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“自分で作る”は意外と簡単!グリーンズ発行人・鈴木菜央に聞く、自然を感じながら遊ぶ暮らし [暮らしのものさし]

PHOTO: SHINICHI ARAKAWA
PHOTO: SHINICHI ARAKAWA

どこに住み、どんな暮らしをつくるのか。本当に必要なものは何か。「暮らしのものさし」は、株式会社SuMiKaと共同で、自分らしい住まいや好きな暮らし方を見つけるためのヒントを提供するインタビュー企画です。

今、あなたはどんな暮らしをしていますか?また、これからしたいと思っていますか?

そんな問いにすぐさま答えられる人は少ないかもしれません。なぜなら、暮らしという言葉の中には、住まいだけでなく、身の回りを取り巻くあらゆるものが内包されているから。

自分にとって心地よい暮らしは、一朝一夕で形作られるものではありません。仕事の仕方、考え方、時間の使い方。そういったものを糸を紡ぐように丁寧に、そして自分らしく織り重ねていくこと。

どこに住み、どんな暮らしをつくるのか。本当に必要なものは何か。自分にフィットする「暮らしのものさし」を尋ねに、greenz.jp発行人の鈴木菜央さんの暮らしをのぞいてきました。

自然の循環の中に入った暮らし

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菜央さんは仲間と一緒に、社会問題や環境問題を楽しく解決することをテーマに掲げたウェブマガジン「greenz.jp」を2006年にスタートさせ、自分たちの手でこれからの社会をつくるためのグッドアイデアを多数紹介。また、アイデアとアイデアをつなげるイベントgreen drinks Tokyoも開催してきました。そして、2013年にははじめての著書『「ほしい未来」は自分の手でつくる』を上梓。greenz.jpの現在のテーマである「ほしい未来は、つくろう」につながる思いを綴りました。

そんな菜央さんがgreenz.jpの仕事をしながら2010年から暮らしているのが、東京から70kmほど離れた千葉県の外房にあるいすみ市です。豊かな水量を誇る夷隅川がすぐ脇を流れ、広くて高い空の青と、緑が鮮やかに目に飛び込んでくる。そんな環境の中に建つ緑色のログハウス。菜央さんはここから週に3日都内に通い、2日は自宅で仕事をしています。

自宅のすぐ隣を流れる夷隅川。夏にはカヌーをすることも。
自宅のすぐ隣を流れる夷隅川。夏にはカヌーをすることも。

週に3日都内に通うのは大変なのでは?と感じるかもしれませんが、交通網が発達した今なら、バスや特急電車などを使うと1時間半程度で着いてしまうというから、実際の距離ほど遠くには感じないようです。

また、東京と行き来する移動の時間は大切な“妄想の時間”。自分と向き合い、落ち着いて考えを膨らませることができると菜央さんは言います。都心の満員電車の中ではできない、ゆったりとした通勤時間の過ごし方も田舎に住む利点と言えるかもしれません。

妄想は楽しいよ。最近は、自分でも実際にリノベーションの技術を磨いてセミセルフビルドの家が作れないかなって考えてるんだよね。それとも雰囲気のある古民家を見つけて、手を加えるのもいいなとか。

あとは、いすみ市で仕事を作ってもっと地域と繋がっていきたいとも思っていて、自然が豊かだから、ペレット(=木質バイオマスを原料にして作る固形の小粒燃料)や薪を使って地域の産業にしていけないかなとか、エネルギーを自給する楽しみも身近な形で広げていけないかなって考えてるんだよね。

PHOTO: SHINICHI ARAKAWA
PHOTO: SHINICHI ARAKAWA

菜央さん、妄想が止まりません。その方向性は自然に寄り添い、地域に入り込み、自分の手で暮らしをつくっていこうという一貫したものです。

「自分で作る」は意外と簡単

天気のいい日はぐんぐん発電してくれる太陽光パネル。PHOTO: SHINICHI ARAKAWA
天気のいい日はぐんぐん発電してくれる太陽光パネル。PHOTO: SHINICHI ARAKAWA

菜央さんの活動のひとつ「わたしたち電力」は「自分でエネルギーを作ってみたい」と感じている人を対象に、講師を招いて小さな独立型のミニ太陽光発電システムを組み立てるワークショップをおこなうと同時に、同じ思いを持つ仲間をつなげていくというものです。

「わたしたち電力」の輪は少しずつ全国に広がりを見せ始めていますが、その先駆けとして菜央さん自身も自宅に太陽光発電パネルをつけ、完全オフグリッド(=電力会社から独立した電源システム)の書斎を作りました。

窓の外には緑が広がる完全オフグリッドの書斎。PHOTO: SHINICHI ARAKAWA
窓の外には緑が広がる完全オフグリッドの書斎。PHOTO: SHINICHI ARAKAWA

太陽光パネル、バッテリー、充電コントローラー、インバーターで構成されたお手製の発電システムでまかなうのは、パソコン、パソコンモニター、スピーカー、ルーター、wifi、電気スタンド、プリンターなど、仕事に必要なまるごとの電力です。晴れた日には快適に仕事をしながら音楽を聴き、iPhoneの充電をしてもなお電気は余るといいます。グリーンズの仕事の一部は菜央さんの書斎のグリーンな電力から生まれていました。

やってみたら意外と簡単。

そう話す菜央さんですが、実は高所恐怖症のため、屋根に太陽光パネルを取り付ける時には相当気合いを入れて登ったそうです。それでも一度作った発電システムは自宅でずっと使うことができますし、これまで“買う”しか選択肢が無かった電気を自分で作れるという手応えは、なにものにも代え難いものです。

さらに、電気を自分で作ってみることで、仕事に使う機器類の中ではパソコンモニターが一番電気を消費することがわかるなど、電気そのものの使い方にも意識が向かうようになったそうです。

電気代を減らすだけが目的なら、実は作ることよりも使わないことの方が簡単。ばんばん使うことを前提に足りない分を作るんじゃなくて、そもそもそんなに使う必要があるのかな?って疑問に思うようになったのも自分で発電してみたからかもね。

菜央さんの本棚から選んでもらった「最近読んで面白かった本」たち。暮らしを手作りしていくヒントがたくさん。PHOTO: SHINICHI ARAKAWA
菜央さんの本棚から選んでもらった「最近読んで面白かった本」たち。暮らしを手作りしていくヒントがたくさん。PHOTO: SHINICHI ARAKAWA

湧き上がる喜びを感じる経験

こうした現在の菜央さんらしい暮らしをするようになったきっかけは、菜央さんが22歳の時に1年間過ごした、栃木県にある“公正かつ平和で健全な環境を持つ未来を実現するための学校”「アジア学院」での経験が大きかったそうです。

尊い生命をいただくことで生きているという循環を感じられる。
尊い生命をいただくことで生きているという循環を感じられる。

生きている鶏を締めてさばいたり、合鴨農法の田んぼや畑を耕したり。そうした生産技術を生態系にダメージを与えることなく自然や人が仲良く共生できる方法で学んだんだよね。みんなで作って調理して食べる楽しさとか、目の前の食べ物に感謝して祈ることも。

アジア学院では、自分たちで生きているという湧き上がってくる喜びや、食べ物に困らないという安心を実感できた。

そして食べ物だけでなく、モノに対しても“壊れたらすぐ買ってくる”ではなく、“まず直してみる”。だから新しくモノを買うときも、「もし壊れたとき、自分で直せそうかどうか」を最初に考えるようになったよね。

環境の配慮し、自分の手を動かして暮らしを作る。無駄な環境負荷がないということも、喜びを増大させたと言います。

お金を払えばなんでも手に入り、ほとんど体を動かさなくても便利に生活できるようになった今の時代にこそ、手を動かし、体を動かすことの充足感はさらに大きくなっているのではないでしょうか。

また、野菜や精肉などといった、食べ物になる前の植物や動物の生命そのものを感じることは、大きな循環の中で生かされている自分自身の生命を考え、感じることにも直結します。菜央さんの原体験は、やがてgreenz.jpをつくる熱い想いとなり、自らの暮らしを作るものさしになっていきました。

「子どもに田舎を作ってあげたかった」

伸び伸びできる環境は、まるごと子どもたちの遊び場。
伸び伸びできる環境は、まるごと子どもたちの遊び場。

実は奥様ともアジア学院で出会ったという菜央さん。都内に住み、greenz.jpを始めた頃からすでに、お互いにいつかは東京ではない田舎に暮らしたいというイメージがあったそうです。

greenzを始めたあと、子どもが生まれてからの時期は結構大変で、妻も仕事をしていたから子どもが熱を出した時なんかは“どっちが休むか?”でつい言い合いになる事もあった。

そのあとふたり目の子どもが生まれたあとも、保育園の数が少なくて姉妹で別々のところにしか入れなかったりとか、苦労したよね。もっとゆったり子育てしたいと思ったし、余裕のある暮らしがしたいと思ってた。

いすみ市に移住後の今は、ふたりの子どもが通う小学校は全校で約80人。ひと学年あたり約10人程度というから、生徒同士もみんなを認識することができ、和気あいあいと通っているそう。そして、生徒の数が少ない分だけ大人の目が細やかに届くのもいいところ。子どもにとっても、“私のことをちゃんと見てもらえている”という安心感を感じていられそうです。

また、タイの首都バンコク生まれ、東京育ちの菜央さんにとって、振り返ったときに“自分の田舎”といって思い出せる自然豊かな場所がなかったこともいすみ市に住まいを移した理由のひとつでした。

手作りできるものは作ってみるとか、少しでも食べ物を作るとか、そういう日々の暮らしを通して自分の子どもに自分の田舎と呼べる場所を作ってあげたかった。

自分にとって本当の暮らしをできるところから

PHOTO: SHINICHI ARAKAWAPHOTO: SHINICHI ARAKAWA

菜央さんのように、緑に囲まれ、大きな循環を感じながら手作りを楽しむ暮らしに憧れる人は都心などにもたくさんいるのではないでしょうか。ただ、やはり暮らしを大きく転換させるのは少し勇気がいりそうな気もしてしまいます。

田舎に行くことで今よりもできることが増えるなら考えてみてもいいかもね。でも、移住は目的ではなくあくまでも手段。ぼく自身も自分にとって本当の暮らしをできるところからやっていこうと思ったのがきっかけだし、そんな風に切り開いていく意思のある人が点になって繋がっていけば面白くなると思う。

菜央さんの暮らしのものさしは「ほしい未来のために、自分にとって本当の暮らしを自らの手でつくっていくこと」。

お話を聞いている間もやりたいことのアイデアが尽きることなく湧き出てくる菜央さんでしたが、その言葉の端々からも自分らしい暮らしを日々積み重ねている様子をうかがい知ることができました。

今がまだゴールではなく、“妄想”を膨らませながら遊ぶようにDIYしていく菜央さんの暮らしは、地域に根を張り、仲間を巻き込んで、これからもますます面白くなっていきそうです。