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“美しい母”が増えれば、世界はもっと良くなる! 産前・産後女性の心とからだのセルフケアをサポートする「マドレボニータ」

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「産後すぐの女性」と聞いて、みなさんはどんなイメージを抱きますか?

幸せいっぱいで満ち足りた笑顔のお母さん?
いきいきと子育てに動き回るパワフルなお母さん?

このような美しくキラキラとした印象を持つ方も多いかもしれません。これから母親になる女性のみなさんも、「妊婦のときより身体が軽くなるだろう」くらいに考え、あまりリアルなイメージを持っていないのではないでしょうか。

でも実際は、そんなイメージ通りにはいきません。もちろん幸せな気持ちではあるのですが、出産という大仕事で体力を使い果たした女性の身体はガタガタで、身体は軽くなるどころか、重く、引きずるようにしか歩けず、自分が自分でなくなったかのような違和感を覚える女性も少なくありません。そして体力の回復もままならないまま子育てがスタートし、精神的にも追い詰められてしまう方も……。

そんな現実を広く知ってもらい、ひとりでも多くの産後女性をサポートしようと活動を続けているのが、NPO法人「マドレボニータ」。心身ともにボロボロの産後女性を救うためには、まず身体を回復させることが重要と考え、産前・産後のボディケア&フィットネスプログラムを開発・研究・普及することによって、母となった女性の心とからだを全面的にサポートしています。

その活動実績は、実に15年。今回は、マイプロジェクトの大先輩でもある、代表の吉岡マコさんにお話を聞きました。女優の小雪さんの韓国での出産が話題となったこともあり、今でこそ産後ケアは認知されるようになりましたが、吉岡さんはその重要性を長年に渡り社会に向けて発信し続けてきました。ひとりの女性として、母として、想いの詰まった言葉の数々を、ぜひ感じ取ってみてください。

「マドレボニータ」って?

「マドレボニータ」は、全ての女性が産後に本当に必要なサポートを受けられる世の中を目指すNPO法人。“「美しい母」文化の創造”をミッションに掲げ、母となった女性が心身ともに健やかに人生を送るためのサポートをしています。

「マドレボニータ」ホームページ www.madrebonita.com

「マドレボニータ」ホームページ www.madrebonita.com

現在の主な活動は、大きく分けて3つ。

1つ目は産前・産後ケアプログラムの提供。「産後のボディケア&フィットネス教室」と称し、全国各地で、産後の女性の心とからだのためのエクササイズやセルフケアのプログラムを提供しています。教室を覗くと、そこには赤ちゃんを抱っこしながらバランスボールで弾む女性の姿が。赤ちゃん連れで参加できるのも、産後間もない女性にとってはうれしいポイントです。

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「産後のボディケア&フィットネス教室」ではバランスボールによる有酸素運動を中心としたプログラムを実施していますが、大きな特徴は、エクササイズにとどまらず、家でも行える「セルフケア」や、「シェアリング」というコミュニケーションワークも主要な柱のひとつとして導入していること。これらのワークで母となった女性が自分の言葉で自分自身のことを語る時間を持つことにより、自分の力を発揮しながら心も身体も元気になっていく、そんなプログラムを提供しています。

また最近は、産後の生活を見据えた身体づくりを産前の女性にも伝えるため、妊婦向けの「にんぷクラス」も開催。より幅広い女性に向けた、心とからだのサポートを行っています。

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2つ目は、指導者の養成。ひとりでも多くの産後の女性に適切なプログラムを届けるため、「産後のボディケア&フィットネス教室」を実施できるインストラクターを養成・認定しています。厳しいトレーニングをクリアし、これまでに認定を受けた「産後セルフケアインストラクター」は、全24名。産後女性の心とからだの健康の回復と増進をサポートする専門家として、全国各地(2013年1月現在、11都道府県)で活躍しています。

「産後セルフケアインストラクター」のみなさん

「産後セルフケアインストラクター」のみなさん

そして3つ目は、産前・産後ケアの調査・研究・開発です。これまでほとんど研究されてこなかった「産後ケア」について研究・考察し、社会に広く啓蒙するため、実態調査をまとめた『産後白書』の刊行、企業や行政と連携した職場復帰支援プログラムの開発・実施など、幅広いプロジェクトに取り組んでいます。

「産後白書」をはじめとした刊行物も多数

「産後白書」をはじめとした刊行物も多数

これらの活動を通し、心とからだの不調に悩む産後の女性をサポートするのみならず、これまで見落とされていた「産後ケア文化」の発展に貢献し続けること。これが、「マドレボニータ」のミッションです。

「マドレボニータ」代表・吉岡マコさんインタビュー

「マドレボニータ」という名前は、スペイン語で「美しい母」を意味します。マドレボニータの目指す「美しい母文化」とは、どのようなものなのでしょうか。そのために、いったいなぜ身体づくりが必要なの?

代表の吉岡マコさんに、「マドレボニータ」の活動について、あらゆる角度からお話を聞きました。

「マドレボニータ」代表・吉岡マコさん

「マドレボニータ」代表・吉岡マコさん

精神論よりも、まずは体力づくりの機会を

単に見た目がおしゃれということではなくて、母となって子育てを経験したからこその美しさってあると思うんです。そんな、”清濁併せのんだ美しさ”を持つ女性のことを、私たちは「美しい母」と呼んでいます。

と、吉岡さん。当然のことながら、子育てともなれば、「美しい」ことばかりではありません。子どもと必死に向き合う毎日の中で、自分の美しくない面も見なくてはならないこともあるでしょう。子育てを始めると、例えばそれまでうまくいっていたパートナーとの関係でも、揉めてしまうこともあるものです。

そういうことをなかったことにせずに、ちゃんと向き合って受け止めたうえで、「自分はどう生きていきたいのか」ということをちゃんと自分で選択して生きていける女性が理想。でもそれだけでは精神論で、心掛けだけでできたらそんなに楽なものはないですよね。

じゃあ、どうすればいいのか、と考えたときに、私は自分自身の経験からも「まずは体力が戻ればできる」と考えました。

みんなが産後に悩んだり辛かったりするのって、出産で身体がダメージを受けていてそれ以上のエネルギーがわかないからなんですよね。それなら、まず体力づくりをして、ちゃんと自分の言葉を取り戻して、自分と向き合っていこう、と。「マドレボニータ」では、そういうプロセスをとっているんです。

「マドレボニータ」が実施した産後の実態調査では、「出産後、身体は妊娠中より楽になりましたか?」という問いに対し、58%の女性が「NO」と回答しています。「産んだら楽になる」なんて言葉は気休めでしかなかった……。そんな身体の状態で精神論を訴えられても、当然無理なお話ですよね。

マドレボニータでは、「それよりもまずは体力づくりの機会を提供する」という趣旨で「産後のボディケア&フィットネス教室」を開催。実際に参加した受講生からは、「今の私に必要なのは、まさにコレ」、「このプログラムが広まれば、もっと多くの母とその家族が幸せになる」といった声が届いており、吉岡さんは名実ともに、その効果を実感しているのだそうです。

そして、プログラムを開発した吉岡さん自身も、初めての出産のとき、まさにこの感覚を身をもって体験しました。ここからは「マドレボニータ」の始まりのストーリーについてもお話を伺っていきます。

「心とからだのつながり」を実感し、開発した産後プログラム

初めての妊娠のとき、私は本当に甘かった。妊娠中は体調が悪くなることもありましたが、産後はもっと元気になるだろうと、たかをくくっていたので、産後、体力の消耗具合と、その中で子どもを育てる大変さに愕然としました。当時は、清濁併せのまなくても、清い部分だけでやっていると勘違いしていたんですね。

でも、産前は妊婦検診や母親教室などが充実しているのに、出産したあとは誰も何も言ってこない。言ってきたとしても、赤ちゃんの話題だけなんです。保健士さんに自分の体のことを相談しても、「子育てに肩こりはつきものだからねー」って、世間話のレベルで終わってしまって。彼女たちはそういう教育を受けていないので仕方ないのですが、これはおかしいと思いました。

この問題意識から、公民様々な産後女性のためのサービスを探した吉岡さん。でも、どこに顔を出しても、吉岡さんの求めているような場には出会えませんでした。

民間の「ママさん体操」に行ったんですが、みんなが「赤ちゃんのママ」で、話題も赤ちゃんのことや、旦那さんの愚痴ばかり。その人がどういう人で、どういう映画や音楽が好きか、とか、そういう話は一切できない空気で。「自分のアイデンティティはどこにいっちゃったんだろう?」と思いました。

そういう子育て界隈特有の雰囲気に違和感を覚えて、もっと普通に大人としての会話が出来る場所がほしい、「ないなら自分でつくろう」と思ったんです。

当時、大学院で運動生理学を専攻し、「心とからだのつながり」について研究していた吉岡さん。まずは体を動かそうと、友人がプレゼントしてくれたバランスボールで自分なりのエクササイズを始めてみました。

やってみたら、息があがって、心拍数も倍くらいにあがって、「こういう運動がしたかったんだ!」と思いました。息が弾むということは、呼吸で酸素がたくさん取り込まれるわけなので、そりゃ気持ちいいですよね。精神的にも前向きになれることを実感しました。

いわゆる「有酸素運動」が今の私には必要だと感じたんですが、ジョギングやスイミングは子どもがいると難しいですよね。でも、バランスボールなら子どもを抱っこしながらできるし、筋力と持久力も鍛えられるし、子どもも機嫌がよくなるんです。「これはいい、他にもやりたい人がいるはずだ」って思いました。

吉岡さんが、大学院で学んだ知識と、個人的に勉強を続けていたフィットネス、ヨガ、東洋医学などのスキル、そして自らの出産経験を掛け合わせて産後プログラムを開発し、 「産後のボディケア&フィットネス教室」を始めたのは、1998年9月のこと。そこから約3年かけて、「有酸素運動」「コミュニケーション」「セルフケア」を3本柱とした現在のプログラムを確立していきました。

インストラクター養成コースでは、産後プログラムの指導法や背景となる知識を徹底的に学びます。

インストラクター養成コースでは、産後プログラムの指導法や背景となる知識を徹底的に学びます。

一度の中断を経験しながらも教室を続け、マスコミに取り上げられたことから受講生も徐々に増えてきた頃、今度は受講生から「自分でも教室をやりたい」という声があがり始めました。そこで、それまで一緒に活動を積み重ねてきた仲間とチームを組み、2007年にはインストラクター養成・認定の仕組みを確立。さらに、「サービスを提供するだけではなく、ムーブメントにしていこう」という思いから、法人化することを決意。こうして2007年、NPO法人「マドレボニータ」は誕生しました。

障害児の母、シングルマザー、そして男性も。
多様性を持って広がる活動

こうして教室を全国各地へ拡大し、活動を続けてきた吉岡さん。2011年には、長年の想いを形にすべく、「マドレボニータ」の新たな取り組みとして「マドレ基金」を立ち上げました。

「マドレ基金」は、ひとり親、多胎の母、障害をもつ児の母、低体重出生児や早産児の母、10代の母、東日本大震災で被災した母など、社会的に孤立しがちな母親たちを対象に、教室の参加費を補助することで、彼女らが「心身の健康」と「仲間」を得るためのサポートをする取り組み。独自の「マンスリーサポーター」制度や、ファンドレイジング・サイト「JustGiving」などを通じ、広く寄付を募っています。

ファンドレイジング・サイト「JustGiving」でもマドレ基金を応援できます。

ファンドレイジング・サイト「JustGiving」でもマドレ基金を応援できます。

私自身がシングルマザーであることもあり、以前からシングルマザーの支援ができないか、と考えていました。でもどうやって始めたらいいかわからなかったのですが、2年前に「マドレ基金」を始めたことで、家にこもりがちだった方々が、コンスタントに来てくれるようになりました。障がいをもつ赤ちゃんの母親や、シングルマザーなど、彼女たちは明らかに今まで教室では出会えなかった母親たちです。

どんなサービスでも、「赤ちゃん連れ歓迎」と書いてあることはあっても、「障害児のお母さん歓迎」や「シングルマザー歓迎」とは書いていないですよね。すると、そういう境遇にいる母親たちは、入っていけなくなっちゃうんですよね。「マドレボニータ」では、そういう看板を出したことで、「私も行っていいんだ」と思ってもらえるようになって、そういう人たちの層が厚くなってきました。

受講生のみなさんも、彼女たちとニュートラルに接し、ときにはみんなでシングルマザーの方のために保育園情報や就職情報を集め、協力しあう姿が見られるのだとか。その他にも「マドレボニータ」では、双子のお母さんのために、教室への往復をサポートし、子どもをひとり預かって一緒に参加する「介助ボランティア制度」など、様々な仕組みを設け、厳しい環境下にいる女性たちを多角的にサポートしています。

「マドレ基金」を始めて、多様性の大切さを改めて肌で感じています。受講生のみなさんも、普通に生活にしていたら障害児の母親に出会えないかもしれない。そういう人に早い時期に出会えるのは、すごく豊かなことかもしれません。

また、これも多様性のお話ですが、マンスリーサポーターの約25%は男性なんです。受講生のパートナーや身内だったりするんですが、「社会的な問題だから」って当事者以外の方も関心を持って手を差し伸べてくれることは、すごくうれしい。女の人の力だけでは社会は変えられないので、男性も一緒にやっていくということは、とても大事だと感じています。

「母親」のみならず「女性」の枠も超えて。多様な人たちを巻き込みながら、マドレボニータは着実に、その歩みを進めています。さらに吉岡さんは、今後の活動への想いについても聞かせてくれました。

これまではインストラクターの数を増やして地域を広げていくことに力を入れてきましたが、これからは増やすスピードを急がないようにしようと思っています。それよりも、インストラクター同士の関係性や質の向上を丁寧にやってきたい。

また、当事者以外の人が産後のことについて語る言葉を持ったり、語る機会を持つための活動に力を入れていきたいと思っています。特に今年は「産後研究会」を立ち上げたんですが、産後ケアの現場についてみんなで勉強することで、産後についてのボキャブラリーをより豊かにしていきたい。もっともっといろんな人たちと産後ケアについて語っていきたいな、と思っています。

たくさんの人の手を借りながら、歩み続けた15年間

ここまで「マドレボニータ」の15年間の活動をご紹介しましたが、実は、吉岡さんのお話の中には、決して順風満帆とは言えない出来事もたくさん登場しました。教室を中断せざるを得なかったこと、受講生たちが離れて行ってしまったこと、世間からの偏見と誤解……。そんな過程を経て、吉岡さんは今の気持ちをこう語ります。

社会にいいことをしよう、というよりは、自分が大好きな人たちと一緒に活動できていることが一番うれしいことです。みんな家族みたいで、お互いへのリスペクトがあって。一緒のミッションを共有している大義名分はもちろんあるんですけど、人間って、たぶんそれだけじゃ続かないんです。やっぱり人との関係性の上に仕事がある、ということを実感しています。

現在、「マドレボニータ」の事務局スタッフは8名、認定インストラクターは24名。「人との関係性」を大切にする想いは、組織運営にも現れています。

組織運営でも、効率よりも自分たちがどういう人生を生きたいか、ということをベースにして全部仕組みをつくってきているんです。組織の文化があって、それにあわせるのではなくて、何か齟齬が出てきたら仕組みを変えよう、とか、自分たちのライフスタイルにあったやり方で運営していくということを、すごく気をつけてやっています。

マドレボニータのユニークな組織運営は、吉岡マコさんのFacebookページでもその様子を窺い知ることができます。この活動を楽しむ「美しい母」たちの様子が垣間みられますので、興味のある方はぜひ覗いてみてください。

子育て中の母親たちが活躍するマドレボニータの運営の様子

子育て中の母親たちが活躍するマドレボニータの運営の様子

最後に、吉岡さんのプライベートについても聞きました。

もう子どもは高校生になるので、子育ては大分落ち着きました。ちょっとエネルギーを持て余しているくらいです。(笑)

母親としては至らないことが多すぎるくらいなんですが、「たくさんの人の手を借りる」ということを、開き直って信条にしています。うちの子は“おばあちゃん子”ですし、私が面倒を見切れない部分は、サッカーのコーチとか地域のいろいろな人に育ててもらっていて。でもその方が豊かだな、と思っています。

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「たくさんの人の手を借りる」こと、これは、吉岡さん自身の信条であると共に、全ての母親や、読者のみなさんへのメッセージでもあると感じます。吉岡さんの生き方とリンクした「マドレボニータ」の活動は、まさしく“清濁併せのんだ美しさ”を放ちながら、今後も様々な形で、私たちに気付きを与えてくれることでしょう。

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