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環境アセスがついに機能した?小名浜火力発電所(仮)建設見直しへ

Creative Commons, Some Rights Reserved, Photo by capitolclimateaction

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環境省が発電所などの大規模事業の環境への影響を調べさまざまな勧告を行う環境アセスメント、これまでは意見が出されても是正勧告にとどまることがほとんどだったが、今回、斉藤環境相は、日本化成株式会社の小名浜工場内に建設が計画されている石炭火力発電所に対して、地球温暖化対策の不備を理由に建設そのものに反対する意見書を提出した。

ここから見えてくる日本の環境政策の未来とは? そして環境アセスって何?

環境アセスメント(アセス)は発電所や道路など環境に大きな影響を与える可能性がある事業について事前に環境への影響を調査し、専門家や住民の意見を聞いて、環境配慮を行う手続きのこと。日本では1997年に環境影響評価法が制定され、大規模公共事業などには環境アセスメントが義務付けられることとなった。

この法律を運用するのは環境省で、つまり環境についての政策を実施する環境省が、事業を所轄する経済産業省などに勧告を行う制度ということになる。この制度の利点は所轄官庁にかかわりなく同一基準で環境に対する判断が行える点にある。

調査・評価の項目は公害にかかわるものと自然環境にかかわるものとされており、具体的に列挙されているわけではないが、大気汚染や騒音、振動、生態系、景観などが対象となる。

今回の小名浜火力発電所のケースで斉藤環境相は、二酸化炭素排出量が電気事業連合会の設定している自主行動計画の抑制目標の2倍以上になっていることを反対の最大の理由に挙げた。二酸化炭素排出量はこれまでも評価の対象となっており、特に石炭火力発電所の場合は天然ガスなどを燃料とする火力発電所よりも二酸化炭素排出量が多いことからたびたび意見が出されてきた。

その際に判断の基準となるのは、

(1)最先端の技術を利用しているか
(2)中長期的に削減が見込まれているか
(3)排出量の少ない電力と置き換えられないか

といった項目だ。今回の小名浜火力発電所では(1)と(2)について是認できないと判断され、これまでの是正勧告から建設自体の反対と一歩踏み込んだ判断をした。

この判断は環境負荷を低減するという意味で歓迎すべきものであるが、単一のケースとしてではなく、環境省が環境アセスをさらに一歩進めるための布石でもあると考えられる。

環境アセスメントは詳しく分けると、事業アセスメント(事業アセス)と戦略的環境アセスメント(戦略アセス)に分けることができる。事業アセスとは計画が立案され実行に移される直前に行われるアセスメントで、対策を講じる必要がある箇所を指摘したり、今後の計画の見直しを迫ったりという是正を求めることが多い。これに対して戦略アセスは政策決定や事業の意思決定段階で行われるアセスメントで、事業を立案する基準となるものである。

日本で現在行われている環境アセスは事業アセスのみだが、環境省では昨年来、戦略アセスの導入を進めている。今回の反対意見の表明は石炭火力発電所の建設に対して一定の基準を定めることにあり、間接的にではあるが今後の石炭火力発電所の建設に対して戦略アセス的に働くと考えられる。なぜなら、今後石炭火力発電所を建設しようという事業者は電気事業連合会の設定している自主行動計画の抑制目標を守らざるを得なくなったわけだからだ。

日本の官僚機構は縦割り行政という悪評が高い。しかし、環境省はこの縦割り行政を超えて環境面で統一した政策を実施できるかもしれないという期待を、この小名浜火力発電所に対する対応は抱かせる。

ぜひ戦略アセスを制度化し、各省庁をコントロールしていくことを環境省には期待したい。そこには軋轢が生まれ、新たな権限の綱引きが生まれ、癒着が生まれるという危惧もあるが、もうそんな時代は終わったのだと信じたい。これはそんな希望を抱かせてくれるニュースだ。