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いま必要なのは”表現の多様性”。クリエイティブの発表の場に選択肢を提案する「MOUNT ZINE」&「FFLLAATT」

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熱心に読みふける人、紙の手触りを楽しむ人、製本の方法を観察する人、ドリンクとお菓子を片手に語り合う人びと。

11月3、4日(土・日)の2日間、IID世田谷ものづくり学校にて、ZINE(リトルプレス、アートブック)の展示・販売イベント「MOUNT ZINE(マウントジン)」の第4回目が開催されました。

年2回開催されるこのイベントを主催するのは、デジタル作品をウェブ上で展示・発表するためのサイト「FFLLAATT(フラットフラット)」を手がける櫻井史樹さんらのプロジェクトチーム。

ZINEというアナログな紙メディアと、ウェブ展覧会というデジタルメディアのプロジェクトを同時に展開しているなんて、ちょっと意外?そこで今回は仕掛け人の櫻井さんに、背景にある思いについてお話を伺いました。


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櫻井史樹さん

プリントしないと、作品の価値ってないんですか?

「MOUNT ZINE」と「FFLLAATT」、どちらのプロジェクトにも共通しているのは、「アイデアとクリエイティブの発表の場の選択肢を増やしたい」という想いです。もっと、表現の場は柔軟であってほしいし、そうなっていくべきだと思います。

と語る櫻井さん。

最初のプロジェクトとなる「FFLLAATT」を立ち上げたのは、2010年の8月でした。当時、会社員としてカメラのメーカーに勤めながら、写真作品を制作するアーティストとして活動していた櫻井さんは、ある疑問を抱いていたそうです。

写真って、多くの人がデジタルカメラで撮る時代じゃないですか。でも、ギャラリーや美術館で展示となると、プリントされて、引き伸ばされますよね。じゃあ、デジタルデータはどうなるんでしょう。プリントしないと、作品の価値ってないんですか?と。

ウェブで日常のコミュニケーションを行い、物品を購入する時代になりましたが、表現の世界はアナログにしないと価値を認めないまま?このままじゃマズイのでは?そう思っていました。

こうした危機感から、櫻井さんは「FFLLAATT」を立ち上げ、会社を辞めて独立します。

デジタル表現に価値を付ける場づくり

ここで「FFLLAATT」について少しご紹介します。「FFLLAATT」では、”ウォール”と呼ばれるウェブ上のスペースにデジタル作品をレイアウトして、オンライン展覧会を開催できるサービスです。

FacebookやTwitterで画像をアップするのとは異なる、美術館のスペースに作品をレイアウトするような表現をウェブで可能にする場です。

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展覧会を面白いと思ったら、鑑賞者が任意の金額のチケットを購入してアーティストに支払う「Value!」という機能も搭載。ウェブ上でデジタル作品の価値を評価し、アーティストの今後の活動を応援できる仕組みです(※PayPal障害のため、12月1日現在サービスを一時停止中)。

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デジタルの表現にも価値を認めていくような、多様な表現の選択肢のある社会にしていかなければと思ったんです。そこで思ったのは、場所がないから価値が認められていないのでは、ということ。そこで、デジタル作品に価値を付けるための「場」が必要だと考えました。

こういうことって大切なテーマですし、議論する人は山ほどいるけど、実行している人って意外と少ない。だから、僕は実際に場をつくろうと決意したんです。

ちなみに「FFLLAATT(フラットフラット)」という名前には、「フラット(平ら)なスクリーン画面に、フラットなデジタル作品を重ねていく」ことと、「多様な表現を認め、価値観がフラット(並列)な社会を目指そう」という、二つの意味が込められているそうです。

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デジタル or アナログ、じゃない

立ち上げ当初は、知り合いのアーティストに声をかけてウェブ展覧会を行っていた櫻井さん。ウェブなら世界の人にも見てもらえるという利点を活かし、英語のサイト紹介も付けたところ、70カ国からのアクセスがあったそう。東京で開催したアーティストのトークイベントも好評でした。

しかし櫻井さんは、周囲から「デジタルアートのプロジェクトね」と言われることが多いことに、違和感を覚えたそうです。

特にデジタルの表現を推進しているわけではないんです。アナログか、デジタルかという話ではなく、どちらの表現もあった方がいい。僕は「表現の多様性を並列に置いていきましょう」ということを言いたかったんだけど、どうも「FFLLAATT」だけでは伝わりにくいみたいで。それじゃあ、アナログな表現の場づくりもやろうか、と。そこで着目したのが「ZINE」でした。

誰でも参加できる交流型のZINEプロジェクト

櫻井さんとZINEとの出会いは、旅行先のニューヨーク。訪れたギャラリーで、大きく引き伸ばされた写真の展示と一緒に、同じ作品がプリントアウトされ簡易に束ねられた小冊子が販売されているのを発見。それがZINEと呼ばれるものであることを知ります。

「同じ作品に対して、こうした気軽でアナログな表現も用意されていることに感動しました」と話す櫻井さん。この出会いが「MOUNT ZINE」の始動へとつながっていきます。

「MOUNT ZINE」のコンセプトは、「作品をセレクトしない」こと。誰でも参加でき、どんなZINEでも出品できます。立ち上げ当時、日本にはすでにZINEの文化が入ってきていましたが、セレクトしているところがほとんどで、ZINEというもの自体、一部の人にしか知られていない様子でした。だから、僕らは誰でも気軽にZINEを発表できる場を作ることにしたんです。

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ZINEって、もともとの発祥はそういうものだったはず。自分の想いを写真、イラスト、文章、自由に表現し、想いでつながる、想いを広げるためのコミュニケーション・ツール。名刺の詳しい版みたいなものです。

これって、別にアーティストだけの活動にとどまらなくてもいいと思うんですね。アーティストじゃなくたっていい。人の数だけZINEがあったっていいと思っています。

かくして、デジタル表現の発表の場としての「FFLLAATT」、アナログの「MOUNT ZINE」の2つの場が揃います。

デジタルとアナログの両方の表現の場を提供する。これでようやく、表現の場の選択肢を増やすという、活動のコンセプトが明確になったかな、と思いますね。

表現の場をどう使うかは、皆さんに考えてほしい

櫻井さんが最近うれしいことは、「FFLLAATT」と「MOUNT ZINE」の両方に参加してくれる人が増えてきたこと。

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ZINEを作っていた「MOUNT ZINE」の出展者さんが、「FFLLAATT」でウェブ展示会を開いたり、逆に「FFLLAATT」でデジタル作品の展示をしていた作家さんが、作品を印刷してZINEを作り始めたり。やっぱり、『発表の場や機会があるなら作ってみよう』と、きっかけにしてくれているようで。うれしいですね。

順調に回を重ねた「MOUNT ZINE」は、今年5月に東京都目黒区に実店舗のZINEショップをオープン。イベント開催日だけでなく、気軽にZINEが楽しめるようになりました。「FFLLAATT」では、今年9月からFacebookとの連携がスタート。Facebookアカウントさえあれば無料で参加可能です。

僕たちは、表現の場を提供するだけ。それをどう使うかは、皆さんに考えてほしい。表現は自由だから、こちらからこう使ってくださいというのも、違うと思っているんですよね。むしろ、こんな使い方をしたんだ、こんな表現もあったんだと、驚かせてほしいと思っています。

そのためにも、もっといろんな人に参加してほしいですね。今後は、いろんな団体とのコラボレーションも積極的に行っていきたいです。

「MOUNT ZINE」と「FFLLAATT」という、表現の場の“選択肢”。これらは、櫻井さん達がわたし達に贈ってくれた、多様で魅力的な表現の未来を形づくるための“問いかけ”なのではないでしょうか。

まずは、わたしたち一人ひとりがこれらの多様な選択肢を体感し、楽しみながら、櫻井さんの問いかけを受けとめてみることが、実現の第一歩になるのかもしれません。