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「工作」が自然エネルギーをぐっと身近にしてくれる!親子でつくる、太陽光パネルを使ったソーラーカー [イベントレポート]

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こんにちは。ノンフィクションライターの高橋真樹です。

ぼくは、全国をめぐって自然エネルギーの取り組みを訪ねて歩いているジャーナリストです。このたび、greenz.jpに寄稿させていただくことになりました。各地ではじまっているワクワクするようなエネルギーシフトの取り組みを、どんどん紹介していきますね。

まずはじめに、自然エネルギーによる夏休み工作教室を取り上げます。そして実はここから、エネルギーとぼくたちの新しい関係性や根深い問題も見えてくるんです!

「食とエネルギー」は生きる上で欠かせないもの、という意識は誰もがどこかで感じているはずです。ところが、毎日つくったり食べている食と比べたら、エネルギーは遠い存在になってしまっているようです。

このコンセプトで、ぼくは『親子でつくる自然エネルギー工作(大月書店)』という本を出版しました。「親子でつくる」とあるように、子どもだけでなく大人にとっても新しい発見があればいいなと考えてつくったものです。

その縁もあって、8月24日に行われた「ローカルエネルギーフェスタin仙台」(主催は「エネ経会議」)というイベントで、子ども向けの工作教室の講師をさせていただきました。

太陽光パネルを使った、ソーラーカーをつくろう!

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会場は、仙台市「ゼロ村市場」のすてきなカフェ空間で

集まった10組の親子が挑戦したのは、小さな小さな太陽光パネルを使った、ソーラーカーの工作です。

材料はわずかな電力でも動くモーターと、モーターの回転をタイヤに伝えるギアを除けば、100円ショップなどで手に入るものばかりです。その分、パーツを自分で切ってつくらなければいけないので、丁寧につくらないとタイヤがガタガタしたり、ギアの回転がタイヤに伝わらなかったりと、出来映えが手づくり感満載になります。

子どもが一人でできない部分は大人が手伝うのですが、スイスイとつくってしまう娘を横目に「私はいらないみたいですね」と目を細めるお母さんや、細かいパーツに四苦八苦しながら「こういう作業は子どもの方がうまいですね」と苦笑いするお父さんもいました。
 
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親も子も真剣なまなざしで工作に挑戦

途中、パネルに懐中電灯の光を当ててもモーターは動きませんが、窓からさす木漏れ日をあてると車輪が回り出しました。それを見た子は「太陽の光ってすごい明るいんだね」と驚きます。

やっと完成したボディにカラフルなシールを貼れば、自分だけのマイソーラーカーができ上がります。そして、外に出てみんなで走らせました。

太陽が照っているうちはよいのですが、100円で買える小さなパネルでは、少し陰ってしまうと止まってしまいます。ところが、300円のちょっと大きなパネルをつけた車は、曇っていても走りました。価格の違いはみごとに性能に反映されるようですね。
 
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カラフルなシールでカスタマイズ!

今回のワークショップでは、ぼくさえも予想していなかった車も登場しました。リード線を逆に接続してしまったことで、バックして走る車が生まれたのです。普通だったらつなぎ直そうとするのですが、車をつくった男の子は、後ろ向きに疾走するユニークな姿を見ながらニコニコしていました。そうです、これはこれで成功なんですね!

「買ってくれば良い」から卒業する

今はネットで「ソーラーカー」「工作」と検索すれば、びっくりするほどたくさんの種類のキットが入手できます。

各地で開催されている夏休みの環境イベントで行われている工作教室では、ほとんどがこのような市販のキットが使われます。つくり方はプラモデルを組み立てるのと同じで簡単、しかもマニュアル通りにやれば絶対に失敗しません。完成度が高いので、つくった後もみんなで楽しく遊べます。
 
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太陽の力で走ることを実感

でもその体験を通して、子どもたちの考える力や創造力が伸びるでしょうか?ぼくは、そうした工作では結局「エネルギーは買ってくれば良い」という発想しか生まないように思います。

ぼくたちが実施したような工作教室では、主催者側はキットを買ってくるだけでは仕事は終わりません。材料を一つずつそろえたり、結構な手間がかかります。また苦労してつくっても、全員が成功するとは限りません。今回も最後まで車輪がまわらず、泣いてしまう子がいました。

でも身近な素材で一からつくれば、どういう仕組みなのかは理解することができます。それをヒントに、なぜ走らなかったか、なぜ後ろ向きに走ったのか考え、何度でもチャレンジすれば良いのです。そのような経験を通じて、考える力を養うことにつながるのではないでしょうか。ということで、夏休みが終わっても、みなさん挑戦を続けてくださいね!
 
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マイソーラーカーとともに

いま取り上げた例は、ぼくたち大人とエネルギーとの関係にも同じことが言えるようです。本当は毎日使っているはずのエネルギーが、なぜ身近ではなくなってしまったのでしょうか?

その理由は、エネルギーをめぐるシステムがブラックボックスになってしまって、コンセントから先のことにみんなが無関心になっていたことにあります。

大きな力に依存して何も考えないでいい生活は楽かもしれませんが、そのシステムに何か問題があれば、一般の人はオロオロするだけのか弱い存在になってしまうことは、東日本大震災で学びました。「その依存状態からどのように自立していくか」という取り組みは、まだはじまったばかりです。

グリーンズがやっている「わたしたち電力」もその一つで、そこでは「大人のための自然エネルギー工作」を通じてさまざまな気づきやつながりが広がっています。

一方で、「原発がなければ私たちは生きてはいけない」と思い込んでいる大人たちはまだまだたくさんいます。そう言う人たちでさえ、心の底から原発が大好きという人はほとんどいません。

ただ、他の選択肢を想像することができないのです。もしもその人たちが工作のような体験を通じて、自分たちにもエネルギーはつくることができるし、他にも選択肢があることを考える機会があったら、彼らが出す結論は違っていたかもしれません。

子ども工作教室を実施したいま、ぼくが改めて感じることがあります。それは、柔軟な発想とクリエイティビティを育むことこそが、ほしい未来を切り開いていくのだということです。

(Text: 高橋真樹)
 
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高橋真樹(たかはしまさき)
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。世界70カ国をめぐり、持続可能な社会をめざして取材を続けている。このごろは地域で取り組む自然エネルギーをテーマに全国各地を取材。雑誌やWEBサイトのほか、全国ご当地電力リポート(主催・エネ経会議)でも執筆を続けている。著書に『観光コースでないハワイ〜楽園のもうひとつの姿』(高文研)、『自然エネルギー革命をはじめよう〜地域でつくるみんなの電力』、『親子でつくる自然エネルギー工作(4巻シリーズ)』(以上、大月書店)など多数。