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「インタラクティブな仕掛けは、体験を”自分ごと”にする」クリエイティブディレクター 川村真司さん(前編) [インタビュー]

このインタビューシリーズは、アートライター宮越裕生による、ちょっと先を行くクリエイティブ・リーダーな方々へのインタビューです。

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セレンディピティ(偶然の幸運に出会ったり、素晴らしいものを発見したりすることのできる才能)を、かたちにしてしまう人がいます。

たとえば、ちょっと不思議なこちらの写真をご覧になってみてください。

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『RAINBOW IN YOUR HAND』(2007)

この本にはどんなしかけがあるのでしょうか?じつはこの『RAINBOW IN YOUR HAND』という本には、プロジェクターや3D技術などが使われているわけではなく、パラパラマンガの原理で虹を見せています。

デザイナーの川村真司さんは、NHKの『ピタゴラスイッチ』や『テクネ』、『SOUR』や『androp』といったバンドのミュージックビデオなどを手がけたクリエイティブディレクター。また今年は、世界の名だたる文化人たちが名を連ねる注目のランキング、米誌『Fast Company』の「100 Most Creative People in Business(ビジネスシーンで最もクリエイティブな100人)」に選出されました。

驚くのは、川村さんのどの作品を見ても、なんだか楽しい気持ちになってくることです。見ている人をそんな気分にさせてしまうアイデアは、どんなところから湧いてくるのでしょうか?

また、手のひらから始まるものづくりをする方が、ハイテクを駆使する業界で、いま、どんなことを考えているのでしょうか。2回にわたってインタビューをお届けします。

アイデアは “オープンソース”

宮越 『RAINBOW IN YOUR HAND』のアイデアはどうやって生まれたんですか?

川村さん(以下、敬称略) あれは本をめくっている時に、ページの間にちょうどアーチ型の残像が残ることに気づいて、アーチ型ならば虹のかたちができたらいいなと思って試作品をつくったら、想像した通りにうまくいったんです。

それで自分のおこずかいで刷ってユトレヒト(東京・青山にあるアートブックを中心に揃える本屋さん)に置いてもらったり、YouTubeに動画をアップしたりしたら、フランスの colette(コレット/世界中からハイセンスなファッション、デザイン、書籍などを集めるフランス随一のセレクトショップ)からメールが来たりしてすごい勢いで広まって、そのトントン拍子感がおもしろかったですね。

宮越 あのアイデアには「特許がとれるんじゃないか」というぐらい驚いてしまいました。

川村 あはは、特許はムリじゃないですかね(笑)。まぁそういうことを考えたりもしたんですけど、アイデアの権利を守るというよりは、アイデアとその考え方が広まる方が大事かなとおもいます。オープンソースの考え方ですね。僕は作品を見てくれた人に新しい考え方が芽生えてくれるようなものが作りたいと思っているんです。

『RAINBOW IN YOUR HAND』では、「本って、紙の上にデザインされたものだけじゃなくて、ページの間やめくる行為も含めて本だよね」という考え方に気づいてもらえたりしたらいいなというのがあったんです。見る人の頭の中で使ったことのないスイッチが入ると言いいますか。「そういうやり方もあるのか」とか、なにか見る人に新しい発見があるようなものをつくりたいと思っているんです。

Twitter や Facebook の取り入れかた


SOUR『映し鏡』

宮越 SOURの『映し鏡』のサイト(2010年)の、TwitterやFacebookと連動するしかけは、当時、すごく新しかったですね。

川村 『映し鏡』の歌詞は、周りのものが自分の鏡になる、他人を通して自分を知ることができる、ということがテーマになっているんです。

僕が長く活動していた海外ではFacebookがともかくSNSの主流で、まるで自分のアイデンティティがそのままオンラインに存在しているかのような状況でした。だから、FacebookやTwitterを使って一人一人にカスタマイズされたビデオが見れたら、今までに ”見たことのないもの” がつくれるんじゃないか、と思いました。

もともと僕はネットにしてもテレビにしても、メディアの優劣は感じていないんです。ただ、今はインターネットが空気のように存在している環境なので、それを意識して作品を作っています。

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NHK『テクネ 映像の教室』(2012年3月放送)

ただ、単なるトレンドにのってソーシャルメディアを使ってしまうことは良くないと思っています。理由もなくすべてをソーシャルにする必要はないと思うんです。FacebookやTwitterを利用することで、きちんと ”アイデアとメッセージがリンクしているようなもの” ができるなら使うけど、必要がなければ使わなくてもいいと僕は思っています。

例えばこの間NHKで制作した『テクネ』というテレビ番組は、シェアされたいとは思いましたが、どうやったらウェブと差別化できるか、どうやったら「デジデジ」しないかということを考えながら作っていきました。

基本的には、どのメディアを使おうかと最初に考えてしまうよりも、まずアイデアが先にあって、それに一番適したメディアを使って表現をするべきだと思っています。

音楽 × メッセージ × 映像


androp『Bell』

宮越 andropの『Bell』のサイトでもTwitterを使用されていますね。

川村 僕はいつも、音楽の世界観や歌詞のメッセージをどうやって映像とかけ算してより深い体験をつくれるか、ということを目指しています。見ている人がインタラクトできるオンラインメディアを使うと、関わりが双方向になった瞬間に、体験が深まるんです。

『Bell』は、歌詞が「気持ちを届けることや思いを伝えるのは大変だよね」という内容だったので、ただそれを伝える映像を作ることよりも、メッセージを届けるという行為自体をゲームにするというインタラクションがある方が視聴者により深い体験を提供できると思ったんです。

そんなアイデアから発展して、Twitterのメッセージがキャラクターとなって、それを操作して相手に届ける、という仕組みをつくっていったんです。

宮越 キャラクターが変わったり、最後に送り先の人の名前が出てきたり、プレイするたびにおどろきがありました。

川村 インタラクティブな表現は、いかに ”自分ごと” になっているか、みたいなことが大事だと思っています。そういう意味では使う人ごとにパーソナルな体験ができるような細かい設計をしますね。

たとえば、メッセージの長さによってキャラクターが変わったり、ゲームの最後に出てくる家の大きさが、相手のフォロワーの数で変わったり。少ないとホッタテ小屋みたいな家で、1万人越えになるとお城みたいな家になります。

インタラクティブなしかけは、成功すれば体験として深くなるんですけど、見る人に何かをしてもらうのはハードルが高いんです。だからなるべく使い方を簡単にしたり、きちんと関与してもらった分のお返しができるような仕組みにしたりと毎回苦心しています。

大勢 vs ”自分ごと” のバランスがむずかしい

 

Sony『MAKE TV』: ソニーの “make.believe” キャンペーンの一環として2012年3月に放送された “インタラクティブ・ライブ・ミュージックビデオ” を制作するためのテレビ番組(TBS)。視聴者は「DOT SWITCH」というアプリをスマートフォンやタブレットにダウンロードすると、TV番組に参加することが可能に。生放送中に手元のアプリをプッシュし、その合計数によって複数の仕掛けが次々と発動していく仕組みで、20,000人以上の人が実際に「DOT SWITCH」を操作して参加した。

川村 『MAKE TV』というテレビの生放送中に、視聴者のアクションに連動させてしかけを動かすという ”インタラクティブ・ライブ・ミュージックビデオ” を作った時は、参加者の名前がスタッフリストとして出たり、プッシュした回数がリアルタイムに表示される工夫をしたりしました。

一番苦労したのは、何万人もの人に参加してもらいたいんだけど、参加者の人が増えれば増えるほど参加者の一人一人にとっては ”自分ごと” じゃなくなってしまったり、自分がどれだけ関与しているのかがわからなくなる、という部分でした。その間のバランスをとるのが大変なんです。

オンラインユーザーを信じられる体験

宮越 あの仕掛けは本当に視聴者の人のプッシュ回数によって動いていたんですか?スムーズに動いていて、それが信じられないぐらいでした。

川村 はい。実際にユーザーのプッシュ数を使っていて、まったく嘘はついていないんです。むしろうまく行きすぎちゃったんですね(笑)

生放送だったので裏ではヒヤヒヤだったんですけれど、ひとつ目のしかけが1万回プッシュあったら発動するという設定にしていたら、はじまった瞬間に10万プッシュも押されてしまったので、慌てて調整したりしていました。あの企画をやったことによって凄くたくさん学ぶことがあったし、何よりこれまで以上にオンラインユーザーの存在を心から信頼できる気持ちになりました。

宮越 オンラインユーザーのことを信頼できるっていいですね。

川村 そうですね。『MAKE TV』の構成などについてはいろんな議論があって、賛否両論もあるんですけど、 それによってテレビやインタラクティブなコンテンツが一歩前進したことが大事だと思っています。ああいった成功体験があって、 そういうことができるんだ、ということがわかって次につながったことや、単純に僕らがユーザーを信じていいんだ、ということが確認できたのが良かったです。


前半のインタビューを終えて

アンドロップの『Bell』のコンセプトに、「本当に伝えたいことは相手に届いているのでしょうか?」という言葉がありました。

インターネットのおかげで人へのアクセスは簡単になったけれど、それに比例して気持ちを伝えることも簡単になったかというと、そこはまだ不確かなところ。時にはネットに溢れるたくさんの情報やツールに、何を選んだらいいのか、どんな表現をしたらいいのか、迷ってしまうこともあります。

そんな中で、川村さんの ”オンラインユーザーを信頼できる成功体験” を重ねながら、進んでいるというやり方には、ものづくりの原点を見たような気がしました。ネットのような目に見えない世界でも、そんな風に地に足の着いたやり方がものを言うんですね。

SOURの『映し鏡』や androp の『Bell』のサイトで体験できるインタラクティブなしかけは、実際に遊んでみると色々な発見があって面白いです。まだ試してない方は、ぜひオフィシャルサイトを訪れてみて下さいね。

後半のインタビューでは引き続き作品の紹介と、作品づくりの秘訣について、もっと詳しくお聞きしていきます。
 

川村真司

東京生まれ、サンフランシスコ育ち。慶応大学 佐藤雅彦研究室にて「ピタゴラスイッチ」などの制作に携わり、卒業後CMプランナーとして博報堂に入社。2005年BBH Japanの立ち上げに参加し、2007年よりアムステルダムの180、その後BBH New York、Wieden & Kennedy New YorkのCDを歴任。Adidas、Axe、Googleといったブランドのグローバルキャンペーンを手がけつつ、個人での制作活動も精力的に行っている。「Rainbow in your hand 」ブックデザイン、SOUR「日々の音色」「映し鏡」ミュージックビデオのディレクションなどその活動は多岐に渡る。主な受賞歴に、文化庁メディア芸術 祭: エンターテイメント部門最優秀賞、AdFest: Design/Cyber グランプリ、アヌシー国際アニメーションフェスティバル: ミュージックビデオ部門グランプリ、NY ADC: Gold、One Show Design: Best of Show、東京TDC賞 2010/2012、Webby Award Winner (ゲーム部門)2012、等。2011年米Creativity誌「世界のクリエーター50人」、2012年米Fast Company誌「100 Most Creative People in Business」に選出。

川村真司 official website / Twitter
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