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藁に学ぶ、地域での変わらない暮らしと、あたらしい暮らし。green drinks HIDA [イベントレポート]

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昔と変わらぬ自然、町並みの残る飛騨の静かな町に、今、少しずつ変化が起きています。あこがれの暮らしを求め飛騨にくる学生、暮らしを見つめ直し戻ってくる女性、昔と変わらない暮らしを続けるおじいちゃん。秋を迎えた飛騨で行われたグリーンドリンクス。地域での暮らしを実践している方々のご紹介と併せて、レポートをお届けいたします。

今回のグリーンドリンクスのテーマは「藁(わら)」。

かつて、日本人の生活にはなくてはならない存在だった藁。昔から、お米が主食であった日本人は、米づくりの間に大量に出てしまう藁をどうにか活用できないかと考え、日常生活に必要なもののほとんど全てを藁から作り出していました。藁細工は子供の仕事で、どの家庭でも、親から子へと作り方が受け継がれてきましたが、やがて、ナイロンやビニールなどの化学繊維が登場すると、藁は私たちのまえから姿を消していったそうです。

ワークショップでは、失われていく藁をもう一度見つめ直すきっかけになればと、これからの季節にピッタリの鍋敷きづくりを行いました。

地域の暮らしを実践するひだびと

今回の「失われていく藁をもう一度見つめ直す」というテーマを突き詰めていくと、地域の暮らしというキーワードが見えてきます。まずは、飛騨に住みながら、変わらない暮らしとあたらしい暮らしを実践する3名に、お話を伺いました。

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藁細工職人 沼田富男さん

自分で食べるもの、使うものは全て自分で作ってきた。

今回のゲストでもある沼田さんは、親から学校に履いていく草履を自分で作るように言われたことがきっかけで、小学校2、3年生の時から草履を作ってきました。その頃は、自分や兄弟のために嫌々ながら作っていたそうですが、20歳頃からは楽しんで多くの作品を作るようになったそうです。今では春に行われる古川祭で使われる、起し太鼓を結ぶ紐や、行列に使う履物、各家庭で正月に飾る〆飾りなど、主に祭りや特別な行事のために、藁細工をしています。

作品づくりに精を出すのはもちろんですが、特にうれしいことは、藁細工を教えた人が楽しそうにしていること。子どもたちが、自分の作ったものが一番!と、見せ合いをしているところを見るのが何よりの幸せだと言います。

飛騨で長年過ごしてきて、井の中の蛙やもんで、他の地域の事はわからないが、今の生活は幸せやな。

趣味で続けてきた藁細工を通して、各地から沼田さんに会いに来てくれる、飛騨にいながら多くの地域の人と話をすることができる。そんな暮らしを、静かに送っています。

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ヨガインストラクター 杉田りゆさん

現在、高山にてヨガスタジオRyu’s Styleを開いている杉田りゆさん。夫である竜平さんと運営しているこちらのスタジオは、地元の高校生や主婦など、多くの方が訪れる社交場のような場所になっています。

杉田さん自身、もともとは大阪のヨガスタジオで経験を積み、より深みを目指しバンクーバーでヨガの勉強をしていた時期がありました。都会で働くこともずっと考えていたそうですが、お母さんが倒れたと一報が入ったことをきっかけに、自分の暮らしのためではなく、家族のために飛騨に戻ることを決意したそうです。

身内が倒れたのに、自分だけのことを考えるなんてできなかった。せっかくなら本格的なヨガが根付いていない飛騨で、地元の方に丁寧に教えたい。

杉田さんは、スタジオのほかにもお寺や公民館で出張ヨガを開催していて、小さい町なのに参加者も200名以上(!)と、地域の方たちにも広く親しまれていることが分かります。

継続して続けていけるよう、お寺ヨガではいつでも参加できるチケット制にしています。無理して毎週来てもらっても、仕方ないですもんね。

暮らしを見つめなおした結果、地域のために活動したい、という思いは旦那さんとも共通しています。昔から顔なじみの方たちにも応援してもらいながら、これからの飛騨の暮らしを実践しているところです。

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東京から飛騨に来た学生 津谷瑛里さん

もともと土いじり、農業が好きだったので、土と共に暮らしてみたかった、という彼女は、現在東京の大学に通う4年生。就職活動の真っただ中で、あたらしい暮らしを模索して飛騨にやってきました。

今は、毎日アースデイが提供する「LIP」というサービスのインターン生として、野菜の出荷作業や農業体験のコーディネートの仕事を主にしています。それ以外では比較的自由な時間が多くとれるので、地元のおじいちゃんおばあちゃんの畑の手伝いに行っています。

実際に飛騨に来てみると、四季と共にある日本の暮らし、当たり前に自然や人に感謝する謙虚な気持ち、ご先祖様を敬う気持ちを肌で感じることができたそうです。東京で生まれ育った中で意識していた四季の移り変わりとは違う、五感+第六感で四季と自然を感じるようになったことも、大きな変化なのだと言います。

この感覚は、自分が「生かされてるんだ」と思わせてくれて、ご近所さんやおじいちゃんおばあちゃん、ご先祖様たちに対しても、豊かで厳しい自然に対しても感謝の気持ちを自然に持てるようになりました。

大きな鯉が泳ぐ瀬戸川沿いの町家に住む彼女。あたらしい暮らしは、まだ始まったばかりですが、地域の方たちに助けてもらいながら、楽しんでいるようです。

暮らしを見つめなおすワークショップ

ご紹介した中でも、今回は昔と変わらない暮らしを続ける沼田さんをゲストに迎えて開催された、秋のグリーンドリンクス飛騨。参加者の中には地域に新しく移住した人もいて、にぎやかなワークショップになりました。

藁について学びながら手を動かしていきましたが、驚いたことに、現在は大型機械の導入やコスト削減によって、お米を作る農家さんですら、田植えから出荷まで一度も稲や藁に触れないことがあるそうです。

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このふたの部分が、今回作る鍋敷きになります。

実は、今回作る鍋敷き、米俵のふたの部分(サン俵)なのです。昔と現在で用途は違えども、鍋敷き作りを通して当時の暮らしを教わります。

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まずは、丁寧に藁の根本の部分を真ん中から下に折り曲げていきます。ここで、初めて藁に触れる人は、「こんなに折ってもちぎれないの?」と一見乾燥した藁の柔軟性にびっくりしていました。

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全て折った後は、おしりの部分を円盤から針が出ている台に差し込み、こんな形になりました。この後、上に立っている藁も全て下に倒していきます。

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ここからが、鍋敷き作りの本番。全部倒した藁の上に乗り、固定する紐を使って、台の円盤に沿って編みこんでいきます。

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この作業、柔軟運動のような体制で作業を進めるので、とにかく大変。みんな汗だくになりながら、慣れない作業に四苦八苦していました。昔は石臼の上でこれをつくっていたそうです。そのため、座って作業をすることができず、このような作り方になったのだとか。

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全て編みこんでいくとこんな形に。

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最後は職人の業で修正です。台の縁に合わせてつくるはずが、おにぎり型になる人、とてつもなく大きな円になる人、鳥の巣のようになってしまう人、納得が行かずほどいて最初からやり直す人など、それぞれ個性的な作品が完成しお互いに見せ合いっこ。

こんなに真剣になってつくったのは小学校の図工以来と、ものづくりの楽しさにも触れることができました。

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鍋敷き作りワークショップを終えたあとは、沼田さんの田んぼで収穫したばかりの無農薬米で作った塩むすびをいただきました。

常に人に喜んでもらうことばかり考えている沼田さん。飛騨に住む私たちにとっても、変わらない暮らしを実践している沼田さんのお話を通して、あたらしい暮らしを考えるきっかけになりました。

「藁に包まれながら、この世を去りたい。」
藁と共に生きる沼田さんは、今日もいつもと同じ藍染の作務衣を着て、変わらない暮らしを送っています。

飛騨はこれから、厳しくも美しい冬の時期に入ります。飛騨のグリーンドリンクスも、スローペースですが続けて開催していきますので、ぜひお越しいただけると嬉しいです。もちろん、他地域からの参加もお待ちしています。

(Text:増田渉、編集:白石達史)