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食を通じて、世界の問題を知り、自分ごととして考えよう。母国料理を作りながらその国の理解を深める「WorldLiving」

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

みなさんは外国人の友達はいますか?
では、その人の国のことをどのくらい知っているでしょうか?

アメリカってこういう国だよね、中国人ってこうだよね、と、つい先入観を持ってしまうこともあると思います。もし外国人と交流できる機会があれば、理解も深まるはず。そこで「WorldLiving」では、食を通して、いろいろな国の人たちが交流する機会をつくっています。

文化や習慣が異なっても、思いは同じ

「WorldLiving」は直訳すると「世界の居間」。毎回一つの国を決めて、その国の料理をその国の人に教えてもらいながらみんなで一緒に作り、食べながらお互いのことを話し合うイベントです。


ソマリアがテーマのWorldLiving。食べるときはみんなで輪になって。

WorldLivingは食事を一緒に作って、食べて話すっていうシンプルなイベントなんですけれど、食ってやっぱり面白いんです。例えば、ソマリアの料理を作ったときには、ソマリアはイタリア領だったので、主食はパスタなんですね。それをアルデンテとはほど遠く、やわらかーく茹でて食べるんです。それはなんでかっていうと、向こうでは手で食べるので、やわらかいほうが食べやすいからだっていうんです。こんな風に、食を通していろいろな情報を知ることができるし、違った視点で見ることができるんですよね。

と、WorldLivingを立ち上げた茂木良平さんは言います。


ソマリアからの留学生、アブディさんがパスタを上手に手で食べる方法を教えてくれた。

茂木さんがこの活動を立ち上げたのは2012年の6月。その原点は4年前のアメリカ留学でした。

アメリカのサンディエゴに語学留学したのですが、初めての海外で、しかも期間は2ヶ月間しかなかったんです。学校には日本人学生が半数くらいいたのですが、せっかくアメリカに来て日本人と一緒にいるのはもったいないと思って、できる限り外国人の友達を作って一緒に過ごすようにしていました。

トルコ、イタリア、ドイツ、スペイン…いろいろな国の人たちと話しているうちに、文化が違うから行動や習慣は違っても、人間の思いって共通だなってわかったんです。自分の国に彼女がいるので会いたいとか、そういう気持ちってみんな同じだなって。


ガーナ出身のエルシーと話す茂木さん

特に茂木さんが好きだったのが、寮の学食でご飯を食べる時間。ビュッフェで好きなものを取り、みんなでとりとめなくおしゃべりしながら食べる、そんな空間を日本でも作りたいと漠然と思っていました。その後、茂木さんはスペインにも留学します。

スペインというと、ラテンのイメージがありませんか?情熱とか、太陽とか、明るくって陽気で、お祭り騒ぎみたいな。でも、行ってみたら、寒いし、雪は降るし、全然フレンドリーじゃない。歩いていても誰も、アミーゴ!なんて言ってこないんですよ。

その時に、僕たちは勝手に国のイメージを持っちゃってるんだなって気付いたんです。アメリカは自由、スペインは情熱、日本は真面目、イラクは危険とか。そのイメージで決め付けているだけで、知らないことがいっぱいあるんです。実際にその国の人と話せばいろいろなことがわかるのに。

そこで、帰国した茂木さんはいろいろな国の人と話せるグローバルコミュニティを作りたいと、最初はウェブのサービスを作り始めました。しかし、やっているうちに、知らない人同士がいきなりオンラインで仲良くなるのは難しい、リアルに出会う場を作らないとだめだ、という思いから「WorldLiving」をはじめました。

世界のことを考えて、自分の行動を変えるきっかけに

WorldLivingを開催してから10ヶ月で、およそ120人が参加しました。作った料理もマレーシア、日本、ガーナ、ソマリア、ウガンダ、デンマーク、ベトナムと、バラエティに富んでいます。そしてWorldLivingはこれから次の段階に行こうとしていると茂木さんは言います。

僕たちがWorldLivingでやりたいことは「Think global, act local.」のように、世界のことを知りつつ、自分たちの生活を見直したり、楽しくしたりしていこうよ、ということなんです。

この“Think global”の部分は、今までのWorldLivingのイベントをさらにパワーアップして、食だけでなく、その国に行ったかのような体験ができる、一日ホームステイというイベントを始めたいと思っています。


お話を伺った茂木さん

”Act local”の部分では、食料廃棄の問題に取り組みたいと思っています。飢餓状態にいる人もいるのに、世界の生産量の3分の1にあたる13億トンもの食料が毎年捨てられているというデータがあります。まだ食べられるのに捨てられてしまう食品を「食品ロス」というのですが、日本の「食品ロス」は500万トン~800万トンとされています。これは、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食料援助量(平成23年で年間約390万トン)を大きく上回る量です。[参考]

僕たちがもったいない食べ方をしている裏側で、飢えに苦しんでいる人たちがいるという歯がゆさがあります。飢餓問題にはたくさんの要因がありますが、WorldLivingとしては、個人が食に対して興味を持ち、自分たちの判断で無駄をなくしていく選択ができるようなイベントを行っていきたいのです。そのための仕掛けを今考えているところです。

社会の問題を悲観的にとらえて、声高に叫ぶのではなく、世界のことを少し考えて、自分の行動をちょっと変えてみる。それがちょっとずつ広がることで、その結果として、世界が大きく変わる。それがWorld Livingの目指すところだといいます。


ソマリア人の留学生、サミラさんがソマリアでのストーリーをシェアしてくれた。

世界に広がっていくWorld Living

2013年3月には、茂木さんはチェコを訪れ、チェコでもWorldLivingを開催。チェコ料理と日本の親子丼、みそ汁を作り、食べながら話をしました。

日本とやったときとの違いは特に感じなかったですね。ご飯を一緒に作り、食べると自然と仲良くなることは再度確認できました。印象深かったのは、自分とは違う当たり前を持っている人と話すことで、自分のこと、自分の国のこと、他の国のことがよくわかるようになるということでした。


チェコでのWorldLiving。作っているのは味噌汁。


エンジニアや弁護士など多様な人々が参加してくれた、チェコでのWorldLiving。

チェコで、ある人が、自分の働き方に満足できていないと話してくれました。それは女性の結婚、妊娠、出産に対する制度が整っていないからなのだそうです。でも、話を聞いていると、実はチェコの福祉制度はとても整っていて、北欧並みかそれ以上の体制ができていることがわかりました。そこで、僕が知っている範囲で日本の状況を話すと、「なんだ、チェコ結構いいじゃん」となったんです。

こんなふうに、普通に旅行しているだけではわからないような国の制度のところまで聞けるのがWorldLivingの魅力です。とても楽しかったし、なによりチェコのイメージが変わりました。WorldLivingが人の価値観をぶらすことに繋がってるのかなと再認識できましたね。

チェコの友人たちは、今後チェコでWorldLivingをどうやって続けていくかを考えているそうです。今年後半には、まだ行ったことのないアジアへの旅も計画中だという茂木さん。WorldLivingの輪はこれからさらに世界に広がっていきそうです。