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新しい社会のヒントは被災地と途上国にある! 三陸・気仙地域とカンボジアで新たな産業づくりに挑戦する「re:terra」

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

資本主義ってこのまま進んで大丈夫?いまの状況って本当に豊かと言えるのかな?
既存の社会システムのひずみがさまざまな形で顕在化している現代、こんな疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。

三陸・気仙地域で椿を使った化粧品づくりを行う「気仙椿ドリームプロジェクト」やカンボジアで美容学校設立を目指す「B born」などの事業を行う一般社団法人re:terra(リテラ)は、ビジネスを通して新たな資本主義の形を模索しています。

「被災地」と「途上国」、両方に取り組む理由や、それによって見えてきたことについて、代表の渡邉さやかさんに伺いました。

11歳のときから抱いていた疑問

2011年に「re;terra」を立ち上げた渡邉さん
「re:terra」を立ち上げた渡邉さやかさん

渡邉さんがはじめて海外旅行をしたのは、11歳のとき。父親の勧めでネパールへ行きました。

実家が長野なので、成田空港に行く途中に東京を通りました。そこでまず、東京は便利だけど空気が汚いしごちゃごちゃしているな、と感じて。

ネパールでは、私と同世代の子どもたちがストリートチルドレンをしていたのですが、日本の大人たちは私に見せないようにしていて、違和感を覚えました。その時の旅行日記には、「豊かさってなんだろう」という主旨のことがばーっと書きなぐってあります。

その体験がきっかけとなって大学や大学院で国際協力を学んだ後、渡邉さんは民間のスキルやノウハウを身につけようと、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)にコンサルタントとして就職。約4年勤めて、新規事業策定や業務改善などのプロジェクトや社内でのプロボノ事業の立ち上げに関わり、そろそろ会社を飛び出そうと準備していたとき、東日本大震災が起こったといいます。

友人がいたので、4月に初めて福島に行きました。それから、現地に入ったり、現地で活動するNGOの話を聞いたりするうちに、被災地の状況が途上国開発に似ていると思ったのです。緊急支援のフェーズの後、産業支援が必要になるのがわかりました。そこで自分自身のこれまでの知識や経験、コンサルタントとしての能力が活かせるのではないかと考えました。

会社を辞めてさまざまな人と話をする中で、三陸・気仙地域で活動する佐藤武志さんと出会い、「被災地には新たな産業が必要だ」という点で意見が一致。「気仙椿ドリームプロジェクト」を一緒に始めることになりました。

気仙椿で化粧品をつくり、地域に根づいた産業に育てる

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気仙椿は三陸沿岸に自生していて、この地域で育つ椿からは良質の油がとれると言われていました。しかし、地元では少量が食用油として使われるのみで、椿の実の大多数は活用されず道端に転がっている状態。この椿を活用して付加価値をつけやすい化粧品をつくり、三陸・気仙地域の新たな産業として育てるのが「気仙椿ドリームプロジェクト」です。

商品企画には、東北支援に取り組む女性医師の会「En女医会」が協力。「ハリウッド化粧品」がラインを提供してくれることになり、ハンドクリームを開発することになりました。

地元住民が椿の実を拾い、選定と精油は、障がい者就労支援施設「青松館」が、津波によって工場が流され廃業した「石川製油所」の石川秀一さんの協力のもと行います。

プロジェクトを進めていたときにたまたま新聞で青松館の記事を見かけ、「一緒にできないか」と連絡しました。でも、最初は断られたんです。「大きな企業が入ると、最初は潤ったとしても、事業がうまくいかなくなったときに撤退されて地元が困ってしまう」と。でも、「私たちは地域に根づく産業にしたいと思っているし、しっかりと継続していく」と想いを語ったところ、最終的には信頼していただけました。

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佐藤さんは陸前高田、渡邉さんは東京を拠点に関係者とやりとりし、2012年11月に気仙椿ハンドクリーム「Heaven&Heart」が完成。ロゴには3つのハートが描かれていて、“生産地・生産者・消費者、そして人と人、自然とのつながりを見つめ直す”という想いが込められています。

実は、本当にこの名前でいいのか、とても悩みました。津波で親しい人を亡くした方に、「天国」という言葉はどう響くんだろう、と…。石川さんご夫婦も、跡を継ぐ予定だった息子さんを亡くされて辛い想いをされていました。

でも、「生産地、生産者と消費者、被災地と世界、生きている人と今は天国にいる人、そんな色んなつながりを生み出していく商品にしたい。そして、そうした人のつながりによって生まれた商品だからこそ、この名前にしたい」と気持ちを伝えると、「良い名前だね」と言ってもらえて、自分の中でもこの名前にOKが出せました。

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プロジェクトに対してさまざまなアドバイスをしてくれている石川さんご夫婦

製品は、初回に限定でつくった3,000個が一ヶ月で完売。「肌なじみがよく、香り豊か」と好評で、継続して生産できることになりました。現在は、椿油を使ったリップクリームの販売や、椿の森の整備事業をする準備を進めています。

三陸・気仙地域には、放置林に囲まれ、充分に光が入らず育っていない椿がたくさんあります。商品という出口をつくって産業として成り立たせることで、地域の人が地域の自然を守り育てていくことにつながれば、と思っています。

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カンボジアの女性が技術を身につける場をつくる

一方、「B born」プロジェクトは、カンボジアでネイルサロンを経営しているケム・ケムラさんという若き女性起業家との出会いから始まりました。

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ケムラさんは日本滞在中に東日本大震災を経験。「死ぬかもしれない」という恐怖のなか、「自分はまだ母国のカンボジアに何もできていない」と感じ、カンボジアに帰国。まだまだ就労機会が限られている若い女性が働ける場をつくろうと、ネイルサロンをオープンしたのだといいます。

ケムラと話すうちに、女性がもっと自分らしく輝くサポートをしたいと思っていること、サロンを大きくしてより多くの女性に就労機会を提供したいと思っていることを知りました。「そのために何が必要?」と聞いたら、「技術を持った人が必要だ」と。美容業界はカンボジアの若い女性にとって憧れの仕事ですが、国内には質の高い技術を教える場がなく、3ドル程度の賃金の低いマーケットで働く女性たちが未だに多くいるのです。

そこで、日本から専門技術者を派遣して、トップクオリティの技術を学べる美容スクールを設立しよう、と話が発展しました。日本からの一方通行のサポートではなく、アジアの女性たちが国境をこえて「共に社会を創っていく」機会にしたいと思っています。

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この美容スクールでは、カンボジアの孤児院で美容技術を教えている講師も受講生として受け入れる予定。「教える側」の技術も高めることで、継続的な自立システムの効率を目指しています。

サロンの2階でスクールを始め、将来的にはより多くの女性に働くきかっけや、自分自身について考える機会となるようなスクールをつくれたらと願いながら、現在渡邉さんたちは忙しく動き回っています。

ビジネスを通して、新たな資本主義の形を探る


三陸、東京、カンボジアを飛び回る渡邉さん

いまの時代って、みんながなんとなく「このままの形で資本主義を進めて大丈夫?」と思っているけど、じゃあその次はどういう形の社会がいいのか、誰も知らない。そのヒントが、日本の地方だったり、被災地だったり、途上国にあるんじゃないかなと思っています。近代化に染まってなくて、その土地固有の価値観が残っている場所。私が国際協力を志していたのに被災地に関わるようになったのも、それを感じていたからだと思います。

石川さんに言われて、印象的だった言葉があります。ハンドクリームが売れて投資がつくかも、という話になったとき、会社設立や事業についてご相談したんです。そうしたら、「そんなに急いでも仕方ない、身の丈にあった規模やスピードがあるから、まだいいんじゃない?」って。「あぁ私、ちょっと焦っていたな」と思いました。

地域の価値観を守り、地域の需要に合わせてじっくりとひとつの事業を育てていく。資本主義や近代化という大きな渦に負けない新たなものを、地域から生み出していく。それには、資本主義と断絶するのではなく、企業と協力しながら進めていくこと、さまざまながアクターがつながってプロジェクトをつくっていくことが大事だと渡邉さんは考えています。

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気仙椿ハンドクリームを一緒に開発したEn女医会の皆さん

企業はしっかりと収益を回せる基盤を提供できて、地域はこれからの時代に必要な考え方のヒントをきっと持っていて、その大切な価値観を提供できる。お互いが持っているものを差し出したり、学び合ったりできますよね。それは被災地でも途上国でも一緒で、私はその橋渡しをして、ちゃんとビジネスとして成功させて、ひとつのモデルをつくりたいと思っています。

既存のモデルをただ批判するのではなく、理想論を語るだけでもなく、自ら新たな形を模索して成功モデルをつくっていく。渡邉さんの姿勢はグリーンズの掲げる「ほしい未来は、つくろう」というコンセプトと重なります。そしてそれは、既得権益が少なく、新しいものを受け入れる土壌のある地域から実現していくのかもしれません。

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もし、あなたがいまの社会に疑問や違和感を持っているなら、被災地や途上国に注目してみては。新たな時代に必要なヒントが見つかり、アイデアが湧いてくるかもしれませんよ。