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第4回「銀座吉水」いい家勉強会

いい家って何だろう? 健康と環境にやさしい家づくりについて考えました
天然素材を使った宿、「銀座吉水」で開催されたいい家勉強会。毎回たくさんの方々に参加いただいた企画も9月30日で最終回。今回のテーマは「家を作る仕組み」。講師は女将の中川誼美さんと一級建築士事務所ビオフォルム環境デザイン室、山田貴宏さん。

「銀座吉水」は珪藻土や竹の床など、安全な天然素材を選んでつくられたお宿。午前中は女将の中川さんから、住まいと食事、健康についてお話を伺った。

「今有機野菜を作っているお百姓さんが増えましたし、たくさんの方が作っているんですけど、売り方がわからないので農家にあまっているんですね。欲しい方と売りたい方がいるのに流通が成り立っていないんですね。よい情報のやり取りが有償でなく、つながっていくことできるといいなと思っています。私は幸い農家を回る時間があったので、何の不安もない食生活をしているのですが、皆さんの中で、安心して食べられる野菜が近くにない、買えない、という時は、吉水にお聞きくださればご案内もできますし……。本当にご自分の食生活を変えたいと思われれば、知恵と情報を得ることに時間とエネルギーを注いで、実現していただきたいなと思います」

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3回、4回と続けて訪れた参加者も多く見られた
情報に流されない生き方をして欲しいと語る女将の中川さん

いい家に住もうと思えば、自分の中のポリシーが大切と語る中川さん。家を建てた後、その中で自分がどういう暮らしをしたいかをしっかり見定めて欲しいと語る。その中でもっと健康を大切に考えて欲しいとメッセージを伝える。

「今食品のことでも、コストにばかり目がいっています。それは住宅でも同じだと思うんですよね。でも私は命が一番だいじなんじゃないかなと思うんです。自分の命が一番大事だと思うんです。

60兆の細胞ひとつひとつに「あなたどうしたいの」と語りかけ、体と対話することができれば、何を食べたいのか、どこに行きたいのか、どんな仕事がしたいのか、どういう精神状態でいたいのかというのは、自分に聞いてみるのが一番いいんじゃないかと思うんですね。テレビでいいといわれているものを食べるのがいいのかな? それともなにを食べるのがいいのかな? と自己判断していただきたい。

それには普段判断する自己基準をどこに持っていくのがいいのか大事かと思いますが、これだけ情報が氾濫していると迷いますよね。私が一番心配しているのが、若い方たちが「忙しい」と言って自分の健康を一番おろそかにしていることです。忙しいから朝は食べない、昼はコンビ二、夜は外食としている。仕事をその次にというのではなく、知恵を働かせて欲しいです」

レストランでも電子レンジ使わなくてもできるし、素材のおいしさを活かせば、時間をかけなくてもいろんなおいしい料理ができる。玄米食から雑草の調理まで、豊富な知恵を生かしたユニークな提案がされた。

吉水のキッチン。手間をかけて丁寧に作られた料理の味は格別
のびのび育った野菜たち。冬瓜とかぼちゃはお昼の食卓に登場
お米も野菜も甘い!ひとつひとつの素材の味がしっかり味わえる

吉水で手作りされているおいしいお料理。今回のメニューは、冬瓜の帆立あんかけ、ゴーヤのケチャップ炒め、蒸かぼちゃ、さつまいもと長ねぎの味噌汁、京菜おひたし、黒米ご飯。昼食の後は客室を見学し、午後の講座に臨んだ。

客室には館内や寝具の説明をまとめた案内もある
お風呂の桶や磯を日光浴。こんな努力が快適な環境をつくっている

午後は山田さんの講義。今回は家の素材選びか建築まで実例を元にした解説がされ、セルフビルドで建てた住まいも紹介された。

「家を作る仕組み」

「私は国立(くにたち)で「ビオフォルム環境デザイン室」をやっていますが、「東京の木で家をつくる会の運動」にも参加しています。環境と調和した家づくりを進めている「パーマカルチャーセンタージャパン」のスタッフもしております。
この勉強会、第1回は産業型家作りのメリット、デメリット、どう住んでいけばいいかをお話しました。第2回、3回は技術的な事をお話をしました。今回は家作りに関わる人、素材を出す山の人、製材する人、加工して家に組み立てる人、そんな人達を取りまく環境についてお話していきたいと思います」

―地産地消でつくる顔の見える関係での家づくり―

現代の家をつくる仕組み

「今の家はいかにコストを抑えて消費者に提供するかを向いています。うまい早い、安い、で家が提供されていますが、その結果、世界中の材料を買い集め、化石燃料を使った材料を使用することになりました。そしてシックハウスや環境汚染、産業廃棄物など大きな問題が発生しました。住宅メーカーのプレハブ住宅の工期は3から4ヶ月。メーカーは宣伝と広告で家作りを進め、施主は消費者として宣伝と広告に乗っかって家を手に入れている仕組みになりました」

午後の講師、山田貴宏さん

日本の風土に合ったエコロジカルな家とは?

「風土に根ざした自然素材を使った家、循環型の素材を使った家をつくらないと我々人間も生命の確保ができなくなります。それを避けるには、家の周りの環境を活かすこと、太陽、空気、光、風などの持つポテンシャルを取り入れ、機械を使わないで快適な環境をつくることが大切になります。

産業型家作りのデメリットは素材を丁寧に扱わず、自然を読み込みながら作る家づくりができないことです。大量供給、消費、廃棄のシステムでは合理化が進められた大きな工場や企業しか提供できません。また、メーカーで建てた利益は東京の本社に入り、地方の工務店には入らない。地域にとってはメリットがないと言えます。

自然素材を活かした家づくりには、地域の材料を使った小規模な循環の中で使いこなしていくような仕組み、施主、職人、山の人との関係を再構築していく仕組みの方がマッチングがいいはずです。小規模な循環だと儲けは大きくありませんが、みんなに少しずつメリットがあり、住まい手が一番大きなメリットを享受します。みんながWIN−WINの関係でメリットを享受できるんです」

現在の日本の山の状況

植林を含めた日本の山林は2500万ヘクタール。国土の67%を占める。イギリス10%、ドイツ30%、インドネシア61%に比べて豊富な資源を持つといえるだろう。そして木造住宅の建築は年に100数十万戸。一戸につき使用する木材を約30立方メートルと考えても十分に国産材でまかなえる量を保有しているという。今のように輸入木材の増えた背景には何があるだろうか。

「日本の急峻な斜面でできた木材の使用は伐採に費用がかかり、海外の木材に圧迫されています。市場では40〜50年育った杉が3000円くらいといった状況。これでは林業を続けられません。そして山が手入れされなくなってきました。山林は農地ほど優遇されていないので、相続税が莫大で何億もかかります。ですから相続時に産廃業者などに売ったり、木を切った後植林をしないではげ山ができるといった状況が起こってきました。

水を循環させる、二酸化炭素を吸って酸素を出すなど、山は環境の源です。森林が破壊されると、きれいな空気や水を提供できなくなります。熱帯雨林の破壊はその土地の生活を破壊します。ですがその修復コストは価格に配慮されていない。だから安いんです。市場原理では図れない価値、木を使うことの健康への価値とともに、地場の木を使い家を建てることは地域を守り、地域の環境を守ることであるという認識に立って欲しいと思います」

家づくりからグローバリゼーションついて話が広がった

山とマチ小さな環境でつくる家づくりの仕組みとコストの理解と価値の転換

山の林業家から製材所、材木屋、大工・職人、設計者、住まい手といった流れを「川上」から「川下」までと言っています。山から切り出し、製材所で加工し、地域の人の流れがつながり、家をつくることでお互いのことを理解できます。そして家を建てることからも健康と環境の結びつきが密接になっていきます。

「東京の木で家を作る会」の植林体験。現場で得るものは大きい
空気、音、光。山で生まれるものを体で感じ、笑顔、笑顔

100年住む家なら、今手持ちの現金がなければ、まずしっかりした木の構造をつくることだけでもいいです。世代を超えても使えるシンプルな空間と設備、設計の工夫、仕上げは後にする事も可能です。とりあえずそのままにしておいて、珪藻土の壁は後で塗るなど、自分でつくってもいい。そうすれば工夫しながら本物の自然素材を使った家を手に入れることができます。山の事まで考えながら家づくりをやっていきたいですね。

スライドを交えた実例の紹介

そして、家のすぐ近くの山の木材を使って建てた山形の事例、山田さんたちが建築したセルフビルドの家がスライドを交えて紹介された。

セルフビルドの住まいは14組が100万円ずつ出し合い、1年7ヶ月をかけて完成させた。通りがかりの大工さんの協力を受けるなど、地域の方とも顔を合わせながらの建設で、建築の知識を持たないメンバーも多く参加しているそう。写真からも参加者の生き生きとした雰囲気が伝わってきた。

大工さんの協力で基礎と構造本体が完成
自分たちで刈った竹で作る小舞網。これが壁を支える
いよいよ壁塗り。土壁は二重、三重に塗り重ねる
集めてきた石で温室作り。型を取って積み上げ、周りを固めていく
この真剣な表情! 自分の手でつくる喜びは計り知れない
ついに完成! 参加者で話し合い、順番に使っている

「お互い顔の見える関係で、木の家づくり、自然素材を使った家づくりをシステムとして復活していけたらいいと思います。今の産業型の家づくりの中では難しいですが、発想を転換して、もっと小さな循環で、お互い顔の見える環境でやっていけば、利益を分け合える。みんながハッピーになるような仕組みで家ができるんじゃないかと。そういうところに価値観の変換をして、本質的な価値を考えていっていただきたいですね」

シックハウス症候群で安全な住まいを探している人、健康と生活を見直したいという人、吉水に宿泊したことのあるリピーター、建築のプロなど多彩な参加者が見られたこの企画。それぞれが家づくりについて考えるよいきっかけができたのではないだろうか。

講義終了後も真剣な質問が続いた