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一年半で20人のおっちゃんがホームレス”卒業”!「HUBchari」だけじゃない「Homedoor」のさらなる展開とは?

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

みなさんは以前グリーンズでご紹介したHUBchari(ハブチャリ)」の記事を覚えていますか?

ホームレス状態は抜け出たものの、仕事を見つけることが難しい”おっちゃん”たちの働く場所をつくること。そして街を移動する人たちにとって魅力的なツールであるシェアサイクルを街に導入すること。この二つを一挙に実現するための取り組みが「HUBchari」です。

HUBchariの仕掛け人は「ホームレス状態を生み出さないニホン」を目指すNPO法人「Homedoor」の川口加奈さん。2012年4月の本格スタートから一年以上経ったいま、改めて彼女に話をうかがいます。

正直に告白すると、HUBchariの取り組みをとても面白く思う一方で「ホームレス状態を生み出さない」という目的をしっかり実感できていなかった私。今回の取材を通してその目的をもっと”自分ごと”にするためのヒントをもらいました。

みなさんも一緒に、「Homedoor」の展開を見ていきましょう。

「シェアサイクル」プラス「中間的就労」

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自転車を整備するおっちゃん

まずは簡単なおさらいから。

「HUBchari」とは、大阪市内各所に設けられた「ポート」に用意された共有の自転車を有料でレンタルできるサービスです。レンタルサイクルと違うのは、「HUBchariのポートであればどこに返してもいい」ということ。どこで乗っても目的地の近くで自転車を返すことができるため、道ばたへの乗り捨てや駅前への置きっぱなしが減り、放置自転車問題に対する解決策のひとつにもなっています。

そして「HUBchari」が他のシェアサイクルと違うところは、ホームレス状態を抜け出て生活保護を受けるおっちゃんたちが、修理、清掃、受付といった仕事を行う、という仕組みにあります。ホームレス状態を抜け出た生活保護受給者に次の仕事を得るまでの中間的就労を提供することも、「HUBchari」の大切な役割なのです。

海外であれば、行政のサポートを受けてシェアサイクルの貸し出しを行うためのポートを路上に設置できます。ですが、日本では制度的にそれが困難なため、「HUBchari」は企業にノキサキを借りることでポートを増やします。

もちろん、はじめから企業の協力が都合よく得られたわけではありません。当初は「実績がない」ことを理由に受け入れてもらえない辛い時期を過ごしました。

大阪府住吉区との提携

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川口加奈さん

そんななか、「HUBchari」に大きな転機が訪れます。2012年9月に大阪府住吉区との事業提携が決定したのです!住吉区側から4箇所のポートが提供され、そこで働くおっちゃんたちも合計で25名が紹介されました。

以前に住吉区の区長さんとお会いする機会があって、そのときから事業の話をしていました。提携が決まってからは協議の連続。行政全体を見渡しても「HUBchari」との連動のようなことをしている例がほとんどないなかで、どういう形で一緒にやっていくのがいいかという模索から、書類作成、オープニングの準備まで一緒にやって下さったんです。

住吉区と提携し、半年間の実験という形で事業を行うなかで、25名のおっちゃんたちのうち11名が次の仕事を見つけ「卒業」していきます。就職先としては、運送業、飲食業、警備や清掃といった職種。その様子を関西のテレビ番組や各種メディアが取り上げ、「HUBChari」の名前が関西で広がっていきました。

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さまざまな雑誌に取り上げられる川口さん。テレビ出演も果たしています

「ありがたいことに、毎月どこかに取り上げてもらっているという状態だった」と語る川口さん。

社会的な取り組みに興味のある方からのリアクションに加え、高校生から手紙をもらったり、おじいさんおばあさんから連絡や寄付を受けたりと、これまでであれば知られなかったような、より多くの方にまで存在が知られるようになっていきます。

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北区区長さんと「Homedoor」のみなさん

現在約10箇所のポートを持つ「HUBchari」。住吉区に続いて、2013年に入ってからは大阪府北区との提携もはじまっています。昨年の住吉区と「Homedoor」の提携は、区長から区長への口コミによって有名になっていたよう。とりわけ北区の場合は、コミュニティサイクル事業に力を入れており、「自転車問題をなんとかする」という意識が強かったことから、提携が決まりました。

住吉区や北区の事例も含めて、これまで「HUBchari」で働いたおっちゃんは総勢で48人。そのうちのなんと20人が、一年半のあいだに卒業していきました。

そして、さらに嬉しいニュースは続きます。

最近メディアを見て、ある企業さんが「うちに「HUBchari」を卒業したスタッフを紹介してくれないか」という問い合わせを下さいました。

ちょうど今日卒業された方は65歳を過ぎた方で、日系ブラジル人のため漢字が書けず、「一般の就労は難しいんじゃないか」と心配していたんですが、とてもありがたいと思っています。

「HUBchari」で得たお金でスタッフのために差し入れを買ってきてくれるおっちゃん、生活保護費からではなく「働いたお金でいつか石原裕次郎記念館に行きたい」というおっちゃん…「HUBchari」は、彼らの願いを形にするための舞台にもなりつつあるのです。

「勢いだけ」から「攻めと守りのバランス」へ

連携する相手も、事業内容も広がりを見せる「HUBchari」ですが、前回グリーンズでお話を聞いて以来、一年半経って川口さんにはどんな状況が見えているのでしょう。

去年の住吉区との提携では、住吉区内に事務所を設けて、朝から晩までおっちゃんとガチでぶつかりあう半年でした。

おっちゃんたちはそれぞれ違う背景を持っているので「どう次のステップに進んでもらうか」というのは難しいところではあるんです。でも、時間をかけることでなんとか乗り越えられてきたのではないかなと思います。

課題を聞くと、「課題よりは、やっていくことが大事」という答え。そんな中でも「現場をやりながら、しかも運営しないといけない」というところに難しさを感じたと川口さんは言います。

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「観光とあわせたひと味違うマップをつくりたい」「外国人向けの英語マップもつくりたい」。そういう目的からつくられた、外国人のオタクが紹介する「オオサカオタクマップ」

では、川口さん自身の変化はどうだったのでしょうか?

以前は勢いだけでしたが、今はいろいろ考えながら、攻めと守りでバランスよくやっているという感じです。「Homedoor」という団体自体がある程度のところまできたので、以前は人手が足りず手が回っていなかったところまで手を回せるようになりましたね。

2012年時点では学生だった川口さんも、2013年4月から「理事長」に。2012年時点で2人だった社員も6人へ増えて所帯が大きくなっています。おっちゃんたちへのケアを手厚くし、「Homedoor」自体の収支バランスもよくするために、寄付や寄付会員の増加を目指しています。

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「Homedoor」のみなさん

「Homedoor」は「HUBchari」のみにあらず

そんな「Homedoor」は、「ホームレス状態を生み出さない」という大きな目標に向けて、三つの大きな「枠組み」をつくります。

まず、ホームレスになりたくないと思っている人に対する「入り口封じ」。そしてホームレスになってしまったけどそこから抜け出したいと思っている人に対する「出口づくり」。それから、偏見で溢れている生活保護問題のイメージを変えるための「啓蒙活動」。「HUBchari」はこのうちの「出口づくり」に当たります。

二本目の「入り口封じ」として考えられているのがシェルター機能の強化。例えば「明日から泊まるところがない」というホームレス状態の手前に来たとき駆け込み寺になる避難所や、DVで悩む女性が駆け込めるシェルターです。

現在準備中のこの事業は、実は彼女が中高生の時期から温められていたもの。川口さんは、当時描いた「設計図」を探して見せてくれました。

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「中間的就労研究所」でのヒアリング

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川口さんが高校時代に書かれたというシェルターの絵

そして三本目にあたる「啓蒙活動」は、ひとつが「中間的就労研究所」の運営です。三菱財団の助成を受け、「おっちゃんたちが「HUBchari」という中間的就労でどう変化したか」という報告を外に出していくための研究機関をつくります。研究者と実践者との両者におっちゃんたちのことをより深く知ってもらうことが目指されています。

もうひとつが、「釜Meets」の取り組み。日本で最もホームレスが多いといわれる釜ヶ崎を歩き、炊き出しに参加します。歴史的な背景やおっちゃんたちの置かれている環境や不当な搾取の歴史を話してもらったり、おっちゃんたちが普段食べているご飯を一緒に食べたり、盛りだくさんの内容です。

これを二ヶ月に一回やるんですが、開催する度にすごい盛況です。定員があるんですが、多いときはそれを超すくらいの人が来られます。ただボリュームがすごくあるプログラムなので、実施も大変。ということで街歩きだけを抽出する「釜あるき」という事業もはじめています。


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「釜Meets」の様子

失敗と挑戦が許容されている社会へ

こうした取り組みを紹介する中で、川口さんが話してくれたこんな言葉が印象に残っています。「ホームレス状態を生み出さない」とはつまりどういうことなのか? ということについての言葉です。

ホームレスにならない社会っていうのは、「失敗しても大丈夫だ」っていう、敗者復活が自由にできる社会だと思うんです。そういうところまで寄与したいですね。

望ましい社会のあり方について、川口さんはさらにこう続けます。「税金を払うだけが市民の義務ではなくて、みんなで共同して問題を解決する姿勢がないと、結局課題は解決しないままなんじゃないか?」。

その”共同”の仕方は必ずしも「Homedoor」と一緒になって、おっちゃんたちのために直接働くことだけではありません。

手軽な移動手段として「HUBchari」を利用すること。それが、そこで働くおっちゃんたちの目標実現に一役買っているのです。そんな偶然出会った便利なサービスの背景にある、自分たちが同じ社会を生きる人たちが見ている現実を知ることから、”共同”ははじまるのかもしれません。

どんどん広がる「Homedoor」の取り組み、みなさんも参加してみませんか?