「災害大国は防災大国に、なれる」と、少しどきりとするキャッチコピーを掲げる「EARTH MANUAL PROJECT展」。10月4日から24日まで、デザイン・クリエイティブセンター神戸で開催中です。
この企画は、世界中からクリエイティブな防災活動を選りすぐって紹介してアーカイブし、全世界のクリエイター・市民・NPO・行政・企業が情報共有して連携を深め、さらに相互学習を推進するプロジェクト。
防災とクリエイティブ。とても意外な組み合わせだと思いませんか?
しかしさまざまな災害救助や復興支援の活動をクリエティブな目線で追うと、素晴らしいクリエイターたちが携わり、驚くようなアイデアやデザインに満ちあふれた取組みを行っています。そんな「+(プラス)クリエイティブ」な取組みを世界中から厳選して紹介する“最初の一歩”が、今回の「EARTH MANUAL PROJECT展」なのです。
「+クリエイティブ」が起こす、化学反応とは。プロジェクトの仕掛け人であり、会場のデザイン・クリエイティブセンター神戸「KIITO」副センター長の永田宏和さんにお話をお伺いしました。
世界的に災害が増えているなかで、
志のあるクリエーターによる活動も増えている
永田宏和さん
デザイン・クリエイティブセンター神戸 副センター長
1968年兵庫県生まれ。企画・プロデューサー。1993年大阪大学大学院修了後、大手建設会社勤務を経て、2001年「iop都市文化創造研究所」を設立。2006年「NPO法人プラス・アーツ」設立。2012年8月よりデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)の副センター長を務める。主な企画・プロデュースの仕事に、「水都大阪2009・水辺の文化座」、「イザ!カエルキャラバン!」(2005~)、「地震EXPO」(2006)、KIITOオープニングイベント「ちびっこうべ」(2012)などがある。
グリーンズ なぜ、いま、EARTH MANUAL PROJECTを行うのでしょうか?
永田さん 僕らは神戸を拠点にしています。
阪神淡路大震災を経験していますし、災害に関する事を神戸から発信することはとても意味があることだと思います。また東北の大震災もあり、最近、日本で災害が多いですよね。災害規模も大きくなってきている。雨の降り方もスコールの様です。気候が温帯から亜熱帯に変わったんじゃないかという人もいるほど。
今回、「EARTH MANUAL PROJECT展」で取り扱っているインドネシア、タイ、フィリピンなどの地域や国々も実は同じ様な状況なんです。
グリーンズ 世界的に見ても災害が増えていますよね。
永田 はい。人々が苦しんでいる時代背景が、今までの規模を大きく上回っている。そんな中でむしろハード的な整備も国家レベルで行わなければいけないのですが、ハードでできることも限られています。
グリーンズ その中でクリエイターにスポットをあてた理由は?
永田 クリエイターだからって指を咥えて見ているだけでなく、何かしら活動を起こしているわけです。日本では、それこそ災害直後の避難所の間仕切りのデザインを建築家さんがやってみたり、復興支援として地元産のジュエリー開発にデザイナーが手を貸すなど、神戸、東北など日本では多種多様な方法でクリエイターが関わっています。それが、インドネシアやフィリピンでも面白い活動をしているクリエイターが増えてきているんです。
「THAI THAI DAIJOBU!」-日用品を活用した洪水対策術-/ウィパーウィー・クナーウィチャヤーノン [タイ]
グリーンズ 世界にも同じ志を持つクリエーターがたくさんいることに驚きました。
永田 僕は「イザ!カエルキャラバン!」という“楽しい防災訓練プログラム”を世界各地に広めているのですが、その際に反対に訪れた国々で、新しい防災に関わる取組みを学ぶことが多いんですね。防災って、教えるって偉そうなものではなくて、“学び合い”なんです。
僕がそこで経験した“学び合い”をもっと多くの人、クリエイターたちに、そして市民に伝えたいと考えました。それは、災害とちゃんと向き合う事でもあり、災害と寄り添いつき合っていくためのお作法、といいましょうか。そういう作法集、みたいなものが「EARTH MANUAL PROJECT展」なんです。
「EARTH MANUAL PROJECT展」の楽しみ方と見所は?
会場では、日本国内や東南アジア、世界格国の「+クリエイティブ」な災害への取組みをブース毎に紹介しています。また、その活動のノウハウが書かれた画期的なマニュアルが用意されており、来場者は思い思いにそのマニュアルをアーカイブすることができる仕組みになっています。
展示を見終えた後、チョイスをしたノウハウをアーカイブすると、自分だけのオリジナルマニュアルブックが出来上がるのです。それは、今の自分が必要であるものがなにかを知るヒントになるかもしれません。
各ブースには、それらの取組みのノウハウが書かれたマニュアルを自由に貰うことができる。自分の興味のある取組をチョイスしていくうちに自分だけの「マニュアル冊子」を作れる。
グリーンズ 今回の展示でこだわったところは?
永田 とにかく綿密な取材をしました。海外でも、各国とも3回以上は訪れています。学びが多く、そして地域に根を張ってしっかり継続しているものをきちんと紹介しています。
その密度の濃いやりとりの中で、その活動自体の素晴らしさはもちろん、そこにかかわるクリエイターたちの姿勢、向き合い方、そして哲学、そういうところに感銘を受けて並べたものばかりなので、見て感じてほしいです。
グリーンズ 日本のクリエーターも関わっているようですね。
永田 はい。マニュアル冊子は、岡本欣也さんや寄藤文平さんなどスペシャルなクリエイターたちがすばらしいメディアを作ってくださいました。コピーライターの岡本欣也さんは、例えば、インドネシアの手工芸による震災地域復興のキャッチコピーで「支援は平等に行き渡らないと考える。」などちょっとどきっとするけど、その活動の本質を捉えたコピーをつけてくれるんです。それだけで伝わることがありがたくて。
またアートディレクターの寄藤さんは、多岐にわたる活動内容を、展示パネルと最大A4・3枚という限られたマニュアルのペーパーに、読みやすくそしてかっこよくデザインして下さいました。僕らの取材内容を皆さんに100%伝わるように手を尽くしてくださった。これが「+クリエイティブ」の力です。
また、被災地で作られた復興応援グッズや、防災グッズなどを直接買えるブースもある
グリーンズ 展示の空間の使い方も印象的です。
永田 展示は、建築家の曽我部昌史さんと長谷川明さんが力を貸してくださいました。これも見所の一つで展示台は瀬戸内芸術祭で使用した木のパレットを320台使い、脚はKIITOにある椅子を使っているんです。全部既存にあるものを使って作り上げました。
災害の時って、身の回りにあるもので代用するじゃないですか、その思想と同じように「あるもので代用して作る」っていう試みをしたのがかなり面白いんじゃないかなと思います。クオリティーは担保しつつ、この展示のシナジーを汲んでくれている。人にきちんと伝えるためにクリエイティブの力は必要だと考えます。
“誰かのために”動いている活動が実を結ぶ時代
グリーンズ 「EARTH MANUAL PROJECT展」は、どんな人にオススメですか?
永田 間違いなく、クリエイターやクリエイター志望の方です。今回の展示を通じて、それに携わる人々のプロセスやプログラムを知って、「クリエイティブとはこういうものなんだな」ということを肌で感じてほしい。
このプロジェクトで一番伝えたいことは、活動内容はもちろん、それぞれの活動を仕掛けたクリエイターたちの思いや願い、そして自然災害や被災地への寄り添い方です。今回かなり綿密に取材を行って、僕ら自身が本当に良いと思うものをピックアップしたのですが、23の取組みすべて並べてみて、やっていることは多種多様なのにそこに関わる全てのクリエイターたちの思いが一貫しているのです。
グリーンズ というと?
永田 被災地の声にしっかり耳を傾けて、相手のニーズに寄り添い、なによりみなさんとても謙虚なんです。「自分が自分が」ではなく、被災地のために黒子に徹して、自分の持つアイデアや手法を惜しみなく使い、そして、被災地のみなさんが自分たちの力でやっていけるようになるとそっとフェイドアウトしていくのです。
SNSを通じたアピール合戦のような状況にあるこの時代で、“誰かのために”動いている活動が実を結んでいるし、そういう姿勢が効果をあげているということ伝えたいですね。
興味を持って「EARTH MANUAL PROJECT展」に訪れてくださった皆さんには、災害や防災に興味を持ってもらうことはもちろんのこと、今回は災害に特化させていますが「+クリエイティブ」が導入できる対象は実は身の回りに溢れていますし、必要とされています。この展覧会の延長線上に日々の生活もあったりすると僕は考えていますので、ここでの体験が生活の気づきになればと思います。
並ぶのは、料理人、デザイナーと一緒に考えた、知恵と工夫の詰まった「炊き出し」。災害時の対応・備えをおいしく、楽しく学べるプログラム。アレルギー表示や宗教の配慮など、震災を越えたからこそ気づきがあったアイディアがちりばめられたフードブースに(10/5,6終了)
「+クリエイティブ」という言葉がなくなる世界へ
グリーンズ 今日はありがとうございました!最後に、永田さんの「ほしい未来」とは何ですか?
永田 僕のほしい未来は、極端は話、「+クリエイティブ」という言葉がなくなる世界。それが、当たり前になる世界は、みんなが欲しい未来に近いんじゃないかな、と思っています。
僕らが「+クリエイティブ」というコンセプトを打ち出してから、商業デザインや広告デザインの最先端を追うのは他に任せればいいかな、と。神戸市は、ユネスコのデザイン認定都市であり阪神淡路大震災を経験し、それを乗り越えんとしています。また元々復興やまちづくりが盛んな都市でもあります。
神戸は社会課題を掲げたデザインに説得力を持たせることができるし、そうありたいと思っています。現代社会は社会課題は山積みだし、経済的には新しい事業を生み出す事が難しい時代です。まそれまではまず、神戸がお手本として、社会課題に対して「+クリエイティブ」という考え方で社会との新たな関係性を提案していければと思っています。
デザインを使った社会的アプローチを続けて、今回は東南アジアですが、今後は、アメリカやヨーロッパを含めた世界と繋がり、活動を広げていくことが一番重要なんじゃないかと考えています。
永田さんは、自らのことを“風の人”だと称します。“風の人”は、その地域にぴったりなグッドアイデアの種を運び、その地域に住む“水の人”と“土の人”に託します。種を芽吹かせるためには、種と土に栄養を与える、中間支援的存在である「水の人」も重要で、その3つの絶妙なバランスが新しい芽を育みます。
“風の人”は、芽を出した新芽をそっと促し、また、他の土地へその種を運ぶなど、風の役割は届け物をしたら、その場に留まらない、と言います。芽吹いた新芽は土地に根付き育むものだから。
そんな“風の人”たちが運んだ、新芽から力強くも美しい花を咲かせる23のストーリーに、あなたは何を見つけますか?