高校生が町内インターンシップ、化粧品の企画も!? まちとの新しい関係をつくる、岡山・和気閑谷高校の授業「閑谷學」が目指すもの。#求人あり

学校は、子どもたちの学びの場であると同時に、地域と子どもの関係を育む社会的な装置。

地域に学校があれば、子どもたちは学齢期を地元で過ごせます。でも、学校がなければ子どもたちは地域外の学校に通い、地元以外のまちで育つことになります。子育て世代にとっても「地元にいい高校があるかどうか」は、移住・定住の決め手のひとつにもなるため、「高校を核とした地域づくり」「高校魅力化」に取り組む自治体は増えています。

岡山県・和気町もまた「教育」を軸としたまちづくりに取り組むまち。今年初め、greenz.jpの記事でもご紹介したので覚えている読者の方も多いかもしれません。

今回は、和気町にある岡山県立和気閑谷高校で活動している地域おこし協力隊員の江森真矢子さんにインタビュー。東京生まれ東京育ち、大手学習塾グループで働いた後、教育専門誌の編集者として活躍していた江森さんが地域おこし協力隊を志したのはどうしてだったのでしょう。そして、和気閑谷高校の総合的な学習の時間(*)「閑谷學」で目指していることは? 
(*)小中高校に設けられている、児童生徒が自発的に横断的・総合的な課題学習を行う時間。内容や名称は各学校に委ねられている。

夏休みも終わりに近づく和気閑谷高校を訪ねて、じっくりお話を聞かせていただきました。

江森真矢子(えもり・まやこ)
東京生まれ。国際基督教大学在学中より、子どものキャンプや野外教育施設の運営スタッフとして活動。卒業後、大手学習塾グループで私立学校の魅力づくりや広報、総合学習・校外学習プログラムの制作・運営等に携わる。プライベートでは女性向けキャリア支援イベント「Career Cafe」を立ち上げるなど、人の成長をテーマに活動してきた。2007年リクルートに転じ高校教員向け教育専門誌『キャリアガイダンス』の編集者に。2015年4月より和気町地域おこし協力隊として、岡山県立和気閑谷高校の魅力化を通した町の活性化をミッションに活動中。

東京でしか暮らしたことがない
江森さんが和気町に移住した理由

江森さんが和気町に来たのは2015年の4月。きっかけは、前職のリクルートで編集していた高校教員向けの専門誌『キャリアガイダンス』の取材で知り合った、和気閑谷高校の香山真一校長先生(取材当時は林野高校教頭)でした。

和気閑谷高校。1670年、岡山藩主・池田光政が地域のリーダーを育成するために開いた、日本で最も古い歴史と伝統のある学校「閑谷学校」(備前市に現存・国宝)の名を受け継ぐ

私が来る1年前に、当時私が在籍していたリクルートマーケティングパートナーズの岡山のスタッフから「和気町で、大学を休学した学生と卒業したばかりの学生が高校に入って、地域と学校が協働してお互いを盛り上げる動きが始まる」と聞いて。

たまたま彼らは私と同じ大学だったので「後輩にあたる人たちなのでよろしく」とメールをしたら、香山校長から「江森さんも来ませんか?」とオファーがあったんです。

東京以外の土地に移住して高校で働く――それは、江森さんがそのときまで考えたことのなかった未来でした。にも関わらず、江森さんのなかに「学校の中で働く」というイメージは、自分でも止められないほどの勢いで広がっていきました。

もともと『キャリアガイダンス』でも、「地域と関わって、開かれた学校づくりをしましょう」と提案する記事をつくってきました。「自分が理想とする学校づくりを自分の手でできるなら」と思ったんですね。実際に、高校生にも関わってみたいという思いもありました。

江森さんがやりたい仕事は、教育分野における編集・メディアづくり。会社を辞めてフリーランスになってもできる仕事ですし、「そろそろ自分の看板で食べて行ってもいいかな」という考えが浮かんでいました。また「こんなことでもなかったら、一生東京を出ずに暮らすかもしれない」という考えも背中を押しました。

「高校で働ける」ということ、そして「自分が理想とする教育に、自分の手で携われる」というワクワクに押し上げられるようにして、江森さんは和気町に移住することになりました。

高校のなかで働いてわかった“教師の尊さ”

自他ともに認める「宴会好き」の江森さんは、「宴会ができて、人がきたときに泊まれる家」を借りて和気生活をスタート。3年目の今は、東京から友人が遊びに来るたび、和気の人たちも呼んで宴会を開くなど、プライベートも楽しんでいるようす。

とはいえ、夜も明るくいつも人がいっぱいいる東京とは違い、和気はのんびりした田舎町。最初のうちは、「夜が暗くて人が少ない」ことに不安を感じたそう。でも、引っ越してすぐに、町役場の職員さんがご近所さんに紹介してくれたこともあり、安心して暮らせるように。

東京では、まちを歩いている人はみんな“匿名の誰か”ですが、和気にいると帰り道にはだいたい知っている人に会うし、声をかけられます。「これ、いいな!」と思いました。新鮮だったし、なんかそういうのに憧れもあったのかなと思うんですけどね。

教職への深い敬意ゆえに「自分が先生と呼ばれるのはおこがましいと思う」と言う江森さん

和気閑谷高校では「毎日が発見」だったと江森さん。メディアとして伝えてきた学校現場に飛び込んだことで現場の苦労を知り、「今まで勝手なことばかり言ってごめんなさい」と思うこともありました。

理想を語るのは簡単だけど、現実をつくっていくのはすごく難しい。先生たちの仕事の大変さも目の当たりにしましたし、何よりも「教師はやっぱり尊い仕事なんだ」と思いました。こんなにも対象に愛情を注いで、考えたり心を痛めたりする仕事は他にはなかなかないですよね。

和気閑谷高校での江森さんの所属は進路指導課と3年次団、その他にいくつかの委員会に入っています。メインの仕事は「高校魅力化」に向けた教育内容の充実とその対外発信。具体的には学校広報と総合的な学習の時間「閑谷學」の運営です。江森さんは、前職までのキャリアを生かして、説明会での資料作成や学校ブログの運営、地域と関わる「閑谷學」のカリキュラムづくりを行ってきました。

「高校魅力化」って最近よく聞くフレーズですが、和気閑谷高校は、「高校魅力化」によってどんな魅力のある高校になりたいと考えているのでしょうか?

自分はこのまちのために何ができるのか、自分はこういうまちにしたいと思いながら、自分らしく生きていく人が増えたら、いい高校になるし、いい町にもなるだろうな、と。

和気の子たちがそうなってくれたら、和気以外の場所にいてもそういう風に生きていける人が増えたら、日本全体、世界全体がよくなるんじゃないか。そうなってほしいなと思っています。

自分が関わりを持つコミュニティのために考え、自分の手でできることをして、自分らしく生きていく人が増えることが、まちを、国を、世界をよくすることにつながるはずだ――江森さんは、この大きなビジョンのもとで「閑谷學」のカリキュラムづくりと運営にも取り組んできました。昨年と今年のプログラムを中心に、どんな授業が展開されてきたのかを伺ってみましょう。

先生は地元の人たち。地域を教材にする探究学習「閑谷學」

「閑谷學」は、自分と社会のあり方を考える探究学習。生徒には「社会の将来も、自分の未来も自分たちの手でつくっていける人になるための準備」と伝えているそう。2014年のリニューアル以降は、より深く地域と関わりながら、地域の課題を見つけ解決していく活動に発展しました。現在は、各年次を先生1人と地域おこし協力隊員1人、合計6人が担当。週に1度のミーティングを行いながら運営しています。

和気町で2015年から毎年開催されているアート&クラフトのイベント「和気ものづくりフェスタ」を盛り上げるアイデアを高校生たちが提案。実行委員でもある和気商工会所属の地域おこし協力隊、平井麻早美さんのコーディネイトにより実現した(写真提供:和気閑谷高校)

「イベントの休憩所で、和気町らしさのあるお菓子のおもてなしをしたい」と提案するグループ。予算不足を相談すると「現物支給で材料を調達できるかも?」とまちの人がアドバイスする場面も

しかし、大人でさえ「地域の課題を見つけて解決する」のはちょっと難しいもの。まず、1年生たちはリサーチやインタビュー、発表の方法などの“技”の部分から手ほどきを受けます。

なるべく自分ごととして課題に取り組んでもらいたいので、今年のテーマは「地域をヒントに学校の課題を解決する」にしました。

たとえば、まちでイベントを開催する人たちに「どうしたらイベントは盛り上がるのか?」をインタビューした内容を生かして、文化祭を盛り上げる方法を考えるといったことを期待しています。身近な課題に自分なりのアプローチをして「自分が動けば何かが変わる」という体験をしてもらいたいんです。

2年生になると、自分で考えたことを行動に移す段階へと進みます。今年は5テーマ計8の講座を開設。たとえば、和気町に岡山工場を置く化粧品メーカー・株式会社桃谷順天館とは、高校生ならではのアイデアを生かした化粧品の企画開発にチャレンジ。取材当日は、桃谷順天館の社員のみなさんに対する、商品企画プレゼンを見学させていただきました。

和気町の観光資源や物産の発掘・発信をミッションに活動する地域おこし協力隊、赤澤沙織さんに協力してもらっているグループでは「和気町のシンボル・藤をモチーフにした、香水のようなデザインの制汗剤」を提案。桃谷順天館のみなさんから、「容器のサイズは?」「ターゲット層は?」と具体的な質問が飛んでいました。

昨年は、和気駅前で行われるクリスマスイベントに「子どもの参加者が少ない」という課題を解決するアイデアを考えて実行に移したグループもあったそうです。

子ども向けのワークショップやスタンプラリーを考えたり、小中学生向けのチラシをつくって配ったり。おかげで子どもの参加者がすごく多くなって、実行委員の方も「高校生が一所懸命やってくれたからだ」と言ってくださいました。

頭だけで考えたり、提案やアイデアを出すだけではなく、ホントは「やる」ことが一番大事です。やって結果が出たら自信にもなる。そこまでを体験してほしいなと思います。

ほかにも、就職志望の生徒たちは地元企業に3日間のインターンシップに挑戦。自分で電話をしてアポイントを取り、インターンシップ先では「働くことについて」インタビューを行いました。

今の子どもたちは電話に慣れていないので、アポ入れの練習につきあったりしました。緊張してこれ以上ないほどの棒読みで電話して、終わった後に「胃が痛い」って言ったりしていて、すごい可愛かったんですけど(笑) こんなことひとつでも、生徒には乗り越える体験になるんですよね。

インターンシップ後のレポートを読んでいると、それぞれにすごくいいことに出会っていました。たとえば、野球部の生徒は人事部長さんに「会社の仕事は一人でやるもんじゃない。野球と同じなんだ」と言われていたく感銘を受けたようです。ハラハラしたけど、やってよかったなと思っています。

大学生のときは子どものキャンプ活動のスタッフもしていた江森さんは、他者と共に予測不可能な自然のなかで過ごすなかで「自分の力ではどうにもならないことがあっても、なんとか折り合いをつけて生きていくことは人生のメタファーであり、価値のある経験」。子どものうちにいろんな体験をすることが、その後の人生を支える経験になるという思いがあります。

しかし、体験を思考で捉え言語化する「知的な部分」を育むのが学校の役割。「閑谷學」では体験したことを作文に書いたり、みんなの前で発表することも大切に考えられています。今年は「自分で深く考える」ことへの挑戦として、カリキュラムのなかに「卒業論文」も予定しているそうです。

学校をフィールドに「やりたいこと」がある人に来てほしい

「閑谷學」を通して、まちの人たちと高校の関係も少しずつ変わり始めています。生徒たちにとってはまち全体が“教材”であり、地元の人たちは“先生”になりました。まちの人たちも、地元に新しい風を吹き込む“まちの一員”として和気閑谷高校の生徒を認めはじめています。

2017年度の入試では特別入試の倍率が約3.88倍と県立全日制高校トップに。「閑谷學」だけでなく、和気閑谷高校の先生たちが取り組んできた授業改善にも成果が出ていると言います。そんななか、江森さんは着任した年に入学した1年生たちと一緒に卒業するかたちで、来年春に地域おこし協力隊員の任期を終えます。この3年間の手応えをどんな風に感じていますか?

まちの人たちも協力的で、やればいろいろ動くんだなぁと思いました。私のしてきたことはほんの一部ですが、「最近、和気高は頑張っているね」「よくなったね」とか「和気町盛り上がってるね」という声を耳にします。私は生徒の作文を読むのが好きで「あ、こんなことにも気づいてくれたんだ!」とひとりで「うしし!」って(笑)

あと、今年の春の先生方との飲み会はすごく幸せでした。先生たちが競うようにして生徒一人ひとりの変化や成長を語り合っていて。一緒に働く人たちと喜びを分かち合うことができて「この町に来てよかったなぁ」と思いました。

現在、和気町では江森さんの跡を継いで和気閑谷高校で活動する協力隊員を募集しています。「どんな人に来てほしいですか?」と尋ねてみると、「えーっとですね」とひと呼吸おいて、江森さんはその人自身に語りかけるようにして話しはじめました。

和気閑谷高校は、先生たちも子どもたちもすごく優しいですし、人間関係がすごくいい。地域おこし協力隊は、自治体によって「自分のやりたいことをやってください」というところもあれば、「この仕事をしてください」というところがありますが、和気町は半々くらい。だから、自分なりにやりたいこと、思いがないと流されるだけになってしまいます。

役場や先生たちと一緒に何か良くしていこう、地域と学校というフィールドで新しいことに挑戦してみたい、自分はこんな教育あるいは町おこしをやってみたいと思う何かがある人に来てもらえるといいな。

「高校魅力化」「社会に開かれた学び」「PBL」「探究学習」「グローカル人財の育成」といったキーワードに興味がある人を歓迎します。もちろん基本的な対人スキルや、組織で働くことへの理解は必要ですが、その気持ちがあれば、教育現場での経験はなくてもできると思います。

サバサバと明るくて、仕事ができて、包容力のあるアネゴ肌の江森さん。協力隊員のお姉さん的存在でもあります

江森さん自身は、「しばらくは和気町を拠点に活動します」とのこと。

今まで私は、ドメインとしては教育、技としては企画・編集・ライティングでやってきましたが、ここに来たことで「地域」というテーマも増えました。この掛け合わせのなかで、いろんな仕事ができる可能性が広がったと思っています。

「和気での暮らしをはじめる時にイメージしていたのは現代版百姓。協力隊卒業後のために自分の仕事も作ってきた3年間は働き方の実験でもありました」と江森さん

「学校のなかで働く」ことに惹かれて和気町にやってきた江森さんでしたが、この3年間は人生の次のステージに向かう移行期間にもなっていたようです。こんな頼もしい先輩がいてくれるなら、新しい協力隊員の方も心強いですね!

和気閑谷高校で、「閑谷學」そして、「閑谷學」とともに育まれていく高校と地域のつながりに魅力を感じるなら、和気で起きていることを自分の目で確かめてほしいと思います。この記事が、江森さんが「学校のなかで働く」イメージを広げたように、新しい協力隊員になる人の未来のイメージを広げるきっかけになることを祈りつつ、この記事を終えたいと思います。
(撮影:浜田智則、トップ写真除く)

– INFORMATION –

和気町地域おこし協力隊募集

和気町では、江森さんのように和気閑谷高校の魅力化事業に取り組んだり、和気駅前にある公営塾の運営や講師をする「地域おこし協力隊員」を募集しています。くわしくは、下記のページの募集要項をご覧下さい。
http://www.town.wake.okayama.jp/information/detail.php?id_information=442

[sponsored by 岡山県和気町 / ココホレジャパン]