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音楽の楽しさを子どもたちと共有したい!東京都交響楽団の体験型プログラム

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特集「音楽の街づくりプロジェクト」は、音楽の力を通じてコミュニティの未来をつくるプロジェクトを紹介していく、ヤマハミュージックジャパンとの共同企画です。

小中高生がプロのオーケストラと一緒に大ホールの舞台に立ち、2300人の観客を前に演奏する。そんな、楽器を習っている子どもにとって夢のようなプログラムが毎年夏に開催されています。東京都交響楽団(略称:都響)が主催する「都響とティーンズのためのジョイントコンサート」です。

都内各校から集まった子どもたちは、2か月間都響メンバーによる演奏指導を受け、仲間たちとの交流を深め、本番を迎えます。1999年に始まったこのプログラムは、たくさんの子どもたちに「共に音を奏でる喜び」を味わう機会を提供してきました。

2012年・2013年のジョイントコンサートでは、まだ楽器を演奏したことがない子どもたちにも音楽の楽しさを体感してもらうため、ヤマハ「音楽の街づくりプロジェクト(おとまち)」チームと協力して「手づくりトランペットワークショップ」や「ピアノ解体ショー」、弦楽器や管楽器に触れられる「楽器体験」といったミニイベントも実施。来場した子どもたちは目を輝かせ、全身で音楽の魅力を学んでいました。

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一般的に、オーケストラというと「演奏者」と「観客」がはっきりと分かれているのが普通ですよね。なぜ都響は、こうした体験型のプログラムに力を入れているのでしょうか?

「おとまち」チームと一緒に音楽によるまちづくりの可能性を探る本連載、今回は東京都交響楽団広報・営業部の前田明子さん、長年ジョイントコンサートのとりまとめをしてきた浜田一夫さん、第1ヴァイオリン奏者の沼田雅行さんにお話を伺いました。

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左から浜田さん、前田さん、沼田さん

オーケストラを、もっと身近な存在に

上野の東京文化会館に本部を置く東京都交響楽団は、1965年に都が設立したオーケストラです。都内全域に音楽を届けることを使命とし、伊豆諸島などの離島や福祉施設・病院へも出張。小さなものを含めると、年間200回以上演奏会を開催しています。

また、音楽教育にも力を入れていて、都内各市区のホールへ出向き、地域の小中学生を対象とした音楽鑑賞教室を年間60回実施。東京都の多くの子どもたちは、大人になるまでに一度は都響の演奏に触れることになっています。

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ただ、そうして演奏会を開くと、少し気になることがあるといいます。それは、市民にとって、クラシックやオーケストラが遠い存在に感じられていること。

前田さん アンコールの演奏中に、生徒たちから自然と手拍子が沸き起こったことがありました。そうしたら、先生から謝られてしまったんです。「うちの生徒たちが勝手に盛り上がってしまってごめんなさい」と。

こちらは全くそんなこともを考えもしなかったのですが(笑)。「クラシックは大人しく真面目に聴かなければいけないもの」という固定観念は音楽の楽しみを限定してしまう気がします。

沼田さん クラシック音楽は今でこそ“クラシック(古典的なもの)”とされていますが、当時の人にとっては流行のもののひとつでもありました。また、オーケストラも、ヨーロッパでは「うちのまちのオーケストラ」として親しまれていて、まちを歩いていると「昨日の演奏よかったよ」と声をかけられるような、身近な存在なんです。

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第1ヴァイオリン奏者の沼田さん

日本ではクラシックやオーケストラというと別世界のものと捉えられがちですが、本来それらは日常生活の延長線上にあるもの。都響のメンバーには、「聴きに来てくれる人との壁をなくしたい」という想いがありました。

上手く演奏できなくてもいいから、音楽の楽しさを知ってほしい

そうした中、音楽教育の新たな試みとして、1999年に「都響とティーンズのためのジョイントコンサート」が企画されました。今ではたくさんのオーケストラが青少年との合同演奏をしていますが、当時はまだ珍しく、日本での先駆けとなる試みだったそうです。

前田さん 最初は応募も少なかったんですが、プロと一緒に演奏できるって、中々ない機会でしょう。年を重ねるごとに応募が増え、今では参加者を抽選で絞らなければいけないほどの人気プログラムとなっています。

小中学生50人、高校生50人。学校も、年齢も、演奏経験も異なる子どもたちが集まり、2か月間都響のメンバーから指導を受けながら練習を重ねる。そこにはたくさんのドラマが生まれるといいます。

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浜田さん できないことを恥だと思って泣いてしまう子がいます。でも、まだ小さいんだし、これはひとつの通過点。「全部演奏できなくてもいいから、いまできることをやればいいんだよ」と教えます。大きくなったら、あの時演奏できなかった箇所ができるようになった。それでいいんだ、と。

沼田さん 子どもが上手く弾けずにいたので、見学していたお母さんが譜面を持って子どものそばに行き、叱りはじめたことがありました。「お母さん、それは私の仕事です」と(笑)これでは、子どもは音楽を嫌いになってしまいますよね。ここでは、音楽の楽しさを知ってほしいと思っています。

完成度の高い演奏会を開くことが目的だったら、上手な子を集めて、簡単な曲を演奏すればいい。でも、ジョイントコンサートの目的は、子どもたちが音楽を楽しむこと。ここで出会った仲間たちと、それぞれがベストを尽くし挑戦をしながら、音楽を奏でる楽しさを味わうことが一番大事なのです。

前田さん シーンとした会場内で、みんなが「大丈夫かな」と固唾を飲んで見守る中、オーボエが「白鳥の湖」を吹き始める。その瞬間は感動的ですよ。緊張していた子が、2300人の会場を前に、都響のメンバーをバックにして堂々とソロを務めるんですから。すごい成長ですよね。一生に一度あるかないかの、素晴らしい経験になると思います。

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浜田さん 本番後のインタビューで、「お母さんが申し込んだから仕方なく参加しました」とバカ正直に答えた子がいて、「あいつ〜!」って頭を抱えたんですが(笑)、次の年には「今年は自分で申し込みました」って。楽しかったからまた参加したい、そう思ってくれるのが嬉しいですよね。

このプログラムに参加して音楽の楽しさにどっぷりと浸かり、その道に進む子も多いのだそう。

浜田さん 「音大に受かりました」と手紙が来たり、都響の演奏会のとき「ジョイントコンサートに参加した○○です」と話しかけてくれたり、オーディションを受けにきたり。15年も見ているとそんな風に色々な形で戻ってくる子がたくさん出てくるんですよ。まるで鮭の放流をしているみたいに(笑)「あのときの子がこんなに大人になって…」と感慨深いものがあります。

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1回目からジョイントコンサートを見守ってきた浜田さん

ジョイントコンサートの経験は、音楽が一生の趣味になる強力な動機づけとなっているようです。

通りかかった人が気軽に立ち寄れる仕掛け

そんな風にとても良い効果を生んでいるジョイントコンサートですが、2か月間の練習に参加するのは、少しハードルが高いもの。そこで、初心者でも気軽に参加できるワークショップを開催して広く入り口をつくることにしました。

前田さん でも、都響にはワークショップのノウハウはありません。何かないか調べていたところ、ヤマハさんがホースやクリアファイルでトランペットを手づくりするキットを持っていて、それを使ったワークショップを行っていることを知り、お問い合わせしました。

このキットは、子どもたちに「身近な素材で楽器をつくれる」という発見を提供し、親子でコミュニケーションを図ってもらうためにヤマハが開発したもの。ジョイントコンサートに合わせてワークショップを企画したところ、瞬く間に定員に。小さな子でもちゃんと音を出せていたそうです。

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沼田さん 通りかかった大人たちも、「貸して、貸して」と盛り上がっていましたね。実は、楽団員からも大好評で、「うちも参加させて」って(笑)楽団に所属していても、なかなか家族と音楽の楽しさを共有できる機会ってないんです。気軽に参加できるこのワークショップは、良いきっかけになるのではないかと思います。

同時に開催した「ピアノ解体ショー」も、人が殺到して身動きが取れなくなるほどの大人気。「楽器体験」コーナーにもたくさんの親子連れが訪れたそうです。

前田さん プロが軽々と吹いている楽器も、自分が吹いてみると全然音が出なかったりする。そういう体験をしてから演奏を聴くと、すごさがわかりますよね。ジョイントコンサートの演奏を聴く子どもたちの目の輝きが変わるのを感じました。

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沼田さん 演奏家だけでは、オーケストラは成り立ちません。楽器をつくる人がいて、会場を設営してくれる人がいて、営業や広報といった裏方を担当してくれる人がいて、観客がいて…と、さまざまな人がいてようやく演奏会を開くことができます。色々な役割があるから、色々な入り口があったほうがいい。ここで楽器の楽しさ、音楽の楽しさを知った子が、将来何らかの形で音楽に関わってくれると嬉しいです。

こうしたミニイベントは、おとまちスタッフの提案により、扉が閉まった教室ではなく、人通りがあり周りから見える場所で開催しました。前田さんはその提案に感心したそうです。

前田さん 「分厚い扉の向こうに何か楽しいことがある」っていうことじゃなくて、通りかかった人が見学して、ぷらっと立ち寄れる。そういうことって大事ですよね。

やっぱり、クラシックに馴染みがない人にとって、コンサートを聴きにいくのはハードルが高いと思うんです。「よし行くぞ」って気負わないといけない。でも、東京文化会館は、上野公園の中にあり、たくさんの人が通る恵まれた立地にあります。それを活かして、通りかかった人が「なんか面白そう」と気軽に立ち寄ってもらえる仕掛けを作りたいと考えました。

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「当日、誰が来ても楽しめるコンサートにしたい」という目的は、おとまちとのコラボレーションにより見事実現。延べ1,000人以上の来場者があり、たくさんの人に音楽の楽しさを知るきっかけを提供することができました。2012年、2013年と開催したこのプログラムは、今後も継続して行っていく予定です。

オーケストラが社会や地域にできること

こうしたさまざまな活動をしながら、都響のみなさんは「オーケストラが、社会や地域にできることは何だろう」と考え続けています。

前田さん ロンドン五輪の開会式で、地域の子供たちとロンドン交響楽団によるジョイント演奏があったのをご存知でしょうか?

ロンドン交響楽団は五輪会場となった東ロンドン地区にある世界的なオーケストラで、独自の教育プログラムとして地域の子供たちに弦楽器の指導を行っていました。東ロンドン地区は移民も多く、人種的にも経済的にも多様な人々が暮らす地域で、英語が話せない方も珍しくはないそうです。

ロンドン交響楽団はそうした地域の子供たちに7年間にわたり楽器指導を行い、五輪開幕式という晴れ舞台で一緒に演奏を行ったのです。さまざまな背景を持つ人間が、“違い”を乗り越えて音楽という共通項で結ばれる素晴らしいプロジェクトだと思いました。

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海外の事例にも詳しい前田さん

南米のベネズエラでは、子どもたちに無償で楽器と音楽指導を提供する「エル・システマ」という青少年のための音楽教育プログラムが実施されています。集団での音楽体験を通じて忍耐力や協調性、自己表現力を身につけるためのもので、犯罪や非行への抑止力になるといった効果が認められているといいます。

前田さん クラシックというと、「お金持ちのためのもの」と思われているところがありますよね。でも、「エル・システマ」のケースのように、貧困層を集めて習わせると、実はそこに才能が眠っていたりする。それで、本来だったら不良になってしまったような若者たちが、演奏を通して人を感動させてしまったりするんです。

ラテン系で自由の血が流れているから、アンコールで立ち上がって演奏したりして、すごい盛り上がりなんですよ。「音楽には社会を変える力がある」と実証した素晴らしい例です。

都響の音楽鑑賞教室で指揮者体験を行ったとき、手を挙げた不良っぽい子を指名したことがありました。先生たちは「なんであの子を指名しちゃったんですか」と心配しましたが、彼は舞台にあがるとちゃんとシャツを閉まって身なりを整え、お辞儀をしたそうです。音楽には、人を素直な気持ちにさせてしまう不思議な力があるのかもしれませんね。

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前田さん ヨーロッパでは、作曲や即興演奏を子どもたちにどんどんさせるんです。オーケストラが「音楽はクリエイティブな人材の育成に役立つ」と説いていて、そういうプログラムが学校教育に取り入れられています。プロの立場だからこそ説得力を持って言えることってありますよね。私たちも、そうした音楽の持つ力をもっと伝えていかなくちゃいけないと思っています。

でも、それには実際に自分が体験して感じるのが一番効果的なんですよね。理屈を並べるよりも、体験してほしいんですよ。

音楽が、社会や地域、教育に与える影響は、観客動員数のようにわかりやすく数値化できるものではありません。まずは実際に体験してもらうこと。そして、その生きた事例を広く発表していくこと。それが都響にできることだと前田さんは考えています。

今回、ヤマハさんと組んで、別の団体とコラボレーションする可能性を感じました。「手づくりトランペットワークショップ」も、普段ヤマハさんが楽器店でやっているものかもしれない。でも、都響のメンバーが教えて、一緒に演奏することで、より一層価値が生まれますよね。ヤマハさんだけではできないこと、都響だけではできないことが、一緒に取り組むことで可能になるんだと思いました。今後も扉を閉めず、さまざまな業界とコラボして、音楽の楽しさを伝えていきたいと考えています。

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インタビュー中、都響のみなさんからは次から次へと音楽にまつわる楽しいエピソードが飛び出し、「音楽の素晴らしさを共有したい」という気持ちが溢れんばかりに伝わってきました。

今年のジョイントコンサートは東京文化会館の改装のためお休みですが、来年は再開し、今後も継続していくそう。そのほかにも都響ではさまざまなコンサートや体験型プログラムを用意しているので、興味のある方は参加してみてはいかがでしょうか。きっと、「音楽っていいな」と感じられると思います。

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