一人ひとりの暮らしから社会を変える仲間「greenz people」募集中!→

greenz people ロゴ

関西のビジネスコンペでグランプリも受賞!通信制高校生向けキャリア教育を展開する「D×P」の現在

DPtop(c)NPO法人「D×P」

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

中学生のときから同級生とのズレを感じていました。
そのズレは孤立へと繋がっていきました。友達はいましたが、
堂々と友達なんだといえる自信はありませんでした
(メッセージブック「通信制高校に通う、全ての生徒へ。」NPO法人「D×P」発行より一部抜粋)

これは通信制高校に通うある生徒の言葉です。こんな所在ない気持ち、感じたことはないですか?私は、あります。

通信制高校を選ぶ人は全国で約19万人。そのうち不登校やひきこもりを経験した人は4割いるといわれています。大阪を拠点に、そんな“通信制高校”の生徒に向けたキャリア教育事業を展開しているのがNPO法人「D×P」(ディーピー)です。

代表を務める今井紀明さんが、前回greenz.jpに登場したのは約1年半前のこと。その後「D×P」はどのように進化しているのか、あらためてお話をうかがいました。

「D×P」の“キャリア教育”とは?

“キャリア教育”とは社会的・経済的自立をとげるために必要な能力や心の持ち方、また働く意義を学ぶこと。わかりやすい例では、小・中学校で実施されている職業体験もそのひとつです。NPO法人「D×P」(ディー・ピー)は、“通信制高校”に特化したキャリア教育事業を行っている日本で唯一のNPO団体で、主に2種類のプログラムを展開しています。

ひとつめは、大学生や社会人を講師に招き、自分の失敗談や仕事の話を語りながら生徒たちと交流を深め、彼らの心に眠る「やりたい」を引き出す「クレッシェンド」。この授業は3ヶ月にわたって合計4回、定員最大10名までの少人数制で行われます。前回greenz.jpでご紹介した時は、この「クレッシェンド」が通信制高校でスタートして1年もたたない頃でした。

kuressixendo
通信制高校で行われる「クレッシェンド」の様子(c)NPO法人「D×P」

yume
3回目の授業は「ユメブレスト」。ここでは自分の夢を自由に描きます(c)NPO法人「D×P」

そして2013年4月から新たにスタートしたもうひとつのプログラムが「フォルテッシモ」です。「クレッシェンド」を受講後、心にやる気の“灯”がともった生徒たちに対し、企業でインターンを経験したり、アート展を開催するなど、その生徒の興味や関心に合わせた挑戦の機会を提供する取り組みです。学校の外で挑戦した経験は、高校生にとってその後の進路を自律的にすすめるための大きな資産となります。

この「フォルテッシモ」の一環として、今年8月大阪アメリカ村のアート施設「LoopA」で、写真展「写真が語る4つのストーリー」を企画・開催しました。

写真を撮影したのは、通信制高校に通う4名の生徒たち。引きこもりや不登校を経験したことのある生徒が、ファインダー越しに切り取る世界と、そこに添えられた彼らの心の声は、多くの人に感動と気づきを与えました。

展示を見た人から「とても素晴らしかったので記録に残したら」と勧められ、今井さんたちは「PHOTO BOOK 写真が語る4つのストーリー」を制作。10月26日に発売が開始、同日には出版記念イベントも開催されました。

photobook

手のひらより、少し大きいサイズのフォトブック。生徒たちがカメラをきっかけに、閉ざしていた心を再び開いていく様子などが写真と文章で綴られています
(c)NPO法人「D×P」

「夢が叶うまで」をサポート

NPO法人を立ち上げてから今年で2年目。「フォルテッシモ」と「クレッシェンド」を受講した生徒は総勢150名を越えました。

授業を通して浮上した生徒たちの夢が実現するように、研修先やインターン先を探し、時間をかけてマッチングすることも今では大切な活動のひとつです。「クレッシェンド」を受講後、今年4月から現在までに約30名の生徒が企業インターンなどの現場に飛び立ちました。

僕らは例えるならば、人の奥底に眠っている“夢”や“やりたいこと”という資源と、インターンとして受け入れてくれる企業をつなげていく、“商社”のようなはたらきをしているのかもしれません。

生徒の心の準備が整い「夢にチャレンジしたい」という気持ちを引き出せても、こちらがインターンを受け入れてくれる企業をうまく見つけられなかったら「まだ足りないな」と思ったりもします。

profile1
NPO法人「D×P」(ディーピー)代表の今井紀明さん。「最近は、ライブレポーターをやったり、マラソンに挑戦する生徒もでてきました。みんなそれぞれの夢をカタチにしているところです」と自分ごとのように嬉しそう(c)NPO法人「D×P」

“日本初”の試み、その道のり

1年半前ご紹介した時には「若者が自分の殻を破り、夢を語る場を提供する」イベント開催が活動の中心でしたが、現在は夢が実現できるフィールドまで伴走する。「D×P」の取り組みは確実に進化し、そして深まっていました。

学校側からはさぞかし反響があったこと、と思いきや「まだ実績を積み上げている段階ですから、学校へのプログラム導入は簡単ではないですよ」と。それがまるで当然であるかのように今井さんは言いました。

「前例のない、全く新しい取り組みですから。学校教育は1年単位でカリキュラムを決めるので、学校側に営業をして「すぐにやりましょう」というスピード感では進んでいきません。乗り越えるべき壁もたくさんあります。

そんな時、励みになるのがやはり「フォルテッシモ」を通じて社会と関わり始めた生徒の声だといいます。

ちょうど先日、島根県で地域起こしのインターンを始めた生徒から「仕事が楽しい」という報告の電話を受けました。生徒の声で、こちらも元気をもらいます。自分も負けていられないなと思ったりも(笑)

クラウドファンディングで見事にサクセス

また、「通信制高校を卒業した生徒のその後を伝えたい」という強い思いから、2013年4月には卒業生と保護者のインタビューを掲載したメッセージブックを制作しました。

その際、アートや音楽などのクリエイティブなプロジェクトに特化したクラウドファンディング「CAMPFIRE」に挑戦し、見事目標金額を達成。89名のパトロンから約57万円の支援を受けました。しかも、当初見込んでいた募集期間の半分の早さでファンディングを成立させたというから驚きです。

ファンディングを始めるまでは「支援がちゃんと集まるかな」という不安はありました。なので「なぜこれをつくるか」というメッセージブックの意義を毎日ウェブでアップしました。すると結果的に予定より早く資金が集まり、1ヶ月で目標を達成できたのです。

僕らの活動は寄付によって成り立つ部分が大きい。寄付を頂くのは責任重大でプレッシャーもありますが、その分生徒のためにがんばっていこうという意識も強くなりますね。今では賛同者も増えてきて、月々1,000円から寄付ができる「マンスリーサポーター」会員は約60人に増えました。

ビジネスコンペではグランプリに輝く

もともと北海道出身の今井さん。就職を機に、誰ひとり知り合いのいない大阪で暮らすようになって今年で4年目になります。

そんななか関西の若手社会起業家を支援するビジネスコンペ「edge2013」にチャレンジしたのは、ビジネスプランの真価を問うことはもちろん、さらには「関西で人とのつながりを築きたい」という目的も大きかったそうです。結果は、社会起業家部門において見事グランプリを受賞。当時の秘話を教えてもらいました。

最初から「コンペなんだから、グランプリを絶対に取る!」という気持ちで臨みました。また、関西で活動するからには、「edge2013」に挑戦したいとも思ったのです。そうすることで色んなつながりができるだろうと。

2012年の10月に合宿に参加して、ビジネスプランを何度も練り直し、11月にはセミファイナル審査がありましたが、この時点で僕らは2位通過。2013年2月のファイナル審査では、前年にグランプリをとった「Homedoor」さんのプレゼンを参考にしました。

「親からも友人からも孤立している若者と、自分自身の境遇が似ている」という“マイストーリー”を、ファイナルのときに初めてぶつけたのです。

大阪で起業するメリット

今井さんは高校生の頃から高校生を対象にした環境フォーラムなどに参加する、社会問題意識の高い活動的なティーンエイジャーでした。起業家として感じる大阪の印象を教えてもらいました。

僕は札幌出身ですが、大阪が大好きです。特に“人”が。優しくて本当に良い人が多いなと思いますし、人脈の結束が強い。いったん輪の中に入れると、とことん本音で話し合える気がします。ただ“起業”という観点から見ると、東京よりも20代30代の若手起業家が少ない印象がありますね。自分は起業家を支援するムードを広めていきたいから、「edge」の運営にもかかわり始めたところです。

通信制高校を卒業した生徒の2人に1人は進学も就職もしないという現状は今も変わりません。もし親や先生がサポートしてくれたら救われるけれど、親や先生との関係にわだかまりがある生徒も少なくない。自分達の活動は、“生徒”を“社会”へと渡す“階段”をつくっているのだと思います。自分自身も、友人という“階段”に救われましたから。ここ大阪からはじまって、広がっていけばいいなと思います。

インタビューの間中ずっと、目をそらさずに答えてくれた今井さん。

その大きな瞳には、どんな未来が映っているのですか?と尋ねると「未来って、どれだけ変わるかわからない。だからこそ面白いじゃないですか」と答えてくれました。

そうでした、未来はいつもまっさらな1ページ。
夢を描き、前に進むのは自分自身だということを、あらためて思い出させてくれました。