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草の根のアクションを”うねり”に変えていくために。「GREEN POWER プロジェクト」発起人、経済産業省・村上敬亮さんに聞く”イントレプレナー”の流儀

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経済産業省・村上敬亮さん

わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

太陽光発電、風力発電、バイオマス発電…みなさんは、”再生可能エネルギー”と聞いた時に、何が思い浮かびますか? 

再生可能で環境にやさしいと言われる発電方法が近年注目され、グリーンズでも「わたしたち電力」を中心とした活動が実践・紹介されています。でも自分ごとにするとなると「ちょっと難しそう…」と思われる方も少なくないかもしれません。

そんな再生可能エネルギーを、もっと楽しく、わかりやすく日本全体に広げていく「GREEN POWER プロジェクト(以下、GPP)」が2013年から始まっています。実は「わたしたち電力」もその一環。今回は、プロジェクトを立ち上げた経済産業省の村上敬亮さんにお話を伺いました。

ひとつの組織に属しながら、垣根を越えて多様な人々と共に新しいうねりをつくり出す、”イントレプレナー”としての村上さんの考え方、働き方にもご注目ください。

ボトムアップ型の新しい政府広報のカタチ

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「GREEN POWER プロジェクト」トップページより

「日本を、グリーンの力でうごかそう」。そんな呼びかけから始まるGPPのウェブページには、イラストや写真を多用した再生可能エネルギーの解説や、市民参加型のさまざまなイベントのお知らせ・レポートが並びます。

“政府広報事業”という言葉のイメージとは裏腹に、カジュアルで親しみやすい雰囲気の「GREEN POWER プロジェクト」。立ち上げるに至った背景はなんだったのでしょうか。

GPPを立ち上げた理由は大きく2つありました。1つは、再生可能エネルギーの「固定価格買取制度」を広めるための広報を行うにあたり、説明会を中心とした従来型の政府広報事業より波及効果のあることがしたかったから。

もう1つは、もはや供給サイドを支援する産業政策でのマーケットの活性化が難しい成熟社会において、どうやって需要サイドからのトレンドを巻き起こし、市場を活性化するかという、僕の長年の問題意識がありました。

政府としても力を入れていくべき分野であり、市民社会でも少しずつ関心が高まっている”グリーン”という重要な観点で、どうしたら政府=パブリックの立場を活かしてトレンドを起こせるか、その実験・挑戦として動き出したのがGPPです。

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グリーンパワーを知るためのクイズも

GPPのページでは、村上さんたち経済産業省と連携しながら、ママやキッズ、地域コミュニティといった切り口で、再生可能エネルギーを”知る”、”体験する”、”事業として取り組む”ためのさまざまなキーアクティビティが展開されています。

「自分のケータイの電気は自分でつくろう!」を合言葉に、ママたちが集まって簡易太陽光発電機をデコレーションする「エネママカフェ」、太陽光パネルづくりワークショップなどを通して、地域コミュニティの電力自給自足を目指す「わたしたち電力」、地域での自立した発電事業を促進するための短期ビジネススクール「まちエネ大学」などなど…一歩を踏み出すきっかけが盛りだくさんです。
 
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自分たちの手でエネルギーを減らしたりつくったりする「わたしたち電力」

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ママたちが楽しみながらエネルギーについて学ぶ「エネママカフェ」

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地域発の再エネ事業を促進する「まちエネ大学」

また、家庭や地域でつくられた再生可能エネルギーは、「固定価格買取制度」によって、国の定めた価格で一定期間買い取ることが電力会社に義務づけられています。発電にかかった投資を回収できれば、小さな家庭や地域レベルでも再生可能エネルギーの発電を事業として継続しやすくなります。

このように、さまざまな団体とパートナーシップを結びながら、数多くのアクションを幅広い層に向けて発信できた秘訣はなんだったのでしょうか。

GPPでは従来型のトップダウンではないボトムアップ型の広報事業を目指していたので、1年目のコアとなるプロジェクトメンバーは、上からの指示がなくともミッションに向かって自走できる人間である必要がありました。

また、単に“いいこと”や“正しい主張”を掲げるだけではなく、きちんと収益も上げて、草の根のアクションを持続的な事業活動にするためにコミットできるということも大切で、そうした観点から僕が信頼できる人たちに声をかけました。

グリーンズの鈴木菜央さんとも元々付き合いがありましたし、温暖化の国際交渉担当時代に出会った人たちもいます。

まずは組織内でやるべきことをやる。
村上流イントレプレナーシップとは。

そんな再生可能エネルギーの分野で奔走する村上さんですが、長年のキャリアからしても個人の関心としても、「根っこはIT系なんです」と、村上さんは語ります。

今よりもっと前、IT革命のはしりの頃に活動していた起業家たちとのつながりも多く、デジタルコンテンツ事業やファンドの創業支援にも携わった経験があります。

需要サイドからトレンドが生まれ、アーリーアダプターからマジョリティまで、階層性を持って市場が活性化していくという世界観や問題意識は、その過程で培われてきたと思いますし、そこで身につけたネットワーキングやファイナンス面のスキル・経験はGPPを進める上でも活きていると思います。

なるほど、ITの世界で培われてきた経験や肌感覚が、需要サイドからトレンドをつくっていくGPPという、これまでの政府広報とは違った発想につながったのですね。

とはいえ、経済産業省という政府組織の中にいながら「イントレプレナー」として斬新な事業を立ち上げるのは簡単なことではないはず。村上さんが考えるイントレプレナーシップとは、どのようなものなのでしょうか。

平たく言えば、大切なのは体力と雑用力です(笑)。イントレプレナーとして新しいことをやっていきたいと思ったなら、むしろ逆に組織の中でやるべきことを、きちっとやっていくだけの力が最低必要条件になります。

日々組織から求められる成果を出せずにクリエイティブを語る資格はないし、組織が嫌なら外に出れば良いと僕は思うけれど、外に出ると今度はリソースがないでしょ。

まず組織内でやるべきことをキチッとやりながら、余剰の時間を1割でも2割でも捻出できるか。それが責任あるイントレプレナーの第一歩ですね。

草の根の活動を“大きなうねり”に変えていくために

村上さん独自のネットワークを活かしながら、“グリーン”をキーワードに、さまざまな草の根のアクションを同時多発的に展開したGPP。

2年目に突入する2014年では、発起人である村上さんご自身が他部署に異動してしまう一方、昨年より広く大きな規模でのトレンドづくりが求められています。現在GPPの事務局を担当されている水越友香さんも交えて、今後の展望をお聞きしました。
 
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2年目のGPPの展望を語る、村上敬亮さん(左)と水越友香さん(右)

村上さん ソーシャルセクターに共通する課題なんですが、それぞれが草の根で「好きなことやって楽しいよね」というだけでは、結局コミュニティがタコツボ化して、広く一般を巻き込む“うねり”に転化しない。

この壁をどうやって越えるかが課題で、ボトムの良さを活かしたまま、”階層性のあるやぐら”を組み上げていくことが必要になります。

階層性のあるやぐらとは、いったいどういうことでしょうか。

村上さん それぞれの団体が行っていた活動の“秀でた部分”をうまく組み合わせて、より広く、一般層に届きやすく、収益性も高い事業活動につなげていくようなイメージです。

“グリーン”を切り口に、エネルギーだけでなく、地域活性やツーリズム、教育など、いろんな文脈を織り込んでいけると良いのではないかと思います。

ですが、“うねり”を起こすために異なる団体同士が連携していくと、どうしてもある程度の交渉や譲り合いは必要になりますから、草の根で始めた当初のように、なんでも自分たちの自由にとはいきません。そうなったときにどう覚悟し、どんな態度を取るか。

グリーンズ風に言うなら、“ほしい未来”は捨てないけれど、“ほしい未来”をより大きな未来にするために、純潔にはこだわり過ぎず、色々なところと必要に応じて手を組む、ということをどれだけやっていけるかが鍵になってきますよ。

そして、そのためには「モチベーションが大切」だと水越さんも続けます。

水越さん みんなを“つなげる”ということになると、ややもすると画一的なフォーマットやルールで縛ってしまいがちなのですが、それだとせっかくボトムアップで動き始めた人たちの楽しさが削がれてしまいますよね。

それぞれのアクターが活き活きと続けられるモチベーションを探しつつ、具体的な連携をできるだけ多くつくっていければと思っています。

一見相容れないように見えても、実は共通のゴールに向かう過程でそれぞれ違うアプローチを取っているだけだったりもするので、うまくそこを可視化して、GPP全体のゴールを見出していきたいですね。

これもトップダウンで事務局が押し付けるのではなく、プレイヤーのみなさんと一緒に考えていきたいし、その過程でこそ団体の垣根を越えたチームや文化が生まれるのだと思います。

最後に村上さんは力強く、こう締めくくってくれました。

村上さん 「人をつなぐのが本当の文化である」というのは鈴木菜央さんの言葉ですが、現場の個々のアクターとその周辺コミュニティでは、もうすでに文化を持っているんですよね。

狭い自分たちだけの世界に留まるのではなくて、どこまで広い範囲で、同じ文化、同じ地球人だと思えるのか。そこが、草の根のソーシャルアクションが本当の意味でうねりに変わっていくための分水嶺だと思います。

ミクロな熱い現場をつくっている人たちがいる中で、“パブリック”の看板があることを強みに、バラバラに活動している熱いコアをつなぎに入ることって、政府の使い方としてはおもしろいはず。

個別の活動を越えたコラボレーションがどれだけ生まれていくかが、2年目のGPPの大きな挑戦です。

GPP村上さんと水越さんのインタビュー、いかがでしたか? 人をつなげる本当の文化をつくること。おふたりのお話から、個人や組織の立場を越えた”大きなソーシャルデザイン”の方向性が見えてきたような気がしました。

ぜひみなさんも「わたしたち電力」をはじめ、GPPの二年目にご期待ください!