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番組制作は”復興とまちづくりのツール”になる!学生たちと東北の”今”を発信するNPO「メディアージ」

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

東日本大震災の発生から間もなく3年。被災地では少しずつ復興に向けた取り組みが動いていますが、マスメディアの報道は減り、関心の低下が懸念されています。

そんな中、被災地をメディアでつなぐプロジェクト「笑顔311」として、被災地に住む学生自らが、被災地の“今”や、被災者の思いを生き生きと発信している番組があります。

ひとつは仙台の学生たちによる「IF I AM」、もうひとつは石巻の高校生が発信する「くじらステーション」。これらの番組は、Ustreamなどのライブストリーミングを使って配信されています。

ストリーミングでマスメディアに載らない情報を発信したい

プロジェクトを運営する「NPO法人メディアージ」代表の大矢中子さんは、震災直後から被災地の自治体のボランティア情報番組「+starters(プラススターターズ)」を配信するなど、インターネット放送の技術を使った被災地支援に取り組んできました。
 
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メディアージ代表の大矢中子さん

震災直後、テレビや新聞では被害の大きさは分かるけど、被災地に住む一人ひとりが見えなかった。一方でツイッターでは「水が引かず、小学校で孤立している」「赤ちゃんのミルクがない」など個々の生々しい情報が流れて来る……。被災地の人に何かしたいけど、どこにどういう支援をしたらいいのか分からないという声が多かったんです。

私は東京・秋葉原でインターネットの動画配信会社を経営していたので、こういう時こそ、ほしい人にほしい情報を届けるインターネット配信が役に立てると思ったんです。

東京を発信地に、被災地で支援を必要としている人と全国の支援したい人をつなぐメディア「+starters」を立ち上げた後、間もなくボランティアとして石巻に入った大矢さんは、被害の大きさを目の当たりにします。

「戦争は知らないけど、まるで戦場のような」光景にショックを受け、一日で帰る予定を無期限に。震災前から知り合いの多かった宮城には思いが強かったそうですが、何より、これまで見たことがないような津波の被災現場の状況を見て、このまま東京に戻って普通の生活を送ることなんてできないと思ったそうです。

石巻でボランティア事務局として活動しながら人脈を広げ、4月には学生たちを募って、復興を考える番組「IF I AM」を仙台で立ち上げました。

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番組はUstreamを使って毎週木曜日19時~23時に配信。被災地で今何が起こっているのか。問題は何か。インターネットカフェを間借りし、あるときはメンバーの学生の部屋から配信し続けました。

例えば「学生復興会議」では、「東京オリンピック開催決定について」「消えた復興予算について」などテーマを決めて学生の討論の様子を番組にしています。また、最近ではくじ引きで取材地を決めるなどバラエティー色を持たせながら復興半ばにある地域の魅力を紹介する番組も。すべて学生たちのアイデアです。

復興を担う若者のやわらかな感性で作られる番組として注目され、現在はNPO法人ファイブブリッジの協力を得て仙台市青葉区に活動場所を構え、配信回数は2年間で100回を越えました。

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学生たちと

問題解決のツールとしての番組制作

学生たちは経験を重ねるうち、撮影や編集、配信の技術力が上がってきただけでなく、番組作りを通して復興の問題点や、地域の課題についてより深く考えるように。メディアとして発信するからには、一方的な問題提起だけでなく、いろいろな角度からの視点やときには解決策などの提案も用意しなければなりません。

ライブストリーミングは、視聴者からコメントが寄せられるなど、双方向のメディアだということも大きな特徴であり、議論の場を生みます。そこでは制作側の発言には特に大きな責任も伴います。発信者であることを自覚し、懸命に取り組む学生たちの姿を通して、自分の役目を再認識したという大矢さん。

被災地の復興の息吹を丁寧に伝えたくても、マスメディアの震災報道はどんどん少なくなってきています。被災地への関心を低下させないためには、地元の人が自ら発信し続けることが大切。配信技術を伝えてより多くの人が発信者になるサポートをしていかなければと思いました。

また、番組を作ることは、物事の内側を深く考え、それをみんなで話し合う場を作ることなんだと思うんです。学生は自分の周辺で起きている身近な出来事や問題に気づき、深く話し合う。住んでいる町の魅力を掘り下げることが出来る。コミュニティー作りにも役立ちますよね。

課題先進地域といわれる東北の人自らが、自分たちの課題を解決するために情報発信という手法を使えば、情報を整理して伝えようとするその行程が復興につながり、地域の未来を作っていくことになるのだと思うんです。ライブストリーミングは簡単な配信技術なので、今後、さらに東北各地の人たちと繋がって、多くの発信者を育てていきたいですね。

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「笑顔311」は今後、サークルのように先輩から後輩へ受け継がれる、息の長い活動を目指しています。被災地で行われているイベントを中継や、石巻専修大学の「復興ボランティア学」などのオープンカレッジの様子を発信する依頼を受け、サステナブルな体制を整えました。

また、仙台市の委託事業として一般社団法人ワカツクと連携し、中小企業と学生のマッチングをサポートする番組「いぐする仙台」をスタート。社長インタビューなどで地元企業の魅力や働くことの意味などを考えます。

発信力を持ったコミュニティづくりで、地域の未来をつくる

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「番組制作は復興とまちづくりのツール」。そう話す大矢さんに、市民自らが発信する意味を伺いました。

マスコミで報道されることは大きな影響力を持ちますが、その情報のすべてが正しいわけではありません。また、ソーシャルメディアで発信されている内容も、真偽がよく分からない、確かめようもないものもあります。

番組の制作過程を体験し、自らが発信者となることで、マスメディアやインターネットに流れる情報の見方も変わる。情報を自分で判断する視座ができるのではないでしょうか。メディアの特性を理解し正しい評価や識別ができるメディアリテラシーが身に付くのではないかと思います。

賢い情報の受け手となり、自らも発信力を持つ。マスメディアに偏らない情報発信の多様化は、復興を支え、そして自分たちの未来を変えていく大きなうねりとなるかもしれない。大矢さんは「大変な経験をした被災地の人だからこそ、その力になる」と期待を寄せています。