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“地方の代表”京都だからこそできること。心に残る京都体験で街全体を盛り上げる「のぞみ」

オスキョー体験「十二単で記念撮影」オスキョー体験「十二単で記念撮影」

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

「地方の代表は、京都です」。

「のぞみ」の会社紹介にこのフレーズを見つけたとき、思わずハッとしました。東京以外を“地方”と呼ぶならば、年間5,000万人が訪れる観光都市であり、「全国住みたい街ランキング」のトップ3に入る京都は、全国の“地方”が憧れる代表都市ではないかと思ったのです。

「のぞみ」の藤田功博さんは、“地方の代表”であり「のぞみ」の本拠地でもある京都から、主にインターネットを通じて「地方でがんばる企業や個人を伝え、応援することで日本を元気にしたい」と考えています。

集客力のあるプラットフォームを京都に提供する「オスキョー」

プロの若手能楽師のもと能の世界を楽しむ
プロの若手能楽師のもと能の世界を楽しむ

今、「のぞみ」が力を入れているプロジェクトは、京都のオススメ体験を紹介するポータルサイト「オスキョー」です。「オスキョー」では、女の子たちの憧れの平安装束・十二単を着てプロのカメラマンに撮影してもらえる「十二単で記念撮影」などの変身体験や能楽師に直接指導してもらえる「能のおけいこ」などの文化体験をはじめ、京都らしさを思う存分味わえる体験をプロデュースしています。

2012年6月に開催した「錦市場のイタリア祭」で統括リーダーを務めた藤田さん(右)
2012年6月に開催した「錦市場のイタリア祭」で統括リーダーを務めた藤田さん(右)

京都でがんばる企業や個人とコラボレーションしたイベントも多数企画。2012年6月に開催した“京の台所”錦市場と若手イタリアンシェフが一夜限りのコラボレーションをした「錦市場のイタリア祭」では、錦の食材で作られたオリジナルメニュー全8種類各125皿を1コイン(500円)で提供。観光客だけでなく地元の若い人たちも押しかけてあっという間に売り切れ。大成功を収めて伝説のイベントになりました。

パンとおやつのマーケット
パンとおやつのマーケット

2013年3月23、24日に開催予定の、京阪神の人気パン店・洋菓子店30軒を集めて行う「パンとおやつのマーケット」も「のぞみ」が主催するイベント。「のぞみ」が食のイベントに力を入れるのは、「店舗だけでなく生産者も応援することになる」という思いがあるからです。

また、京都五山・妙心寺の塔頭寺院である退蔵院が実施する「方丈襖絵プロジェクト」のアトリエを見学するツアーも人気です。こちらは、歴史ある寺院が可能性ある新しいクリエイターを発掘し、後世に受け継がれる文化財を創りだすことを目標に、京都造形芸術大学と連携して進めているプロジェクト。1年間の禅修行ののちに本格的な襖絵制作を行っている絵師・村林由貴さんのアトリエを見学させていただきます。未来の文化財が生まれている現場に立ち会うなんて、歴史の目撃者になるようなもの。「一度は見てみたい!」という気持ちにもなりますね。

この春以降、「オスキョー」はさらに掲載情報を充実させる予定。「今、京都で面白いことは全部載っている」サイトとして造りこみ、“集客力のあるプラットフォーム”を京都に提供することを目指しています。

“学生の悩み相談サークル”が編集プロダクションに!?

株式会社のぞみ 藤田功博さん
株式会社のぞみ 藤田功博さん

今では京都の街に欠かせない存在となった「のぞみ」ですが、その出発点は藤田さんが学生時代に立ち上げた「望みがない人が集まるから『のぞみ』と名づけた」サークルだったというのですから意外です。「スキルも経験もなく将来を描けなかった」という藤田さんが、「日本を元気にする」という大きな“のぞみ”を描くようになるまでには、どんなストーリーがあったのでしょうか?

大学に入って燃え尽きたというか。遊び呆けてしまったんです。テニスサークルに夢中になっているうちに3年生になり、就職活動が始まって。「これから就職活動なのにスキルも経験もない。どうしたらいいんだろう?」と頭を抱えて、同じ悩みを持つ学生を集めて悩み相談サークルを作ったんです。

でも、社会を知らない学生同士では悩みは共有できても問題解決に役立つアドバイスはなかなかできません。「自分たちの悩みを解決するにはどうしたらいいだろう?」と立ち止まって考えた藤田さんは、京都の街を見渡しました。すると、大学の先生、飲食店、豆腐屋、伝統工芸職人、お坊さん、神主とさまざまな職業につく大人たちがいるではありませんか。「大人たちに話を聴きに行ってみよう」。藤田さんは悩み相談サークルをいったん解散し、社会見学サークルとして「のぞみ」を再出発させました。

それがすごく面白かったんです。大人はそれぞれに人生哲学や仕事論、生き方を持っていて。サークル内で報告・発表し合うだけではもったいないので、ウェブサイト「京都主義」を作って記事を公開しました。取材先の人たちにも好評で、印刷してお店に貼ってもらえたりするとうれしかったですね。

「京都主義」は、広告代理店に勤めるゼミの先輩の目に止まり、藤田さんは当時京阪神エルマガジン社で雑誌「Meets Regional」の編集長をしていた江弘毅さんを紹介されます。藤田さんたちのぞみのメンバーは、江さんの元で編集・ライティングを徹底的に学び、学生ライターとして活動を開始。2002年11月には「のぞみ」を有限会社として法人化しました。

一緒に仕事をしていると、無気力だった人も目の色を変えて取材に出ていくようになるんですね。みんな、やりたいことを見つけられなかっただけだったんだなと思いました。僕自身は書くことも面白かったけれど、メンバーがいろんな人と知り合うなかで目の色を変えていくのを見るのが楽しかったですね。

藤田さんのユニークなところは、悩みをひとりで解決しようとせず、周囲を巻き込みながらみんなの“課題”を解決しようとするところ。このような藤田さんのあり方は、その後の「のぞみ」にも色濃く反映されていくことになります。

取材で発見した課題を解決するコンサルに

京都は、年間約5,000万人が訪れる日本一の観光都市。しかし、藤田さんは取材を通して街場の事情を知るようになると、人気店ですら苦しい台所事情を抱えていることに気づきます。街をにぎわせているのは近畿エリアの観光客がほとんど。彼らは宿泊せずに日帰りしてしまうので地元にお金が落ちていないのです。

取材に通ううちに個別のお店が抱える課題は見えてくるけれど、ライターとしては解決まで踏み込んでいけないもどかしさがあって。2005年頃からは、僕が中心になってコンサルティングをはじめました。会社としても、個別案件として受注するウェブ制作業務が増えていきましたね。

京都商工会議所からも依頼を受けるなどコンサルティング業務は好調でしたが、ほとんどのクライアントが藤田さんを指名。あまりの忙しさに社内の状況まで目を配ることができず、離脱するメンバーが出はじめました。藤田さんは「クライアントを幸せにしようとがんばるほど、社内が不幸になってしまう」というジレンマに苦悩します。

また、コンサルティング業務のなかでも、地方の店舗や企業では予算が少ないため、ウェブサイトを作った後の更新や広告、リニューアルができず、思うような効果があがらない難しさも感じていました。そこで、藤田さんは「個別の課題をまとめて解決できるプラットフォームを作れないだろうか」と考えはじめたのです。

社内に対しては、持続可能性、負担の均一化を考えて仕事が分担できる体制をつくりたい。クライアントの状況を考えると、個別支援ではなく地域全体が乗れる土台となるプラットフォームを作る方が有効だと気がついて。自社サービスとして、そのプラットフォーム作りに取り組むことにしました。

おススメ京都体験サイト「オスキョー」おススメ京都体験サイト「オスキョー」http://taiken.onozomi.com/

「地方を応援すること」と「持続可能性のある会社づくり」を両立させる方向を見定めた藤田さんは、2010年に大きなシフトチェンジを決断。そして2010年10月に自社サービスとして「オスキョー」を立ち上げたのでした。

編プロとしてスタートした「のぞみ」にとって読み物コンテンツ作りはお手のもの。「オスキョー」は見ているだけでも楽しめるサイトに仕上がっています。また、コンサルティング経験から、クライアントの強みを引きだしてイベントに着地させるノウハウもあります。

自社サービスとして「オスキョー」を作ったことによって、「御社のウェブサイトを任せてくれませんか」ではなく、「集客できるプラットフォームがあるから乗りませんか?」「イベントに出店しませんか?」と持ちかけることで、クライアントとの主従関係を逆転させられたんですね。

地方で起業する醍醐味はお金ではなく“かたち”を残すこと

京都タワー

「のぞみ」を起業して10年間、京都に深く関わってきた藤田さんが得た教訓は「人が来ただけでは経済効果にならない」ということ。地元経済の活性化とリンクしない街づくり、街おこしでは「ゴミが落ちていくだけ」になってしまうという厳しい視点です。京都の老舗が何百年も続いているのは、理念だけでなく売上もきっちり作っているから。「この街に関わって仕事するなら「絶対にそろばんを合わせてみせる」という覚悟が必要」と藤田さんは強調します。

もうひとつ、企業経営者としての藤田さんには「お金ではなく“かたち”を残したい」という思いがあります。お金はバーチャルなもの、どんなに売り上げがあがっても通帳に記載される数字にすぎません。でも、技術やプロダクト、建築物などの“かたち”は、社会が必要とする限り残っていくものだからです。「地方で起業するベンチャーの醍醐味は、地方に残せる“かたち”をつくりあげていくこと。お金を儲けたいだけなら東京へ進出すればいい。」と言い切ります。

「ものすごく儲かったら、京都に奈良より大きな大仏を造りたい」と壮大な夢をさらりと口にする藤田さんには、「一生かけて京都に関わり続ける」覚悟を感じました。地方に熱をもたらすのは、藤田さんのように自分の街をひたむきに守ろうとする思いなのだと思います。「オスキョー」というひとつの“かたち”を作った今、藤田さんはいよいよ全国の“地方”へと目を向けはじめています。

地域性にとらわれないプラットフォームの作り方を考えれば、どの地方にも持って行けるモデルになります。いわば、「オスキョー」はそのプラットフォームの京都版です。次は、各地方のキーパーソンとともにそれぞれの地方を元気にするプラットフォームづくりにチャレンジしたいです。

今、「のぞみ」は京都を一緒に盛り上げていく編集・営業提案スタッフ、あるいは「おススメの京都体験」を提供する施設やイベント主催者を募集しています。藤田さんとともに京都に残る“かたち”を作ってみたい人、そして全国の“地方”を元気にする仕事をしてみたい人は「のぞみ」の扉を叩いてみてはいかがでしょうか?