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お寺から地域、そして日本を元気にする!次世代の住職たちのお寺づくりを支える「お寺の未来」

「未来の住職塾」東京クラスの様子
お寺の未来「未来の住職塾」東京クラスで熱い議論をかわすお坊さんたち!

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

何百年も昔から、変わらずに存在する地域のランドマークといえばお寺。なつかしい街並みや田園風景が「国道沿いのファミレスと郊外型スーパー」に代表される均質的な風景に塗りつぶされていくなかでも、お寺だけはのっしりと変わらぬ姿を見せてくれています。

しかし、凄まじいスピードで変化する社会のなかで、お寺だけがその影響を受けずにいることはできません。社会状況と人々のライフスタイルの変化は、お寺を支えてきた仕組みを揺るがしていて「このままではお寺はどうなるのか…」と頭を悩ませるご住職たちも少なくないのです。

お寺の未来」は現代のお寺が抱えている課題解決をサポートする一般社団法人です。経営学と豊富な事例に基づく学びでこれからのお寺づくりのあり方を提供する人材養成プログラム「未来の住職塾」を運営。「未来のお寺リーダー」たるご住職を支え、「日本の未来を明るくするお寺のこれからの100年」を切り開こうとしています。

「お寺の未来」の試みは、いわばお坊さんの世界における最新のソーシャルデザイン事例。greenz.jp読者のみなさんにもきっと興味を持ってもらえるはず……というわけで、「お寺の未来」代表理事・松本紹圭さんのインタビューを中心に、わくわくするお寺の未来のストーリーをお伝えします!

赤門から仏門へ!?
東大卒僧侶が仏教界入りをしたホントの理由

「お寺の未来」代表で「未来の住職塾」塾長をつとめる松本紹圭さん「お寺の未来」代表で「未来の住職塾」塾長をつとめる松本紹圭さん(京都・法然院にて)

松本紹圭(まつもと・しょうけい)
浄土真宗本願寺派光明寺僧侶。蓮花寺佛教研究所研究員。米日財団リーダーシッププログラムフェロー。東京大学文学部哲学科卒業。佛教ウェブマガジン『彼岸寺』を設立し、お寺の音楽会『誰そ彼』、お寺カフェ『神谷町オープンテラス』を運営。2010年、Indian School of BusinessでMBA取得。2012 年未来の住職塾を開講し塾長をつとめる。2013年世界経済フォーラム(ダボス会議)のYoung Global Leaderに選出。

日本では、お坊さんになる人の大半が「お寺に生まれて跡継ぎの住職になるため」に出家をします。しかし、松本さんは「お祖父さんは住職」だけど「一般家庭生まれ」というハイブリッドな環境で、お寺や仏教に親しみながら育ちました。幼い頃から祖父に借りた仏教の本を読むうちに「人生の問いに応えうるのは仏教ではないか」と直感。「リタイアした後とか、遠い未来にはお坊さんになりたいな」と漠然と考えていたそうです。

高校卒業と同時に、生まれ故郷の北海道を離れて東京大学へ進学。在学中は自分が好きな業界探しをかねて、インターネット業界や広告業界、さらには衆議院議員事務所でWeb制作の仕事をするなど、さまざまな世界を見て歩いたそうです。

どの業界の仕事も面白そうだしやりがいもある。だけど「自分のやりたいこと」としてふっきれるものがない。決まっているとしたら「いつかお坊さんになりたい」ということだけで……大学4年生の春、根津神社を歩きながら仲のいい同級生に相談してみたそうです。

彼に「そんなにお寺が好きなら、今すぐお坊さんになっちゃえば?」と言われて決心がつきました。今思えば、神社でお坊さんになる決心をしたんですよね(笑)。ちなみに、その同級生が今「お寺の未来」の副代表理事を務めてくれている井出悦郎くんです。

仏教はリアルな人生を出発点として「生きる」「死ぬ」ことにしっかり目を向けます。「どうやって苦しみを克服するのか」という問題設定もすごく明確で正しいし、解決の道筋もプラクティカル。ただ、お寺の現状を見ているとその仏教の魅力がいまいちうまく伝えられていないように見えました。

そこで「誰かが仏教界に入ってやらないと変わらないんじゃないか」と、いわば勝手な使命感で”仏教業界入り”をしたんですね(笑)。

仏教が好き、お寺が好き。そして「すごくいいものがあるのに伝えられていない」もどかしい状況を変革したい!という熱い思いを持って、松本さんは浄土真宗本願寺派で出家・得度。お坊さんとしての人生を歩みはじめたのでした。

お寺カフェにネット寺院…
話題のお坊さん、MBA取得のためにお釈迦さまの国インドへ

神谷町・光明寺の“テラス”こと本堂広縁 誰もがほっと一息つく空間神谷町・光明寺の“テラス”こと本堂広縁 誰もがほっと一息つく空間

2003年、大学を卒業した松本さんは東京・神谷町駅から徒歩1分のお寺・光明寺にご縁を得ます。都心のビジネス街のなか、通りには会社員やOLが忙しく歩いていますが、門をくぐれば境内には静けさが広がります。本堂2階には緑ゆたかなお墓の向こうに東京タワーが見えるテラスのような空間もありました。

「こんなにいい空間なのに誰もお寺に入ってこないな……」

一計を案じた松本さんは「お寺カフェ」というコンセプトでこのテラスを開放。「神谷町オープンテラス」という名前をつけ、お寺の前にそっと看板を出したのです。「誰かくるかな?」と、飲み物を用意して若いお坊さんたちが待っていると、ひとり、ふたり……と近隣で働く会社員の人たちがランチを片手にテラスにやってくるように。
 
お寺の音楽会「誰そ彼」 本堂で法話を聞いた後に音楽ライブ!というありがたい流れお寺の音楽会「誰そ彼」 本堂で法話を聞いた後に音楽ライブ!というありがたい流れ

同じ頃、友人たちと一緒に「お坊さんのホームパーティ」というコンセプトで「お寺の音楽会 誰そ彼」もはじめました(ちなみに「誰そ彼」のメインスタッフとして活躍してきた遠藤卓也さんもまた「お寺の未来」事務局長として活躍しています)。

さらには、松本さんがお坊さんの世界で奮闘する日々を綴っていた日記ブログは仏教ウェブマガジン「インターネット寺院 彼岸寺」に発展。松本さんの日記は『お坊さんはじめました』(ダイアモンド社)として出版されました。

お寺カフェやお寺の音楽会、ネット寺院は、松本さんにとって「仏教というコンテンツを新しい切り口で伝える」ための試み。いわば「仏教界から外を見る」ベクトルの活動です。その一方で、松本さんは築地本願寺という大きなお寺の職員として働く機会を得て、「外から仏教界を見る」ベクトルの体験をすることもできました。

約5年間でお寺の世界を一巡りしてみたけれど、自分自身がどういうお坊さんになったらいいのかがわからない時期でもあったんですね。お寺の運営や経営、マネジメントに関する課題は見えてきたけれど、良くするにはどうすればいいのかをズバリ学べるところが見つからない。いろんな人に相談した結果、学びたいことを学ぶにはビジネススクールが一番近いし、どうせなら海外に行く方が修行になると考えました。

松本紹圭さん、インド留学中のひとコマ松本紹圭さん、インド留学中のひとコマ

MBAといえばアメリカかと思いきや、「インドが好き」という気持ちも手伝ってお釈迦さまの国・インドへ留学(!)。一年後に帰国した松本さんが満を持して立ち上げたのが「未来の住職塾」という、これまた前代未聞のプログラムだったのでした。

お坊さんもビックリ!
経営学をベースにした人材養成プログラム「未来の住職塾」

「お寺の未来」ロゴ
「お寺の未来」ロゴ。伽藍と仏旗に囲まれた空間は「空」を意識、さまざまなサービスブランドを入れて使うこともある

未来の住職塾」のプログラムのベースはなんと“最新の経営学”です。2012年の開講当時は「お寺で経営学?」「お寺にマネジメント?」とお坊さんたちもびっくり仰天。「僧侶がお金儲けの勉強をするのか!」と無用の誤解を受けてしまうことすらありました(ちがいます!)。

お寺の中にはお釈迦さまの時代から変わらぬ仏教の教えが守られていますが、一歩外に出るとそこにあるのは移ろいやすく「諸行無常」な世の中。多くのお寺が長い歴史のなかで存続できたのは、仏教を守りながらも時代のニーズに応えてきたからだと言えます。

今のお寺が「100年先の未来を描く」には、「現代社会を覆い尽くす資本主義の力がどうお寺に働いているのか」を知り、お寺の強みと課題を洗い出したうえで「お寺づくりのビジョン作りが必要だ」と松本さんは考えました。経営学やマネジメントの考え方は、こうした取り組みにおいて非常に役に立ちます。

「未来の住職塾」には、第一期に80名、第二期に130名の住職、副住職、そのパートナーの方が参加しました。東京、大阪、名古屋をはじめとした全国各地で開催し、各クラスは少人数制でグループワークが中心です。全5回の講義は、毎回一日をかけてみっちりと行われるため「講師も受講生もヘトヘトになる」ほど。見学に行くと「なんで、お坊さんたちはこんなにも熱い議論をしているんだ!」とビックリするほど刺激的です。
 
「未来の住職塾」寺業計画書発表のようす
未来の住職塾」寺業計画書発表のようす

一年後の卒業時には事業計画書ならぬ“寺業計画書”を作成してクラス全員の前で発表。コンサルタントとして経験豊富な井出さんによる厳しいコーチングを受けながら「お寺づくりのビジョン」を仕上げていきます。このプロセスにおいて「受講生は今までにない視点で改めて自分のお寺の立ち位置や、住職の役割・自覚が定まるというマインドセットの変革が起きる」と松本さんは言います。

すでに一期生の人たちは卒業後一年がたっているので「寺業計画書」に沿ってお寺づくりを進めています。町おこしに着手して注目を浴びている人もいますし、外からは見えにくい変化を起こしている人たちもいます。たとえば、旧態依然としたお寺運営をしていた父・住職と改めてお寺の在り方を話し合い、お寺に関わる人たちの意識がどんどん変わり始めているとかですね。

大事なことは、確かな変革の一歩を静かに踏み出していることで、そこでの成果は外から見る以上に大きいと思うんです。

「ひとり一人が良きお寺と出会うご縁を育んでほしい」という願い

松本紹圭さん(京都・法然院にて)お寺の未来の理念は「ひとり一人が良きお寺と出会うご縁を育む」こと

「お寺」いえば奈良や京都の有名観光寺院を思い浮かべ人が多いかもしれませんが、日本のお寺のほとんどは地域コミュニティに支えられている「檀家寺」です。「檀家寺」は、地域コミュニティの人々のご縁をつなぎ、葬儀や法事、お盆やお彼岸などの法要を執り行いながら、先祖代々の命の歴史を記録・蓄積していく場として機能してきました。しかし、地域コミュニティが崩れつつある今、お寺の基盤もまた揺らぎ始めています。

「お寺の未来」は、「未来の住職塾」で共に学ぶという経験を通して、ともすれば一国一城の主として孤軍奮闘に陥りがちな住職たちのネットワークを作り、互いに励まし合い支え合う場を作ることも大切な役割として考えています。

「お寺の未来」は「未来の住職塾」などで「みんなでがんばろうぜ」と前向きな未来を語り合える場を作っているわけですよね。お寺がいきいきと変わっていくには、それぞれの住職さんがやる気になってどんどん変革していかなければいけなくて。あくまで僕たちは伴走者として、最前線に立っているたくさんの仲間たちがお寺の未来を切り拓きつつあるのをそばで見ている感覚なんですよ。だから「こんなに間近で見せてもらえてうれしいな」と思っています。

松本さんは「仏教は自分というものを捨てて行く、あるいは自分というものの囚われから自由になって行く、離れていくことを教えるもの」だと言います。そして「同時に、自分から離れろと言われても離れられないのが人間。でも『それでも自分を捨てていこう』と生きようとする人のパートナーになるのが念仏(南無阿弥陀仏)」なのだとも教えてくれました。念仏とは、まさしく言葉による守り仏なのです。

すごくうれしかったのは「自分が住職をしている時代にお寺の未来があってよかった!」と言っていただけたことです。これからお寺をどうしていったらいいんだろう?という時代に、「お寺の未来があるから大丈夫」ということが住職さんたちの念仏になればいいということかもしれません。

「未来の住職塾」を卒業した全国のご住職のなかには、NPOとの恊働や地域コミュニティに場を開きたいと希望している人もいます。お寺と一緒に何かやってみたいマイプロジェクトがある人たちは、ぜひ「お寺の未来」に相談してみてください。そして、たまたまこの記事を読んでいるお坊さん、お寺関係者のみなさん! 「未来の住職塾」は三期生募集に向けて「プレ講座」を開催しています。これもご縁だと思って、参加してみてはいかがでしょうか。

そして、全国のお寺とNPOが結び合い「お寺×ソーシャルデザイン」が実現したら、ぜひ私に取材させてください。