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故郷は一つでも、地元は増やせる!伊丹のまちを楽しくする仕掛け人、中脇健児さんインタビュー [ハローライフなひとびと]

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伊丹の「楽しさ」仕掛け人、中脇健児さん

みなさんにとって「地元」と言える場所はありますか?初めて会った人でも「地元」が同じというだけで意気投合して友達になったり、なんだか不思議なものですね。でも、住んでいる街だから地元なのでしょうか。生まれた街だから地元なのでしょうか?

兵庫県にある伊丹の街を「地元」だと言う中脇健児さんは、伊丹市の文化振興財団で働きながら伊丹の街づくりに関わってきました。酒蔵が数多く建ち並び、清酒発祥の地として知られる伊丹は、歴史こそあるものの10年ほど前まではどちらかと言えば活気のない古い街でした。

今、その伊丹で中脇さんがサポートした幾つかのプロジェクトをきっかけにして、街は賑わいと新しい取り組みに積極的な人のつながりを取り戻しています。

2013-06-03 21.43.29 街の人たちと一緒につくりあげるのが面白い、と中脇さん。

エスカレーターから広場まで、街そのものをライブ会場に。

たとえば「伊丹オトラク」は、“普段づかいの音楽プロジェクト”として、気軽に音楽が楽しめる風景をつくります。お店はもちろん、ショッピングモールや公園や広場、はてはバスの中まで、新たなライブ場所にしていきます。

演奏スタイルも “ながし”や“ピクニック”というようにユニークな方法で行い、年間300回以上演奏が行われ、40会場、パブリシティにも多数掲載という盛り上がりを見せています。多くの市民サポーターや商店街、行政も巻き込みながら2005年の初開催から今年まで、その規模は年々大きくなっています。

hankyu1お店のエスカレーターも演奏会場の早変わり!

DSC_3108街を歩けばあちらこちらから、音楽が!

酒蔵で、虫の声に耳を澄ます10日間。

また「鳴く虫と郷町(ごうちょう)」は、伊丹市昆虫館とのコラボレーション企画です。文化財の町家や酒蔵に竹の虫カゴや壷に鈴虫など秋の鳴く虫を入れて、虫の音を愛でる江戸時代の楽しみ方を再現する10日間のイベント。毎年9月に開催され、今年で8年目を迎えます。会期中は街ぐるみで虫の音と秋を楽しむ関連企画やオリジナルメニューなどが多数実施されるのも特徴です。

IMG_3537 秋の虫の声をたどって街歩き。

DSC_0134子どもたちもはじめての虫の音体験。

実は生まれも育ちも、現在の住まいも大阪府高槻市だという中脇さん。伊丹が活気づき、中脇さんの「地元」になったいきさつと、街づくりにつながる暮らしについてたずねました。

故郷は1つでも、地元はふやすことができる。

中脇さんは高槻生まれ、高槻育ちの高槻在住です。大学も大阪だったので伊丹に縁ができたのは11年前に伊丹市の文化振興財団に就職してからでした。11年前の伊丹は現在のように酒蔵の周辺も観光向けの整備が進んでおらず、どちらかと言えば、少しすたれた郊外の街でした。

大阪芸術大学で「アートと社会」について学んでいた中脇さんは、文化施設の管理運営の仕事と平行して街づくりにかかわるようになっていきました。ただ、10年以上も伊丹にかかわるなかで、伊丹に住んでいた時期はないのだそうです。

これは声を大にして言いたいんですが、地元はふえますよ。生まれ故郷は一つしかないかもしれませんが、地元はふやすことができます。地元がふえるという感覚を覚えると楽しいですよ。

と中脇さんは語ります。伊丹に馴染みの店や知り合いがふえ、そういうつながりがいくつも出来て、街に受け入れられたという感情が生まれたとき、伊丹は中脇さんの「地元」になっていきました。

僕は、住んでいなくてもその受け入れられた感覚で過ごせるところは、「地元」なんだと思います。それにそこに住んでいる人の魅力も知っているということも「地元」感につながると思います。

知り合いであっても少し匿名性がある場合があります。たとえば、毎週同じお店で一緒になるけれど、職業だとかそういう社会的背景はあまり知らない友達がいる、という経験はないでしょうか。

伊丹ではそこまで匿名性が強くなく、中脇さんも街の人もお互いにほどよく知った上でのおつきあいです。その関係性が「地元」感のひとつなのかも知れません。「街づくり」という接点があったからそうなれたという見かたもあるでしょう。しかし、「自分のことをよく知っている人が多くて、その人同士もつながっている」と置き換えれば、地元にしていくかどうかは、自分自身の働きかけひとつだと思えてきます。

IMG_3879 街を歩けば、仲間に出会う!

僕は、摂津峡とともに生きよう。

それでは住んでいる街、高槻市は中脇さんにとってどんな場所なのでしょうか。中脇さんは街づくりにかかわるようになって、関西の各地で行われている取り組みにも注目するようになると、神戸の六甲山で開催されていたリュックサックマーケットなどにも足を運ぶようになりました。同時に、どうしたら同じような楽しいことをつくれるのだろうかと考えるようになります。

そのときふと思ったんです。僕にも摂津峡があるなと。人口35万の高槻市でも少し山手に進めば摂津峡という自然豊かな場所があります。子どもの頃そこで遊んだことも思い出して、ここではじめたらいいや!僕は摂津峡とともに生きる!ってね。

摂津峡 中脇さんの憩いの場所「摂津峡」。美しい清流と自然がのこっています。

実は、先に紹介した「鳴く虫と郷町」のイベントをはじめるきっかけのひとつは摂津峡にもありました。

友達と摂津峡の河原で遊びながら、虫が鳴くのを聴いてのんびり過ごしたりしていたんです。風情があっていいなあ。これを街中でも聞けたらいいなあって思ったんです。

どうやらプライベートな時間に摂津峡で遊ぶことが、伊丹でのアイデアソースになっているようです。今の自宅の購入の決め手になったのも、摂津峡まで自転車でいける距離だったからだとか。

こどもこどもたちと一緒のご近所散策は発見だらけ。

公私合同の暮らしで発想。今の一押しは、たき火。

公私混同とはあまり良い意味で使われない言葉ですが、中脇さんは「公私合同」でいこうと考えています。プライベートも仕事もどちらもそれぞれに良い影響を与えるヒントがあるから、分け隔てて考えるのはもったいない、と。

たとえば、今、中脇さんのマイブームはたき火です。たき火をすると自然と火の周りに人が集まり会話が弾むことが多いと気づきました。さらに、たき火をするために、土地を痛めない安全なたき火の仕方も調べました。

枯れ木を集めるときに、間伐材や森の成り立ちについて調べてみたり、いままで知らなかった世界がみえてきて、それがまた街づくりのヒントになっています。近所の子どもを連れて川遊びや街歩きの引率をかってでることもあるそうです。

たきび2 たき火から新しいアイデアが生まれる日も近い!?

自分の父親がサラリーマンで、父親の働いている姿を見たことがないんですね。自営業の家は生活と仕事が密着しているので、子どもに働く姿を見せやすいでしょ。それで学ぶこともあります。僕も公私合同に近づけることで、子どもに自分の仕事を見てもらいたいという気持ちがありました。

その親としての気持ちは、さらに伊丹の新しい企画にもつながっています。

子どもの仕事体験を、街全体を使ってやりたいんです。伊丹の商店や会社と協力して、モノを売ったりつくったりする体験イベントです。今まで賑わい活性のイベントは業種を絞ることが多かったんですが、この切り口ならいろんな業種が参加できます。なにより街の人がどんな風に働いているか、店主さんたちのこだわりや個性を知ってもらいたいと思っています。

住んでいる街を、商品にしない。

住宅サイトなどを見ると街選びの選択肢は大半が利便性です。これからの時代は、あったかい街や受け入れらやすい街など数字的な基準を示しにくいものも含めて選択してくれる人が増えてほしいと中脇さんは考えています。

便利なだけで選ぶ街は、住んでいる街を消費していると思います。住人も結局のところ街を商品としか見ていない、ということだと思います。お金をつめば利便は手に入ります。でもこれから人口が減っていって、経済成長期のようにみんなが裕福になれるわけでもありません。

下降の時代にもうひとつの価値は必要だし、何をもって安心できるかといえば、みんなができることをちょっとずつ出しあえる関係性じゃないでしょうか。

治安にしても関係が熟していれば、交番を新しくつくらなくても充分に安全をまかなえるだろうと中脇さんは考えます。お互いに補い合うことに希望があり、そこから少しずつ暮らし方を変えていけるのかも知れません。

「楽しい」は、5年で「地域資源」に変わる。

ここ数年の伊丹は、中脇さんが関わらないところでも屋台祭りやライブが頻繁に行われるようになっています。中脇さんは、そこまでコミュニティが熟すには5年かかるといいます。反対に、5年続ければ必ず街が変わるとも考えています。

IMG_3847 誰とでもフラットに話せる雰囲気の中脇さんだから、街の人も話が弾む!

楽しいだけ、遊んでいるだけを推奨したいです。やりたいと思った気持ちを大事にしたいし、失敗しても次またやればいいでしょ。伊丹はあたたかい街になっています。でもやっている当事者は伊丹のあたたかさを維持しようとは思ってやってないと思いますね。

ただ楽しんでやっているだけ、という価値観を5年続ければ、それは街のぬくもりに変わるし、その関係性は新たな人を呼び込む地域資源になります。僕はそのほうが豊かなことだと思うんです。

2013-aki-bosyu01-500x704 なんだかとっても楽しそうな伊丹オトラクサポーター

現在は、伊丹の他に大阪や奈良、淡路島のプロジェクトにもかかわる中脇さんですが、伊丹に帰ってくると、やっぱりここは自分の街だなあ、とほっこりするそうです。伊丹は中脇さんにとって仕事と生活の境界がほとんどなく、それを楽しみながら肩肘はらずに過ごせる街。

さて、みなさんの「地元」感とは何でしょうか?働いている街、住んでいる街、それぞれとの付き合い方を、ちょっとだけ丁寧に考えてみませんか。

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