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「”新しい考え方”が芽生えるようなものをつくりたい」クリエイティブディレクター 川村真司さん(後編) [インタビュー]

このインタビューシリーズは、アートライター宮越裕生による、ちょっと先を行くクリエイティブリーダーな方々へのインタビューです。

kawamura3

前編に引き続き、NHKの『ピタゴラスイッチ』や『テクネ』、ロックバンド『SOUR』や『androp』のミュージックビデオなどを手がけているクリエイティブディレクターの川村真司さんにお話しをお伺いしていきます。

今回のお話には、おもしろいものを生み出すヒントがいっぱい隠されています!

デジタルだけでは出せない、リアルから生まれてくる ”ゆるさ”

宮越 andropの『World.Words.Lights.』のメイキングを見ていると、アナログな作業がたくさんあって作品がつくられているんだ、というのがわかりますね。


making of androp『World.Words.Lights.』music video toys

川村 アナログなものや人の手技が感じられるものって、やっぱり共感しやすいんです。僕自身、隙のない完璧なCGとかを使っている作品よりも、人の手触りとか、誤差とか揺らぎとかを持っているようなものの方が愛らしさを感じるというか、好きなんです。

だから『World.Words.Lights.』でもいろんなマシンは作ったけど、CGは一切使わずに全部その物体を生で撮っているので、よく見たら微妙に動きがずれていたり、揺れ方がランダムで毎回ちょっと違っていたり、リアルでやらないと出ない ”ゆるさ” があるんです。このときも、やっぱりそういう誤差のあるものを作りたかったんですよね。

”つくり方からつくる” から、新しいことに挑戦できる


‪androp「Bright Siren」‬

宮越 ほかにも作品をつくられる上で大事にされていることってありますか?

川村 どんなものをつくる時でも、僕はその出来上がったものに触れている瞬間だけじゃなくて、その前後も含めて設計しています。作る部分とそれが広がる部分も、作品のストーリーの一部なんです。だから特に”つくり方からつくる” ということを意識しています。

たとえばandropの『Bright Siren』というミュージックビデオで、タイトルや「思い出」というキーワードから光のアニメーションをつくろうということになった時に、CGではなくて実際にカメラで壁をつくってそのストロボ光でアニメーションをさせてみようと。そうやって ”誰もやったことのない作り方” をすることで、必然的に新しいものができやすくなるんです。

あとは、どうやって事前に話題化できるかと考えたり、どうやって一般の人々を巻き込んだつくり方ができるかを試みたりしています。例えばSOURのミュージックビデオ『日々の音色 』では、ファンに呼びかけて彼らをwebcamを通して撮影しましたし、『映し鏡』の時は少ない予算を補うために、『Kickstarter』というアメリカのサイトで資金援助を募ったり、いつも制作プロセスにおけるワンアイデアを盛り込んでいますね。


SOUR『日々の音色』

宮越 『映し鏡』の時は、資金面でも苦労があったんですね。

川村 ええ、SOURはもちろん音楽が好きで手伝っているのですが、同時に高校の同級生でもあるので、その縁で頼まれて「いいよ」って引き受けていたところもあって、三本目のビデオぐらいまではほぼ予算ゼロですね。でもKickstarterを使ったのは、お金をたくさん集めようというよりは、「マイクロファンディング」というはじまったばかりのサービスを試してみたいという気持ちがあったのと、事前のバズ(口コミ)をつくる、ということをやってみたかったんです。

Kickstarterでプロジェクトをスタートしました!と言うと「またSOURが新しいことやってる」とか言われて話題も作れるし、そこでの応援がつくる側の励みにもなる。結局集まったお金はサーバ代に消えてしまうぐらいの金額だったんですけど、試みとしてはやって良かったと思いました。

反響もいろいろあって、「僕もKickstarter使いたいんですけどやり方教えてください」と連絡をくれて、実際にうまくいった人が出てきてくれたりして、そういうのは嬉しいつながりですよね。Kickstarterはまだアメリカにしかないサービスなんですが、自分でプロジェクトを立ち上げたいという人には素晴らしいサービスだと思います。

'T' SHIRTS
『’T’ SHIRTS』Concept & design:Masashi Kawamura + Itaru Yonenaga Photograph:Munetaka Tokuyama

“ゆるさ” から生まれてくるユーモラスなもの

宮越 川村さんの作品は、ウケをねらっているという訳でもないんですけど、どことなくユーモラスというか、見た後に ”ハッピーな感覚” みたいなものが心に残るのが印象的でした。

川村 僕はコメディとかは全然ダメですね(笑)。ユーモアのセンスがないので。人間の持っている ”ゆるさ” とかヒューマンな感じとかがユーモラスに感じられたりする要因にはなっているかもしれないですね。

宮越 ユーモアのセンスがないという感じはしないのですが…たとえば昔つくられた『JINRO』のコマーシャルなんかは、とてもおもしろいですよね?

川村 でも、あれもストーリーもないしコメディではないじゃないですか。『ピタゴラスイッチ』で『アルゴリズム体操』の振り付けをつくったりしていたんですけど、あれも振り付けというよりは身体の動きという感じで、その真面目さが面白いというか。なんかそういう ”動き” はつくれるんでしょうね。

宮越 微妙な位置にあるからこそのおもしろさ、なのでしょうか。でも、精子がテーマのSPACE SHOWER TVの「MUSIC SAVES TOMORROW」だけはちょっと笑いの方向性が違うような気がしました(笑)。

spaceshowertv
Sperm Visualizer : SPACE SHOWER TVの『MUSIC SAVES TOMORROW』のために制作されたビデオ及び特設サイト。音楽が救う未来を、音楽に合わせてダンスする精子によって描いた。制作チームの精子を実際に取得、顕微鏡で撮影し、その造形や動きのデータを抽出してアニメーションを制作。ウェブサイト上では好きな音楽を検索し、その曲に合わせて踊る精子たちを見ることができる。

川村 あの企画は、よく通ったなぁと思います (笑)。「MUSIC SAVES TOMORROW = 音楽が明日を救う」というコンセプトを聞いた時に「明日ってなんだろう?」と考えたら、やっぱり子供だ、というところからスタートして、そのさらに一歩手前の精子をモチーフにできたら面白いんじゃないかと思って。

例えば胎教みたいに、生まれる前の精子の頃から音楽を耳にしていたら、と想像してみたんです。そこから音楽を聴いて育った世代が、次の世代に受け継がれていく、というイメージに発展していきました。それで、どうせ作るなら、「リアルにみんなの精子を使わないか?」となって(笑)。

宮越 それでモーション・データからアニメーションをつくったんですね。技術的にはけっこう苦労がありそうですね!

川村 じつはハイテクなんですね。

宮越 作品をつくる時に、人をハッピーな気持ちにさせようとか、なにか狙いってあったりしますか?

川村 僕はエモーショナルなことを狙っているというよりは、いつも意識していることが2つあって、ひとつは、なるべくシンプルでユニバーサルなものを作りたいということです。これは海外にいた経験から学んだことでもあるんですけど。

たとえば日本語できれいなストーリーを書いていたとしても、それを海外の人にパッと理解してもらうことは難しい。でも、僕が作りたいものはビジュアルで見せれば誰でも一発でわかるようなストーリーなので、いきなりアムステルダムの180(広告代理店)に行って作品を見せても理解してもらえるんです。「面白いなぁお前、明日から来い」って言われて、いきなりそのままそこで働き始めたりした経験なんかもありました。

そういうラーニングを通して、どの国のどの年齢の人が見ても面白いって思ってもらえる作品を作って、世界中を相手に勝負した方がやる意義があるなと思うようになっていったんです。

もうひとつは、笑わせたいとか喜ばせたいとかよりも、僕の作品を見てくれた人の中で ”触ったことのないスイッチ” が入るようなものや、 ”新しい考え方” が芽生えるようなものが作りたい、ということです。

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宮越 見る人に ”新しい考え方” が芽生える、ですか?

川村 はい、見る人に”新しい考え方”に気づいてもらえて、世の中におもしろいものが増えたらいいなあということ、単純にそれだけですね。

僕もおもしろいものをつくりたいし、それ以上に世の中のもっともっとおもしろいものを見せて欲しい。 自分がつくったものに誰かが触発されて、もっとおもしろいものを作ってくれて、今度は僕がそれに感化されて・・みたいな、いいクリエーティブの循環ができたらすごくしあわせだという気がして、そうやってしか、世の中が良くなっていかない気がするんです。それを意識してやっているという感じですね。

宮越 素晴らしいですね!

川村 言うはやすしですが…。

宮越 いえいえ、すでに貢献されているかと…今日はいいお話しをありがとうございました。

インタビューを終えて

『RAINBOW IN YOUR HAND』を見た時の日常の風景がぱっとビビッドになる感じや、ビデオの中に新しい世界が広がるような感じ。川村さんの作品を見たときのハッピーな感覚は、もしかしたら ”新しい考え方” に触れる感覚だったのかもしれません。

また、『アルゴリズム体操』のように、おもしろいことを真面目に追求していったら、ユーモラスな動きができた!ということには、ものづくりのヒントが隠されているような気がしました。斬新なアイデアが光る作品は、そういったことの積み重ねから生まれてきたのかもしれません。

そして、印象的だったのは「クリエーティブの循環ができたらすごくしあわせだという気がして、そうやってしか、世の中が良くなっていかない気がする」とおっしゃっていたこと。

そんな高い視点が今の時代をになう人たちの間にも浸透していったら、確かに良い連鎖が生まれていくような気がしました。

川村さんは現在、新しいミュージックビデオの制作やNHK『テクネ』の続編に取り組んでいるとのこと。ますます 活躍の場が広がっていきそうですね!

川村真司

東京生まれ、サンフランシスコ育ち。慶応大学 佐藤雅彦研究室にて「ピタゴラスイッチ」などの制作に携わり、卒業後CMプランナーとして博報堂に入社。2005年BBH Japanの立ち上げに参加し、2007年よりアムステルダムの180、その後BBH New York、Wieden & Kennedy New YorkのCDを歴任。Adidas、Axe、Googleといったブランドのグローバルキャンペーンを手がけつつ、個人での制作活動も精力的に行っている。「Rainbow in your hand 」ブックデザイン、SOUR「日々の音色」「映し鏡」ミュージックビデオのディレクションなどその活動は多岐に渡る。主な受賞歴に、文化庁メディア芸術 祭: エンターテイメント部門最優秀賞、AdFest: Design/Cyber グランプリ、アヌシー国際アニメーションフェスティバル: ミュージックビデオ部門グランプリ、NY ADC: Gold、One Show Design: Best of Show、東京TDC賞 2010/2012、Webby Award Winner (ゲーム部門)2012、等。2011年米Creativity誌「世界のクリエーター50人」、2012年米Fast Company誌「100 Most Creative People in Business」に選出。

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