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音楽で地域の価値を高める!ヤマハ「おとまち」リーダー佐藤雅樹さんと編集長YOSHが語る「”音楽×まちづくり”の可能性」

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定禅寺ストリートジャズフェスティバル(JSF)“JSFスウィングカーニバル”のワンシーン。ソロを吹くのは2度目の女性。1度目はうまく行かなかったけど、今年こそはと挑む

特集「音楽の街づくりプロジェクト」は、音楽の力を通じてコミュニティの未来をつくるプロジェクトを紹介していく、ヤマハミュージックジャパンとの共同企画です。

「音楽×まちづくり」と聞くと、ワクワクしてきませんか?

greenz.jpではこれまでにも、「音楽×まちづくり」の事例を紹介してきました。たとえば、通りすがりの人がオーケストラの指揮者になれるこんなキャンペーンや、自転車でまちを走りながらピアノを演奏するこんな路上パフォーマンス。

世界には楽しい事例が溢れていますが、実は日本の楽器メーカーである「ヤマハ」も、プロジェクトチームを作りこうした音楽によるまちづくりを推進しています。

そのプロジェクトチームの名称は、「ヤマハ 音楽の街づくりプロジェクト」、通称「おとまち」です。

「おとまち」ってどんなプロジェクト?

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「おとまち」はヤマハの新しい事業として、2009年から始まりました。事業内容は、音楽によるまちづくりを志す自治体や企業・団体に向けて、コンサルティングやイベントプロデュースを行うというもの。簡単にいうと、“音楽を通して地域の価値を高めるお手伝い”です。

たとえば、ヤマハに来る相談は、こんなこと。

「市民参加型のイベントを開きたい」
「立派なホールや施設があるけど、なかなか利用されない」
「地域の企業として、地域文化の発展に貢献したい」

地域や団体によって、解決したい課題はさまざま。「おとまち」はヤマハの長年培ったノウハウやリソースを活かして、それらの課題を解決するためのきっかけづくりをしています。

では、具体的にはどんなプロジェクトがあるのでしょうか?代表的なものを紹介しましょう。
 
定禅寺ストリートジャズフェスティバル(JSF)「JSFスウィングカーニバル」(宮城県仙台市)

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定禅寺ストリートジャズフェスティバルのプログラムのひとつとして、2011年から始まったのがこちらのJSFスウィングカーニバル。楽器を持って集まれば、誰でも自由に参加できるプログラムで、各々集まった見知らぬ人々がいつの間にか大きなアンサンブルになっていきます。子どもから大人まで延べ500名もの市民が、思い思いの楽器を手に集まり、音楽を奏でる喜びを分かち合いました。
 
水戸駅ビル・エクセル「エクセルレディースビッグバンド」(茨城県水戸市)

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ビッグバンドのメンバーは、水戸周辺に住む35名の女性たち。音楽と関わりの深い土地柄を活かして、ふたたび活気のある駅ビルを取り戻したいとメンバーを募集。もう一度楽器をやりたい、ジャズに挑戦してみたいと、10代から50代まで様々な人が集まります。
 
伊勢佐木町商店街 「CROSS STREET」(神奈川県横浜市)

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シャッター通り化が進む商店街からの相談から実現した、開放的なライブハウスで街を元気にするプロジェクト。施設の持ち主は商店街で、地域の人たちを巻き込みながら、あらたなライブが次々と実現しています。

「おとまち」のプロジェクトに共通する理念は、「参加」「楽しむ」「継続」。このほかにも、全国各地でさまざまなプロジェクトが生まれています。

でも、そもそもなぜヤマハは「おとまち」を始めたのでしょうか。音楽がまちづくりに与える影響や、その価値とは?「おとまち」リーダーの佐藤雅樹さんとgreenz.jp編集長のYOSHが、「音楽×まちづくり」の可能性をテーマに対談しました。

音楽には、人と人を自然とつないでしまう力がある

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写真左:佐藤雅樹さん 右:YOSH

YOSH 早速ですが、僕は「音楽ってずるい」って思っているんです。

佐藤さん(以下、敬称略) 「ずるい」ですか(笑)?

YOSH まちをつくるためには、何よりもまず人と人がつながる必要があると思うんです。ただ、そこが一番むずかしい。でも音楽って年齢も性別も国籍も何も関係ないところで、心がつながってしまうこともありますよね。

たとえば小説や映画となると、読まない人、観ない人もいるかもしれない。でも音楽って、余程じゃない限り、毎日どこかしらで聞いているし、僕にも9ヶ月になる娘がいるんですが、『魔女の宅急便』のメインテーマで踊り出したりする。その普遍性がすごいなと思っていて。

佐藤 自分で選び取って読む、観るものとは違って、耳は勝手に音を捉えてしまいますしね。

YOSH 人と人とがつながることは、まちづくりの“筋トレ”の段階だと思っていて、基礎ができたら、あとは自然とプロジェクトが生まれていく。そういう意味で、音楽をツールにするというのは、とても本質的だと思うんです。

佐藤 まさにそれが「おとまち」としてやりたいことなんです。音楽って素晴らしいでしょって特段、売り込むわけではない。音楽という共通言語のなかで、言葉のない会話ができたら、もう自然とつながっているんですよね。

社会のなかで、音楽はどういう役割を持てるのか?

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YOSH とはいっても、それを誰でもできるわけではないですよね。やっぱりヤマハさんならではだと思うんです。そもそも、なぜ「おとまち」を始めようと思ったのか教えていただけますか?

佐藤 プロジェクトのスタートには、「会社を変えたい」という想いがありました。ヤマハは昨年創立125年を迎えていて、いいリソースをたくさん抱えているけれど、ただ待っていても楽器が売れる時代ではなくなったこともあって、これまでのやり方を変えていかなくてはいけないと考えていました。

YOSH 僕の周りでは、「3歳になったらピアノ」だったり、音楽教室に通うことは当たり前でした。姉も一台持っていましたし。

佐藤 もちろん音楽は情操教育として素晴らしいものですから、世の中のためにもなって、会社の経営も成り立つというのは、ハッピーなことだったんです。

ところが、だんだんと音楽イベントを行うにしても、楽器のプロモーションが目的のようになっていく。イベントに参加をするならヤマハの楽器を使ってくださいというような。これはもしかすると行き過ぎているかもしれないと。

僕たちは何のためにやっているんだろう、と思ったんですね。自分たちが持っているリソースを使って、どう今の社会のニーズに答えるかということにきちんと向き合いたいと思って議論を積み重ねてきた結果が「おとまち」なんです。

YOSH 音楽が、社会のなかでどういう役割を持てるのか、その原点に帰ったということですね。

「アマチュアの音楽」に原点がある

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佐藤 そうですね。5〜6年前になると思いますが、僕ら(おとまち)がやっている音楽というのは、結局「アマチュアの音楽」であることに、あるとき気がついたんです。

YOSH 「プロの音楽」に対しての。

佐藤 はい。プロの演奏家でなくても、地域の人が参加する音楽には、素晴らしいエンターテイメント性があるんです。演奏がうまいとかヘタとかそんなことじゃなくて、なんか涙が出てしまうみたいな。

突き詰めて考えてみると、僕らの価値って、ここにあるんじゃないかって。

YOSH なるほど。僕も先日、鹿児島でフルートとピアノのコンサートを聴いたんですが、演奏家が挨拶をすると、その演奏家だけでなく客席の方も泣いていたんです。どうやら上京していた地元出身のアーティストが、ふるさとに帰ってきて初めての大きな演奏会だったようで、もう最後はみんな感極まって。

著名な方というわけではなかったんですが、受付もすごい数の花束で、とてもあたたかい気持ちになりました。こうした感動こそが音楽の価値そのもので、じつはそのままヤマハさんの原点なんでしょうね。

佐藤 僕らも価値のあるものだと見ていなかったかもしれない。でもひとたび気づいたら、揺るがないほどの大きな価値だったんです。

音楽って、音楽そのものの素晴らしさ、つまり音楽のエンターテイメント性や表現力だけじゃない。それ以上に、つながることそのものの共感というか情動があったり。

YOSH 僕はまだ楽器を演奏できないのですが、コンサートに向けてみんなで一緒に練習する、というのがいいですよね。練習が人と会う理由になってコミュニティが育まれていく。

佐藤 さらに披露して、報われる(笑)。

音楽は、コミュニティをつくるためのツールになりうる

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YOSH そう考えると、演奏会って小さな祭りのようなものなのかもしれませんね。

佐藤 参加してみて、楽しいと感じる。音楽ってそれでいいんです。まちをどうつくるか、難しい議論もあるかもしれないけど、コミュニティをつくるためのツールに音楽もなりうるんです。

YOSH 楽器を演奏できなくても、何か叩くだけでも楽器になりますしね。ジャズのセッションって、楽しいブレストのようにも見える。そう来たら、こう返そうとか。

佐藤 レコーディングする時って、最初のテイクが一番いいって言われているんですよ。ファーストインプレッションで“どうつながれるか”をものすごく集中してやっているから、いいテイクになるんでしょうね。

だんだんテクニカル的な部分が分かってくると、人に合わせようとするところもあるかもしれません。だからエンジニアいわく、最初のリハをこっそり録っておく。リハイテイクとして録音しておくと、結局「これが一番いいね」ってなることも(笑)。

YOSH ちなみに、グリーンズのインターンの採用基準のひとつが”無茶ぶり対応力”なんです。無茶ぶりをどう「おいしい!」と捉えてどう切り返すか、そこにその人の本当の地力が現れると思っていて。もちろん、愛のあるいい振りをすることも大事なのですが。

佐藤 どんなきっかけを提示するか、ということですね。

無茶ぶりって人と人のつながりがあるからこそできることですが、今は、人と人とのつながりが希薄で、まちの求心力が失われている。だからこそ、音楽というツールを使って、まちの人たちが楽しく参加できるような解決事例をたくさんつくっていきたいと考えています。
 
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YOSHは、久々の演奏に「楽しい!」と一言

(対談ここまで)


言葉を交わさなくても心が通じ合い、その場にいるだけで会場全体がひとつになれる。音楽ってなんて懐の深いツールなのでしょう。

greenz.jpでは、これから全5回にわたって、「おとまち」の一つひとつのプロジェクトの魅力を紐解いていきます。

まちに賑わいを取り戻したい。子どもも大人も参加して楽しい音楽イベントで人と人をつなぎたい。まちの価値を高めるために、そこにはどんなプロセスがあったのか。

まちづくりに関心がある人にとっても学びに溢れた内容をお届けしていくので、楽しみにしていてくださいね。

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