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“100%地域に向き合う”働き方って?茨城の里山で活動する地域おこし協力隊「Relier(ルリエ)」長島由佳さんインタビュー


常陸太田市里美地区の里山の風景

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

「地域おこし」というと、皆さんはどんなことを思い描きますか?

活気のあるイベントを催したり、新しい名産品を考えたり、さまざまな形がありますが、今回は”外部ならでは”の視点でその土地の魅力をアピールすることに挑戦した、ひとりの女性をご紹介します。

お話を伺ったのは、茨城県の常陸太田(ひたちおおた)市で、「地域おこし協力隊」として3年間現地で活動をしてきた長島由佳さん。今年3月で任期を終える彼女に、この3年間の成果と地域おこし協力隊を通じて感じたこと、得たものについて伺いました。

継続的な地域おこしの仕組みを残すチャレンジ

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長島由佳さん

長島さんが地域おこし協力隊として常陸太田市に移住したのは、2011年4月のこと。活動の中心となった里美(さとみ)地区は、豊富な農産物ともおいしい湧き水に恵まれ、”日本の原風景”ともいえそうな自然豊かな里山です。そこで出会った4人の女性メンバーと、フランス語で「つなぐ」「結ぶ」を意味する「Relier(ルリエ)」というチームを組み、現在も活動を続けています。

特に「里美のおかあさんが作る料理のおいしさに魅了された」と言う長島さん。食や水をはじめ、地元のものを、地元に住む人びとが価値を見出すことで、地元を誇りに思う気持ちが生まれるのでは?という思いから、”誇りの醸成”を活動のキーワードとしています。

おかあさんたちの料理は、旬のものを”いいあんばい”で調理するので、レシピがないんです。代々受け継がれてきた味に、家族への思いや、時代に合わせた調理法が加わって、さらに進化していく。この”あんばい”こそとても価値があると思いました。

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地元のおかあさんたちに「家の味」を習う料理教室

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地元のデザイナーとコラボし制作された卓上レシピ。おかあさんたちの味が詰まっています。

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里美自慢の水を使用し商品化した里美珈琲

他にも地元の酪農家さんや職人さんに協力してもらい、里美地区を学びのフィールドにするインターンシッププログラムをつくったり、ご近所に住む人の夢を応援するためのコミュニケーションの場「one day cafe 里美の休日」をオープンするなど、さまざまな活動に取り組んでいます。
 
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地元の職人さんに触れ合い学ぶ現場

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one day cafe 里美

地元の人たちと連携して生まれた「里美御前」

ルリエによる活動の成果のひとつが、里美の食の粋を集めた「里美御前」です。これを目玉に期間限定のレストランをオープンしたところ、県内多くの方が足を運んでくれたそう。

はじまりは「料理教室を開こう」とおかあさんたちに相談したことでした。でも、おかあさんたちにとっては普通のものだし、教えるほどでもないという感じで(笑)。まずはその普通にいただいている旬のものに価値があることに気づいてもらうことが、大切なのではと感じましたね。

旬のものが採れると、里美のおかあさん達は腕をふるって家に伝わるお料理をつくるんですが、ここでは必ず多めに仕込むんです。それは、最近会っていない”あの人”へのお裾分けになる。そうやって食を口実に、人とつながるシステムができあがっていて、私にはとても新鮮に見えました。それも昔からのことなので、おかあさんたちには普通なんだけど(笑)

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「里美御膳」

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里美御膳のメニューはおかあさんたちとあれこれと試行錯誤したそう

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お客様にお料理の説明をするおかあさん

秋冬の2回だけ開催された限定レストランでは、おかあさん自ら、お客さんに料理説明する光景もあり、とても貴重な体験になっている様子。自分の口で里美の食材や料理の良さを話してもらうことで、改めてその価値を自分たちで確信できるのです。

きっと素人の自分だからこそ気づける価値ってあると思うんです。だから敢えて多角的な視点を持つことを大事にしましたね。大切なのは、地域の人になんでも、何度でも相談すること。それを繰り返すことで、「自分たちの地域のことなんだから、自分たちががんばらねばね」というふうに意識が変化していくんです。

100%地域に向って働くこと

今でこそ地域に根を下ろした活動をしている長島さんですが、もともとは海外で平和に関する仕事がしたいと思っていました。そこで大学卒業後は都内の旅行会社に勤務することに。そこで「今の自分の仕事が、いったいどの部分をしているのかわからなくなってしまった」と言います。

むしろ自分が100%向き合えるような仕事がしたいと思ったんです。1から10までをつくりだす仕事とは何か。自分は何に向って仕事をしていきたいのか。あれこれ考えていた時に協力隊のお話をいただいて。

その後、2010年の年末に協力隊として里美地区に行くことが決まりますが、翌年の3月、震災が起こります。不安もあったそうですが、里美地区側が受け入れてくれるということで移住を決意。行くからには「何を残せるかにこだわろう」と決めていたそうです。
 
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任期終了を前に、都内で行なわれた卒業式で3年間の総括を紹介する長島さん

この3年間、里美という土地に、人に100%向き合って仕事ができたことは、本当にいい経験になりました。里美御膳ひとつにしても、実現するまでの道のりは長いものでしたが、レストランでにこにこ接客するおかあさんたちを見ていたら、「あ、この笑顔が見たくて仕事してたんだ」って気づけたり(笑)

3年目に入るころには「里美に残る決意をしていた」という長島さん。今はこれまでの経験を生かし、街おこしの事業化に挑戦しています。

例えば、地元のデザイナーさんとコラボして、旬の素材を添えた卓上レシピを販売したいと思っています。里美のおかあさんの味をそのまま届けたいですね。

といいつつも、まさか自分が事業を起こすなんて、考えてもいなかったと長島さんは笑います。そこに至ったのは、ひとえに里美への愛着と人とのつながりでした。
 
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地元の方と混ざり合い、つながりながら100%地域に向って働く現場

協力隊としての仕事は、地域の人たちが自ら継続的に地域おこしができる仕組みをつくることでした。そして実際に里美に住んでわかったのは、地域には「稼ぎになる仕事」と「地域を維持するための仕事」があるということです。地域の高齢化が進めば、当然、地域を維持する力も弱くなります。だからこそその部分を事業という形で、解決していけるといいですね。

面白いのは、ローカルにどっぷりつかればつかるほど、自分の世界観がどんどん広がっていくのを感じることです。里美の人達、自然、土地にあるお料理や風習、すべてが好きです!

東京にいるときはヒールを履いていた長島さんは今、足になじんだスニーカーで里美を日々駆け回っています。

ひとりの女性が出会った、100%向き合える場所としての里美。そんな場所を探したい!と思っている方は、その空気に触れるために訪れてみませんか?

おかあさんたちのおいしいお料理も待っています。