ニュージーランド、オーストラリア、鎌倉、そして……。世界で活躍する個人貿易家が惚れたのは、人口4600人の小さなまち厚真町

広い大地、高い空、澄み切った空気、ゆっくりと流れる時間……憧れの暮らしを求め、「いつか北海道に住みたい」と夢を抱いたことはありませんか?

北海道・厚真町で募集を始めた「ローカルライフラボ」は、そんな”いつか”を実現できるプログラム。2018年4月から最長3年間を地域で過ごし、自分自身と地域と向き合いながら、次の一歩を踏み出す準備ができます。キーワードは、”弱虫”。ラボを立ち上げたエーゼロ代表の牧大介さんは、こんな弱虫仮説を立てています。

牧さん まだ仮説だけど、これからは弱虫こそが地域をつくるんじゃないかと思っているんです。弱虫というのは、やりたいことがあるけれど迷っている人、次のステージに行くことは決めたけど、次の一手がわからない人。人生を真剣に考えているから、挑戦しようとするから悩む。臆病になる。そんな人です。

そういう人が移住して地域の可能性を見つけていく。ゆったりした時間の中で自分の可能性を見出していく。その結果、起業する人は起業するし、しない人にも、大事な役割がある。そんな関係性の中から本当の豊かな地域が生まれるのではないか?

連載「弱虫が地域をつくる」では、次のステージに行くことを決め、新しい場所で自分の可能性を見つけている人たちをご紹介します。今回、ご登場いただくのは鎌倉市から厚真町に移住し、夢だった北海道での暮らしを手に入れた佐藤稔さんです。

佐藤稔(さとう・みのる)
高校卒業後、ニュージーランドへ留学。帰国後は専門学校で貿易について学び、オーストラリアと日本で貿易の仕事に携わる。2017年4月、神奈川県鎌倉市から北海道厚真町へ移住。現在は「トレジャートレーディング」として個人貿易業を営みながら、厚真町の資源を活かした事業を準備中。子どもは小学生と幼稚園生の2人。

日本、ニュージーランド、オーストラリア

ブロロロロ…。待ち合わせ場所で佐藤さんを待っていると、水色のかわいいワーゲンバスが現れました。この車は、個人貿易業を営む佐藤さん自らの手で輸入し、改装したもの。レトロでどこか愛らしいワーゲンバスは、穏やかな厚真町の田園風景によく馴染んでいます。

ワーゲンバスは、佐藤さんの看板商品。

佐藤さんが貿易の仕事に関心を持ったのは、高校卒業後にワーキングホリデーでニュージーランドへ行った時のこと。”おもしろそう!”とピンときたという佐藤さんは、日本で貿易について学び、オーストラリアで輸入家具の販売会社に就職。そこで貿易のノウハウを身につけました。

その後、会社が事業を縮小することになり、日本へ帰国することになりますが、せっかく覚えた貿易のノウハウをいかそうと、個人で事業をはじめます。

佐藤さん 最初は、日本で人気のあるワーゲンバスを輸入しました。個人宅を訪れて、「売ってください」と直接交渉したんです。その場でお金を払って、港まで運転して、書類をつくって船に積みました。日本で車を受け取り、車検を取ったら、1週間もせずに売れたんです。

その後、オーストラリアで一緒に住んでいた友人から「日本人は古いカメラが好きだから、売ってみたら?」とアドバイスをされたことがきっかけで、カメラも取り扱うように。「日本には○○がない」「オーストラリアのものを日本に輸出したい」というお客さんの声を聞くうちに、事業として成立するようになっていきました。

佐藤さんが輸出入しているカメラ。今までに5000個以上を取り扱ったという。

車とカメラを中心に世界中から商品を探し、輸出入する佐藤さんの会社名は「トレジャートレーディング」。そこには、貿易を仕事にするおもしろさが込められていました。

佐藤さん 知らない土地に行って、日本で見つからないものを自分の手で見つけてくるのが楽しいんです。

そう語る佐藤さんの目は、宝探しをする子どものようにキラキラと輝きます。佐藤さんの仕事はまるでトレジャーハンター。言葉の端々から世界を冒険する楽しさが伝わってきました。

鎌倉に住みながら現地エージェントそしてお客さんとも深い信頼関係を築き、仕事は順調に推移していました。しかし、佐藤さんには以前から叶えたかった一つの夢がありました。

いつか北海道に住みたい

空が高く、広々とした厚真町。ゆっくりとした時間が流れている。

何度も訪れたことがある北海道。バイクで一人旅をしたり、家族4人でキャンプをしながら2週間かけて道内各地を回ったりするなかで、豊かな自然や広大な大地に魅せられ「いつか北海道に住みたい」と思うようになったと、佐藤さんは振り返ります。それから東京で開催された北海道移住フェアに足を運び、厚真町と出会いました。

佐藤さん 移住フェアに行くまで、厚真町のことはまったく知りませんでした。いろいろな町町の話を聞いたのですが、厚真町役場の移住促進担当(当時)だった大坪さんと小山さんの対応がすごく良かったんです。僕の話を真面目に聞いて、目を見て話をしてくれる姿勢が「いいな」って。

その場で答えられない質問にも、後日きちんと調べてメールで返信をくれる2人のきめ細やかな対応に、佐藤さんは少しずつ心を動かされていきます。

佐藤さん 住み場所を決めるにあたって立地や気候も大事ですが、それよりも「どんな人が住んでいるかが大切だよね」と妻と話をしていて。きちんと向き合ってくれる2人が住む厚真町なら、子育ても安心してできそうだと思いました。

その後、厚真町内の一戸建て住宅を借りて移住体験できる制度「ちょっと暮らし」を利用して、厚真町に2週間滞在。「やっぱりここに住みたいな」と自分と家族の意思を確認し、移住への思いは強くなっていきました。

厚真町に住みたい。そう思いつつなかなか移住を決断できなかったのは、仕事への不安があったからでした。

佐藤さん 自営業だから拠点を移しても仕事を続けることができますが、お客さんはかなり減ると予想できました。今と同じ額を稼げるようになるには、時間がかかります。

すぐにでも北海道に行きたかったけれど、仕事が不安、でも行きたい…というジレンマを抱えながら日々過ごしていましたね。独身もしくは妻と2人ならなんとかなるけれど、子どもがいるから無理だろうと諦めていたんです。

そんな時に、ローカルベンチャースクール(※ローカルライフラボに先んじて始まった地域起業家育成プログラム。ローカルライフラボと同じく、エーゼロが運営)のことを小山さんに教えてもらいました。これなら貿易の仕事をやりながら北海道に移住できると、迷わずエントリーしました。

この町と人に、いつか恩を返したい

がっちりした体格、ハキハキしたしゃべり方。英語は苦手なのに10代でニュージーランドに渡り、海外で就職。その後、個人貿易を立ち上げて、自分の生きる道をつくってきた佐藤さんは、一見とても強そう。だけど自分では一度も強いと思ったことはないといいます。

佐藤さん 僕は気が小さいし、度胸がないんです。はじめて海外へ行った時も、海外のエージェントと交渉をする時も、内心ではビビっているから、オラオラした態度を取ったり、虚勢を張ったりしてしまうんです。

絶対的な自信があるんだったら、ローカルベンチャースクールに応募せずに、勝手に厚真町に来ていますよ。

ローカルベンチャースクールの選考から厚真町へ移住した今でも、そばで佐藤さんをサポートし続けているエーゼロのローカルベンチャースクール担当、高橋江利佳さんはこんな風に振り返ります。

高橋さん どうしても合格したいというプレッシャーから、1次選考で佐藤さんは、「厚真町に貢献したい」「この事業プランで利益はいくら出る」と審査員受けを意識した発言をしていました。でも、スクール期間中に「自分が本当にやりたいことは何なのか」追及されるうちに、本心に気付いて…。

最終選考では自分の殻を破って「厚真町に惚れた。厚真町で仕事をしたいというよりも、ただこのまちに住みたいんだ」と素直な気持ちを伝えてくれたのが嬉しかったです。その気持ちが役場や審査員の皆さんに伝わり、採択につながったのだと思います。

エーゼロ高橋さん

厚真町に惚れ込み、誰よりも強く厚真町に住みたいと願う佐藤さんを応援したい——。移住後も役場やご近所さんは、佐藤さんのことを気にかけ、サポートしています。

佐藤さん 鎌倉に住んでいた時より、人のつながりが深いですね。今までも人に助けられて生きてきましたが、厚真町に住んでからより強く感じます。

野菜をいただいたり、地域の行事について教えてもらったりと、ご近所さんともたくさん交流があるそう。「○○さんという方がね」と厚真町の人々の名前が出てくる佐藤さんの言葉から、多くの人と関わり、充実した日々を過ごしていることがうかがえます。

新しい土地での生活はわからないことばかり。なにかと助けられる毎日に、佐藤さんには今まで抱いたことのない感情が芽生えているそうです。

佐藤さん:自分が住む地域に何かしたいと思ったことは欠片もありませんでしたが、厚真町に来てから町町と人に恩返しをしたいと思うようになりました。厚真町にチャンスを貰い、住ませてもらっているから、この恩は返したいなって。すぐには無理だから、いつかね。

厚真町で見つけた宝物

移住して5ヶ月、佐藤さんは実際に住んでみてわかった厚真町の魅力をさまざまな形で広げていこうと準備しています。

佐藤さん 厚真町は新千歳空港まで車で30分とロケーション的にとても恵まれています。観光地としての認知度は低いですが、素敵なお店もあるし、自然を満喫できるレジャーもある。僕みたいなよそ者だから気付ける魅力もたくさんあるんじゃないかな。

厚真町だけじゃなくて苫小牧市、安平町なども一緒に、空港の南側にあるエリアをもっと活性化していきたいですね。

今、佐藤さんの頭の中は、これからやってみたい事業アイデアで溢れています。

佐藤さん ワーゲンバスは寝具や家具、食事をつけてキャンプを楽しんでもらえるグランピング事業に使おうと思って、鎌倉から持ってきました。美々川でカヌーのツアーをしている方と出会ったので、例えば川や池の前にワーゲンバスを泊めて、朝霧のなかをカヌーできたらおもしろいよねって話をしています。

また厚真町近郊エリアの情報はほとんどネットにも出ていないので、情報サイトを作りたいねという話もしていて。空港に近いから、行き帰りに気軽に寄ってもらえるよう、まずは知ってもらわないと。

未来を語る佐藤さんはとても楽しそう。厚真町での暮らしが充実していることが伝わってきます。

佐藤さん 厚真町は英語教育にすごく熱心なんですよ。僕は海外留学アドバイザーの資格を持っていて、オーストラリアにいた時に日本人のワーキングホリデーや留学生のサポートをしていた経験もあります。

もし厚真町に留学生が来たら町町を案内したいですし、それを見た厚真町の子どもたちが海外に興味を持ったり、将来海外に関わる仕事をしたいという人が出てきたりしてくれたら嬉しいですね。

佐藤さんが教えてくれた事業アイデアのうち、移住前に考えていたのはグランピングのみ。情報サイトや留学生のサポートは、厚真町に住んでみたからこそ思いついた事業です。

佐藤さん 厚真町に来てみないとわからないこともあるから。ローカルライフラボで最長3年間、地域の中で自分の役割を見つけて、チャレンジしていけるのは良いですよね。

空港が近い、雪が少ない、子育て環境が充実している。厚真町の魅力はたくさんあるけれど、一番はやっぱり”人”のようです。

佐藤さん 大坪さんと小山さんとの出会いがなければ、厚真町には来ていませんでした。子どもたちは素直だし、ご近所さんはやさしい。厚真町に住む人の良さは、僕にとって移住の絶対条件です。

厚真町そして大坪さん、小山さんに出会ったことこそが、もしかしたら佐藤さんにとって宝物なのかもしれません。

「いつか北海道に住みたい」。そんな思いがあるのなら、一度厚真町を訪れてみてください。あなたにしか見つけられない宝物が、まだまだ眠っているはずだから。

(撮影:荒川慎一)

– INFORMATION –

ローカルライフラボは、北海道厚真町で最大3年間、「地域×自分」をテーマに自らの道筋を探すことができるプログラムです。移住を伴う場合は月額20万円を支給(※)。更に、担当コーディネーターが家探しや研究をサポートしてくれます。興味を感じたら、ぜひウェブサイトを覗いてみてください。エントリー締切は9月30日です。

ローカルライフラボ厚真町
※24歳以下の場合減額になることがありますので、事務局にお問合せ下さい。

岡山県西粟倉村でも同様のプログラムを行っています。
ローカルライフラボ西粟倉村

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