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ソーシャルキャピタルで助け合う時代へ。メキシコ出身の起業家が手がける、学費のクラウドファンドサービス「StudentFunder」[MYPRO LONDON]

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StudentFunderの仲間たち

世界を見渡してみれば、勉強したくても学校に行けない人たちや、才能や熱意があっても、それらを伸ばすことができない人たちがたくさんいます。その多くの理由は”お金”。そんな世界中の学生たちを支援する団体はいろいろありますが、まだまだすべてを解決するには至っていません。

現在、ロンドンに暮らすJuan(以下フォアン)もそんな青年の1人でした。しかし彼はMBAを取得するところまで達成できたのです。そんな彼の経験をもっとたくさんの人たちにシェアしたい、そして同じ境遇の学生たちを助けたい…そんな思いで彼が立ち上げたのが「StudentFunder」です。

ソーシャルキャピタルで支え合う時代へ

「StudentFunder」は、金銭的な事情で学校に行くことができない学生のためのクラウドファンディングプラットフォームです。大学院課程の支援から行い、支援者は「Donation(寄付)」と「Loan(融資)」の選択が可能。いまは立ち上げのまっただ中で、来年度の支援を目標に学生を募集しているところです。

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お金を工面することができず、大学に通うことの出来ない学生のために、FFF(family, friends, and fools)や、大学のOB、バーサリー(経済的な理由により学費の工面が難しい学生に支給される助成金)を使って調達し、学生も卒業生も教授もすべての人を取り込でリソースが循環するいわゆるエコシステムを作り上げようとしています。

既存のクラウドファンディングプラットフォームの基本形が”Give&Take”とすれば、”Pay It Forward”を基本形にしているのが「StudentFunder」の面白い点です。

ソーシャルキャピタルをベースに助け合いができたら、と考えているんだ。お金はポジティブに使われるべきだし、将来的には銀行や企業を巻き込んで一大エコシステムにしていきたい。

まずはイギリスの一つの大学をベースに2013年1月よりプロジェクトを始められるように準備を整えているフォアン。毎日ロンドン中を駆け巡り、プロモーション活動を行うフォアンですが、なぜか彼はいつもゾウの着ぐるみを着ているのです。その訳を聞いてみると…

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ゾウって社会起業家みたいだな、って思っているんだ。我慢強くて、不可能を可能にし、出会った人の名前は全て覚えている。すごいと思わない?僕も先月、ゾウが行ったチャレンジ「アルプス山脈の登頂」に挑戦したんだ。ゾウがアルプス山脈に登頂できるなんて不可能だと思われていたのに、そのゾウはやってのけたんだよ。僕はそんなゾウになりたくて、でも実際はゾウじゃないから、着ぐるみをきて登頂したんだけどね(笑)


アルプス登頂の様子

メキシコの友人に支えられてドイツの大学へ

そんな風に笑うフォアンを見ていると、きっと幸せな家庭でのびのびと育ってきたんだろうなあという印象を受けてしまうけれど、実際、彼の人生はそれとはまったく正反対でした。そんな今の彼を作り上げた生い立ちを追ってみましょう。

メキシコに生まれたフォアンは、決して恵まれた家庭ではなく、フォアンのみならず母親にまで手を上げるような父親のもとで、どうやったら母親を守れるかをいつも考えて暮らしているような生活でした。母親を助けるためにも、しっかり勉強して偉くならなければならないと漠然と考え、メキシコで一番有名な大学に入学するも、お金の工面でひたすら苦労をする日々を送ります。

そんな中、友人から「ドイツは学費がタダだよ」という話を聞き、「ここしかない!」と思ったのだとか。

メキシコの教育システムに対して途方に暮れていたところに入ってきたこの話は、本当に僕の人生を変えるような衝撃の事実だったよ。でも、現実は学費がタダにせよ、ドイツに行くためのお金や、当面暮らすお金などを考えると僕には難しかったね。

そんな時、ダメもとで、友人や知人にドイツで勉強をしたいから少し援助してもらえないかと頼んでみたんだ。すると、みんな快く援助してくれて、僕はドイツに大学に通うことが出来たんだよ!今よく新聞や雑誌で取り上げられているクラウドファンディングのような形だね。

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メキシコにて

ドイツで暮らしている間も、生活に必要な家具なども周りの人達に支えられ援助してもらったというフォアン。この頃からStudentFunderの基礎ベースが彼の中ででき始めていました。

そんな暮らしの中で、あるクリスマスの夜、家族のことでとてつもなく悲しいことが彼の身にふりかかったのです。どうしようもなく、一人でお酒を飲みながら「なんて僕は惨めなんだ…」と絶望のどん底に陥っていたのですが、ふと周りに目を向けてみると、クリスマスにもかかわらず家もなく外で凍えている人、自分よりも寂しそうな顔の人達がいることに気づきました。

自分は常に貧乏でお金がなくて…と、自分が世界で一番惨めだというように思い込むのは間違っていると気づいたんだ。たくさんの人に助けられてドイツに来ることができたこと、ドイツでの暮らしもたくさんの人たちに支えてもらっていることを考えると自分はとてつもなくラッキーで、このラッキーをたくさんの人と共有しなければならないと強く思った。

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ドイツにて

この日を境に、彼は自分の経験を活かし、どうしたらもっとたくさんの人達を助けることができるのかを実践的に模索し始めました。マイクロファイナンスの会社で働き、たくさんの知識を深めていたフォアンに、新たなチャンスがこの時訪れたのです。それはイギリスのMBAコースの奨学金に合格したこと。実際学費の1/3のみサポートされるという形だったけれど、過去の経験を活かし、学費の工面に成功したのです。

この経験は彼のStudentFunder発足への熱意をより熱いものにしました。MBAではマイクロファイナンスが貧困層を助けられる可能性について研究し、その研究の中で、クラウドファンディングを使えばより多くの人達に満足いく教育を受けさせることが出来ると確信していったのです。

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MBA時代の様子

卒業後、仕事をしながらStudentFunderについてアイデアを膨らましていた際に、イギリスの新規起業家プログラム「Emerge Venture Lab」に合格したフォアンは、ついに溜めてきたアイデアを実行に移すことになり、2012年7月より本格的にStudentFunder代表として活動をスタートしています。

僕の人生は本当にたくさんの人に助けられ支えられてきた。そのおかげで僕は多くの失敗もできたし、挑戦もできたんだ。StudentFunderだって大きな挑戦の一つ。全ては未来につながることだからね。

母親を助けることはもちろんだけど、支えてくれた多くの人達に恩をしっかり受け取り、次の世代に受け継ぎたいと思っているよ。Pay It Forwardだね。StudentFunderはその1つのプラットフォームになるはずだ。

フォアンはStudentFunderの立ち上げのために、イギリスの社会的起業家を支えるクラウドファンディングサイト「Buzzbnk」でクラウドファンディングを行い、£7,835(約136万円)の資金調達に成功しました。おかげでStudentFunderをローンチすることができ、現在はウェブサイトにて2人の学生の学費クラウドファンディングを実施しています。

こうしたフォアンの活躍は多くの学生の未来を変えることは間違いないでしょう。先日「studygift」が話題になりましたが、日本でもこのプラットフォームが広がっていくといいですね。


StudentFunderのテーマソングByフォアン

(Text:Chiori Katsuro)

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