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世界初、12ヶ月連続のクラウドファンディングに挑戦!地域住民と一緒に石巻に”人が集う場所”をつくる「雄勝学校再生プロジェクト」

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新しいプロジェクトを始めるには、人・物だけでなく資金も欠かせません。資金調達の新たな手法として、クラウドファンディングは日本でも活発になってきましたが、今回ご紹介するのはブロックファンディングという世界初の試みです。

宮城県石巻市にある雄勝町(おがつちょう)で大型資金の調達に挑戦している「雄勝学校再生プロジェクト」をご紹介します。

地域住民も待ち望む”桑浜小学校の再生”

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プロジェクトの舞台は、少子化のため2001年に廃校になった旧桑浜小学校。
1923年(大正12年)に開校した昔ながらの木造校舎は、津波の被害は免れましたが廃校になってから12年間手つかずの状態でした。

「雄勝学校再生プロジェクト」はそんな桑浜小学校を、子どもたちのための宿泊型体験学習施設に再生しようという計画です。
 
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学校を再生させるために結成された「ぬくもり実行協議会」は、再生を強く希望していた雄勝町の地域住民と、石巻を中心に体験型教育支援を行う公益社団法人sweet treat 311で立ち上げました。総勢20名の協議会員は、ほとんどが地域住民の方です。協議会の事務局を勤めている、sweet treat 311理事の油井元太郎(ゆい・げんたろう)さんにお話を伺いました。

私たちの団体は、農林漁業体験や料理教室・ITキャンプなどの体験学習の支援を、公立学校の総合学習として雄勝の子ども達を中心に行っています。廃校になってしまったこの学校の存在を知ったのは昨年でした。

解体されず震災でも壊れずに校舎が残っているのであれば、ここで体験学習を行い子どもたちが集まる拠点にできればいい。そう思ったところからこのプロジェクトが始まります。

雄勝町に住んでいる地元の方々の中には桑浜小学校の卒業生も多く、「みんなが集まれる場所に再生したかったけれど何もできず、徐々に母校が朽ちていくのを見るのが辛かった」という声も聞きました。

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工事業者の方と打ち合わせ中の油井さん(写真左)

その後、民間企業の持ち物となっていた校舎を購入し、今年の2月に協議会を立ち上げて、4月には「雄勝町学校再生プロジェクト」としてスタートしました。現在は、資金調達を行いながら校舎の改築を進めており、完成は来年の秋ごろを目指しています。

このプロジェクトは 廃校を活かすことだけが大切なのではないと思っています。町内の人口は震災前の4分の1となり、ボランティアツアーなどで外部から人を呼び込んで来ても、食べるところも泊まるところも少ないのが雄勝町の現状です。

教育施設だけでなくレストランや宿泊施設も併設した”人が集う場所”が形になれば、地元に雇用が生まれますし、たとえ人口減少の波は止められないにしても雄勝に通ってくれる交流人口を増やすことはできると思っています。教育を通じた町づくりの拠点を目指しています。

体験学習で対象としている子どもたちは、雄勝や石巻だけでなく都市部や世界からも呼び込む予定で、外部から年間5,000人の方が訪れることを目標にしています。石巻市や市の教育委員会からも後援されているので、亀山市長も様子を見に来られたそうです。

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教育の拠点であった地域コミュニティ

桑浜小学校が健在だった当時は学校中心にコミュニティが形成されていて、先生だけでなく”地域コミュニティ全体で子どもたちを育てていた”といいます。その想いが具体的に表れているのが、「全長約60mの日本一長い学校のすべり台」。山の斜面に作られた長いすべり台は、上までたどり着く頃には息切れしてしまいます。

開校時の桑浜小学校は学校対抗の運動会で毎年最下位だったそうです。当時の校長先生と地域のPTAが宮城県で体育の授業のモデル校へ視察に行き、校庭に大きなすべり台があったのを見て真似て作ることを検討しました。

そして学区に面した海の一部を「学校の浜」と呼び、そこで収穫された海産物の売上はすべて小学校に寄付することになりました。結果的に200万円の寄付が渡され、すべり台は当時の校長先生が設計して作られたそうです。

子どもたちはすべり台をすべるために斜面を一生懸命登らなくてはなりませんので、自然と体力が鍛えられたことでしょう。このように、校長先生、PTA、そして漁師さんたちも含めた地域ぐるみで子どもたちを育てていたこともあってか、生徒は素直でいい子が多かったそうです。

学校のすべり台としては日本一長い

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今年の9月には、今までの卒業生を一同に集めた大運動会が開催されました。

震災前に石巻や仙台に引っ越した方や今回の震災で雄勝を離れた方も集まって、この日は”大同窓会”にもなりました。上は90歳のおじいちゃんおばあちゃんから下は20代後半の方まで年代も様々です。「校長先生に会うのは50年ぶりです」といった感動的な場がいくつも生まれました。

この日集まったのは、東京からのボランティアも含めて約200名。震災はたくさんのものを地域から奪い去りましたが、震災で生まれた新たなご縁によって、一度は離れてしまった地域のコミュニティが再び繋がったことも確かです。

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日本で一番厳しい環境にいる子どもたちに、日本で1番豊かな教育を

sweet treat 311の活動は震災1週間後の石巻での炊き出しから始まります。その後、当時の雄勝中学校校長であった佐藤先生からの給食炊き出し依頼がきっかけとなり、同中学校への出前授業や学習支援、そして雄勝の持つ豊かな自然を活かした農林漁業の体験学習も行うようになります。

活動の背景にあったのは、当時の雄勝中学校校長の佐藤先生の想いです。雄勝中学校の子どもたちは、津波からは無事に避難できたものの、ほとんどの子ども達が家を流されてしまい、雄勝から車で30分も離れた場所での仮設住宅生活、仮校舎での授業再開でした。

「子どもたちにはせめて栄養のあるものを食べさせたい」「こんなに過酷な環境の中でもよい教育を受けさせたい」という佐藤校長の想いに対して、”東京から来た自分たちにできること”である炊き出しや学習支援をしてきました。

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 仮設住宅の集会所で受験生の学習支援「アフタースクール」が開かれている

現在の活動は、仮設住宅の集会所で週に3回行う学習支援の「アフタースクール」と、ほぼ毎週末に実施している農林漁業の「体験学習プログラム」。学習支援を受けた子どもたちは全員志望校に合格し、体験プログラムでは年間約3500人の子どもたちに様々な体験の機会を提供しています。

今年4月に前職を退職したばかりの油井さんは、子どもたちの職業体験を提供する屋内施設「キッザニア」で体験プログラムを開発してきました。キッザニア東京もキッザニア甲子園も子どもたちから厚く支持されている一方で、施設で行う体験の限界も感じていたと話します。

キッザニアで提供してきたのは疑似体験ですが、こどもの頃に自然の中で一次産業の体験をする事はとても大切です。sweet treat 311が総合学習の時間でおこなってきた体験学習では、雄勝の自然環境を活かして、学力だけでなくて心の強さや自分で考えて行動すること、そんな”生き抜く力”を育むことができます。

実際に雄勝中学校の生徒たちが直面した状況なのですが、「もし山の中に3日間逃げたとき、はたして何ができるのか」ということが緊急時には問われます。そんな”生き抜く力”を教えられるのは、自然と調和・共生してきた地域の一次産業者の方々です。普段している仕事の様子を子どもたちに伝えることで、教育効果が生まれていきます。

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そして油井さんが見据えているのは、雄勝の未来だけではなく日本の未来です。

子どもたちのための体験教育を通して、地域に雇用が生まれ、都市や世界とも繋がり今までになかった交流が生まれる。そして地域が豊かになっていく。これを雄勝で実現させて、少子高齢化に困っている他の地域でも役にたつような解決モデルの一つにしていきたいんです。

私は海外に住んでいたこともあるので特に感じるのかもしれませんが、日本は地域資源がとても豊富です。特にこれほど水が豊かな国は海外でも珍しいのですが、地域に住む人が少ないという状況はもったいないことです。

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「良い話だね」で終わるのではなく、ぜひ関わってほしい

このプロジェクトの資金調達に関しては、クラウドファンディングのプラットフォームサイト「Shooting Star」にてブロックファンディングに挑戦しています。ブロックファンディングとは、募集総額を複数回に分割して大型の資金調達をおこなう手法で、「雄勝学校再生プロジェクト」では12回に分けた施設やプログラムに関して、1年間をかけて毎月募集を行います。

10月は「建物の基礎修復」、11月は「遊具支援」が支援対象テーマであり、どちらも見事、目標金額を達成しました。12月はレストラン・カフェを作るための資金調達をしています。

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Shooting Starにてブロックファンディングに挑戦中

今回のブロックファンディングのように、雄勝から遠く離れていてもプロジェクトに関わる仕組みはあります。まだまだ資金が足りないのが実情ですので、もし「雄勝の子どもたちのために」という想いに共感していただけるのであれば、ぜひ何らかの形で関わっていただければ嬉しいです。

毎月テーマとギフトを変えて挑戦しているブロックファンディングには、すでにリピーターの方も表れているそう。支援金額に応じて得られるギフト(お返し)は、雄勝の海産物や屋根・階段のオーナーとして名前が刻まれる権利、さらに著名人も参加するボランティアツアーへの参加権など、様々なものが用意されているので楽しみです。

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ファンドへ支援した方へのギフト例(上がカキ、下がスレート屋根)

震災前に約4000人の人が住んでいた雄勝町は、現在約1000人まで減りました。人口が4分の1となってしてしまった町は、家や施設が流出してしまった状況に加えて復興事業の遅れなども重なり、どこかものさみしい空気があります。復興にはまだまだ時間がかかります。

しかしそんな状況だからこそ、地域住民と支援団体が一体となって進める「雄勝学校再生プロジェクト」に未来の希望を感じました。新しい校舎で子どもたちが遊ぶ姿を見るのが今からとても楽しみです。みなさんもこのプロジェクトを応援してみませんか?

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(Text:安藤貴明)