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ドキュメンタリー映画に学ぶ(2)『蟻の兵隊』:戦争が終わっても続く苦難との戦い。

©Ren Universe, Inc.

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このシリーズでは、持続可能な未来を志向する方々に、レンタルショップなどで手に入りやすい、オススメのドキュメンタリー映画を紹介します。

8月は戦争を考える月、前回の『サクラ隊散る』に続いて、今回は先の戦争で終戦後も大陸に残って中国の国共内戦に従軍したという“日本軍山西省残留問題”を扱った『蟻の兵隊』を取り上げます。元日本兵である奥田和一さんが終戦から60年の後にその地を訪れ、そこでさまざまな過去と出会います。重苦しい話ではありますが、戦争というものがいかに多くの人を傷つけ、いかに長く苦しめ続けるのか、それを実感として感じることで、改めてさまざまなことを考えさせられるそんな映画なのです。

中国山西省で従軍していた日本軍の一部(約2600人)は、戦争終結後も当時の司令官の命令によって中国国民軍(つまり国民党側の軍)の一員として中国共産党との内戦に参加しました。その中で、多数の戦死者を出し、一部は人民解放軍の捕虜として抑留されたにもかかわらず、帰国した兵士達は「志願して残留した」とみなされ、その期間については戦後保障の対象外とされてしまいました(日本は「ポツダム宣言」を受諾したので、従軍を命令することは理論上不可能なため)。つまり、その戦闘の中で死んでも怪我をしてもその補償は受けられず、その従軍期間は恩給の対象とならないということなのです。

80歳になる奥村和一さんも3年間従軍し、その後6年間人民解放軍の捕虜として抑留され、帰国しました。そして国に対し裁判を起こし、従軍が命令によるものであったことを証明する証拠をつかむために中国へ向かったのです。

©Ren Universe, Inc.

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しかし、奥村さんは中国を訪れるに際してやりたいこととして「自分が人を殺した場所に行く」ことをあげます。彼の旅は決定的な証拠を見つけるための調査の旅であると同時に、彼がずっと感じてきた後悔や自責の念に何らかの整理をつけるための旅でもあったのです。

奥村さんは終戦間近に徴兵され、初年兵で中国へ赴き、「人を殺すことに慣れる」ために命令で抵抗できない中国人を突き殺します。彼はそのことを奥さんにも言えず長い年月を過ごします。しかしその記憶は彼を「その場所に立ちたい」という思いに駆り立てるのです。それは彼がいかに死者に報いるかということを真摯に考えていること証拠なのだと私は思います。彼はおそらくその後、何人ももしかしたら何十人も中国人を殺したのでしょう。しかし、それは彼自身の言葉にもあるように、理性が崩壊し、殺人マシーンと化した軍という組織による殺戮であったのです。彼は、自分“は”強姦していないといいながら、「誰がやった誰がやらない」という問題ではないといいます。軍という組織がそれをやらせた以上、全員が加害者ということなのです。

だからこそ彼は、自分をその非情な“軍”に正式に招きいれた最初の殺人を消化し、その死に報いる方法を探したいと考えたのでしょう。そして、彼が裁判に心血を注ぐのも同じく「死者に報いる」ためと考えられます。彼は、命令で仕方なく従軍し命を落としながら、自ら望んで従軍したとみなされる戦友の無念、それを晴らさんがために裁判を闘っているのです。

©Ren Universe, Inc.

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映画の終盤、奥村さんが「少女のころに日本軍にさらわれ、輪姦された」という女性と会い、語らうシーンは本当に感動的です。彼が望むのは、自分たちの行動の真実を世間に知らしめ、その被害を受けた人たちに報いることなのだということがひしひしと伝わってきます。

このドキュメンタリー映画の最大の魅力は奥田和一さんという個人です。奥田さんが経験した戦争とその後の60年から、私たちはそれを繰り返さないために何ができるかを学ばなければなりません。忌まわしい過去への旅路の疑似体験はきっと未来へのヒントを与えてくれるはずです。

蟻の兵隊 [DVD]

『蟻の兵隊』
2005年、蓮ユニバース、101分、カラー、ヴィスタ
監督 池内薫
製作 権洋子
撮影 福井正治 外山泰三
音楽 内池秀和
出演 奥村和一 金子傳 村山隼人 藤田博