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空き家マッチングからキュレーター招聘まで!若手芸術家をサポートして京都のポテンシャルも引き出す「HAPS」

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「HAPS」にて昨夏開催された若手キュレーターの育成とアーティストの発表の機会提供を目的にした、夜だけのショーケースギャラリー。韓国出身のアーティスト、ヒョンギョンの作品。(c)撮影:小笠原 翔、作品:Hyon Gyon《Untitled》2013 協力:HAPS

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

みなさんは、どんなときにアート作品に触れますか? 一見無駄に見えるものこそ、実は生活を豊にする潤滑油。生きていくのに不可欠ではないけれど、それがないと毎日が殺伐としてしまう。アートはその最たるものだと言えます。

また、アートは観光資源としても有力です。観光地として世界1位の人気を誇るフランス。首都パリの中心部にあるルーヴル美術館では、2012年の来場者1,000万人のうち、69%が観光客。入場券の売り上げだけで5,800万ユーロ(日本円にしておよそ約80億円)を計上しました。(在日フランス大使館と、「ルーヴル美術館」による)

勘の良い読者の方はもうおわかりですね。アートは精神に直接作用するだけではなく、経済効果ももたらすのです。

日本ではどうでしょう? たとえば、多くの外国人観光客をひきつける京都。ここでは至るところに寺院、伝統美術・工芸品が集い、街全体がミュージアムのようです。

今日はこの古の都を舞台に、若手アーティストを支援することによって、街全体の活性化にひと役も、ふた役も買う「HAPS(ハップス)」の取り組みをご紹介します。

「HAPS」とは?

「HAPS」とは「東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス実行委員会」の略称。2007年に、京都市が若手芸術家支援のための場づくり事業を計画したことを受けて、2011年9月に設立された委員会です。

でも、芸術家のための場づくりとは、具体的に何をするのでしょうか?「HAPS」事務局ディレクターの芦立さやかさんにお話を伺いました。
 
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観光名所の清水寺や祇園にほど近い、京都市東山区の六原学区にある「HAPS」事務所。伝統工芸である京焼に携わる職人も多く住むエリアです。(c)HAPS

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「HAPS」ディレクター芦立さやかさん。(c)HAPS

空き家をアーティストのアトリエに

まず、HAPSの一番の柱は、空き家をアーティストのアトリエとして活用するプログラム。背景にはふたつの問題点がありました。ひとつめは人材の流出です。

アーティストには大きな作品を制作するための広いアトリエや、作品を発表する場が必要です。しかし美大を卒業した若いアーティストが仕事をしながら、これらを確保し、作品をつくり続けるのは容易ではありません。

京都市内には合計4つの美術大学があり、その他一般大学にも、美学・美術史を学ぶ学科があります。美を専門的に学んだ多くの学生を毎年社会に輩出しているものの、卒業後の進路は仕事の多い東京に移住したり、親元に帰省するなど、京都が育んだ人材が流出してしまうケースも多い、と芦立さんは言います。

一方で、街に視点を移してみると、老朽化し何十年も放置されている空き家が問題になっています。木造建築は、長年手入れを怠れば柱や床が腐り、損壊にもつながるだけでなく、通行人が頻繁に通る細い道に面した町家なら、事故につながる危険もあります。また空き家が増えることで治安が悪化するという懸念も。

「HAPS」が拠点を置く東山区は、実に約5軒に1軒が空き家という統計が出ていました。その中で、オフィスが位置する六原学区は、空き家対策の先進的な取組みを以前から進めています。
 
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「HAPS」ホームページでは大家さんからの空き物件を随時募集しています。

「HAPS」は2012年からアーティストに向けて、空き家のマッチングを始めました。空き家の情報収集には、ホームページで大家さんに呼びかけるだけでなく、「六原まちづくり委員会」とも連携しています。

この委員会は空き家の研究家や遺産相続の専門家、不動産や建築の専門家など、いざというときにアドバイスをくれる頼もしいメンバーで構成されています。

空き家をいったん放置すると再生には多額の修繕費がかかります。建物を壊して駐車場にしたり、海外や首都圏に住む人の別荘にしたりすれば、てっとり早くお金になるため、こうした土地活用をすすめがちです。しかし人の暮らしが営まれなければ、街の活力は確実に落ちてしまいます。

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「HAPS」のオフィスは築100年。20年ほど前から空き家でした。芦立さんらは、ワークショップを何度も重ね、のべ100名以上のアーティストやボランティアと一緒に1年かけてリノベーションしました。1階は作品展示、ワークショップ、レクチャーができる多目的空間として、2階はオフィスとして活用しています。(c)HAPS

京都で学んだ若手アーティストの流出と町家の空き家問題。一見、何の接点もない問題を掛け合わせてみたら、面白いことにいくつもの問題を解決する方法が見えてきたのです。

実はアーティストが空き家に住むことは、もうひとつの利点がありました。アーティストなら何と言っても手先が器用。ちょっとした壁塗りや大工仕事だってお手のもの。

大家さんが認めてくれれば、アーティストが自ら改修することもOK。借りた後のほうが不動産価値を高める場合もある、と芦立さんは言います。

アーティストって万人が「え!?」と驚くような古い物件でも「こんなおもしろい物件がある!」と、そこに魅力を見いだす人がたくさんいます(笑)。

ちょっと変わった人のように思われがちですが、彼らの思考回路ってすごく豊か。独自の審美眼と、視点を持っていて、それが世界を喜ばせるんです。それに何より、人とのつながりをとても大事にしているんですよ。

マッチングをはじめて3年目。当初、マッチングの年間目標は5軒だったところから、昨年度はその3倍近くのマッチングを成功させました。

アーティストが制作を続けやすい環境をつくることで、「芸術家がいてよかった」というふうに感謝してくれる方も増えると、次の世代のアーティストも制作を続けやすくなる。アーティストも、地域の方も双方に住みやすい街をつくっていけるのではないかと思っています。

お金じゃなく、ネットワークを活用して!

「HAPS」のホームページでは、アーティストと芸術家を支援する地域の人々、双方から様々な相談を受け付けています。

アーティスト側からは「企画展の内容について相談したい」「展覧会のレビューを書いて欲しい」、「トークイベントをするので、ふさわしいゲストを紹介して欲しい」など。

またアーティストを支援する側からは「作品をつくって欲しい」など、様々な相談が寄せられます。

アーティストからは「作品づくりのためにマッチが何万本必要なんです」など、思いもよらぬ相談が来ます。また一方で芸術家を支援する地域の方からは「毛布が大量にあるけど、使わないか」など、本当に色んな相談を受けています(笑)

結局この毛布は彫刻家の作品梱包に上手く使うことができたのですが、こうして必要な人のもとへ必要なものをうまくあてはめて、みんなが悩みを解消しハッピーになれることを目指しています。

アーティストと街をつなぐことで、ちょっと困る不要品までも、循環させることができるなんて、街に住むあらゆる人に嬉しい仕組みです。こうして、昨年度はアーティストから138件、支える人から132件もの相談を受けました。

「HAPS」は京都市からの補助金をベースに運営しています。公共的な活動としてのアーティストサポートであり、モットーは「ネットワークを活用すること」。アーティストにお金を出資するのではなく、あくまでも独自の情報網を駆使し問題解決のお手伝いをすることを目指しています。
 
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「HAPS」ホームページには「アーティストのよろず相談受付中」として、随時アートを軸に、あらゆる相談を受け付けています。相談はホームページから。

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マッチング事例のひとつ。「私立探偵 濱マイク」でおなじみ林海象監督がプロデューサーを務める「北白川派」が大学の授業の一環で撮影ロケ地を探していたところ、大家さんからご相談いただいていた京都市内にある庭付き一軒家に条件がぴったりで紹介しました。さらに、たまたま他の空き家に置き去りにされ廃棄に困っていた昭和レトロの家具群も見せたところ、セットに活用されました。(c)HAPS

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今年、新たにマッチングが成功し、女性アーティスト6人のシェアスタジオとなった「punto」。マッチングは、借りたい人、貸したい人の条件を細やかに調整し、慎重に行います。契約は主に大家さんと借り手との間で直接契約のかたちをとることが多いそう。(c)HAPS

京都と世界をつなぐハブ

「HAPS」のもうひとつの大きな仕事は「キュレーターの招聘」。キュレーターとは美術館などでアート展を企画したり、若手の作家を発掘する人のこと。

いくら若い作家が作品をつくったところで、作品を家族と友人だけに見てもらっているだけでは、アーティストとしての道は開けません。芸術家になるには、特にアーティストと観賞者をつなぐ、キュレーターの目にとまることが、とても大切なのです。

「HAPS」はこれまで世界的なアーティストの展覧会を企画してきた名キュレーターを招聘し、レクチャーやシンポジウムを開催してきました。また同時に京都市内に点在する若手作家たちのスタジオをめぐり、これまで何十人もの若手作家と引き合わせてきました。

京都には海外から芸術家を招いて滞在しながら制作してもらう施設はすでにいくつかあります。しかしここでは、むしろ京都にいるアーティストをどう国内外に発信していくか、という方に重きを置いています。

海外からキュレーターを招聘し、シンポジウムなどを行うと、お互いにお互いの国や地域のことを知るよい機会にもなるし、キュレーターが自国に帰ったときに「京都ってこんなに良い街だ」「こんな素敵なアーティストがいる」「『HAPS』っておもしろいよ」と言ってもらえたら、最大の広報効果を生むんじゃないかと思うんです。

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2013年9月にはクイーンズランド・アートギャラリー|ブリスベン近代美術館のキュレーター、ルーベン・キーハン氏をゲストにトークイベントを開催しました。ルーベン氏はアジア・パシフィック現代美術トリエンナーレなどの企画に携わる、国際的なキュレーターです。(c)HAPS

芦立さんは横浜育ち。学生の頃は東京の美大で、美術の展示などを企画・運営するアートマネージメントを学びながら、日本屈指の現代アートのギャラリーでアルバイトをし、また横浜のアート施設「BankART1929」で企画・運営にも携わってきました。

さらに2010年には1年間、NYを拠点にするアーティスト・イン・レジデンスのコーディネイトを行う施設でインターンとしても勤務しました。東京、そして世界、それから拠点を京都に移して3年。芦立さんの目に、京都はどのように映るのでしょうか?

日本の他の地方都市で起きているアートシーンは、大きな現代美術館がひとつ「どん」とあって、それを中心に動きがある場合が多いです。でも京都は街のあちこちで小さな動きがたくさんある、言わば”ソフトパワーに溢れた街”だと思います。

例えばアーティスト達が何人かでつくるシェアスタジオも、ざっと20~30軒はあるんですよ。

だからこそ、「HAPS」がアーティストに対して予算を出すのではなく、ネットワークを提供するというだけで成り立つのではないでしょうか。アーティストに空き物件を貸そうという方が集まっているだけでもすでに街として大きな価値だと思います。

「この困難な時代に生きる芸術家たちを支えること。美術という一つのジャンルを守ることではなく、私たちの社会全体の豊かさを維持」する。これは「HAPS」のホームページに書かれた一文です。

芸術家に優しい街が、気づいたらみんなに住み心地の良い街になり、同時に街の風景も守られていったら、素敵ですね。美には人の心を潤す、魔法のちからがあります。私たちは今こそ、その価値を見直し、守り、豊かな社会というバトンを渡していくことが必要なのではないでしょうか?

「HAPS」は京都に住むアーティストだけでなく、京都に住みたいアーティストをも支援します。また京都在住のアーティストに作品をつくってもらいたい、という相談も承ります。アーティストではないあなたも、アートを介して、豊かな社会に貢献してみませんか?
 

「アイス大作戦~30秒で手に入れろ!~」
日時:2014年8月8日(金)~10日(日)14:00〜20:00
場所:京都市東山区松原通大和大路東入る三丁目(六道珍皇寺の東側)
参加費用:無料
※参加にはチラシに附属したチケットが必要。チラシはイベント期間中松原通りの協力店にて入手可能です。

問い合わせ:HAPS info@haps-kyoto.com