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中国のVIP、パンダの事情

カワイイ大熊猫(パンダ)の知られざる姿
白と黒のかわいいクマ、パンダ。女性で「パンダが嫌い」という人もまず居ないのではないでしょうか。そのパンダの国、中国でのパンダのくらしぶりと、中国でのパンダの楽しみ方をレポートしました。

この秋、パンダを抱きしめたいと北京動物園のオリに飛び込んだのは、中国人の男性。男はパンダのオリに入ったとたん、突進してきたパンダに足を噛まれ、すぐさま動物園から病院へ搬送――この中国発の珍ニュースは記憶に新しい。軽症ですんだ男は、「噛み付いてきたパンダを引き離そうと背中を噛み返したけれど、パンダの皮は厚かった」と言う。その向こう見ずな直情ぶりは、お国柄とはいえ見事である。

まあ、オリに入ってしまった男の気持ちもわからなくはない。ジャイアントパンダはその一挙一動すべてが、たまらなく愛くるしい。年齢性別を問わず人を惹きつける。しかし本来野生の生き物だから、おとなしいパンダとはいえ危険を察知すれば攻撃をしかけてくるのは当たり前の話だ。近くで見ると、パンダはふくよかなイメージとはかけ離れてごつく、太い毛はさわるとちくちくする。中国語で「大熊猫」と呼ばれるパンダは、れっきとしたクマだ。

クマのなかでも、ジャイアントパンダは繊細らしい。北京動物園のパンダは事件後、気の毒にも一日近く食欲をなくしてしまった。そのデリケートなパンダは現在、絶滅の危機にひんしている。

中国で動物園を訪れると、生活環境のひどさに悲しくなることが少なくない。オリのなかは決して手入れが行き届いているとはいえない。オリの外から平気でスナック菓子などを動物に与えている客をよく目にする。以前に中国の大都市のいくつかにある、いくつかの動物園へパンダを見に行ったことがあった。中国を代表するシンボルであるパンダが、地味で目立たないオリのなかでひっそりと寝転んでいることに驚かされた。

より自然に近いパンダを知りたいのなら、中国でもジャイアントパンダの80%が暮らす四川省を訪ねてほしい。野生のパンダとの遭遇は期待できないが、四川省は多くのパンダの住む自然保護区を守りつつ、パンダ繁殖センターを運営し、パンダの保護と繁殖に熱心だ。パンダの好むエサは、何百種類もある笹のなかで、ほんの十種ほど。雑食のクマでも、肉はほとんど食べずに、徹底した草食。しかも一日に12時間もかけて、14キロもの笹をひたすら食べ続けていくという習性をもつ。

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大食漢のパンダ

きびしい自然環境のなかでこのジャイアントパンダという繊細なグルメが自力で生きていくのは難しいだろうということは、その繁殖能力の低さからも容易に想像できる。生息地の環境が破壊され、個体数が減少している今、人工飼育によってパンダが好みの笹で厚遇され、VIPとして守られているのだろう。

都市部の動物園とはうってかわって、澄み切った空気と緑あふれる環境に暮らすパンダは、白い部分がより白く、うれしいほど健康的に見えた。成都から140キロほど西、少数民族村の点在する山岳地帯に、野生のパンダが多くすむ「臥竜自然保護区」がある。

成都パンダ繁殖センターのパンダ

臥竜自然保護区のなかには、「パンダ保護研究センター」があり、ここでは常時40頭あまりものパンダに出会える。臥竜まで足を伸ばす余裕がなければ、成都市内からほど近い「成都動物園」もいい。園内の「成都パンダ繁殖センター」では、のびのびとよく活動するパンダが見学できる。

どちらの施設でも、観光客のお楽しみはパンダとの記念撮影。成都パンダ繁殖センターではおとなのパンダとの撮影がひとり400元(日本円で約6,000円)、赤ちゃんパンダとの撮影は1,000元(約1万5,000円)以上。一枚の写真でもふたり入ったら、料金は2倍となる。これが臥竜の繁殖センターまで足を伸ばせば撮影料は半額になるという。いずれにしても中国の物価では破格だ。成都で喜び勇んで記念撮影した私だが、パンダまで巻き込む商売根性に少々げんなり。また、絶滅危惧種なのに人間との撮影で刺激してもいいものだろうか。ともあれ、中国でパンダとの記念撮影タイムは観光客も押し合いへし合い、いつも大人気のようである。

パンダは希少動物との理由から、近年は他国への贈呈が控えられている。一方で中国は破格のレンタル料を課して、他国の動物園などに期間限定でパンダを貸し出しているという。当然のように、このレンタル案に対しては各方面から批判的な意見が多いようだ。

プロフィール
石原晶子(いしはらあきこ)
ライター&エディター。旅行好きなことから、旅行ガイド、旅館・ホテル・一流品などのムック誌編集の道へ。2児出産後は、キッズ向け翻訳版自然科学誌にてDTP編集・グラフィックも学ぶ。上海から西へ100kmの古都、蘇州で3年間の異国生活中は、上海・蘇州の情報誌で旅行・生活エッセイを連載。2006年春に帰国。日本の雑誌連載やウェブにて中国の情報を紹介している。