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世界中のHappy Familyを増やしたい!バングラデシュ版「まちの保育園」を支援する取り組み [マイプロSHOWCASE]

"A Village Road On A River Bank" by sytoha / Syed Touhid Hassan's

Some rights reserved by sytoha / Syed Touhid Hassan

税関、キオスク、工場、田んぼ…発展途上国では、女性が子どもをおぶったまま、または傍らで待たせたまま仕事に従事しているのをよく見かけます。子どもたちを預ける場所もないため、女性たちは職場に子どもを連れてきているのです。

しかし、当然ながら、職場は子どもがいるのにふさわしい環境にはなっていません。子どもが寝かされているあぜ道のすぐ脇を、車が猛スピードで走っていくなど、危険な状態も多々あります。こんな状況を「なんとかしたい!」と立ち上がった、秋田智司さんの取り組みを紹介します。

「まちの保育園」バングラデシュ版

秋田さんは、現在バングラデシュの貧困層の人々に保育と就学前教育を行う、4つの保育園を支援しています。この保育園、教育の方法も、設立の仕方も、保育費の支払い方法も、職員の仕事の仕方も非常にユニーク。

これらの保育園は、「ドロップ・アウト・シアター」という現地のNGOによって運営されています。代表はダッカ大学の演劇科を卒業したポラッシュさん。彼は在学中に演劇のノウハウを使って教育をすることを思い立ち、この団体を立ち上げたそう。現在はこの活動をより強化するために大学院に進学し、コミュニティ・デベロップメントを学びながらNGO運営を行っています。

バングラデシュの学校教育は詰め込み型の学習が一般的で、図工や音楽などの授業はないそうですが、この保育園では演劇をしたり、詩を朗読したり、英語の歌を歌ったり、その過程で文字を勉強したり。児童劇団のようなスタイルで、子ども達がとても楽しそうに活動しています。

ドロップ・アウト・シアターの運営する保育園での活動風景

ドロップ・アウト・シアターの運営する保育園での活動風景

保育園は現在、バングラデシュの貧しい農村で運営していますが、保育園を設立する際には、村に保育や就学前教育の大切さを村人に説得しにいきます。なぜなら、農村ではある程度大きくなった子どもを労働力と見なしがちだからです。しかし、貧しい農民でも、本当は子どもに満足な教育を受けさせたいと思っており、話を聞くうちに村ぐるみで保育園の設立を望むようになるのだそうです。

しかし保育園を作り、運営をしていくのは費用がかかります。そこで、子どもを預けたくてもお金が払えない人は、保育園の建物を作ったり、運営を手伝ったりと、労働力を提供しているのです。

保育園の運営を手伝うボランティアスタッフ

保育園の運営を手伝うボランティアスタッフ

保育園には、村に住む3歳から6歳の子ども達がほぼ全員来ることになります。活動時間は、農業の状況や親の仕事の状況に合わせて流動的です。だいたい午前8時から午後4時くらいまでですが、親の仕事が忙しく、迎えに来るのが遅くなる時には、先生が家に連れて帰ることも。保育園の先生は、その農村の中から先生になれそうな人を探して、先生になってもらっているという、村ぐるみの保育園だからこそ、できる形態です。

保育園の先生には給料を出していますが、子ども20〜30人に対して先生は2、3人です。先生だけでは手が回らないので、村人がボランティアで手伝っています。「貧しい農村の人なのにボランティアで働くなんて、生活はどうするだろう」と思いますが、実はその解決方法がとてもユニーク。なんと、薬局をやっている人が保育園で仕事をする代わりに、保育園の中にスペースをもらい、保育園内で薬局を開いているのです。

保育園の中で経営をしている薬局

保育園の中で経営をしている薬局

この保育園の形態、原初的な保育園と言えますが、何かを思い出しませんか?そうです。カフェやギャラリーを併設し、街ぐるみで子どもの可能性を引き出す小竹向原の「まちの保育園」に似ているのです。地域の力が弱くなっている日本の都市が今求めている形態が、秋田さんの支援する保育園にはあるのです。

いろんな支援のかたち

コミュニティの力はあれど、しかしバングラデシュの保育園は始まったばかり。バングラデシュでは保育や幼児教育に関わる法整備が進んでおらず、貧困層にいる人たちが保育園の費用を払えないことも多いため、問題は山積みです。

一番大きい問題は、やはり運営資金。実は現在、保育園の経営は、仕事の合間にドロップ・アウト・シアターのスタッフが、事務所や保育園の隣の空き地でマッシュルームを作ったり、はちみつやバナナ、ハイナップルを作ったりして資金を作っているそうです。

保育園の脇でスタッフがバナナを作り、保育園運営資金に充てている

保育園の脇でスタッフがバナナを作り、保育園運営資金に充てている

資金面での支援

秋田さんは、その資金面を支援しています。といっても、直接的な資金援助はあえてしない方法をとっているとのこと。なぜなら、寄付による運営だと、ドナーの寄付額に経営が左右されてしまい、持続可能ではないからです。

秋田さんは「ドロップ・アウト・シアター」とともにビジネスモデルを考え、保育園の活動そのもので経営が成り立っていくための仕組みをつくるという方法で支援を行っています。

これまでは「Save the Children」などの海外NGOから助成金を受けるための支援を行ってきましたが、将来的には、日本の保育園や学童保育とバングラデシュの保育園をSkypeでつなぎ、日本側の参加者から参加費を受け取ったり、保育園で練習した劇に磨きをかけて日本で公演したりと、彼ら自身の力で持続的に運営資金を生み出す方法を模索しているそうです。

保育の質を高める支援

また、秋田さんは、現地の保育園のサービスの質を高めるために、カリキュラム作成や新しい教育プログラムの開発も支援しています。バングラデシュは日本のように保育や幼児教育に関わる法整備が進んでいないため、カリキュラムも保育園独自で決めます。

日本国内で多くの保育園を運営するある企業の経営者がこの活動に賛同しており、また、海外での保育園運営に関わった経験のあるマレーシア人の方が活動趣旨に賛同し協力してくれているため、保育園に対して様々な助言を行うことができているそう。また、先生の育成のためのトレーニングも、欧米の団体とともに行っているそうです。

企業や組織の枠組みを超えて途上国の課題に取り組むビジネスを作っていきたい

この取り組みは、NPO法人「soket(以下、ソケット)」からのスピンアウト・プロジェクトとしてスタートしました。ソケットは開発途上国において、貧困削減や教育・エネルギーへのアクセスの改善といった社会課題解決に寄与するビジネスの創出・実行を支援している組織です。

日本企業、特に大企業に所属する熱意ある若手が、イントレプレナー(社内起業家)として社内のリソースを活用して途上国でビジネスを立ち上げる際に、助け合い、刺激し合うコミュニティとなるために活動しています。

イントレプレナーを育てる組織であるはずのソケットから、なぜこのような取り組みが始まったのか、秋田さんにお話を伺いました。

自分の子育ての経験から、保育園での支援事業を思いついたと語る秋田智司さん

自分の子育ての経験から、保育園での支援事業を思いついたと語る秋田智司さん

ソケットは、「企業や組織の枠組みを超えて、途上国の問題に関心の高いビジネス・プロフェッショナルが集まって、議論しながら互いに協力し合い貧困削減や教育等の社会インフラ整備に貢献するビジネスを生み出したい」という想いから友人数名と共に立ち上げた組織です。

その想いを実現するために、ビジネスプランを共有するセミナーを開催したり、途上国における水、エネルギー、教育などの個別問題について掘り下げてリサーチを行ったりしていました。

ソケットの活動はつい最近まで全員が副業で行っていたそうですが、秋田さんは次第にイントレプレナー(社内起業家)ではなく、アントレプレナー(起業家)として自分で事業を起こしたいと思うようになったと言います。

学生時代から途上国でビジネスを起こしたいという漠然とした想いはあったのですが、具体的なアイディアはありませんでした。そんな中で、ある日、我が子をお風呂に入れていたときに、ふっと気付いたのです。子育てってものすごく楽しいけれど仕事との両立は大変だと。途上国で子育てをしている人はどうやって両立をしているのだろう、と思いました。

そこで、途上国の子育て事情を調べた秋田さんは、途上国では初等教育の普及に力が入れられている一方で、保育・幼児教育への取り組みが十分ではない事、子どもを預ける場所がないため、母親が子どもを職場に連れてきて、泣いても、ぐずっても相手をできないまま、おんぶして働いている、あるいは母親が働けない分、父親が週7日休みなしで朝から晩まで働いているといった状況がある事を知りました。

そして、保育園があれば、父親も母親も安心して働くことが出来るし、家計の所得も増えて、貧困層から抜け出すこともでき、さらに保育園で現地のニーズに合った幼児教育を提供する事が出来れば子どもにとっても良いのではないかと思いつきます。

途上国で保育ビジネスを行う事で、小さい子どもを持つ家族の暮らしがもう少しよくなるのではないかと考えました。ただ、私が当時働いていた会社はコンサルティング会社で、イントレプレナーとして社内で新たに保育ビジネスを立ち上げることは難しかった。

なので、会社を辞めてソケットのメンバーの力も借りて、ドロップ・アウト・シアターのポラッシュと共にバングラデシュでパイロット・プロジェクトを始める事にしました。

社会起業に持ったのは、コソボ紛争がきっかけ

秋田さんはそもそもなぜ、途上国でのビジネスに興味を持ったのでしょうか。きっかけを聞いてみました。

そもそものきっかけは、高校2年生のときにテレビで見たコソボ紛争でした。それまで、特に将来の夢もなくだらだらと毎日を過ごしていたのですが、コソボ紛争で「今日生きるか死ぬか」という人たちがいることを知り、将来は途上国を支援する仕事がしたいと思うようになりました。

「現地に生きる人たちが主役になる事業を一緒に生み出して、結果的に国の経済がよくなるような仕事がしたいと思った」と語る秋田さん

「現地に生きる人たちが主役になる事業を一緒に生み出して、結果的に国の経済がよくなるような仕事がしたいと思った」と語る秋田さん

大学では開発経済学を専攻し、途上国支援の現場を見るためにタンザニアで活動するNPOの植林ワークキャンプにも参加しました。そのとき、一緒に植林をした現地の人たちや、村でただ一人だけの大学生に出会い、大きく考えが変わったそう。

今考えてみれば、当時は「先進国の我々が途上国の生活をよくしてやろう」という不遜な気持ちがあったと思います。しかし、そんな想いはすぐに吹き飛んでしまいました。

植林をするといっても、自分は慣れていないので使いものにならず、現地の人たちに助けてもらってばかりでした。しかし、彼らはそんな自分を暖かく受け入れてとても良くしてくれました。また、村で一人だけの大学生は「この国、この村の未来は自分たちの世代の努力にかかっている、自分がこの国を良くしたい」という熱い気持ちにあふれていて、寝る間を惜しんで勉強をしていました。

奢った気持ちはいつしか尊敬の念に変わっていました。援助ではなく、彼らと一緒に何かを生み出していきたい。現地に生きる人たちが主役になる事業を一緒に生み出して、結果的に国の経済がよくなるような仕事がしたいと思ったのです。

秋田さんは帰国後、その想いを現実のものにするために大学院に進学、BOPビジネスを学んだそう。BOPビジネスとは、「ベース・オブ・ザ・ピラミッド=年間所得3000ドル以下で生活する貧困層」を対象としたビジネスのこと。世界の約40億人がBOPに該当すると言われており、BOPビジネスの成功例としてはインドの貧しい農村部を中心に、1パック1ルピー(1.5~2円程度)の使い切り石鹸を販売して、公衆衛生の向上に貢献しつつ利益を得ているユニリーバの取り組みが有名です。

大学院卒業後、外資系の経営コンサルティング会社で勤務する中で得た新規事業構築、コスト削減、IT活用等の知識と経験をもって、秋田さんは現在、バングラデシュの保育園の事業を軌道に乗せるために活動中です。将来的には、バングラデシュだけでなく、アフリカ諸国など他の国の保育についても支援していきたいと語ってくれました。

聞けば聞くほど、自分の生活から、「他の国はどうなのだろう」と世界に目を向けると、見えてくる課題があるのだと気付かされます。
 
自分が気付いた「こうしたらもっと楽しい、もっと幸せになる」と思うことを、自分のできることを使いながら解決していくと、世の中がもっとステキになっていくのだと感じました。世界中に幸せな家族を増やす取り組みをしている秋田さんの今後の展開が楽しみですね。

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