006年各地に広がるブックフェスティバルの元祖と目されるブックオカを有志とともに立ち上げ、以降、毎秋に開催。2008年カフェ併設の箱崎店を開業。トークショーや展覧会を頻繁に開催し、本や著者の魅力を立体的に伝える場づくりに力を注いでいる。

約15坪のこぢんまりとした空間に、街の本屋にあるべき本がある

福岡の街の中心・天神から歩くこと約10分。その名の通り、けやき並木がつづく“けやき通り”に、大井実さんが営む「ブックスキューブリックけやき通り店」はあります。

15坪ほどのこぢんまりとした店内でありながら、街の本屋さんに求められる幅広いジャンルの本がギュッと詰まっているのがこの店の特徴。

新刊雑誌はもちろん、食文化や旅行書、ビジネス書や新書から文芸書に一般書、さらには児童書や絵本、アート、建築など、新刊から定番まで、ジャンルごとにはっきりと仕切られているのではなく、流れるように棚がつづきます。

また、地元・福岡ならではの本も取り扱っており、2013年末に創刊した、福岡の宅老所「よりあい」がつくる話題の雑誌『ヨレヨレ』も、創刊直後から取り扱いをスタート。同店の売り上げベスト10で14週連続1位を記録したそうです。
 
20051108-keyaki
キューブリックの前からのぞむけやき通り(ブックスキューブリックの公式サイトより

「ブックスキューブリックけやき通り店」がオープンしたのは、2001年4月のこと。人がたくさんいる天神や博多駅といった街中に店を構えることはありませんでした。

勉強のため、天神の書店でアルバイトをしていましたが、忙しすぎてお客様とコミュニケーションを図ることができませんでした。

そんな環境で忙しさに追われて仕事をするのは嫌でしたし、かといって、完全な郊外だと、ファミリー向けの品揃えにせざるを得ず、自分がこれまで影響を受けてきた文化的なものをはじめ、得意なジャンルを発揮できなくなります。

けやき通りという場所は、その中間的位置にあって、ちょうどよかったんです。

「ブックスキューブリック」を訪れる人は、皆さん、口を揃えてこういいます。「自分が買おうと思っていなかった本との出会いがある」と。実はこの現象、大井さんの狙い通りなんです。

本は出会いだと思っています。知識の量を増やすための読書というよりも、自分の世界観が広がるような本との出会い。自分もそういう体験をしてきているし、お客様にもそういう出会いをして欲しいという想いがありました。

うちのような小さな本屋だと、ぐるっと一周する間に、自分が想定していなかった本と出会う可能性が生まれるのです。

確かに、大型書店に行けば、全てのジャンルが揃っていますが、忙しくて時間のない社会人にとって、全ての売場をチェックするのは難しいものです。約15坪の広さ(狭さ)の「ブックスキューブリック」だったら、数分で一通りの棚を見て回ることができます。

とはいえ、不思議なことに、たくさんのジャンルを詰め込んでいるという感じはなく、空間にはゆとりすら感じます。

訊けば、本の見せ方や棚の角度など、店内にはさまざまな工夫が施されているとのこと。というのも、大井さんの奥様の真木さんは、インテリアデザイナー。ふたりで研究を重ね、(本の)つくり手の思いを届けられるような見せ方にこだわり、空間をつくり上げていったのです。

一方で、この空間で働く大井さんやスタッフにとっても、究極に居心地のいい空間をめざしたと、大井さんは言います。

お客様をもてなす場ではあるけれど、自分たちが働く場でもあります。書店の仕事は立ち仕事だから、疲れにくい木の床にしたり、明る過ぎると疲れるから、落ち着いた照明にしたり。飽きのこないクラシカルなデザインで、自分たちにとって居心地のいい場所であることも重視しました。

イベントを通して、面白い世界を立体的に共有する

hakozaki_gaikan
ブックスキューブリック箱崎店

けやき通り店のオープンから7年ほど過ぎた2008年10月、大井さんは、カフェとギャラリーを併設した「ブックスキューブリック箱崎店」をオープンさせます。

地域とつながるには、モノの売り買いだけでなく、不特定多数の人が訪れ、時々イベントもできるカフェという空間を持ちたいと思っていました。とはいえ、素人同然で始めてしまったものだから本当に大変で、いまでこそ笑って話せますが、いつ辞めようかと思いつづけていた時期もあったほどです。

メニューひとつ考えるのも大変だったし、スタッフも長くはつづかなくて。でも、めげずにイベントをしつづけてきたら、参加者の中からスタッフ希望者が出てくるようになって。ここ2年くらいで、ようやくいい状態になってきました。

イベントのための“場所”を手に入れた大井さんは、ギャラリーで作品展を行っているアーティストや、大井さんが面白いと感じた本の作家を招き、トークイベントを頻繁に開催しています。そして、イベント終了後はほぼ毎回、アーティストや作家を交えて交流会が催されます。

ときには、大井さんご自慢のパスタ料理が振る舞われることも。これまで、作品や本の向こう側にいた憧れの人がグンと近づく、贅沢な時間。参加者の好奇心はさらに広く、深くなっていきます。
 
140213azuma_tsuda
2014年2月に開催された「福島第一原発観光地化計画」刊行記念 東浩紀&津田大介トークショー

街の面白い人たちが集まり、イベントが生まれた。

2001年春、全く新しいスタイルの書店として開業した「ブックスキューブリックけやき通り店」。その噂が全国へと拡がる一方で、福岡で活動する面白い人たちが、この店を訪れるようになります。

出版社社員、書店員、放送局スタッフ、デザイナー……。そんな彼らが実行委員となり2006年にスタートしたのが、本のイベント「BOOKUOKA」です。

メインイベントである「一箱古本市」は「ブックスキューブリックけやき通り店」がある“けやき通り”で開催され、約100軒の出店者が、通りにずらりと並びます。
 
hitohakohuruhonichi1
一箱古本市の様子(ブックスキューブリックけやき通り店前)

gekioshi
BOOKOKAの期間中、市内の書店で共同開催されている「激オシ文庫フェア」

ブックオカは、化学反応的にいいメンバーが集まりました。

取次や書店員とのつながりを持っている地元出版社勤務の藤村興晴くんがいたことで、それまであるようでなかった書店員同士の横のつながりが生まれ、書店員ナイト(現場書店員・出版社・本好き有志の交流会)や激オシ文庫フェア(参加書店の書店員が選書した本を紹介するフェア)が始まりました。

ブックオカに関しては、本が人と街をつなぐということを強く意識してやっています。一箱古本市では、本が、知らない人同士のコミュニケーションを誘発し、それがとてもいい雰囲気を生んでいます。

近年は名古屋や仙台など、さまざまな街に飛火するブックイベントですが、この秋、9回目を迎える「BOOKUOKA」は、全国から視察に訪れたり、実行委員長である大井さんがイベントに招かれトークをしたりと、ブックイベントの先駆者的存在として、各地のお手本になっているようです。

就活に出遅れたことで、やりたい仕事が見つかった!

今でこそ、福岡の街に根を下ろして商売を営み、イベントを仕掛けている大井さんですが、高校時代の大井さんは、「早く福岡を離れたい」と思っていたそうです。

名門・福岡高校ラグビー部の主将を務めるなど、順風満帆だったように見えますが、進学校の雰囲気に馴染めず、鬱屈とした日々を送っていたというのです。

ラグビー中心の日々を送りながらも、本と映画とロックが大好き。なかでも映画は1年に50本は観ていたとか。そして、大井さんは福岡を離れ、京都の大学に進学します。

街の先輩の影響を受けてインドを旅したり、ロックの聖地・ロンドンを訪れたり。世界がどんどん広がっていって面白かったけど、4年になるとみんなさっさと就職活動をし始めて。

当時、就職活動は10月解禁だったはずなのに、それが守られていないのも許せなくて、“俺は10月からしかやらないぞ”って決めていました。10月になって就職活動を始めたものの、当然、出遅れていたんです。

出版業界に興味があった大井さんは、大手出版社に片っ端から履歴書を送ったけれど、どこも選考は終わっていました。途方に暮れる大井さんに、当時、『流行通信』を発行していた森英恵事務所から連絡が入ります。「出版部門の採用は終わっているけれど、財団法人をつくったから受けてみませんか?」と。

話を聞いてみると、ロンドンから20名のデザイナーを呼んでファッションショーをするって言うんです。当時のロンドンは、ファッションと音楽が密接に結びついたニュー・ウェイヴというムーブメントがあり、私はそのニュー・ウェイヴが大好きでしたので、この話に飛びつきました!

SmithsPromoPhoto_TQID_1985
The Smiths(Wikipediaより

時はまさにバブル絶頂期。華々しく刺激的な時代です。ファッションデザイナーやアーティストなどを招聘し、ショーや展覧会を開催していた大井さんは、東京という街で、2人のステキな先輩に出会います。

東京・小岩でお茶屋を営む一方でジャン・コクトーの研究家として知られる藤沢健二さんと、倉股史朗氏との深い交流で知られる東京・六本木の三保谷硝子店の店主・三保谷友彦さんです。

藤沢さんは、商売(お茶屋)という昼の顔で世間に真面目な姿を見せて、それ以外の時間は課外活動(ジャン・コクトーの研究)をされているということに惹かれましたし、三保谷さんからは、等身大でいるだけで周囲から認知されているということのカッコ良さを学びました。

当時の東京には、自分をいかに大きく見せるか、そこに一生懸命な人が多くて。商売は世間に開かれているので、自分を大きく見せる必要もないし、卑下する必要もありません。

自分を理解してもらうためにくどくど説明しなくていいというのは、精神衛生上、楽でいいなと感じましたね。とはいえ、商売は土地に縛られる面もあるから、藤沢さんのような課外活動をする生き方に惹かれたのです。

海外から訪れるデザイナーやアーティストと出会っていくうちに、大井さんは「海外で暮らしてみたい。それをするなら、結婚や子育てに縛られる前の20代だ!」と考えるようになり、日本を飛び出し、イタリアで暮らし始めたのです。

大井さん、28歳のときでした。

イタリアの個人商店の文化に感動!

大井さんがイタリアで見たもの。それは、個人商店の文化でした。

街にはスーパーやショッピングセンターはなく、個人商店がほとんど。それぞれの店がウインドウディスプレイに趣向をこらしていました。

ウインドウディスプレイは、そのものが街の賑わいになります。そこには1対1のコミュニケーションがあって、お店は街にとって重要な役割を果たしているということを肌で感じましたね。

イタリアでは、彫刻家・安田侃氏のマネージャーを務め、帰国後は大阪・四条畷市にある野外能舞台「えにし庵」の企画・運営を手掛けてた大井さん。

福岡、京都、東京、イタリア、大阪と、さまざまな土地を転々とする中で、そろそろ地域に根差した拠点を設け、人々の文化の窓口になれる仕事をしようと考えるようになります。その仕事が、大井さんにとっては、“街の本屋さん”だったのです。

開業の地は、友人が多く、よそ者を受け入れてくれる土壌がある札幌にしようと決めていた大井さん。ある日、友人から福岡での仕事を数日だけ手伝ってほしいというオファーがあり、10数年ぶりに福岡を訪れます。

そのときラグビー部時代の仲間が企画した飲み会で、後に奥様となる真木さんと運命的に出会い、大井さんは福岡で暮らすことになったのです。
 
Ja-hokkaido-artepiazzabibai-5
安田侃さんの作品「意心帰」(Wikipdeiaより

本屋もブックオカも、最初にワクワクするイメージがあって、それをカタチにしていく作業でした。これは、イタリア時代に安田侃さんから学んだこと。

当時はCGも発達していなかったから、安田さんは、展示会場の写真を撮ってきて、そこに自分の彫刻を合成し、モンタージュ写真をつくるような感じでイメージをビジュアル化していきます。

その場所に彫刻を置くと、どれだけその空間が変わるか、安田さんは、興奮しながら僕に話してくれるんです。頭の中に、はち切れんばかりのイメージがあるんですよね。

安田さんから学んだイメージ喚起力と、東京でイベントの仕事をしていたときに覚えた企画書づくり。「情熱と理論性のバランスが、何かを始めるにはとても大切」だと大井さんは語ります。

ブック&カフェが街の未来を明るくする。

本屋をやって自分自身楽しかったし、苦手だと思っていた福岡の街と繋がることができたのも、本屋だったから。この街から離れ、地縁が薄かった自分を受け入れてもらうことができたんだと思います。

街とつながる装置として、本屋やカフェというのは凄く有効だと実感していますが、今の時代、新刊書店を開業するのは、資金的にも商売としてもかなり難しいのも事実。

私が今、おすすめしたいのは、ブック&カフェという業態です。このカタチを全国の街に広めるお手伝いができたら嬉しいですね。

ネット社会と言われて久しい今こそ、リアルな街を面白くしていくことを大切にしている大井さん。そのひとつの可能性がブック&カフェであり、街にひとつでもそういった場所があることで、文化的な発信が始まり、その周辺に面白い場所が増えていく。

自分の暮らす街にそんな場所ができたら、街に出るのが少しずつ楽しくなりそうですね。みなさんの街にもそんな場所があったら、ぜひ教えて下さい。

(Text: 寺脇あゆ子)
 

– INFORMATION –

 
ブックスキューブリック けやき通り店
福岡市中央区赤坂2-1-12 ネオグランデ赤坂1F
092-711-1180
営業時間:11:00-20:00
定休日:第2・3月曜(祝日の場合は営業)

ブックスキューブリック 箱崎店
福岡市東区箱崎1-5-14 ベルニード箱崎1F
092-645-0630
営業時間:11:00-20:00(カフェ&ギャラリーは11:30-19:00)
定休日:第2・3月曜(祝日の場合は営業)
http://www.bookskubrick.jp/