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埋め立てのピンチにある“崖の上のポニョの海”こと鞆の浦に遊びに行ってみた

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超美しい鞆の浦の海と港町。このど真ん中をぶち抜くように高速道路が作られようとしている。

わたくし、きたろうはこの夏、鞆の浦に遊びに行きました。そこの名物は美しい瀬戸内の景観。何を隠そう「崖の上のポニョ」の舞台のモデルとなった土地なのです。彼の地がいま、埋め立ての危機に瀕しています。

しかしワタクシ、そんなこと訪問するまで全然知りませんでした。宿泊した御舟宿いろはは宮崎駿監督がプロデュースを手がけ、監督自身も彼の地をこよなく愛し、周囲を散策しながら作品のアイディアを練っていたとのこと。私がたまたま乗り合わせたタクシーの運転手さんも「宮崎監督を乗せていろいろなところに行ったよ」と、当時のエピソードを聴かせてくれるなど、〈宮崎&ポニョ伝説〉がいたるところに散りばめられている土地なのです。しかし夏休みのど真ん中だというのに、街中はがらがら。「崖の上のポニョ」も封切り直後で観光客誘致の一大チャンスなのに、ほかの観光客がぜんぜん見当たらないのです。不思議です。

その時は「環境を護るために、観光客がどっと押し寄せているのを避けているのかなあ」程度に考えていたのですが、その裏には大きな“策略”があったようなのです…!!


greenzを率いるナイスガイ、鈴木菜央さんのおススメで私たちが宿泊したのは御舟宿いろは

運営するのは鞆の浦の美しい景観と町並みを守るために作られたNPO法人鞆まちづくり工房です。宿泊する間、その代表の松居秀子さんと色々とお話する機会があったのですが、松居さんが教えてくれたのが、「鞆の浦の港を、埋め立ててしまおう」という動きがあるということ。埋め立てて高速道路を通すことで、福山駅へのアクセスを向上させ、経済発展をもたらそうというものです。

広島県内で数々の大きな公共工事を“実現”している、元内閣総理大臣の宮澤喜一さんの甥っこにして自民党の国会議員宮沢洋一さんを中心とする推進派の言い分は「交通渋滞を緩和するため」とのこと。しかし少なくとも私の目には渋滞なんて見当たりません。福山駅から鞆の浦までバスで移動しましたが、交通はスムーズそのもので、広々とした景観が楽しめるとても楽しい道中でした。それに高速道路ができたとしても、ほんの5分ほどしか時間の短縮にならないというのです。

なぜそんなムダな道路を造るのか? その目的はよくわかりません。景観を守るための代替案として提出された、より低価格で実現できるトンネル案(これすら本来、必要ないものなのですが…)は大した審議もされないうちに、却下されてしまっているのです。地域の発展よりも土建屋さんが儲かる方を優先する、土建国家日本の悪習がこんなところでも発揮されてしまっているのではないかと、ついつい勘ぐりたくなってしまいます。

鞆の浦はたまたま全国より20年遅れて本格的な開発が始まりました。だからほんの30年前まで、江戸時代の町並みがほとんどそのまま残っていたのです。それをなんとかして守っていきたいと思って、NPOを立ち上げました

と松居さんは語ります。その考えは最初、地元の人達にはほとんど理解されなかったとのことですが、徐々に共感する人達も増えてきています。そして今ではひょんなことから鞆の浦を知った宮崎監督の助力もあって、鞆の浦を守る運動も盛り上がりつつあります。

でもまだまだ行政の力は強力。「ポニョ」封切り直後にも関わらず、鞆の浦に観光客がいなかったのは、反対する声が全国的に盛り上がらないようにするため、観光アピールをあえて渋ったため、という可能性が高いという報道も一部ではされています。
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港町、鞆の浦にはこんな石畳のステキな道がたくさん。

「住民を分裂させてしまうのを避けたかった」という松居さんは、大々的な反対運動を通してではなく、鞆の浦の魅力を全国に発信していくことで、自身が生まれ育った町を守っていきたいとのこと。その影響か、今では町を愛する若者達によるおいしいカフェやジェラート屋さんなど、ステキなお店も少しずつ開店し初めています。

坂本龍馬のゆかりの地や歴史的な史跡が多く残っているうえ、21世紀の今なお「江戸」の息吹を感じさせる町並みと景観は、独特の場を生み出しています。まるでパラレルワールドにトリップしたような気分にひたれる鞆の浦を宮崎駿監督が構想を練る場として選んだというのも、足を運んでみれば納得できることでしょう。

小魚料理や保命酒などうまいものもてんこ盛りの鞆の浦に、1度遊びに行ってみてはいかが? ヤミツキになること間違いなし、「この町を守りたい」って、誰だって思うはずです。

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御舟宿いろは玄関前にて。左から松居さん、きたろう、スタッフの方(この方の作るシフォンケーキは絶品。表参道のスイーツショップにもひけをとりません)。