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地元ガイドと歩いてこそ見えてくる景色がある。地域の”宝”を探す「エコウォーク」仕掛け人・諏訪部裕美さん

「木1本、草1本、島外に持ち出してはならない」という言い伝えがある荒島は、ほぼ手付かずの天然林に覆われています。林家の佐藤さんの解説で、巧妙な生態系の仕組みが次々と見えてきます
「草1本も島外に持ち出し禁止」という言い伝えがある荒島は、ほぼ手付かずの天然林に覆われています

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

みなさんは人に自慢できるくらい、自分の地元を愛していますか?

住み慣れた土地の魅力を自力で発掘するのは、案外難しいものです。近すぎて見えない価値に気付くには、客観的な助っ人が必要。そんな助っ人として全国を精力的に飛び回っているのが、日本エコウォーク環境貢献推進機構の事務局プロデューサー、諏訪部裕美(すわべ・ひろみ)さんです。

そこにしかない風景や文化や食や人は地域の“宝”。諏訪部さんは、地域の人と一緒に宝探しをして、その魅力に磨きをかけて「エコウォーク」というストーリー性のあるガイドウォーク・ツアーをつくり上げています。

エコウォークのガイドは必ず地元の人

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(右から)地域資源マップを制作する鈴木さん、佐藤さん、山内さん

2014年早春、諏訪部さんは、宮城県南三陸町で初開催するエコウォークに向けて、東北大学生態適応センターなどから専門家を町に招き、地域の人たちと一緒に“宝”探しを進めていました。

ツアー客を先導するガイド役は、地元の佐藤太一さんと鈴木卓也さん。この2人の若手を推薦したのは、NPO法人「東北開墾」の理事の山内明美さんでした。山内さんも地元、入谷(いりや)地区の出身で、ツアーづくりに全面的に協力しています。

佐藤さんは、森林経営や不動産賃貸を営む株式会社佐久(さきゅう)の取締役。現社長の父親は森林組合長で、町内有数の山主でもあります。ツアーでは佐藤家が所有する荒島(あれしま)や山林に参加者を招き入れて、その豊かな自然をガイドします。

鈴木さんは、環境調査のプロフェッショナル。波伝谷(はでんや)地区にあった「農漁家民宿 かくれ里」の管理人でしたが、職場を津波で流失しました。南三陸の自然全般に精通している鳥博士です。

諏訪部さんは、エコウォークのキャッチコピーに「地元の人と歩かなきゃ見えてこない景色があります」という言葉を掲げています。

テーマパークのような「非日常」ではなくて、「異日常」を味わうのがエコウォークの醍醐味です。ガイドは地元の方に限りますね。違うライフスタイルを体験することで、訪ねた人も住んでいる人も、どちらも幸せになれるんですよ。

南三陸では、エコツアー創出と並行して、全戸に配布するA1判の地域資源マップも制作中です。被災地イメージを町本来の自然の魅力で明るく塗り替え、誇るべき宝の数々を住民に再認識してほしいと考えています。

輝く山と川と海が南三陸の宝

今年3月6日、南三陸でエコウォークの下見が行われました。集合場所に駆け付けた地元ガイドの鈴木さんは、町内で保護したオオワシを盛岡市動物公園に送り届けてきたばかり。なんでも、志津川湾でおぼれていたオオワシを漁師さんが網で救出したのだそうです。

オオワシと言えば、国の天然記念物。風格あふれるモノトーンの体に黄色い脚先とくちばしが映えるカッコイイ猛禽類です。めったに見られる鳥ではありません。山林の食物連鎖のトップに君臨するオオワシがくるのは、生態系が健全な証拠です。

南三陸町はアルファベットのCのような形をしています。町を縁取るように山が並び、そこに降った雨がすべて志津川湾に注ぐという特殊な地形が自慢。コンパクトなのに、山も川も田畑も海も島も、ひと通りの自然がそろっています。

そんな南三陸を舞台にしたエコウォークのタイトルは、ズバリ、「山主と歩く、島から山へ しづがわ湾源流エコウォーク」。地域の人たちが丁寧につむぎだしたストーリーに沿って、海から水源へ、歩いて水の旅をさかのぼります。

出発前にストレッチや歩き方を指導してくれたのは、入谷地区在住の阿部代子さん。ノルディックウォーキングのベーシックインストラクターです。こうした町の貴重な人材が、ツアーをサポートしてくれます。

エコウォークのストーリーは随時更新され進化します。ここでは、下見ツアーの中から、南三陸の宝の一部をご紹介します。

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阿部代子さん

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魚つき保安林でもある荒島。島主で林業家でもある佐藤さんのガイドで、巧妙な生態系の仕組みが見えてきます

五感をフル稼働して島の自然を堪能した後は、山のふもとの川辺に移動
ミヤマシキミの葉の香り、見事なタブノキの樹幹。五感をフル稼働して島の自然を堪能した後は、海から川をたどります

魚の群れが泳ぐ水尻川の支流をさかのぼり裏山に入ると、木々の間からカモシカがのぞいていました
魚の群れが泳ぐ小川をさかのぼり裏山に入ると、木々の間からカモシカがのぞいていました

林床はスギの葉のじゅうたんでふかふか
林床はスギの葉のじゅうたんでふかふか。足元のフキノトウは方言で「バッキ」と呼ぶそうです

足元のフキノトウは、方言で「バッキ」と呼ぶそうです。200メートルほど登れば水源です
200メートルほど登れば水源に到着! 分水嶺(ぶんすいれい)を眺めながら、お茶を飲んで休憩します

3月25日の本番(あいにくすでに満員です)には、間伐の体験作業も予定されています。お昼は地元のお母さんたちが地元の食材で作ったお弁当を、志津川地区のお宮の社務所でいただきます。

お弁当箱は、地元出身の設計士が、いまや希少な「気仙大工(けせんだいく)」とともに、地元の間伐材でこしらえた特製品です。ツアーマップも、極薄にそいだ間伐材を1枚ずつ表紙に貼ってオシャレに仕上げました。

諏訪部さんプロデュースのエコウォークは、「映画みたいにワクワクするように」ストーリー性を意識して構成されています。でも、ストーリーから外れた、地元の人たちとのちょっとした会話も、これまた捨てがたい魅力なのです。

都市にはない時間の累積

山のふもとの道端に、大小さまざまな石碑が見えました。「やっぱり天明の大飢饉のが多いねー」なんて会話が聞こえます。なんとこれ、先祖が埋葬されている旧墓(きゅうぼ)だそうです。地域の人にとっては当たり前のようですが、江戸時代の史跡が道端にさりげなく点在する風景は素敵です。

このあたりでは、家系図を5、6代さかのぼれる人が普通だとか。一緒に歩く方たちも、復興商店街にも出店している老舗商店の親類だったり、阿部さんや佐藤さんという苗字が多くて本家と分家という関係だったり、古くから土地とつながって暮らしてきたことを感じます。

そういう方たちが案内してくれるからこそ、驚くようなディープな話が道中ぽろぽろと出てくるのです。「あれはチリ津波で…」「確か、あれは昭和の津波で…」と、この町を襲った歴代の津波の話題がよく出るのも印象的でした。それでも住み続けるだけの価値ある自然に恵まれた土地だったとも言えるでしょう。

途中で通った「大船」という地名は、かつて津波で大きな船が流されてきた名残だそうです。他にも、波が伝わる谷と書く「波伝谷(はでんや)」など、南三陸には津波にちなんだ地名がいくつもあります。

波にすべてをさらわれた平野部では、ひっきりなしに工事が続いています。高台移転の工事で発生した土による「かさ上げ盛り土」が進み、海岸には電柱ほどの高さの防潮堤建設が計画され、震災3年後の今、町の風景が大きく改造されつつあります。現在進行形の複雑な事情についても、目や耳から生の情報が入ってきて、非常に考えさせられました。

エコウォークは着地型

日本エコウォーク環境貢献推進機構は、観光立国推進法とエコツーリズム推進基本法の施行を背景に2007年に設立しました。事務局は、諏訪部さんの勤務先である博報堂に置かれています。

s_ms.suwabeエコツアーのスペシャリスト、諏訪部裕美さん。このカチューシャはバナナの皮だそうです!

お気に入りの熊野古道に30回も通うほど自然の中を歩くのが好きな諏訪部さんは、2009年にエコウォークの担当になりました。「社会課題を解決する仕事がしたい」という夢が実現して、各地域に惚れ込んではツアーづくりに打ち込む日々を送っています。

博報堂は、50近い企業・団体から成る「海と田んぼからのグリーン復興プロジェクト会議」の一員です。この会議体の一部として、「東北グリーン復興 事業者パートナーシップ」があります。事業者と復興プロジェクトをマッチングして東北のグリーン復興を加速する取り組みです。

東北グリーン復興 事業者パートナーシップでは、4つのキーワード「食歩学守(しょくほがくしゅ)」を掲げています。エコウォーク活動は、この「歩」の部分を担っています。そして、平成25年度復興庁「新しい東北」先導モデル事業として、宮城県の塩竈市浦戸諸島と南三陸町で新たにツアーを立ち上げました。

諏訪部さんは、エコウォークの魅力を熱く語ります。

エコウォークは、地元でつくって地元にお金が落ちる着地型のツアーです。ガイド料の一部(最低1割)を寄付などで地域貢献に役立てるのが成立条件ですが、なんといっても歩く旅ですから、元手はほとんど要らず全国どこでも可能です。「ガイド」と「プログラム」と、「やる気」さえあれば、どんな地域だって立ち上げることができますよ。

一般的な観光ツアーではなかなか見えてこないディープな地域の魅力に触れることができるエコウォーク。歩く速度で、ひとつひとつ、その土地の物語が体に浸透してくるような旅だから、「また来たい」「また会いたい」という思いが高まります。四季折々自然も変わるので、実際、何度行っても楽しめそうです。

宮城県沿岸部の過去、今、未来を体感しに、出かけてみてはいかがでしょうか。