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インドを拠点に奮闘する、世界的に有名な起業家・ムルガナンサムさん。ニックネームは“生理用ナプキンを身につけた男”…!?

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生理用ナプキンをつけたインド人として知られるアルナシャラム・ムルガナンサムさんをご存知でしょうか。男性なのに生理用ナプキンをつけるなんて!…と、少々変な気分になるのも無理なからぬこと。でも、このムルガナンサムさん、実はさまざまな試行錯誤を重ねて、安価なナプキンの製造と普及を実現してきた真面目で立派な起業家。ナプキンを身につけることも試行錯誤の一貫として行われたことなのです。

ムルガナンサムさんは自分で発明した小型ナプキン製造機により安価なナプキンの開発を行っただけでなく、その革新的な事業モデルで地方の貧しい女性たちに雇用を生み、彼女たちの労働環境や教育環境などの改善も実現。その功績が讃えられて、母国では首相よりイノベーション・アワードも授けられています。

ムルガナンサムさんとはどのような人で、いったい何がすごいのか。10月4日に新丸の内ビルディング・エコッツェリアの3*3ラボで開かれたムルガナンサムさんの講演会におじゃまして、そのすごさをのぞいてきました!

photo by kazuto murakami “caz.tony

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日本で暮らしているとなかなか想像しにくいことかもしれませんが、インドでは月経のある女性の約90%、人口にして約3億人以上の人々が生理用ナプキンを買えずにいます。彼女たちは伝統的にボロ布や葉っぱをナプキンの代用品として使用。もちろん衛生的ではありませんし、機能的にも問題があり、彼女たちは仕事や勉強をする環境にも悪影響を及ぼしていました。

ムルガナンサムさんは25歳のときに奥さんのシャンティさんと結婚。ある日、汚いボロ布を持ってトイレに向かうシャンティさんに、声をかけたことでこのイノベーションがはじまります。

私が妻に「いったいその布を何に使うんだ?」って聞いたら妻は「あなたには関係のないことよ」と無愛想に答えました。わたしはそのときはじめて気がつきました。妻が非衛生的な布を使って生理の時期を乗り越えているのだということに。

そこで「なぜ、生理用ナプキンを買わないんだい?」と聞いてみたのです。すると「ナプキンを買ってしまったら、子どものミルクが買えなくなるじゃない」という返答が。私はそれまで生理用ナプキンがそんなに高価なものであることを知りませんでした。

ナプキンを開いて調べたら、思わぬ大発見が!

ムルガナンサムさんはシャンティさんにプレゼントするために薬局へ行き自らナプキンを購入しました。そして、どうしてそんなに高価になってしまうのか、好奇心が抑えきれずにナプキンを解体してしまいます。

開けてみたらナプキンはなんら特別なものではなく、ただの14gくらいのコットンの塊でした。これならだいたい1セントくらいに違いないと私は推測しました。でも、実際はその10倍くらいの価格で流通しています。ずいぶんマージンを取っているんだなぁと思いました。そして、このくらいのものなら、私もつくれるんじゃないかって思ったんです。シャンティのために、安価なナプキンをつくってあげたいと思ったんですよ。

世界的なイノベーターとして知られるムルガナンサムさん

世界的なイノベーターとして知られるムルガナンサムさん

愛する人のためにナプキンを買ってきてあげるだけでもなかなかのものなのに、なんとパッケージを開けて中身を調べてみたというから驚きです。この講演の最初に、ムルガナンサムさんはスクリーンに真っ白な映像を映し出してこう言いました。

なにか新しいことをはじめたかったら白紙の状態になりなさい。なにか新しいものをはじめるときは、白紙の状態にセットして新しいことを学ぶ心構えが必要なんです。

確かに、ナプキンを開いてみる…なんてことは、サニタリー関係の業界にでもいなければ、なかなかやらないことだと思います。当たり前のように思っていたことに疑問を抱くこと。これがムルガナンサムさんが言うところの、イノベーションを起こす鍵となるのです。

ビジネスをやるのなら何十回、何百回と失敗しよう

さっそくナプキンの開発に乗り出したムルガナンサムさんでしたが、その道のりは想像以上に険しいものとなりました。

コットンを買ってきて試作品をつくってみても実験させてくれる人がいませんでした。そこで妹に協力してもらったり医大の女子大生に協力してもらったり。シャンティにも使ってみてもらったけど評判はよくなくて、そのうち女子大生に協力してもらっている僕に嫌気がさしてシャンティは逃げ出してしまったんですよ。

妻にも逃げられて、妹にも避けられるようになってしまったムルガナンサムさん。それでも彼は、動物の血を使って実験をしたり、使用済みナプキンを集めたり、果ては自らがナプキンをつけて生活してみたり、研究を諦めませんでした。村人からも危険人物視されはじめ、追放した方がよいのではないかという結論にいたったころ、ようやく吸収性の高いコットンを見つけることに成功しました。その間実に2年4ヵ月。ようやく原材料を特定するにいたったのです。

photo by kazuto murakami “caz.tony”

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でも、そこからがまた問題でした。ナプキンを生産するために企業は大掛かりな機械を使っていて、それこそ何百万という初期投資が必要であることがわかったのです。そこで、私はその機械を自分でつくってしまおうと考えました。原材料を見つけるときもそうでしたが、私はトライ&エラーを何十回、何百回と繰り返しました。

私は今世界中をまわって講演を行っていますが、それは何百回も失敗を重ねてきたからだと思っています。ビジネスをやるのであれば、何十回、何百回も失敗すること。びびるな、と言いたいですね。

清潔なナプキンが行きわたることに残りの人生を使う

こうして安価なナプキンと、それを量産する機械の発明まで成し遂げたムルガナンサムさん。大がかりに機械を動員して安価なナプキンを大量に販売すれば大金持ちになれたかもしれませんでしたが、彼はそうはしませんでした。そうではなく、貧しい村々に機械自体を提供するビジネスモデルをつくり、村の女性が仕事としてナプキン製造に携われるようにしたのです。

都市部から遠く離れた村には生理用ナプキンがありません。企業は村に大きな工場をつくることはできませんし、そこまで輸送しようとすればコストが跳ね上がってしまいます。私が開発した機械は組み立て式なので、パーツを村まで運んで組み立てることができます。

村に住む女性たちは私の顧客ですが、祝日にしかまともな食事を得られないような暮らしをしています。そんな現状を見ていて私は思います。中央集権型に大量生産をするのではなく、これからは地域分散型でプロダクトを生産するべきではないかと。

photo by kazuto murakami “caz.tony”

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現在、ムルガナンサムさんが発明した機械はインドの23州で706台が稼働。田舎に住む3000人の女性が雇用を得て、350万人の女性が衛生的なナプキンが使えるようになりました。そんなムルガナンサムさんの夢はかなり壮大なもの。

私が存在する以前は、10%以下の女性しかナプキンが使えなかったけれど、私の発明以降は100%の女性が清潔なナプキンを使う社会を実現させたいんです。

人はある年齢になると、何のために生きるかを考えはじめます。そして40歳を超える頃には、何のために死ぬかということを思うようになる。私はこのビジョンのために生涯をささげたいと思っています。

ムルガナンサムさんの講演が終わると、3*3ラボの会場からは大きな拍手。まさにインドの神秘(!?)とも呼ぶべき、超人的なムルガナンサムさんに感心しきり、といったところでした。

懇親会でムルガナンサムさんとおしゃべりをする時間があったので、筆者はひとつ、気になったことを尋ねてみました。奥さんのためにナプキンをつくっていたのに、奥さんに逃げられた後もよく開発を続けられましたね、と。するとムルガナンサムさんは、にっこり笑って答えました。

ますますがんばって開発しなくちゃって思いました。だって、早く素敵なナプキンを開発すれば、それだけ早くシャンティが戻ってきてくれると思っていましたからね。

もちろんいまは、家族みんなもとどおり。ムルガナンサムさんは、多くの人から尊敬と親しみを込めて、“生理用ナプキンをつけた男”と呼ばれています。

ムルガナンサムさんと株式会社グランマ、フィリピンへ進出!

今回、この3*3ラボでのイベントをコーディネートして、ムルガナンサムさんを日本に呼び込んだのが株式会社グランマの代表取締役である本村拓人さん。グランマはビジネスを通じて貧困問題の解決に寄与することを目指して設立されたベンチャー企業で、2010年には貧困層の生活に利便性をもたらすプロダクトを集めた「世界を変えるデザイン展」を企画・運営するなど注目を集めています。

グランマ代表の本村拓人さん

グランマ代表の本村拓人さん

インドやバングラディシュほかアジアを中心に現地に根付いた事業開発を行うグランマは、ここから事業の舞台をフィリピンへ。ムルガナンサムさんの発明した小型ナプキン製造機を共同でフィリピンに展開していく予定です。

「世界を変えるデザイン展」を開いた後、グランマでは新たに「Design for Freedom(自由のためのデザイン)」というプロジェクトをスタートさせました。Design for Freedomでは、ムルさんのように草の根から誕生した、様々な”革新”を生み出す発明家(グラスルーツイノベーター)を集めて、その技術を多くの人で分かち合い、広めていく活動です。その第一弾として、ムルガナンサムさんとチームを組ませていただくことになりました。

それにしても、ムルガナンサムさんはいまでは世界的に名の知れた起業家です。大手企業からもたくさん声がかかっていたようですが、なぜグランマと組むことになったのでしょうか。

ムルさんはお金の話が苦手なんです。お金を儲けるより、現地の女性が喜んでくれることのほうが彼にとっては重要なことなんですね。大手の場合は、やはりビジネスの話から入るのがセオリーなんだと思います。その点ではグランマもムルさんと同じなんですよね。だから、まったくお金の話はしませんでした。それと、話しているうちに、やはりお互いに共鳴する部分があったんだと思います。

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フィリピンでは月経のある女性のうち、約80%が衛生的なナプキンを使用できていないと言います。現在、グランマは、クラウドファウンディングサイト「READY FOR?」にて、フィリピンで事業を展開するための資金を集めています。彼らを応援したいと思った方は、ぜひREADY FOR?にアクセスして、彼らのプロジェクトをのぞいてみてください!

★2018年12月、ムルガナンサムさんをモデルとした映画「パッドマン -5億人の女性を救った男-」が放映されます!

http://www.padman.jp/site/

 

DFF #001 “Low-cost Sanitary Napkin Machine” by Arunachalam Muruganantham from Design For Freedom on Vimeo.