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未来にむけた「人づくり」。高知の「土佐山アカデミー」で暮らしや仕事のあり方を見つめ直してみませんか?

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高知県の土佐山地域(旧土佐山村)は、高知市の中心部から車で20分ほどでありながら、豊かな自然と田畑を備えた「土佐の山村」です。人口1000人あまりが暮らすこの地域は、名峰工石山を北に仰ぎ、清流鏡川が流れる美しい土地でありながら、傾斜地ゆえの自然の厳しさにも向き合い、共生の知恵を育ててきた場所でした。

そんな環境の中で脈々と受け継がれてきたのが、「人づくり」。明治の自由民権運動の時代から続く「夜学会」等を通じた地域全体での社会教育が盛んで、「社学一体」という土佐山発祥の「人づくり」の概念が広く知られています。

その理念と伝統を引き継ぎ、現代に、そして未来に生きる私たちが「生きていく力」を学ぶ場所として、2年前に開校したのが「土佐山アカデミー」です。

初夏の土佐山のあちこちで見られる光景。傾斜がきついため、田んぼも広い面積はとれない。 初夏の土佐山のあちこちで見られる光景

以前にもgreenz.jpでは、2012年の第1期の開講をご紹介しました。あれから2年。土佐山アカデミーは、2012年1月~3月に1期生、2012年7月~9月に2期生、2013年4月~6月に3期生を迎え、今までに21人が土佐山で学んできました。学生は20代~60代と、年齢も経歴もさまざま。高知県内から通う人もいれば、家族とともに東京から土佐山に移り住んだ人もいます。

土佐山アカデミーとは?

土佐山アカデミーの授業風景 土佐山アカデミーの授業風景

「土佐山アカデミーって、別にいわゆる学校じゃないんですよ」。

開口一番、そう言ったのは、土佐山アカデミープロデューサーの林篤志さん。アカデミーの立ち上げから関わるスタッフです。

今、土佐山のような人口の減っている地域が全国にたくさんあって、放っておいたら5年、10年でなくなってしまうところもたくさんある。一方で、地域に入って何かしたいと思っている人もたくさんいるわけです。

よそ者が地域に入って何かするには、まず住んでみて、2年、3年かけて人間関係をつくって、それからじゃないとダメだなんて、よく言われるでしょ。でも、それでは時間がかかりすぎる。遅すぎるんですよ。今すぐ何かしたいんだっていう人が何かできる場所を作りたかった。それがアカデミーなんです。

プロデューサーの林篤志さん。講義も担当する。 プロデューサーの林篤志さん。講義も担当する。

その言葉の意味は、実際にアカデミーを体験した人ならよくわかるに違いありません。アカデミーのカリキュラムは、土と農、食、ナリワイ、ものづくり、自然学、暮らしとエネルギー、という分野に分かれていますが、そのすべてが「サステナビリティ」、つまり持続的な暮らしに結びついています。

目的は「これからの暮らしや社会のあり方を考え、具体的に行動していける人材を育てる」こと。講師は地域の実践家たちです。例えば、鮎の保全活動をしている専門家から鮎の生態や川の魚道のつくりを学んだり、地元の農家さんから土の作り方や、豆腐の作り方を習ったりというように、地域に合った生き抜く知恵を学ぶことができます。

有機農家さんから農業を学ぶ。 有機農家さんから農業を学ぶ。

しかし、それだけでは「何かできる場所」にはまだ足りません。アカデミーを通じてつながった人たちが、地域に住みながらナリワイ作りをしたり、アカデミーの講師として自分のスキルを提供したり、そんなつながり方ができるように、アカデミー3期では「5万円ハウス」という家づくりプロジェクトを行いました。

土佐山では、空き家はあるけれど、住めるような家が少なく、外から来た人が土佐山に住みたいと思っても、借りられる家が非常に限られているのが現状です。それを何とかしようと、高知市の建築家、足利成さんに教えてもらいながら、「5万円で家を建てる」というプロジェクトです。

これはほんの一例で、こういった、いわゆる学校の枠を超えた様々なプロジェクトが進行中。その真ん中にアカデミーという柱があるというのが正確な表現かもしれません。実際、アカデミーが始まってからの2年余りで、アカデミー関係で土佐山を訪れた人は約2800人。最初は「アカデミーっていったい何だ?」といった反応だった土佐山地域の人たちも、「若い人が来るならいいな」という反応に変わっていった、というのも頷けます。

5万円で家を建てるプロジェクト。現在も進行中。5万円で家を建てるプロジェクトは現在も進行中。

山で暮らすということ

アカデミー2期生の伴武澄さんは、新聞記者としての年月を東京や地方で過ごし、出身地である高知県に帰ってきました。

高知市内に暮らしながら、さてこれから何をしようかと模索していたとき、土佐山アカデミーのことを知りました。たまたまドライブ途中に迷ってアカデミーの事務所にたどり着き、アカデミーのスタッフと出会ったのです。

みんな地域外から来た人たちですが、土佐山での生活をとても楽しんでいる様子だったのに驚き、その場で受講を申し込みました。

竹割りや炭焼き、身体を使う授業もたくさんある。 竹割りや炭焼き、身体を使う授業もたくさんある。

伴さんは高知市内の自宅から通うのではなく、土佐山に移り住んで、県内外から来た他の受講生3人とシェアハウスに暮らしながらアカデミーの授業に参加しました。もとから土佐山を知っていて、「住みたい」と思っていた伴さんにとって、3ヶ月とはいえ、暮らしたことには大きな意味があったといいます。

昨年夏は雨がとても多い土佐山でした。降る雨は激しく、川はただちに濁流に変化する。数時間経つと今度は日が射して、赤とんぼが乱舞する。なにより緑の量には圧倒されました。山の生活は初めて目にする光景ばかりで、これまで働いてこなかった自分の体の違う機能が動き出すようにも感じました。

土佐山での3ヶ月はなかなか言葉では表現できないものだと思います。最初に出会った時のスタッフたちの「表情」に現れていたのはそんな表現できない部分だったのだと後で思いました。

シェアハウスの横を流れる川の音で目を覚ます3ヶ月間だった。 シェアハウスの横を流れる川の音で目を覚ます3ヶ月間だった。

伴さんは、アカデミー終了後も度々土佐山を訪れては、地域の人と交流を深めたり、後輩の3期生に会いに来たりしています。東京から高知に移り住んだことで大きく生活が変化したという伴さんは、土佐山暮らしの3ヶ月間を経て、今、何に関心を持っているのでしょうか。

いま僕が取り組んでいるのは、メガソーラーの誘致です。土佐山に隣接する南国市の白木谷の山間部に適地があって東京の業者と折衝しています。実現すれば、南国市の昼の電力をほぼ賄える20メガワットのメガソーラーが出現します。炭窯を復活するプロジェクトや、高知県小水力発電、仲間と土佐山に小水力発電をつくる事業にも参画しています。

山でエネルギーを生産することができたら一つの「なりわい」になると信じています。自分の能力がこの地で生かせるのなら、自分の生きがいも大きなものになる。都会では絶対にあり得ないことをこの里山ではできるような気がしています。

暮らしや仕事のあり方を見つめなおす

土佐山アカデミーでは、現在、9月から始まる4期の受講生を募集中です。ディレクターの内野加奈子さんに、受講生はどんなことを得られるのかを伺いました。

豊かな自然の中で、暮らしや仕事のあり方を見つめ直したり、新しい可能性を探したりする時間はとても貴重なものになると思います。プログラムだけでなく、日々の生活や地域の人々との時間からも、たくさんのヒントをつかんでもらえたら。自然の循環の中に身を置き、四季のリズムに沿いながら、自ら創り出すことを味わい、楽しんでもらえたらと思います。

自然と調和した暮らしを形にしてみたい人、暮らし方や働き方を根本から見つめ直してみたい人、地域で暮らす足がかりをつかみたい人、新しい学びにオープンな人にぴったりのプログラムです。

土佐山アカデミーディレクターの内野さん(右)。2期生の修了式で伴さんと。土佐山アカデミーディレクターの内野さん(右)。2期生の修了式で伴さんと。

実は4期生より、プログラムに大きな変化があるそうです。今までは3ヶ月間通しての受講が条件でしたが、今度からは1ヵ月ごとに受講できるようになります。つまり最初の1ヶ月間だけ受講したり、後半の2ヶ月間受講したりということが可能になるのです。

月ごとに、土と農、食、ナリワイなどのテーマが決まっており、全体を貫くテーマが「サステナビリティ」です。それから、4期の後半には、アカデミー受講生だけでなく、一般の方も参加して、自分のナリワイを作る『ナリワイ合宿』も予定しているそうです。

よりたくさんの人が関われる仕組みへと変化し続ける土佐山アカデミー。四国の一地域から始まった小さな取り組みが、大きな渦となって、未来の私たちの暮らしへと繋がっている予感がします。

安住を求めて、定住した先人は、正しかった。
以来、二千年。
ひたすら、平穏を願って、
築きあげられた、この村は、
由緒ある鼓動をつづけている。
温客のなかには、はぐまれた英知は、
高鳴る鼓動のとき、きらめいた。
知るほどに、自信を深め、
誇りを高める、この村の歴史は、
明日の村づくりの、原動力となって、
語り継がれていくだろう。
― 出典:昭和61年発行「土佐山村史」より